「チェ 28歳の革命」

~みんな、英雄を待っている~
2008年 米/仏/スペイン スティーヴン・ソダーバーグ監督



チェ・ゲバラというと、とにもかくにもカストロとセットでキューバ革命を成功させた男、というイメージしかなかったので、てっきりキューバ人だと思っていたら、アルゼンチンの人であった。「モーターサイクル・ダイアリーズ」を観ていないので、チェ・ゲバラについての映画を観るのはこれが初。実在の人物を映画化する時には、大抵、俳優が演じた方が美化しすぎ、というぐらいにルックスがよくなっているものなのだけど、チェさんについてはご本人が若々しく魅力的なハンサムマンなので、若い時期を演じるベニトロ(ベニチオ・デル・トロ)はちと苦しかったかも。ともあれ、132分、まずはパート1を観賞してきた。
映画は何の説明もなく、チェとカストロが出会うところから始まる。
まぁ、その邂逅の前に、チェさんは「モーターサイクル・ダイアリーズ」に描かれたバイクの旅を終えているわけだが、登場したベニトロは、さすがにどこから見ても25歳の青年には見えない。
けれどまぁ、そのへんはもう織り込み済みとして流すしかないでしょうね。


チェ・ゲバラ氏(チェは仇名らしい。本名はエルネスト・ラファエル・ゲバラ・デ・ラ・セルナ) 
カリスマは魅惑のルックスと熱い魂と激しい生き様を兼ね備えるのだ

アルゼンチンの中産階級の家庭に生まれたチェさん。
大学で医学を修めたお坊ちゃん革命家は喘息持ちでもあった。
喘息に苦しみつつ山中を行軍するチェの様子は映画にも出てくる。本当に苦しそうで、ベニトロ、さすがの名演技。(って喘息演技で褒めるなという感じだけれど)ワタシも小児喘息をやった事があり、咳の止まらない苦しさというのはチェさんほどではなくとも経験した事があるので、あらまぁ、そんな体でよく戦闘し、またなにかといえば葉巻をふかしたりしたもんだなぁと妙なところで感心してしまった。

さて、「チェ 28歳の革命」であるが、映画そのものは132分なのだけど、なんだかもっと長く感じた。
前半がダラダラと流れて行くので(多少の年代の行ったり戻ったりはあるものの)特にこれというメリハリもなく、かといってドキュメンタリーのような映像というんでもなく戦いつつ進んで行く様子が描かれていく為、途中眠くなったり、トイレに行きたくなったり、いつにもなく注意力が散漫になり、この調子でいつまで続くんだろうか、と時計を見そうになった。

が、サンタ・クララの市街戦に突入する前あたりから、緊迫感が漲りだして映画に意識を集中することができた。1958年の暮れにこのキューバ第2の都市サンタ・クララを陥とした事で事実上革命軍は勝利する。それまで「アメリカ帝国主義」の傀儡として政権を握ってきたバティスタ将軍が年の明けた1月1日の深夜に突如ドミニカに亡命し、その7日後カストロがハバナに入る。
このバティスタが突如敗走して、傀儡政権が倒れるくだりはかの「ゴッドファーザーPart?」にも描かれている。マイケルがまさにハバナにストローをつっこんで甘い密を吸おうとしていた矢先、カストロ体制に変わったキューバから、マフィアは締め出しを食うのである。そしてこの時、兄の裏切りにも気付いてしまうマイケル。この革命軍によってそれまでの政権が倒される場面は「ゴッドファーザーPart?」でもドラマの中でうまく使われている。

チェを観ていると、熱いハートのロマンティストで、判断力や決断力もさりながら、必要な時に印象的な言葉をぱっと発する事ができること、というのが革命家には必須の条件なんだなという事が分かる。短く、鋭く、印象的な言葉で、人々の心を掴む事ができるか否か。これはけっこう大きな資質だ。そして、カストロともども、こういう熱い理想家が成し遂げた革命ゆえに、キューバはわりに共産主義の国家の中では、あれこれと不都合もあるにせよ、一部は理想的に機能している国でもあるらしい。教育がただで受けられるとか、独自の医療制度を持っているとか、とにかく社会福祉や教育の制度が行き届いているというのを何かのドキュメンタリーで観た。革命前から、カストロは農村に文盲率の高い事を憂いていたので、今でも国家を挙げて非常に教育には熱心らしい。そういえば、映画の中でもしきりにチェさんが農村から革命軍に志願してくる農民に、「文字は書けるか?まず読み書きができるようになってから来い」というシーンが出てくる。それと同じぐらいに「武器を持ってない奴は帰れ」というのも出てくるが。
それにしても、これは半世紀も前のお話。カストロがまだ存命だと思うと不思議な気さえする。




***
割引デーという事もあるが、シアター内は老若男女でほぼ満員。ワタシは前半かなり注意力散漫になって、前方の席の人々の後ろ頭を漫然と眺めたりもしていたのだが、みな、みじろぎもしないで観賞しているように見受けられた。日本でもけっこうヒットしているわけだが、今、なぜ、こういう映画がヒットするかといえば、ひとえにこのしょうもない世の中と政治を変えてくれるヒーローを、みな、待ち望んでいるからに他ならない。アメリカでオバマ氏が当選したのも、彼が意識的にリンカーンやケネディの幻影をまとおうとするのも、このへんでそろそろヒーローが出てきて、腐った状況を変革して欲しい、という人々の希求を察知していたからだろうと思う。まぁ、オバマ氏が実質的にどの程度、そのビジョンを具現化できるかは未知数だけれど、その登場っぷりや、何かを期待してみたい、と思わせる空気、そして彼がスレイブ出身ではなく移民の子という形での黒人であるという点なども、オバマ氏の存在に特別なものを付与していると思う。当選したというだけでも歴史に名前は残るわけだが、さて、彼はどの程度変革を成し遂げられるだろうか。




が、アメリカの事はアメリカでやってもらうとして、問題は日本。日本だって大変である。そもそも英雄気取りのポーズだけのロンゲ総理がシステムをむちゃくちゃにしてしまった後、立て続けに三人も、根性もなければ手腕もない二世議員の坊ちゃん総理が続いて、国のシステムは崩壊寸前、挙句のハテは無意味な給付金のばら撒きと来た。無策というも唇さむし。江戸末期ほどじゃないにせよ、かなりの国難状態である。政界が人材難過ぎる。そろそろ抜本的に日本を改善してくれるヒーローが出てくる時期じゃないの?でも、どこにも姿が見えない。影も形もない。ダメな奴は掃いて捨てる程いるが、キラキラした本物はどこにも居ない。このままいつまで混乱が続くのかしらん。まだ日本は困り足りないってことかしらん。もう、国難状態も極まって、相当に後がない状況だと思うんだけど、みんなが待っているヒーローはどこにも見えない。あっちこっちでSOS連発ぞよ!出でよ、来たれ、ヒーロー!!という人々の言うに言えない思いが、「チェ」を観るために映画館に足を向かわせるんだろうなぁ、と思ったりしたkikiでございました。

コメント

  • 2009/01/30 (Fri) 17:45

    この映画にも興味はあるものの、なかなか見られず・・・何せ脳内が「QOS」でいっぱいなので他のものが入る余地がないのです。
    チェ・ゲバラ氏に興味はあれども知識はないので彼が喘息だったって事も始めて知りました。そんな体で山中を行軍したの?
    kikiさんと同じく小児喘息を患った私からしてみると考えられない。咳が止まらず、眠いのに寝られない、苦しい、気管がヒューヒューいってちゃんと呼吸が出来ない・・・あ~、思い出すだけで苦しくなってきました。そんな体なのにチェは・・・

  • 2009/02/01 (Sun) 11:53

    Rikoさん、この映画はチェという人自体に思いいれがないと、引き込まれて見る、という感じにはならないような気がしましたわ。「モーターサイクル・ダイアリーズ」を観ているかいないかでけっこう違うような気がします。今度は後半を観る前に、「モーターサイクル~」を観ておこうかしらん、という気になりましたわ。(ホントは前半を見るまえに観ておくべきだったんだろうけど…)きっとこのシリーズは「39歳別れの手紙」のほうが感銘を受けそうだなという気がするので、次回はちゃんと準備をしてから観ようかな、と。(笑)ところで、Rikoさんも小児喘息でしたか。苦しいですよね、喘息って。ワタシは他は丈夫だけど咽喉だけはいまだに弱いので、そこだけは常に用心しておりんすわ。

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