「ファミリー・ツリー」(THE DESCENDANTS)

-家族とは群島のようなもの?-
2011年 米 アレクサンダー・ペイン監督



「素晴らしき日」(ONE FINE DAY)のあたりまでは、ワタシも幾らかジョージ・クルーニーを好意的に眺めていたが、昨今のジョージ・クルーニーはなんだかすっかり大物感を漂わせて余裕綽綽である。いつの間にやら業界内で強力なファミリーを拵えて、ハリウッドのキング状態といえないこともない。製作者としても、監督としてもそれなりに才能はあるし、きっといい奴で面倒見もいいので業界内でも人気があるのだろうけれど、あのモッサリした若白髪の小児科医を演じていた頃をおもえば、いつの間にかビッグになって、ビックリするほど磐石な地盤を築いたなぁ、と思わない事もない。ハッキリ言うと、最近の親分風を吹かしたクルーニーはどうも好きじゃないので、本作も完全スルーだった。でも、ある友が「案外良かったよ。食わず嫌いしないで見てみては?」と言うので、このほどDVDで観賞してみた。 …ふぅん、なるほどね。

物語は、1800年代にハワイの王族の娘と白人男性が結婚して出来たキング一族の末裔、マット・キングの家族の物語であり、また一族がずっと所有してきた広大な土地の処分を巡ってマットがある決断をする物語である。原題はTHE DESCENDANTS(子孫たち)

代々、先祖の残した広大な土地を活用して不動産売買や賃貸で楽な暮らしをしてきたキング一族。だが、現在の当主のマット・キング(ジョージ・クルーニー)は亡父の遺訓に従って、不動産売買で得た収入には手をつけず、弁護士として働き、その収入で生計を立てている。愛用しているのもホンダの実用的な車。極めて堅実で仕事熱心な彼だが、家を留守にして仕事ばかりしてきたツケか、社交家の妻とはしっくり行かなくなっていた。その妻がマットの出張中にパワーボートのレースに出場して事故に遭い、海に落ちて頭を打ち、昏睡状態に陥ってしまう。懇々と眠り続ける妻だが、植物状態でもはや二度と目覚める事はないと医師に告げられ、マットは事前に書類になっていた本人の意志に従って、維持装置を外して尊厳死を迎えさせるか、希望を捨てずにそのまま装置を付けて生かし続け、目ざめを待つかの選択を迫られる。



マットには二人の娘がいる。17歳のアレクサンドラと10歳のスコッティである。幼いスコッティのみならず、母の事故とその後の植物化は長女のアレックスの心境にも影響を及ぼしている。ハワイ本島の寄宿学校に通っているアレックスを連れ戻し、もう目覚めない母親を尊厳死させよう、と話すマット。長女は事故前に母親と喧嘩をしていた。動揺する長女と話して、マットは初めて妻の浮気を知る。更にそれは浮気でなく本気だったらしいこと、離婚さえ考えていたことを知るに至る。

マットが友達夫婦に妻の浮気相手の事を聞きに走っていくシーンがユーモラスだ。走り方もなんだかモタついていて情けない。娘も友達夫婦も知っていた妻の浮気を自分だけが知らなかった…。憤懣やるかたないマットだが、そういうシリアスな空気のシーンでも、背後に流れるのは、おっとりとした癒しのメロディを持つハワイアン・ソングである。この物語のいいところは、1にも2にも舞台がハワイ諸島であるというところだろう。様々なシーンの背後に映るハワイの風景や海、入道雲や、南の植物や、海辺の別荘や、さして豪邸でもないのに当たり前のようにプールのある家や、スコールで湿った舗道などに、家族の問題および一族の土地の問題を抱えて苦悩する主人公を包みこむような癒し効果がある。マットは本気で怒ったり、苦しんだり、眠れなかったりしているのだが、そんなシーンがいずれも不思議なおかしみを伴っているのが良い。脚本が上手いのか、演出が上手いのか、その双方か。




なんだかんだ言ってもやっぱりハワイは特別な土地、なのかもしれない

この海
この緑の色合いにも独特の柔らかさがある

マットはオアフ島を基点に、ハワイ本島に娘を迎えに行ったり、カウアイ島に妻の浮気相手と対面しに行ったり、小型飛行機に乗って気楽に移動する。島々の間を繋ぐ小型機から眺める青い海と緑の島。家族は郡島のようなものだというマットの述懐がかぶる。全体としては1つだが、個々は独立していて、やがては離れていくのだ、と。



妻の浮気相手が不動産屋で、カウアイ島に出張中だという情報をつき止めて、娘二人と長女のボーイフレンドも連れてカウアイ島に行くマット。ホテルに宿泊していないか探るが、海辺のコテージを借りているらしい事が分かる。そして翌朝、浜辺でのジョギングの最中にすれ違った男が、浮気相手だという事に気付く。が、この男には妻子がいた。しかも、妻はなかなか美人で感じのいい女だったりする。
妻の浮気相手、というか、マットと離婚してその男と一緒になろうとまで妻がのぼせあがっていた男が、全く凡庸で、魅力も取り得もなさそうな、男前でもなんでもない、そこらに幾らでもいるようなつまらない男である事にも、妙なリアリティがある。


こんなのに夢中になって離婚するつもりだったと分かっては、トホホ感三割増しである

カウアイ島にはまた、マットの一族が昔から所有している広大な手付かずの土地があった。その土地を巡ってイトコ達が集まり、近々、親族会議が開かれる予定なのだ。マットのイトコの1人として、ボー・ブリッジスがロンゲで登場。この人は、弟ジェフ・ブリッジスのような主演級の存在感は無いが、いろんな作品に顔を出して、それなりに印象に残る手堅い脇役である。今回は、土地を地元の業者に売りたいイトコの代表格として登場している。



一族の中にはさして金のない者もいるので、広大な原野をリゾート開発業者に高値で売って分け前に預かろうと考えているものも多いのだが、当初は地元カウアイの業者に売る腹積もりを固めていたマットが、妻の浮気相手がその業者の代理人である事を知り、また、その美しい土地を久々にじっと眺めて、考えを変えるに至る。マットの抱える問題にはどちらもカウアイ島が関わってくる。カウアイ島というのは、ハワイ諸島の中でも、「ガーデン・アイランド」といわれる自然の穏やかな美しい島である。カウアイの空港に到着したマット一家のシーンを見て、ワタシも随分昔にカウアイ島に行った時の事を思い出した。そういえば、あんな感じの空港だったっけな。宿泊したホテルのロビーに、いかにも南の島らしく極楽鳥花が飾られていたっけな…なんてね。


偶然空港で出くわしたイトコの1人の車でカウアイ島の所有地を見に行く


唯一残された、手付かずの広大な自然

このカウアイ島行きで、当初は母への複雑な感情を父親にぶつけてフテ腐っていた長女アレクサンドラが反抗的な態度を捨ててシャキっとし、父であるマットをサポートするようになる様子が自然に描かれていた。長女を演じているのは、シェイリーン・ウッドリー。TVドラマの出演が多い若手女優のようだが、なかなか綺麗な子だったし、ルックスだけではなく、役に求められるものをきちんと表現していたと思う。



また長女アレックスの口の悪いボーイフレンド、シド(ニック・クラウス)もいい味を出していたと思う。当初はイカレポンチのアホな小僧としか思えないシドだが、根っこはまっとうでなかなかいい奴であるという雰囲気がにじみ出ていた。
10歳ぐらいの少女の感情をとても自然に出していた妹スコッティ役の少女もなかなか上手かったと思う。でも、この子は食べ物に気をつけないと、あっという間にかなりの肥満児になってしまいそうだけど…。


長女のBFシド(左)と太目の妹スコッティ

また、妻の両親(母親は認知症になってぼやけているので、主に父親)に、二度と妻が目覚めない事を知らせなければならないシーンで、その義理の父親との確執にもリアリティがあった。夫の留守中に勝手にボートレースに出て事故に遭い、昏睡状態になってしまった娘について、事故に遭ったのはお前のせいだ、とひたすらに娘の夫であるマットを責める義理の父親に、こういう嫌味で頑迷なオヤジ専門のようなロバート・フォスターがハマっていた。



昏睡状態でベッドで寝ているところしか映らない妻エリザベス役のパトリシア・ヘイスティ。だが、本当に昏睡に陥って植物的に眠り続けているだけの人のような表情の作り方が上手かったと思う。口の開け加減とか、全体の雰囲気など、静かにリアルだった。
マットがこの妻の意志を尊重し、尊厳死を選び、装置を取り外す前にゆかりの人々を病室に呼んで別れをさせる。そこには予期せず浮気相手の妻までやってくる。当初は感じがいいと思われたこの妻も、昏睡状態の相手に対して、夫を奪われかけたけど赦すしかないから赦す、などと枕辺で泣きじゃくりつつ繰り事を言い始めたりして、けっこうウザイ女である事が分かったりするのも面白い。
そして最後に病室で妻と一対一で向き合い、もう意識もない昏睡状態の妻にキスをして別れを告げるマット。
"Goodbye, my love, my friend, my pain, my joy "
長らく夫婦だった二人のうち、どちらかが先に逝く時は、残された方はみな、こういう気分になるのだろうな、と思う。まぁ、それにしても勝手放題に生きて、勝手に事故に遭って植物状態になり、周囲から惜しまれつつも希望通りに尊厳死を迎えて…。マットの妻エリザベスは生きたいように生きて、家族や知人の涙に送られて眠ったままこの世を去って、なんだか身勝手なのに幸せな女だな、とも思う。



家族の中で誰かが1人亡くなると、残された家族には自然にゆるやかな連帯感と結束感が生まれるものだと思うけれど、本作のラストも、そういう雰囲気がセリフに頼らずにうまく出ていたと思う。ジョージ・クルーニーはどのシーンでもオーバーアクトにならず、等身大のたそがれたオヤジの雰囲気が醸し出されていて自然だった。また、様々なシーンで着ているアロハシャツがどれも感じが良かった。そこそこの年齢の男性が、デザインのいいアロハシャツを崩さずにさりげなく着こなしているのは、ちょっと雰囲気のいいものだな、と思ったりした。



さらりと描かれた悲喜こもごもの家族のドラマもよかったが、やはり本作を見終って印象に残るのはハワイの風景や、雰囲気であると思う。ハワイって光線の加減が独特だ。日差しは強いが光に透明感がある。ただ暑いだけじゃなく、さらりとした涼しい風が吹いてくる。
ハワイを好きな人が多いのにはわけがあるのだ。人の心を和ませる何かがある土地なのかもしれない。



ハワイには随分前に二度ほど行ったきりだけど、なんだか随分久々に、またハワイに行きたくなってしまった。

コメント

  • 2013/02/03 (Sun) 10:13

    わたしも同様に昨今のジョニクル現象は辟易していました。
    ケーリーグラント再来なんてもてはやされてた時代もあったけど、英国式ダンディズムは米人には無理と思ってたので。(好きな映画、配役もありますけどね。)
    ただこの人の努力というものもなんだか感じて、ちょい遅咲きの、下積み時代がそうさせてるのかなぁと。
    ところでこの映画はまだ観ていませんが、予告の時になんだか観てみたいジョニクル症候群だったんですね。
    「観てみたいジョニクル症候群」は、たま~にしか発症しませんが、この作品は印象良かったんです。
    近々観てみたいと思います。

  • 2013/02/03 (Sun) 19:57

    sanctuaryさん
    そういえばクルーニーはケイリー・グラントの再来なんて言われた頃もありましたねぇ。そうだったわ。でも、そこまで垢抜けないのね。何かへらへらニヤニヤしてて。でも思ったより多才な人でもあったし、一度昇ったら落ちないバランス感覚の良さなどは、下積み時代の長い苦労人ならではのものかもしれませんね。
    これは、割にいい映画でしたわ。何か予告編で全部予測がつく映画のような印象だったのだけど、やっぱりそれなりに良かったと思います。すべてにさりげなかったし、何よりハワイの風景が最強ですわ。普通にアメリカのどこかの都市を舞台に撮ってたら見なかったかもしれないけど、今更にハワイって良いな、とか思いました。ツーリスティックであまり好きじゃないわ、とか思っていたのにね(笑)

  • 2013/04/23 (Tue) 22:45

    こんにちは。シャーロック関連の記事めぐりをしていて他の映画に関するコメントを読ませていただき、うんうんと共感できる内容がおおくて嬉しくなってお邪魔しました。シャーロックは全然きにしていなかったのですが、脚本の巧みさとTVとは思えない映像、ベネディクトさんを含む俳優さんのすごさにはまってしまいました。またときどき除かせてくださいね。

    • bochii peguinn #-
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    • 編集
  • 2013/04/24 (Wed) 00:05

    bochii peguinnさん

    シャーロック関連記事は新しいカテゴリなので、さほど記事数も多くないですが、映画レビューは過去6年分どーんとあるので、おいおいに楽しまれてください。いつでもどうぞ。

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