久々の愁わし系 マシュー・マクナルティ



ワタシの好みの男子は愁いを帯びたハンサムマンか、マンリーでいながらも時に繊細さがほの見えるタイプか、なのだけれど、前者の哀愁系の人材というのはあまり多くない。稀少人種である。前にこの手の人材を「発見」したのは、「ブロークバック・マウンテン」でのジェイク・ジレンホールだったのだけど、今回、かなり久々にワタシの「愁わしの一族」に新たなメンバーを加えることにした。イギリスはマンチェスター出身の俳優、マシュー・マクナルティである。見るともなしに見ていた「Silk」のシーズン2第2話に、命令違反をした挙げ句に部下を死なせたライアン大尉として登場。その苦渋に満ちた、じっと辛いことに耐えている表情にゾクゾクし、ひさびさの愁わし系だわ…とうっとりした。

ワタシはこの秋「Silk」を見るまでこの人については全く知らなかったのだけれど、2009年からイギリスのE4で制作しているTVシリーズ「Misfits」に出演していて、彼の演じるSethというキャラが英米ではけっこう人気があるらしい。「Misfits」はおそらく日本ではまだどこも放映していないだろうと思うので、ワタシも彼の演じるSethについてはスチール写真でしか見たことがないのだけれど、なんとなく人気があるのもうなづける雰囲気ではある。「Misfits」は、社会奉仕活動をしている時に雷に打たれて以降、超常能力が備わってしまった5人の若い犯罪者たちを主役に描かれるSF青春コメディといった感じのドラマらしい。マクナルティ演じるSethも超能力の持ち主で、ゾンビの彼女がいるという設定みたいである。…どんなドラマだ(笑)アメリカの「HEROES」に青春コメディというテイストを加えたような感じだろうか。かなりティーン向けという感じはするけれども、もしAXNミステリーででも放映されたら、見てみようとは思っている。


マシュー・マクナルティのSeth


で、ワタシが鷲掴まれたのは「Misfits」ではなく、「Silk」シーズン2第2話での、エド・ライアン大尉役。
6話すべてがそれなりに面白かったシーズン2の中でも本作は一番の完成度だと思うけれども、いつもと異なる陸軍の軍事法廷という舞台設定での話自体もそれなりによく出来ていた。が、これはなんと言ってもマシュー・マクナルティのライアン大尉の表情と雰囲気が魅力的だった。
タリバンを相手のアフガニスタンでの戦闘で、ライアン大尉は巡回基地の守備をまかされていたが、作戦本部にいる上官、スコッター少佐の「基地でそのまま待機せよ」という命令を無視して、ある日、基地の外にわずか10名程度の兵を連れて出る。結果、若いリバース二等兵が地雷を踏んでしまい、両脚を吹き飛ばされて出血多量で死んでしまった。ライアン大尉は、命令違反により部下を死なせた事で、軍事裁判の被告席に座ることになる。



そのライアンの弁護をマーサ・コステロが引き受け、彼女は被害者の二等兵の両親以外はみな軍人、という異様なムードの軍事法廷で、ライアン大尉の弁護に立つが、彼は何故その時、基地を出たのか、命令違反をしたのかについて黙して語らず、ただじっと何かに耐えながら苦しげな表情で座っているだけなのだった。彼が何かを隠している事、何を訊いても型で押したような返事しかしない事にいらだつマーサだったが、従軍カメラマンが撮った1枚の写真から徐々に真相が浮かび上がってくる。それは、命令違反に先立つこと3ヶ月前の、18時間にも及ぶタリバンの包囲攻撃のさなかに起きた悲劇だった…。


マーサの示す写真から苦しげに顔を背けるライアン大尉

ライアン大尉は上官や部下の証言の間、じっと耐えるようにテーブルの上で両手を組んで座っている。上官は報告もしないで命令違反をしたライアン大尉に厳しい態度を示し、部下の古参衛生兵ピアース曹長も、大尉の命令違反を「愚行であり、栄誉を渇望した結果だと思った」と自分の意見を言う。この古参曹長とライアン大尉の間には、おそらく叩き上げの下士官と士官学校を出たエリート士官の間に生まれがちな反目があったのかもしれない。曹長は年長だし経験豊富である。学校を出てきただけで上官になってしまう若造の下で動くのは癪に触る事もあるだろう。ピアース曹長には、数年前に、ライアン大尉の静止命令を振り切って負傷した味方を助けに行き、命令違反をしながらも手柄として勲章を貰っているという過去がある。



彼らはリバース二等兵が死んだ日から三ヶ月ほど前に、タリバンに囲まれて猛烈な攻撃を浴びていた。イギリス軍には、敵とハッキリしない限りは発砲しない、という「勇気ある抑制」が強制されている。タリバンはそれを承知で民間人を自分たちの中に混ぜてくるのだ。一般人が混ざっていると英兵は反撃できない。だから猛烈な銃弾の嵐を黙って耐えるしかないのである。18時間にも及ぶタリバンの攻撃が終わり、援軍が来てほっとした時、アフガンの民間人が基地へ歩いてくるのが見えた。被弾した少女を抱え、その父母が基地に向かって歩いてくるのだった。少女は5歳。あっという間に息を引き取った。彼女は英軍と共闘しているアフガン国民軍の兵士の弾に撃たれてしまったのだろうと思われていたが、その弾は英軍の高性能ライフルから発射されたものであることが、従軍カメラマンの撮った写真から分かる。

この少女の死体の写真をマーサから示されるたびに、ライアン大尉は苦しげに眉根を寄せ、写真から目をそらし、時には涙さえ浮かべたりもする。しかし、何があったかはどうしても言わない。刑務所に行く事になってもいいのか!?とマーサに詰め寄られると、何とも言えない表情をみせるだけである。このライアン大尉の苦悩の理由は、親友のキャシディ大尉だけが知っていた。マーサはライアンに口止めされて黙っているキャシディ大尉に詰め寄る。このままだと友達は刑務所行きよ、と。
キャシディ大尉は、18時間の包囲のあとで民間人の少女が死んだこと、誰が彼女を撃ったのかはライアン大尉が語る事を法廷で証言する。そして、いよいよ、それまでずっと口を閉ざしてきたライアン大尉が重い口を開いて、事の真相を語り始める。



少女を撃ってしまったのは、死んだリバース二等兵であること。「勇気ある抑制」のために反撃できずに長時間、敵の猛攻に晒されて、ストレスのあまりについ一発だけ撃った弾が民間人の少女にあたってしまったのだった。その気もなく幼い少女を殺してしまった事でリバース二等兵は心に深い傷を負う。が、それはリバースのみならず、基地で少女を介抱しながら腕の中で死んで行く少女をどうすることもできなかったライアン大尉も同様だった。リバースは表面はおどけたりしながらも、心に負った傷と後悔が精神を苛み、3ヶ月後についに幻覚を見るようになる。タリバンが来る、彼女(死んだ少女)が来る、と震えて泣きながら訴えるリバースをなだめようにもなだめきれない大尉。そのまま基地にいるとまた包囲される、と怯え苦しむリバースをそのままにしておけず、大尉は命令違反を承知で、基地を出ることを決める。精神錯乱に陥ったリバースを抱えて、少人数で基地を守り抜くのは難しいと判断したからだった。しかし、当のリバースが地雷を踏んで負傷し、亡くなってしまう。幼い少女の死と、部下の死で、大尉は二重に心に深い傷を負う事になった。



証言台に立ち、時ににじんでくる涙をこらえつつ、訥々と真相を語るライアン大尉。「士官学校では部下を愛せと教わる。部下を愛していた」「ご両親には彼が勇敢な兵士だと思っていて欲しかった。事実、そうだった」「自分の判断が彼を死なせた。彼の死は私のせいです」と頭を垂れる。最後の”Because of me”が切ない。マーサの尋問が終わり、訴追側が反対尋問に移ろうとすると、マーサが " Leave him alone ! " と鋭く制する。間髪を入れずにキャシディ大尉も立ち上がり、" Leave him alone ! " (彼をそっとしておけ)と言う。傍聴していた部下たちがそれに続く。
そして、ライアン大尉への判決は…というわけで、最後の最後までその場の状況により繊細に変化する表情がとても真に迫って役になりきっていたマシュー・マクナルティの演技が光った一編。ワタシはその苦悩に満ちた憂い顔が見たくて、かなり何度もこのドラマを見てしまった。



よく出来た話だったけれど、ひとつだけ気になったのは、古参曹長ピアースが、ずっとライアン大尉の下にいて、リバース二等兵が少女を誤って撃った事でトラウマを抱えた事も、全員がそれによってショックを受けていた事も知っていたのに、何故、ライアン大尉のやむにやまれぬ命令違反について「栄誉を渇望したからだろう」などと証言したのか、そのへんが腑に落ちない感じではある。ピアース曹長によれば、「部下は上官の気持ちを察するもの」ゆえに、民間人を撃ってしまったリバースの行為を隠し通そうとライアン大尉が思っているなら、それに従うべきだと思ったからなのか、どうなのか…。

ともあれ、冷静沈着で部下思いの若い士官が戦場で味わった二重の喪失に苦しむ様子を軍人らしくキリリと、しかも繊細な感情表現力で演じたマシュー・マクナルティは素敵だった。今年(2012年)30歳になったばかりだけど、既に結婚して二人も息子がいるというのはちょっとびっくり。だが、俳優としてはこれからグイグイ出てくる人であろうので、大いに期待したいと思う。

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なお、マクナルティは「トワイライト」シリーズでアメリカでも売れているUK出身のロバート・パティンソンとも共演している。ダリとロルカの若かりし日の交遊を描いた中途半端な映画「天才画家ダリ」(原題:Little Ashes)で、ダリ(パティンソン)、詩人ロルカと学生時代から親交のあった映画監督ルイス・ブニュエルの若き日を演じている。


マクナルティは超ハンサムではあるものの…

が、これは映画自体がしょうもない作品なので、マクナルティのブニュエルも非常にハンサムではあるが、なんだかなぁ…な感じである。日本未公開も納得のヘチョヘチョ映画で時間の無駄という感じではあるけれども、ご興味のある方はレンタルDVDが出ているので、ちらっと見てみるのも一興かもしれない。でも、確実に時間と小銭の無駄です。はい。

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