「Silk 王室弁護士マーサ・コステロ」(Silk)

-Queen's Counsel-
2011年~ 英 BBC



Silkというのは、選ばれた一握りの弁護士しかなれない王室顧問弁護士の通称らしい。王室顧問弁護士というのがいかにも英国的だ。女王陛下の顧問弁護士なんてね。昨年AXNミステリーでシーズン1を見た時には、さほど面白いとは思わなかった。ただ、イギリスの法廷では裁判官も弁護士も、いまだにあの羊の毛で作ったような滑稽な18世紀的な白いカツラを大真面目に被って、黒いマントを着て形式ばってるんだなぁ、ぷふふ、と思った。ルパート・ペンリー=ジョーンズが野心家で女好きの弁護士を演じているが、どうにもチャラくて物語にもさほど引き込まれなかったのだけど、この秋、見るともなしにシーズン2を見てみたら、主人公マーサ・コステロを取り囲む人間模様や毎回の事件が、シーズン1よりもずっと面白くなっていた。

シーズン1では同じ事務所に所属している二人の敏腕弁護士、マーサ・コステロ(マキシーン・ピーク)と、クライヴ・リーダー(ルパート・ペンリー=ジョーンズ)が、共にSilk(シルク:王室顧問弁護士の通称 正式名称はQueen's Counselで略称はQC)を目指して鎬を削りつつ毎回の事件を担当し、共にSilkの為の面接を受け、マーサが選ばれるというところまでが描かれていた。このシーズン1では、マーサは妊娠している。もののはずみで出張中に関係をもったクライヴの子を宿してしまったのだが、この子供はマーサがSilkに決まる前に流れてしまう。

また、シーズン1では事務所内で分裂騒ぎが起きそうになるのだが、事務所の運営や弁護士への仕事の割り振りを行うマネージャーのビリーが未然に計画を暴く。マーサに偏愛といいたくなるほどの忠誠と愛情?をそそぐビリー・ラム(ニール・ストゥーク)。マーサの弁護士としての能力に心酔しているのか、女性としてのマーサに惹かれているのか、その双方なのか、とにもかくにもビリーはマーサに首ったけである。デレデレしている。マーサの為にSilkの衣装を調え、それを着た彼女をウットリと眺める。一緒にミドル・テンプル・レーンを歩く。自分の夢を実現してくれる人物として、マーサはビリーの生き甲斐なのでもあろうが、目の中に入れても痛くない、という感じではある。


誰よりも強く、本人よりも激しく、マーサがSilkになる事を望んでいた上機嫌のビリーと

一方を熱愛する分、もう一方が憎くなるのかどうかは分らないが、ビリーはクライヴには非常に冷たく、扱いもぞんざいである。マーサに先にSilkになられてしまい、遅れをとったクライヴにビリーの当りも何かときつくなる。クライヴ(ルパート・ペンリー=ジョーンズ)は、オックスフォードを出た優秀な弁護士ではあるが、野心と同じかそれ以上に彼の中で消しがたく燃えているのはアヴァンチュールへの情熱である。とにかく、ちょっといい女とみれば粉をかけずにはいられない。すぐにややこしい関係になり、それが前途を危うくしたりもする。ビリーにも再三、下半身でものを考えるな、と言われるのだが、誘惑に打勝てず、危険な女と分かっていても手を出してしまうことになる。ルパート・ペンリー=ジョーンズは真面目に頑張る人もそれなりにハマるし、調子のいい遊び人を演じてもいかにもそれらしく見える。ルックス的には少し長めの髪を七三に分けてダサめだったシーズン1よりも、短髪にしたシーズン2の方がすっきりしている。クライヴが母校オックスフォードで起きたレイプ事件のために愛用のバイクでオックスフォードに行くシーンも良い。


Silkに落ちて、ビリーに冷たく扱われるクライヴだが…

イギリスでは弁護士が検察官の役割、つまり訴追を担当したりもするらしいのだが、シーズン2で、クライヴは自分が被告の弁護よりも、訴追側に適性があることに気づき始める。マーサとクライヴの所属する事務所は被告側の弁護をもっぱらとする事務所であり、仕事のマネジメントを一手に引き受けるビリーも、被告側の弁護にこだわりを持っている。そういう彼のこだわりと、「有罪が確定するまでは無罪」という信念をもって被告側の弁護にあたるマーサは相性がいいのである。だが、事務所の経営は難しくなってきており、所長は検察側と通じて、もっと訴追の仕事を取ってこい!とビリーに命じる。


マーサを偏愛し、クライヴを嫌うビリー・ラム

シーズン1では、事務所内に密かに造反が起きつつあるというサイドストーリーがあったが、シーズン2では、外側から事務弁護士というのが絡んできて、何かとマーサやクライヴやビリーを揺さぶる。事務弁護士というのがどういう役割のものなのかよく分らないのだが、法廷での弁論以外の法律事務を取り扱う法律専門職で、彼らの機嫌を損ねると法廷弁護士の事務所に仕事が廻って来なくなったりするらしい。事務弁護士に対して、マーサやクライブなどは法廷弁護士と呼ばれるようだ。マーサに関ってくるのは、ベテランで遣り手の有名事務弁護士、ミッキー・ジョイ。アクの強い豪腕で、犯罪組織と繋がっていたりする。この胡散臭い、いわくありげな人物を演じるのは「Sherlock」Series1の1作目、「A Study in Pink」でタクシー運転手の犯人を演じていたフィリップ・デイヴィスという俳優である。確かに胡散臭い男、クセのある男の専門職という感じのオッサンである。何となくハイエナを思い出す雰囲気だ。


出た!クセモノ専門職 ハイエナのような存在感が利いているフィリップ・デイヴィス

一方のクライヴに関ってくる事務弁護士はいかにも関るとヤケドをしそうなクーガー系の美人ジョージ(ジョージア)・ダガンである。このジョージを演じるのは「ローマ」でルキウスの妻ニオベを演じていたインディラ・ヴァルマ。確かに男好きのしそうなホットな感じである。ビリーにあらかじめジョージとは関るな、と釘をさされていながら、クライヴは自ら「私は危険な女よ」と嘯くこのクーガー系女事務弁護士と厄介な関係に陥ってしまうのである。クライヴはそもそも下半身のタガが外れていて、マーサ・コステロさえも妊娠させた事のある男なのだから、血中メス度の高いホットな女が目の前に現れたら、厄介な事を始めずにおとなしくしている、などという自制心は働かない。マズイ、マズイと思いつつも、どんどん深みにハマってしまうわけである。そんな、女とみれば粉をかけずにいられないクライヴに、全く無関心ではいられないマーサ。クライヴがジョージとパブで談笑する様子を見ると、やはりどこか心が引っ掛からずにはいられない。女心は複雑である。


常に男を振り回す女を演じている感じのインディラ・ヴァルマ

シーズン2ではマーサやクライヴが引き受ける事件の内容や、その法廷シーンなどもシーズン1より面白くなっている。シーズン2の1話目は、ミッキー・ジョイの持ち込んできた事件-犯罪組織の幹部の1人が一般人にうっかりと車をぶつけられて怒り、報復のために組織に属している頭の弱い大男を使って相手を痛めつけて失明させたという事件である。マーサは、身代わりを立てて逃げ切ろうとする幹部を糾弾はできないものの、強要されて暴力に及んだだけの気のいい大男の無罪を勝ち取る。が、釈放された大男を待っていたのは組織の凄惨なリンチだった…。なまじマーサが無罪を勝ち取った為に大男は命を落としてしまうという苦い結末で、法廷シーンの見せ方ともども、見応えがあった。

シーズン2の2話目はイギリス陸軍の軍事法廷に、被告とされるライアン大尉の弁護人として立つマーサ・コステロを描く。上官の命令に背いた結果、部下を死なせた罪に問われているライアン大尉を演じている俳優がなかなかハンサムマンだったのと、話もよく出来ていたので、これも面白かった。戦地の特殊状況下で、その時その時、判断を下さねばならない現場の士官には、本部にいて指令を出すだけの上官には分らない苦悩がある。死んだ二等兵の両親が傍聴する法廷で、その二等兵がパニックになり民間人を撃った事を隠し通そうとして、被害者の写真に思わず涙を見せる苦悩に満ちたライアン大尉を演じるマシュー・マクナルティが真に迫っていてなかなか良かった。


苦渋に満ちた表情がなかなか素敵なマシュー・マクナルティ


思わず「どうしたの?」と身を乗り出したくなってしまうほどに辛そうな表情が良い

シーズン2では、生理的にも信条的にもどうしても受け付けられない相手、ミッキー・ジョイ(フィリップ・ディヴィス)とマーサとの避けられない関りと対立が描かれる。彼の強引な依頼で、それまでは、どうにかして助けたい被告を弁護してきたマーサだが、どうにも助けたくないギャングの被告の弁護を引き受けざるを得なくなる。やり手の事務弁護士だが、限りなく黒に近いダーティな男、ミッキー・ジョイと、事務所のビリー・ラムが何かと接近しているのもマーサとしては釈然としない。一方で先細りになっていきそうな事務所の経営を安定させるために、所長は検察に接近して訴追案件をどんどん取るように方針を変えつつある。その中で、被告弁護人としてはSilkになれなかったクライヴも、訴追側弁護士としてならSilkになれるだろうというサジェスチョンを受けたりして、そちらの方にシフトしていきそうであるが、そこに絡んでくる「マクベス夫人」のあだ名を持つ古狸の女Silkキャロライン・ワーウィック(フランシス・バーバー)も、クセモノの臭み紛々でなかなか面白い。


凄腕のおばちゃんSilk「マクベス夫人」 ひゃ~~、出来る限り関りたくない感じである

ミッキー・ジョイとの急接近により、マーサの信頼を失いかけているビリー・ラムには前立腺ガンがみつかるが周囲には黙って何も言わない。ビリーの生死に絡む人間ドラマは次のシリーズに持ち越しなのでもあろうが、総体的にシーズン1よりもシーズン2は格段に面白くなっていて、次のシーズン3が楽しみになった。「Silk」のプロデューサーは「Silent witness」を手がけたヒラリー・サルモンなので、2つのドラマは何となくトーンが似ている。様々な難しい状況のある中で、強い信念を持って仕事に臨んでいる専門職の人々を描くという基本スタンスが同じだからだろうか。

それにしても、イギリスのドラマで法廷シーンをみると、弁護士や裁判長のあのカツラには、あまりのアナクロニズムにぷぷっという笑いを禁じえないけれども、ああいう具合に旧套を墨守するところが、やはりイギリスなのであろう。そういえばシーズン1では事務所に見習いで配属された新人が、初の法廷に出るのに、あの珍妙なカツラをどうにか調達するシーンがあったっけ。あのカツラも当然ながらピンからキリまであって、いいものはそれなりにお高いらしい。


アヒルさん、という感じのマーサ・コステロ 笑っちゃいけませんよ 権威あるSilkなんだから


クライヴことルパート・ペンリー=ジョーンズは割に似合っている


日本でも明治時代の裁判官はこんな服装だった(溝口健二監督「滝の白糸」より)

余談ながら、明治時代には日本の裁判官も非常に大時代な扮装をして人を裁いていたようだ。古い無声映画のスチール写真でそれを見た時にはほへ~、と思ったが、イギリスでは未だにそういう感じでやっている、という事なのだろう。そういう風習を廃止もせずに綿々と受け継いでいるのは、やはりイギリス人が形式ばった事が好きだからなんでしょうね。いや~、それにしてもあのカツラには笑ってしまうけど。ははは。 …不謹慎?これは失礼つかまつり。

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