「にっぽん縦断 こころ旅」

-火野正平 「下り坂最高」のこころよい癒され感-
NHK BSプレミアム 2011年~ (春から夏、秋から冬)



ワタシがこの番組をなんとなく見るようになったのは昨年の晩秋だから、わりに最近のことだ。前々から、ほわっとする面白さがあるよ、と聞いてはいたのだけど、ふぅんと耳を素通りしていた。でも昨年の秋、週末に放映される「週末版」を偶然見てから、ゆるやかに病み付きになった。番組のテーマソングの透明感に溢れた歌声も耳に心地よいし、自転車旅のせいもあるが、この番組を見ていると北から南まで、日本もけっこう多様で広いな、と感じるし、何より良いのは飾らない愛嬌に溢れた火野正平その人のキャラクターであろう。仕事は一生懸命に体を張ってこなしているのだけど、肩に力が入っていない。つい見ていて笑顔になってしまう脱力感がクセになる。
火野正平というと、ワタシは子供の頃に見た「新・必殺仕置人」の絵草子屋・正八を思い出すし、また、ショーケンが「傷だらけの天使」を始める時に、弟分のアキラ役には当初、火野正平を想定していたのだけど、当時売れっ子だった火野のスケジュールが合わなくて新人の水谷豊になった、という話や(萩原健一著「ショーケン」より)「火野正平」というのは池波正太郎が命名してくれた芸名であるらしい、という事などを思い浮かべる。それと、そうそう、火野正平といえば賑やかな女性関係の数々も落としてはなるまい(笑)そんなこんなで、火野正平と自転車というのは全くイメージの中で結びつかなかったのだけど、この人は子供の頃から自転車が大好きだったらしい。案外と健全なご趣味をお持ちなのである。最近見かけないけど、どうなさったのかしらん?と思っていたら、NHKの旅番組で自転車に乗っていたのだった。

で、その「にっぽん縦断 こころ旅」であるが、真夏の8月を避けて、春の旅、秋の旅とそれぞれ10週以上、日本列島を春は北上、秋は南下して、火野正平がスタッフと自転車で旅をする。あらかじめ、おおよそのルートが決まっていて、行く先々の土地で、視聴者の思い出の場所を募集。採用された手紙に紹介されたポイントを目指し、到着するとそこで視聴者からの手紙を読む。そして翌日、また次の目的地を目指して走り出す、という事を繰り返して最終目的地に到達するまで自転車旅は続くのである。番組は2011年の春にスタートしている。春は京都から北海道まで。秋は兵庫から南下して鹿児島まで、各10週の旅だったらしい。
2012年は春と秋で各14週ずつ旅をし、コースも期間も2011年より長くなり、秋の旅の締めくくりは沖縄の離島にまで到達。「台湾まで行っちゃうんじゃない?」と正平氏も言っていたが、日本列島の本当に南の果てまで行っていた。


マラッカ海峡のような沖縄・宮古島の海

ワタシは九州から沖縄にかけてのあたりを週末版で見たのだけど、今年の冬はかなり寒かったので、どんどん暖かそうな南に南下していき、正平氏の服装が徐々に軽装になっていくのを見ているのも興味深かった。逆に、暑くなりつつある時期に、涼しい方に向って行くのを見るのも快いことだろうと思う。
九州はまだ寒いのだけど、沖縄に渡るとやはり冬でも暖かいという雰囲気が漂い始める。南の島は雲の動きが早いのか、さっきまで真っ青な空が光っていたかと思うと、雲に閉ざされて目的地に着いたら曇天で海の色も冴えなくなったりするのだけど、それもまた味というものだろうか。

正平氏の独特のファッションもそれらしい雰囲気があって良い。何か病気でもされたのか、それとも、かなりイってしまったので潔く剃ってしまわれたのか、正平氏は現在スキンヘッドなので、常に頭にはバンダナを巻いたり、手編みらしいニットの帽子を被ったりしているのだが、ニットの帽子を被った様子が特にかわいい。
老眼鏡であろうメガネも、鼻のブリッジの部分がカチっとマグネットでくっついたり離れたりする面白いデザインのメガネで、その日の目的地に向う前と、到着してから、つるの部分を首にかけたメガネを顔の前でカチっとブリッジを繋げて視聴者からの手紙を読む。機能性とデザイン性を兼ねたメガネだ。こういうのをグッドデザインというのだろうと思う。
正平氏は愛用している自転車を「チャリオ」と名づけてかわいがっている。フェリーで島へ渡る時など、ツインベッドの片方にチャリオを寝かせてゆかたをかけてやるなど、擬人化して愛情を表現しているのがユーモラスだった。


スキンヘッドの正平氏 正面から見るとアンソニー・ホプキンスに似ている時もある

また、正平氏は意外に、といっては失礼だけど、ちゃんと漢字や熟語を読める人で、視聴者からの手紙も、初めて読むような地名をわりにすらすらと読んだりする。昨今はアナウンサーだというのにろくすっぽ漢字が読めないような手合いが多いのだけど、ある程度以上の年代の人は、みんなちゃんと漢字を読めるのだな、と今更に思う。英語ができるのもけっこうだが、いまどきの人はまず日本語をちゃんと読み書きできることが肝心だ。だってワタシたちは日本人なんだものね。


目的地に「トウチャコ」して視聴者からの手紙を読む

視聴者からのお便りも、印象的なものもあれば、特にどうということもないものもあるし、手紙ではどんな素晴らしい景色だろうと思うようなところも、山坂を越えてはへはへと喘ぎながら辿り着いたのに、実際に行くとさほどの景観でもなかったり、途中の景色の方が綺麗だったりすることもある。もちろん、想像したよりもずっと素敵なところである場合も多々ある。

ワタシは秋の旅の後半、それも終盤近くなってから見たので、沖縄の島々の風景がとても印象深かった。まだ沖縄に行った事がないせいもあるかもしれないが、沖縄というのはほんとうに海と空が綺麗だな、やはり猛烈に南だな、なんだかんだ言って日本も広いな、と改めて思ったりした。正平氏も「南はやめられまへんな」と言っていたが、冬の寒い時に暖かいところに行って、どーっと広がる水平線や、ブルーグリーンの大海原を眺めたら、さぞ解放感があることだろうと思う。




1月末というのに、この空と海はどうであろう

どこから移住したのかは分らないが(多分、本土からだろうけれど)、お父さんを亡くしたあと、お母さんに甘ったれないようにしようと、18歳で石垣島に移住した、という女性の手紙に、正平氏はやたらに感銘を受け、「人妻だから会わないけど、会ってみたいな、いい子なんだろうな」と想像を膨らませていた。その女性がプロポーズされたという展望台に、坂道を喘ぎつつ登っていき、正平氏は彼女のために「童神(わらびかみ)」を低く歌った。

高所恐怖症だという正平氏だが、沖縄諸島の島々へはエア・コミューターに乗って移動。石垣島に向う飛行機のCAさんが別嬪だというので、でへでへしていた。正平氏は女性は若ければ若いほどいいようで、高校生とか女子大生とか大好きみたいである。でも、ニコニコしながら傍に寄って行っても嫌らしさを感じさせないのは天性の持ち味だろう。とにもかくにも、火野正平ってイヤミが無くてかわいいのである。だからどこに行っても田舎のおばちゃんに大モテで、「握手してください!」「きゃ~、しあわせ~!」なんておばちゃん達は大喜びだが、正平氏の表情にはあまり笑顔はない。ははは。ただ宮古島で、ちゃんぷるを作って食べさせてくれた民宿のおばちゃんの事は気に入ったらしく「俺の女房だからさ」などと言っていた。この民宿のおばちゃんのご飯はとても美味しかったらしい。また、作為のないおばちゃんの笑い声が天然のかわいらしさに満ちていて微笑ましかった。

正平氏は花が好きで、ちょっとより道が好きだ。何でも美味しそうに食べ、そのブラない、かわいらしい人柄が、日本各地の、別に名所旧跡でもない、けれど隠れた名所だったり、その土地独特の雰囲気のあるところだったりする風景とあいまって、不思議な癒し感を見るものに齎すのである。居ながらにして旅をしているような感覚にもなれる。特に、足腰がよくないとか体調を崩しているとかで、そう簡単に旅に出られないという状況の人にとっては、この番組の効力は更に大きくなるだろうと思う。癒し効果も倍増するに違いない。

この番組が、日本列島の旅に自転車をフィーチュアしているのは、あまたある旅番組の中で特色を出すためでもあるだろうし、旅人・火野正平の趣味でもあるという事もあるのだろうけれども、どんな天候でも、どんな道でも、自分の脚で漕いで前へ進んで行かねばならない自転車の旅には、人生の旅の縮図を見るような趣きがあるからなのかもしれない。時には息も絶え絶えに坂道を登り、登りきれば軽やかに坂道を下り、平坦な道をすいすいと走れる時もあれば、激しい横風を受けて走る事ができない時もある。山があり、谷があり、一休みするところがあれば、スピードの出せる道もある。今は苦もなく走れる道も、行く手に急な坂が見えている時もある…。そんな道をペダルを漕いで進みつつ目指すのは、様々な人が人生の途上で心の中に焼きつけた思い出の場所、印象深い出来事のあった場所、様々な人々の人生における折々の想いがまつわっている場所なのである。



昨今、正平氏は「自転車の人」として認知されている事も多いので、苦笑いしつつもけっこうガックリきているような気配もある。「俳優の火野正平」ではなく、「自転車の人」として世間に覚えられている確率が高くなっているというのは、些か忸怩たるものがあるのだろう。「う~ん、やっぱり俺って自転車の人か…」とぼやいている時もある。彼としては、俳優としてまたドラマなどで活躍したい気持ちが強いのかもしれないけれど、幸か不幸か、「こころ旅」が当っちゃったからねぇ…。これで1年の半分ちょっと自転車旅に出ていたら、ドラマの仕事は取りにくいかもしれまへんな。



でも、「こころ旅」ファンは多いと思うので、気力と体力の続くうちは自転車旅を続けて欲しいと思う。きっと番組ファンはみなそう思っているだろう。そうやって、自転車旅を何年か頑張りぬいたら、NHKが何か素敵なドラマを企画して正平氏を主演に迎えてあげたらいいと思う。坂道の登りがキライで、登りきった後でしゃーっと坂道を下りながら「人生くだり坂最高」という名言を吐く正平氏だが、もう少ししたら、俳優としても「人生くだり坂最高」の持ち味を発揮するに違いない。



2013年春の旅は4月からスタートらしい。その前景気を煽るためか、3月3日から毎日、2012年秋の旅の週末版28本の再放送があるようだ。秋の旅の前半は全く見ていないので、これは楽しみである。この番組を全く見ていない人も、いい機会なので、この再放送をチェックしてみるのも良いかもしれない。

♪ 誰だってあるんだろう こころの奥に
  宝物の地図 大切な場所へ

  探しに行こう その宝物
  輝き続けるその場所を もう一度

このテーマ曲「こころたび」も、知らず知らずのうちに耳に残る。番組の雰囲気にとても合っていてナイスである。

コメント

  • 2013/02/08 (Fri) 06:24

    はじめまして。
    あの番組の正平さんの衣装は私物です。
    娘さんが選んでくれたものを、毎朝適当に選んできてるらしいです。
    以前に、「この番組、スタイリストもメイクのおらん!」と言ってました。
    ついでに髪は、とある時点でめんどくさいから切っちゃったそうです。

  • 2013/02/09 (Sat) 00:10

    ココロさん はじめまして。
    あの衣装は自前だったんですね。いかにも正平氏らしさの出ているファッションでなかなかいいな、と思っていたんですが、娘さんのお見立てだったとは…。ふ~ん。かわいらしいな。髪は潔く剃っちゃった、という事ですね。髪型を気にする代わりに、バンダナやニットの帽子でオシャレているのもいいもんですね。今年の春からの旅が、じわじわと楽しみですね。

  • 2013/02/11 (Mon) 15:38

    はじめまして
    いつもブログ楽しみに拝見させていただいてます。
    ありがとうございます。
    正平さんの衣装・・「あれ、私のと同じだー」といつだったか
    叫んでしまいました。
    「キャピタル」という倉敷のブランドのパンツでした。
    私は結構な高齢者(笑)ですが、
    楽しく着やすい服が多いので、大好きです。
    頭には、「ボヘミアン」のものが多いみたいですね。
    「キャピタル」の製品は、凝った物は、それなりのお値段ですが
    それ以外はリーズナブル(生地などがとても着心地いいです)だと
    思います。
    それにしても「人生下り坂最高」っていいですね。
    暖かい沖縄に行きたいなー。


  • 2013/02/11 (Mon) 23:31

    soyoguさん 初めまして、じゃなくて前にもコメントをいただいたような気がしますが(笑)
    でも、楽しみにしてくださってありがとうございます。
    正平氏は倉敷のブランドのパンツを穿いたりしてるんですね。ふ~ん。そういえば倉敷って、というか岡山がなのかもしれませんが、ジーンズの生産地で有名なんですよね。倉敷といえばクラレの創業地でもあるし、アパレルには強いところなんでしょうね。
    ワタシは、秋の旅が九州に入って、宮崎とか少し暖かいところに移動したあたりからこの番組を観たので、冬のもっとも寒い時期だったせいもあるけど、南の景色が目にしみました。南といえばなんといっても沖縄ですね。正平氏の「童神(わらびがみ)」を聴いていて、そういえば沖縄の歌って独特のリズムでいくつか好きな歌があるなぁ、とか思ったりして。
    それはそうと、今やすっかり火野正平は自転車のおじさんと化してますが、そもそもなんで番組のプロデューサーはこの企画に火野正平をアサインしたのかを、ちょっと知りたい気がします。

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