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「ゼロ・ダーク・サーティ」(ZERO DARK THIRTY)

-されど終わりなき憎しみの連鎖-
2012年 米 キャスリン・ビグロー監督



オサマ・ビン・ラディンが潜伏していた隠れ家を急襲されて殺されたというニュースは比較的耳新しい。2001年に例の9.11のテロ事件が起こり、それからというものは世界中にテロの脅威が満ち溢れ、アメリカは躍起になってビン・ラディンの行方を追いかけたが杳として掴めず、10年の歳月が経過して死亡説さえ流れる中、2011年に突如、ビン・ラディン暗殺のニュースが飛び込んできた。そのニュースを聞いた時、やっぱり生きてたのか…さすがに10年もの間、穴倉に潜んでいたわけじゃなかったのだね、と思ったが、なにがなし虚しさも感じた。
ビン・ラディンが米海軍のネイビーシールズによって暗殺されたのは、2011年5月2日のゼロ・ダーク・サーティ(深夜零時三十分)のことだった…。

9.11から3年後のある日、パキスタンのCIA支局にやってきた若手のCIAアナリスト、マヤ(ジェシカ・チャスティン)。当初は拷問による取調べの光景にいたたまれぬ思いをするが、暫くすると自らも、捕獲したアルカイダのメンバーを腕力専門の殴り役に殴らせつつ尋問するようになる。だが、拷問はされる方が勿論辛いが、する方も辛いものなのである。マヤが来るまでその支局を引っ張っていたアルカイダ探索チームのリーダー、ダニエルが、拷問疲れで国内勤務を願い出てオフィスワークに戻るシーンがあり、「いい加減、男の裸は見飽きたよ」というセリフに、その心身共の拷問疲れが沁みだしていた。



9.11以降、「アラブ」と「テロ」に異常なまでにヒステリックになったアメリカ。特例拘置引き渡し(extraordinary rendition)なる措置を使って、たとえアメリカ国籍があっても、アラブ系で当局が怪しい(テロに関与している)と目をつけた人物は、強引に国外へ拉致していってそこで拷問による尋問を行ったりもしたらしい。不確実な情報や誤った情報により、アラブ系というだけで、ちょっとした出張や行動からテロ組織との関与を疑われ、強引に国外に拉致されて監禁、拷問された無実の人もけっこういたのではないかと思われる。もちろん、本当にテロ組織に関係している人間も居ただろうけれども。
このへんの事を映画にしたのがジェイク・ジレンホール主演の「Rendition(邦題:国家誘拐)」である。この映画では、CIAに目をつけられた無実のエジプト系アメリカ人のビジネスマンが出張帰りに空港でいきなりCIAに拉致され、また飛行機に乗せられてアフリカに連れて行かれて、いわれなく監禁、拷問され、瀕死の目に遭うシーンがかなり印象的だった。地下の牢獄のようなところで、両手を天井から垂れた鎖に繋がれて、素っ裸にされ、殴られるわ、水をかけられるわ、散々な目に遭わされる。ジェイクは、毎日の拷問にいやいや立ち合ううちに、この男がテロとは無関係な一市民であると察し、彼を逃がそうと尽力する若きCIAアナリストを演じていた。アラブ系で、出張先が怪しいとか、科学薬品を扱っているというだけで短絡的に爆発物と結びつけて、アメリカ国籍のある一般市民を国家権力で拉致して拷問する、アメリカのテロに対する過剰な反応がよく表現されていた映画だと思う。この映画で拷問シーンを見ていたので、本作の拷問シーンも、さもありなんと思って見た。



***
連絡員を捕まえて拷問しても、ある程度の大物を捕らえて尋問しても、ビン・ラディンに繋がりそうな事になると口は固く、誰も何もしゃべらない。探索は遅々として進まないのに、アルカイダのテロ活動はやまない。マヤは取り調べで名前の上がった一人の神出鬼没の男をピックアップする。どこに住んでいるのか誰も知らない、通り名はあるが苗字も分らない謎の男を。身元が周到に隠されたこの男はただの連絡員ではなく、ビン・ラディンの側近に違いないと狙いをつけるマヤだが、その男を探すうちに、2001年に死亡していたと知らされる。

また、別な大物を、情報源としてイスラム圏の協力国の基地に招いて話を聞くことになっていたマヤの年上の同僚女性ジェシカは、基地内に入ってきた相手の車に仕掛けられた自爆テロの爆弾で死ぬ。この同僚女性ジェシカを演じていたのはジェニファー・イーリー。どこかで見た事があるような顔だけど…と思っていたらBBCの「高慢と偏見」でコリン・ファースのダーシーを相手にエリザベスを演じていた彼女だった。最近では「英国王のスピーチ」で、ジェフリー・ラッシュ演じるローグの妻に扮していた。その時はちょっと老け作りをしていたのであら~、老けちゃったわね…と思っていたら、本作ではかなり若返って映っていた。この人も地味だがいい女優だ。三人の子持ちの女性CIA局員という設定だった。



ジェニファー・イーリー演じるジェシカの爆死はマヤに大きなショックを与える。そして、何がどうでもビン・ラディンを見つけて殺す!と心に誓うわけである。彼女が目をつけていたビン・ラディンの側近とおぼしき男は死んだと思われていたが、それはよく似た彼の兄弟ではないかとマヤは推測する。そして、そのターゲットをどうしても探し出したい、と上層部に言うが、そいつが側近だという証拠がどこにある?証拠を出せ、と上司はネガティヴな反応を返す。いきりたったマヤから「怠慢よ!」とそしられる上司を演じているのはカイル・チャンドラー。ワタシは初めて映画で彼を見たが、今年のアカデミー賞作品賞候補であるベン・アフレックの「アルゴ」にも出ているようだ。



煮え切らない上司から主導権を奪ったマヤは、この謎の男の割り出しに躍起になる。そして遂に、連絡に使う電話からこの男を手繰りだし、その住居も突き止める。彼は側近なのだから、高い塀をめぐらしたこの堅固な家にビン・ラディンも潜伏しているはずだ、とマヤは確信するのだが、CIA内部の会議では、大半が、居る確率は6割程度と踏んでいてゴーサインが出ない。アメリカが取調べに拷問を用いてかなりギュウギュウやっている、という事が世間に漏れて轟々の批難に曝される中で、もし急襲してそこにビン・ラディンが居なかったら火に油を注ぐ事になってしまう。下手をうてないと思うので、男どもは煮え切らない。そんな中で会議の末席に居て、発言を求められてもいない若輩者の小柄な赤毛のマヤ(ジェシカ・チャスティン)が1人だけ、「100%確信がある」とCIA長官に言い切るシーンは、下手な男よりも、男前な女の方が何倍も度胸があって根性が座っているという事が、よく表れていたシーンだった。男前な監督、キャスリン・ビグローの面目躍如のシーンでもある。



また、この映画では爆発シーンの唐突さと、その音が(唐突にババーン!と来るので見ていて思わず飛び上がる)、実際にもテロに遭う時にはこういう感じなんだろうな、と思われるリアルさだった。ネイビー・シールズの特殊部隊が隠れ家を急襲するシーンも、その動きの独特な決まりなどにいかにも特殊部隊らしい緊迫した空気感が出ていた。戦闘シーンは二度撮ったというビグロー監督だが、なまじ男の監督が撮るよりもずっと乾いた、実際的な映像が撮れているのは、やはりキャスリン・ビグローの男前度が如実に現れていると思う。彼女としては男だとか女だとか関係ないわ、というところなんだろうけれど。



CIAテロ対策センターのアフガン、パキスタン部チーフを演じていたのはマーク・ストロング。この人はスキンヘッドかそれに準ずるヘアスタイルの事が多いので、普通のヘアスタイルで登場したのを初めて見たような気がする。別に彼が演じなくてもいいような役だったけれども、威圧的に部下に激を飛ばしていたのが、なかなか結果が出せず、ビン・ラディンを見つけられずに日がたつうちに、カマキリのようにいきりたったマヤに心理的に圧迫されるチーフを演じていた。



さきごろのゴールデン・グローブ賞で映画部門の主演女優賞を獲ったジェシカ・チャスティン。まぁ、きっと実際の女性アナリストもこういう感じの人だったんだろうねぇ、という感じは漂っていた。ジェシカ演じるマヤは、当初は仕事としてクールにビン・ラディンの居場所をつきとめようとしていたが、同僚のジェシカが爆死してからは、私怨で凝り固まった執念の人となり、目星をつけた隠れ家を探索に行くネイビーシールズのメンバーに、「見つけたら、私のためにビン・ラディンを殺して」と言う。国家とか大義とかはすっ飛んで、彼女は殺された仲間の敵を討ちたいという事だけで目いっぱいに凝り固まっているのである。



ワタシがこの映画を見ていて印象的だったのは、CIA内部の作戦会議だのなんだのという裏側よりも、ビン・ラディンが潜んでいる隠れ家をマヤの確信によって特定し、ネイビー・シールズが暗殺隊として差し向けられ、寝こみを襲われた側近や子供を含むその家族、ビン・ラディンの女たちが、突如空から邸内に降りて来て、四方八方から扉を破って侵入してきたアメリカの特殊部隊によって、まさにテロの脅威に曝される、というシーンである。
部隊の前に出て来て騒げば女でも容赦なく射殺される。子供たちはさすがに一部屋に集められて、隊員の1人が「大丈夫だよ」なんてなだめていたが、いくらその場限りにネコナデ声でなだめようとも、目の前で父親だの叔父だの母親だのを殺された子供たちの心には、生涯消えない恐怖と復讐の炎が宿るに違いない。彼らが成長して、おとなしくアメリカへの恨みを胸に秘めて何も行動しないでいるだろうか。到底、そうは思われない。
マヤがビン・ラディンの確保に執念を燃やしたのも、本腰を入れたのは仲間を殺されてからである。そしてビン・ラディンは暗殺されたが、その暗殺がまたアラブ側にあらたな恨みと怒りを植え付ける事は否めないだろう。1人の指導者の死で全てが終わるわけではない。むしろ、また新たな始まりとなってしまったかもしれないのだ。事実に従って、女まで殺した事も省かなかったキャスリン・ビグローが描きたかったのは、私怨による報復の連鎖には終わりがない、という事かもしれない。

オサマ・ビン・ラディンが暗殺されたというニュースが世界を駆け巡った時、その写真などが公開されなかったような記憶がある。だから、本当に殺されたの?本人じゃなくて替え玉とかじゃなかったの?などと思っていたのだが、本作を見て、やはりビン・ラディンは本当に暗殺されたのね、と思った。
ビン・ラディンの顔や姿などをあからさまに写さないように配慮していたのが感じられた。

長きに渡ったビン・ラディン確保作戦が成功裡に終了し、虚脱状態になったマヤは、彼女のためだけに用意された軍の輸送機に乗り込む。出発までの間、彼女は茫然と輸送機の片隅に座り、涙を流す。何年もの歳月をそのことに捧げてきた、ライフワークのようなミッションが終了したこの時、彼女の胸に去来するものは何だったのか。執念をかけて追い続けた目的を完遂したのだから、安堵感も解放感もあったかもしれないが、何より彼女の胸を占めていたのは、圧倒的な虚しさではないだろうか、とラストのマヤの表情を見ていて思った。

コメント

  • 2013/02/25 (Mon) 13:36

    kikiさん、こんにちは。

    北風のせいか、そもそも舐めてかかっていたせいか、帰国して東京が意外に寒いのに驚いています。まあ、鼻の中が凍ることも寒さで涙が出ることもありませんが(笑)
    で早速観てきましたよ〜。全体としてロシアの冬のごとく(?)乾いたトーンで淡々と進む印象を受けたので、マヤの、時にキリキリした様子にもそれほどヒステリックさは感じませんでした。長年すべてを捧げてきた敵の確保がもう手の届く所にあると確信していれば、あれぐらい上司に噛み付いたり、長官に向かってマザーファッカーなんて単語を使っちゃうのもありかもしれないし(しないかな)、そのへんをチャスティンが大げさすぎずに演じていたように思いました。ついつい、彼女の意志の強そうな軽く割れたアゴに目が行ったりもしましたが。
    そしてネイビーシールズの襲撃シーンとラストがやはり印象的でした。途中ちらっと寝てた同行の友人ですら「あそこはリアルだった」と感心していましたが、最初は泣き叫んでいただけの子供たちが、最後に集められた場所でじっとこちらを見つめていた視線、ビン・ラディンの遺体の前に子供を引っ張ってきて「この男の名前を言え」と迫る非情、目的を達したのに喜びを感じさせないマヤの表情、涙。彼らは勝ったのか、そもそも勝者なんているのか、考えさせられました。

    で、映画とは関係ありませんが、海外ではオンデマンドが視聴できないので、今回帰ってきて「Sherlock」シリーズ2のNHK吹替版をやっと観ました。DVDもしばらくご無沙汰だったのですが、いつ観ても新鮮。実はアンドリュー・スコットがお気に入りになってしまい、彼のその後のドラマやニュースもフォローしているのですが(米国のマネージメントとも契約したとか)、シリーズ3でモリアーティが新たに出てくることがないのは確実だそうで、個人的にかなり残念。まあ、でも3の撮影ももうすぐだと思うと、それだけでワクワクです。

  • 2013/02/25 (Mon) 22:03

    annaさん こんばんは。

    帰国されたんですね。お帰りなさい。
    そうなんですよ。東京もけっこう寒いでしょう?この冬はなかなかに寒い日が多くて、夜など地下鉄から上がってくると、ひゃ~!とぷるぷるしてしまいますわ。ロシアほどではないにせよ、東京もそこそこ寒いんです。ビル風がね。

    これ、ご覧になりましたか。そうですね、チャスティン。大袈裟すぎるという感じはなかったですね。実際の女性アナリストもきっとああいう感じだったんだろうな、というリアルな雰囲気が出てました。チャスティンて、アゴ割れてましたっけ。何か全体に薄い顔つき、というイメージしか残ってなくて、アゴは思い出せませぬわ(笑)
    この映画は途中のあれこれよりも、やっぱりクライマックスの暗殺隊が乗り込んでからの緊迫したシーンと、ラストですね。それに尽きると思います。そして、観たあとは様々な事を考えさせられますね。勝者も敗者もなく、終わりもない泥沼、という感じで溜息がでますね。もはや日本だって他人事じゃないですしねぇ。中東に出ていかなくてはならないビジネスマンは命がけです。日本政府も真面目にアラブに情報網をこさえないとですね。総体的にもっと諜報機関を強化しなくちゃね。戦争をしないで優位に立つために。そして同胞の命を守るためにね。

    おー。「Sherlock」の日本語吹替え版もご覧になったんですね。久々にあれこれと楽しまれてますね(笑)
    そうそう、アンドリュー・スコットは、Series3にはもう出て来ないようですね。死んだものは死んだのだ、というわけで。いつまでも同じ役をやっているわけにはいかない、というような事を言っていたような…。でも、彼の鬼気迫る演技はSeries2を盛り上げましたよね。上手い人なので、善人も出来るし、モリアーティみたいなのも凄い説得力で演じられるし、この先がまだまだ楽しみな人ですね。Series3の撮影は来月ですよねぇ。そしていつ放映なんだろう?秋かな。ふふふ。楽しみですね。

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