ジェラルディン・マキューアンのミス・マープル・シリーズ

-お婆さんにも乙女だった過去はある-
2004~2007年 英 ITV



ワタシは、ポワロは好きだけれども、ミス・マープルについてはさほどでもない。田舎に住んでる野次馬根性の旺盛なお節介婆さんというイメージがあるもので…。でも、マープル物というのは人気があって、映画やTVドラマでかなり多くの女優がマープルを演じている。現在、NHK-BSで適宜放映している「ミス・マープル」シリーズの主演は丸々したジュリア・マッケンジーであるが、今回はジュリア・マッケンジーの前にミス・マープルを演じていた、ほっそりしたジェラルディン・マキューアン版のシリーズについて。ミス・マープル自体をあまり好きではないし、全く期待しないでAXNミステリーの放映を一応録画予約しておいたのを観てみたのだが、脇にも多彩な俳優が出演していて、想像していたよりも面白かった。

1980年にハリウッドで作られたオールスター出演系の映画化作品「クリスタル殺人事件」ではアンジェラ・ランズベリーがマープルを演じていた。80年代に作られたアメリカ版のTVムービーでは、かのヘレン・ヘイズもマープルを演じている。でも、マープル役の真打ちは1984~1992にかけて、本場の英国BBCがドラマ化したシリーズでマープルを演じたジョーン・ヒクソンらしい。このシリーズをワタシは一度も観た事がないのだけど、ヒクソンはアガサ本人のお墨付きもあった程のハマリ役だったとか。つまりは、ジェレミー・ブレットのホームズに匹敵する原作イメージ通りの当り役という事なのだろう。この決定版のシリーズは2月にAXNミステリーで放映するらしいので楽しみである。


ジョーン・ヒクソンのミス・マープル

で、今回のジェラルディン・マキューアンは、この決定版ジョーン・ヒクソンの後に作られたミス・マープル・シリーズの主役。制作はBBCではなく、独立系のITV。現在のジュリア・マッケンジー版も同じシリーズである。現在進行形のジュリア・マッケンジー版については、トム・ウォードやら、バッチ君やら、昨今気になるUK俳優が時折ゲストでエピソードに出演していたりするので、ちらちらと観た事はあるのだが、どうもイマイチな出来だという印象だった。(「殺人は容易だ」のバッチ君は素人探偵気取りの若者の役で微笑ましいが、「蒼ざめた馬」のトム・ウォードの役はかなりトホホだった…)


ゲスト出演のバッチ君とジュリア・マッケンジーのマープル

まるまっちくて温和な感じのジュリア・マッケンジーも悪くはないのだろうけど、いまひとつ個性に欠けるという感じもする。ジェラルディン・マキューアンのマープルは、ちょっと猫婆さんといった顔つき。ニコニコしているが何も見逃さない、鋭い観察(物事の観察、人間の観察)の人である、という感じがワタシの持つマープルのイメージに合っていた。おまけに、このマープルは若かりし日の激しい恋愛の思い出をお婆さんになってもずっと忘れずに抱いている。相手の男性は軍人で、若くして戦死してしまった。しかも、彼には妻がいたのだが、マープルは、「妻ではなく君と会うために必ず帰ってくる」と戦地に向った(そして戻らなかった)男の事を何十年たっても忘れないでいる。



マープルについての、こういう側面を初めて観たので、ワタシとしては新鮮だった。大体、マープル物は原作をひとつも読んでいないので、どういう人として描写されているのか分らないのだけど、映像化する場合には、偽善的なニコニコ笑いを浮かべて他人の秘密を探り回ってばかりいる婆さん、という雰囲気が強く出てしまうと嫌気を誘うので、好奇心旺盛だけれどもお茶目で愛嬌があって上品で、しかし時にシニカルな面も出しつつ人間観察に長けていて(そこには自分の過去の経験もいくぶんか加味されている)、何ひとつ見逃さない、という感じが出ていなければなるまい、と思うわけである。そういう観点からするとジュリア・マッケンジーのマープルは丸々、ふくふくとして些か人畜無害過ぎるという感じがしなくもない。ジェラルディン・マキューアンの方が役に合っているな、という気がした。それと、ジェラルディン・マキューアン版のシーズン前半では日本語吹替えのマープル役を岸田今日子が吹替えているので、それも好印象だったのかもしれない。

UKのTVドラマには昔から映画などでお馴染みの俳優などが脇で出てくるが、ジェラルディン・マキューアンのマープルもの第1作「書斎の死体」には、自宅の書斎で死体が出てくる名士の役で「日の名残り」のジェームズ・フォックス(貴顕専門職)、その他「眺めのいい部屋」に牧師役で出ていたサイモン・カーロウが警察の本部長役で登場。若い警視の役でジャック・ダベンポートが出てきて、ほほぉ、と思った。ワタシ、けっこうジャック・ダベンポートって好きなんですのよね。ダークヘアのハンサムマンで、声が低くて話し方が知的でエレガントである。一番印象に残っているのは「リプリー」で、リプリーに惚れてしまう音楽家のピーター役であろうか。


ジェームズ・フォックス(左)とサイモン・カーロウ


ジャック・ダベンポート

続く「牧師館の殺人」では、周囲から嫌われている頑固で傲慢な退役軍人の役でデレク・ジャコビ。また、前の教区で金をちょろまかした過去のあるヘタレな牧師役でマーク・ゲイティスが出てきて、ぷぷぷと笑ってしまった。


嫌われ者の頑固ジジイ役で出演のデレク・ジャコビ


ヘタレ牧師役でちょろっと登場のマーク・ゲイティス ぷふふ

ジェラルディン・マキューアンのマープルは、脚を捻挫して杖をついている彼女の後ろ姿を見ながら、事件を担当する警部が「チョコレートをあげようか、杖を蹴飛ばそうか、迷うよ」と脇にいる警官に言う。そのセリフがマキューアンのマープルをよく現していると思う。賢く、注意深く、警察よりずっと早く真相を探り当ててしまうミス・マープルは、警察にとってはちょっと忌々しい婆さんである。だけど、憎々しい性格ではなく、愛嬌があって憎めない。でも、全てお見通しな感じが癪にさわる、というわけである。ミス・マープルはちゃんとこれを聞いていて「チョコレートにしてちょうだい」と言う。耳も頭も全く衰えてはいないわけである。

でも、ジェラルディン・マキューアンも、その後バトンタッチしてシリーズを続けているジュリア・マッケンジーもかわいい雰囲気のお婆さんである事は共通しているが、真打ちと言われているジョーン・ヒクソンのマープルはもっと年配で、もっと威厳がありそうだ。何か、校長先生という雰囲気もなきにしもあらず。この厳かな校長先生っぽいヒクソンのマープルは、若い頃に死に別れた恋人の事をずーっと思っている、というような内面はあまり窺えない感じがするが、その側面をおりおりに印象的に打ち出しているのが、ジェラルディン・マキューアンのマープルの特徴だろう。人生の傍観者のようなミス・マープルにだって、生涯を傾けた恋の思い出があってもいい。
「記憶を心に刻むタイプですか?」と聞かれたミス・マープルはにっと笑って「なんでも覚えてるの」と答える。


なんでも覚えてるの


今はお婆さんのマープルにも胸に秘めた灼熱の不倫ロマンスがあった…

憎めないクセモノ、それがあらまほしきミス・マープル像であるのかもしれないな、とこのシリーズを見て思った。

コメント

  • 2013/01/06 (Sun) 14:54

    Kikiさん
    あけましておめでとうございます。私は平均気温−20℃ほどのロシアで年越ししました。風がなく空気が乾燥した状態だと、意外に寒さも慣れるものです。自宅裏手の海がすっかり凍り、元日は海の上を散歩してきました^^

    マープルのTVシリーズは、ポアロほど「見なきゃ」って感じじゃないんですけど、なんかんだで結構見てました。原作もわりと読みましたね。ただ、登場人物の世間話(これが実は後々効いてくるのですが)の場面が長々と続くので途中で嫌になって、読了までに時間がかかったものです。
    TVではマキューアンとマッケンジーしか知りませんが、私もマキューアンの方がマープルのイメージに近いと思います。可愛らしく微笑みながら、時折すごくクールな表情を見せるところとか、一筋縄ではいかない曲者のお婆さんって感じがします。クリスティの原作ではマープルが出てこない作品でも、このTVシリーズではマープルを登場させることがありますね。本国では人気があるんでしょうね。

    話は変わりますが「ホビット」。LORは観てない私も、マーティン・フリーマンが出てるし興味は十分あるのですが、ロシアは相変わらず全部吹替(かつ全部3D)、しかもそれが3時間の長丁場と思うと、なかなか腰が上がりません(- -;) 洋画は10日程度で入れ替えちゃうこちらでは珍しくまだしばらく上映するようなので考え中です。という間に終わっちゃうかもしれませんが。




  • 2013/01/06 (Sun) 20:27

    annaさん 明けましておめでとうございます。
    -20℃ってどんな感じなんでしょうか。想像できませぬわ~。そちらは北海道の上の方と大体同じぐらいの寒さなんでしょうかしら。海も凍っちゃうんですか。海が凍ると波の形に盛り上がったまま凍るんですか?これまた想像できません。こっちじゃみんなヤワなので、最高気温6℃でも寒い寒いと言っております。実にヤワですわ…。

    annaさんも、あまりマープル物はお好きじゃないんですね。ワタシもポワロの方がずっと好きです。マープル物は話もイマイチだし、マープル自身にも興味がないしでね。でもマキューアンのマープルは案外はまってました。もうちょっと枯れててもいいんじゃないかとは思いますが(笑)今マープルをやっているジュリア・マッケンジーが丸々して、あまりに毒にも薬にもならない感じなので、それよりは適役だなと思いました。確かにマープルが出ないクリスティの作品もマープル物として作ったり、色々してますね。マープル物はクリスティが晩年に書き始めたものか、作品数がポワロ物ほど多くないせいでしょうね。ポワロ物やマープル物の原作を、ポワロもマープルも出さないでフランスでドラマ化したものも放映したりしてますが、これはセリフがフランス語な事もあって、その間抜けな響きや妙にコメディタッチな造りに苛々しちゃってね。フランス人もけっこうクリスティ物が好きらしいんですが、フランス製の映像化作品はどれもイマイチですね。映画もドラマも。

    ロシアはなんでもかんでも吹替えなんですっけね。なんででしょうね。ナショナリズム?字幕を読むことに馴れていない人が多いから?不思議ですね。「ホビット」は見なければ見ないで別に一向に構わない映画ですし、マーティンがビルボを演じていなければワタシなぞは絶対に見なかったと思いますが、まぁ、見て損はないですよ。それなりには面白いです。ワタシとしてはイライジャ・ウッドのフロドに苛々せずに済む分、前3部作よりはずっとマシだと思いましたわ。でも、あの長さでコッテリと、あと2本もあるなんて、しつこいというか何と言うか、つくづくピーター・ジャクソンはこの話に執りつかれてるなぁ、と思いましたね。2本目以降はお腹いっぱいになっちゃいそうです(笑)

  • 2013/01/13 (Sun) 20:37

    kikiさん こんばんは。
    「ホビット」上映館まで行きましたが、結局同じシネコンでやっていたキーラ・ナイトレイ、ジュード・ロウの「アンナ・カレーニナ」を観てきちゃいました。ははは。まあ、同じ吹替でもこちらはロシアが本家本元ですしね。場面の転換などが舞台演出みたいで変わってました。ジュード・ロウが妻に裏切られる夫を終始苦渋の表情で演じていたのが新鮮でもあり、フェロモン抜きが物足りなかったりでした。ヒロインの恋人役が私にはどうもチャラくて魅力薄だったのが残念。
    こちらではまだ未公開の「レ・ミゼラブル」を予告でやっていたのですが、さすがに歌は原語のようで、これは観ようかなと思ってます。
    洋画が吹替ばかりの理由について何となく考えたのですが、ロシア語って文字数が多いんです(特に動詞はキリル文字10文字程度はざら)。今となっては観る側が吹替に慣れてしまって字幕を追うのが疲れるというのがあると思いますが、元々は単語の文字数が長いのも理由の一つだったのかしらん、とふと思ったりしました。

  • 2013/01/14 (Mon) 09:15

    annaさん こんにちは。
    「ホビット」は、特に見なくてもいい映画だから、ロシアで観るなら「アンナ・カレーニナ」の方がふさわしいかもしれませんね。そういえば、キーラ・ナイトリーがアンナを演じる「アンナ・カレーニナ」があったんでしたっけね。こちらでは3月公開みたいですわ。それにしても、ジュード・ロウがカレーニンなんて、へぇ~、ちょっと驚きました。ジュード・ロウなら普通に考えればまだヴロンスキーでいけるところじゃないかと思うんですけど、本人的にもチャレンジングな役柄だったかもですね。寝取られ男の役なんてね。ちらっとIMDbでキャスティングを観てみたら、マシュー・マクファーディンがオブロンスキーで出てるんですね。マシューがカレーニンの方が重厚感があって良かったんじゃないかしらん。でもジュードは、ヴロンスキーとしてはちょっと年嵩になっちゃったのかな。(笑)確かに、ヴロンスキーを演じているのはチョンチョロリンの若造ですね。「プライドと偏見」のジョー・ライトが監督して、キーラとマシューが再び共演なんだから、マシューをカレーニンにすればキャスティング的にも面白かったんじゃないかと思うんですけどね。ジュードはまだヴロンスキーでいけると思うんだけど…。
    「レ・ミゼラブル」。歌は吹替えじゃないんですね?良かったですね。観るならやはり劇場で観た方がいいと思います。でもあれは殆ど全編歌だから、字幕がえらいこっちゃ!かもしれませんね。文字数が多いから字幕を読む煩累に耐えないだろうので吹替えという事で浸透していると、レミゼは字幕が出っぱなしという事で画面の下三分の一は字幕かも…。読み切れない、と観客から悲鳴が上がるかもしれませんね。いずれにしても興味深いことですが、アン・ハサウェイの歌は聴きものです。楽しまれてください。

  • 2013/01/16 (Wed) 09:41

    こんにちは

    ミス・マープル4 ちょっと嬉しいびっくりが。
    「ポケットにライ麦を」あれれ?
    何だかとっても懐かしい顔が・・・
    うーん どこで見たっけと悩みつつ流していたら、
    ひょっと思い出しました。あのレストレード警部では
    あーりませんか!? 大好きな役柄の俳優さんが活躍されて
    いる様子はとっても嬉しいです。 
    「殺人は容易だ」では、シャーロックが。この方は、何に出ててもすぐ分かりますね。
    ミス・マープル5 ではマイクロフトも出てるとか

    人気番組の俳優さんはいろんなとこで出演するのはどこの国でも共通ですね。
    シャーロックがあまりにも合っているガンバーバッチ氏は、
    もと警官のちょいと探偵は、印象が薄いなぁ・・

    わたしは、今回からのミス・マープルにはそのまま受け取ってもらえそうで、心の内や秘密にしておきたいことなど何でもしゃべれそうです。
    ミス・ヒクソンなら叱責されそうだし、ミス・マーキュアンは色恋沙汰に曲解されそうな気がするし・・
    「ポアロ」や「マープル」のドラマシリーズは小説を読んでいるだけでは分からない一目瞭然の豪華な設えが楽しみです。

  • 2013/01/17 (Thu) 00:39

    畔さん こんばんは。

    そうそう、「ポケットにライ麦を」には、ルパート・グレイヴスが出てましたね。あのエピソードは出来が良かったので割に面白かったです。警部の役でマシュー・マクファーディンも出てきたしね。
    「殺人は容易だ」は、あまりドラマそのものも面白くなかったし、バッチ君の役もイマイチ、インパクトに欠ける感じでしたね。

    あはは。確かにマキューアンのマープルはなんでも色恋沙汰に結び付けて考えちゃいそうですね。そういう気配はありますわ。現在の、ジュリア・マッケンジーのマープルは一番柔らかいマープルですね。確かに、色々な事柄をその柔らかいクッションの中にぽわんと包んで受け止めそうな雰囲気があります。

    「ポワロ」や「マープル」のシリーズには、UKの俳優、女優の知った顔が色々な役で登場したりするのが楽しいですね。

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