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「ジャンゴ 繋がれざる者」(DJANGO UNCHAINED)

-俺の名はDJANGO、Dは発音しない-
2012年 米 クエンティン・タランティーノ監督



面白そうな予感がして、楽しみに封切りを待っていた作品。冒頭、タイトルと音楽が流れ始めた時から、ワクワク感をそそるムード満点。60年代の娯楽映画を見ているような雰囲気が漂っている。ジャンゴというのは、フランコ・ネロ主演の「続荒野の用心棒」の主人公の名前。その事で象徴されるように、マカロニ・ウエスタンへのオマージュでもある本作。フランコ・ネロもちらっと友情出演するが、マカロニ・ウエスタンはイーストウッドの出世作を2本ほどTVで見たきりのワタクシ。どこがどういう風にオマージュなのか具体的にはよく分からなかったのだけど、空気感と音楽で、タラちゃんの思い入れは伝わってきた。クリストフ・ヴァルツは評判にたがわぬ好演の上に、また映画的にとても美味しい役でもあった。かたや賞レースに名も挙がらず、ヴァルツの助演男優賞受賞の影で、主役というのにさほどの評価でもない感じのジェイミー・フォックスだが、何といってもタイトル・ロールだし、それなりに引き立つカッチョいい役を体を張って演じていた。

タラちゃんの映画はいつも、音楽の選曲センスが独特でノリがいい。今回もオープニングから掴みはOKで、足首を鎖で繋がれたジャンゴを含む黒人奴隷たちが、寒い夜道を奴隷商人にひき連れられて進んでいくシーンにかぶる音楽と、ダサイほどの朱色がかった赤文字で表示されるタイトルや出演者名などが、60年代マカロニ・ウエスタン的だった。そして一行の前に、凍てつく夜道を1人乗りの馬車で飄然と現れるキング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)。異国訛りの紳士的な口調と悠揚迫らぬ態度で飄々とした表情を変えぬまま、あっという間に2.3人の奴隷商人を片付けてしまう鮮やかな早撃ちの痛快さ。実に映画的にワクワクするキャラクターであるし、クリストフ・ヴァルツに見事にハマッた役でもある。



この冒頭の数分のシーンからして、すでに映画の面白さが出汁のようにしみ出していて、「ジャンゴ」はまさに娯楽映画の楽しさにみちた一篇だ。この映画に漂う空気感は、マカロニ・ウエスタンへのオマージュばかりでなく、見ていると、全盛期の黒澤の娯楽時代劇の面白さなどと共通する空気感も流れているような気がする。昔の映画以外で、こういうスタイルの映画は昨今、稀だ。最近の映画にはみられなくなった娯楽映画のスタイルである。それが見ていて心地よいし、王道の娯楽映画のノリが楽しい。60年代や、それ以前の映画ファンが、新作の痛快な映画が封切られたのをワクワクしながら劇場で観た時の気持ちはこういうものだったのかな、とも思った。そういう雰囲気を追体験しているような気がした。

それにしてもタラちゃん。キング・シュルツのキャラはよく考えたものである。クリストフ・ヴァルツは滑らかによくしゃべり、平然と人を撃ち殺すかと思うと、知的で優しい眼をした奴隷制度を嫌うインテリでもあるシュルツを魅力的に演じていた。今回は終始、知的で愛嬌のある風貌をしていて、冷酷で何ひとつ見逃さないSSの将校を演じた「イングロリアス・バスターズ」の時とは全く印象が異なるのがお見事。このシュルツは一応、歯医者だったのだけど、いつの間にか本業は賞金稼ぎになっているドイツ人である。けれど、町から町へと懸賞首を捜しての旅には、歯医者という身分を大いに隠れ蓑として生かしているという事を示す大きな歯の広告塔が、1人乗りの馬車の屋根の上に取り付けられていて、馬車が動くとバネ仕掛けでその歯がブランブランと揺れ動くのが面白かった。



自分が追っている懸賞首の三兄弟の顔を知っているジャンゴを奴隷商人から身請けし、自由の身にして、やがて仕事の相棒にしていくシュルツ。白人であるシュルツから初めて人間らしい扱いを受け、心を開いていくジャンゴ。何枚もの指名手配の書類を持ち、懸賞首を追いかけての旅で懸賞金を稼ぎながら、二人は息の合った相棒になっていく。ジャンゴがシュルツに身請けされて自由になり、身なりも整えて、銃の腕も磨き、クールな「ジャンゴ・フリーマン」になっていく様子を追った前半が最初の見せ場である。シュルツを演じるクリストフ・ヴァルツの味わいも全開だ。



この映画の時代背景は南北戦争の直前というあたり。奴隷は人として扱われていなかった。アメリカ人がもっとも野蛮だった時代なのだろうと思うが、その野蛮なアメリカの白人に対して、知的で紳士的なシュルツは、お尋ね者は瞬きもせずに撃ち殺すが、奴隷制には反対のドイツ人である。これまでハリウッド映画では、ドイツ人といえば、クールな悪人か、融通の利かない野暮天として描かれてきたような気がするが、知性と教養と味わいのある人物として描いたのは、これが初めて…ではないかもしれないが、かなり珍しいケースのような気もする。シュルツはジャンゴに友情を感じ、彼とは別々に売り飛ばされてしまった彼の妻が、最初はドイツ人の家の奴隷として生まれ育ち、ドイツ名前をつけられ、ドイツ語を話す、と知り、ジャンゴと共にその妻を捜し出して救い出そうと思うあたりも、それはそういう気持ちになるだろうねぇ、と思った。



今年の賞レースでは、脚本賞と助演男優賞でしか本作はピックアップされないので、主役はあまり良くないのかな、と思っていたが、ジャンゴを演じているジェイミー・フォックスも、とてもよかったと思う。何しろもう、ヨレヨレの動物扱いの奴隷から、シュルツに身請けされて以降、本来持っていた知能の高さや射撃の腕前などが前面に出て、クールな「ジャンゴ・フリーマン」になっていくあたりなど、実にいい感じだった。娯楽映画の主人公として申し分ない存在感を持っていたと思う。ジェイミー・フォックス的には、全裸で縛られて天井から吊るされるようなシーンも体を張って頑張っていたのに、ノミネートもされないなんて気の毒だったなぁ、と思った。まぁ、かなり頑張ってもそういう時もあるのだね…。鎖で繋がれたり、ムチ打たれたり、全裸で吊るされたり、大事なところを切られそうになったり、と主演としてはフルに体を張って仕事をしたのに、おいしいところはキング・シュルツのクリストフ・ヴァルツに全部持っていかれてしまったわけで、ジェイミー・フォックスには「気の毒だったで賞」をさしあげたい気持ちしきりである。


1シーンのみ出演のフランコ・ネロ(右)と

前半の山場が終わり、中盤が少し中だるむ気もしたのだが(ここをもう少しテンポよく刈り込んで2時間に収めればもっと良かったと思う)、映画も後半になって、黒人同志を死ぬまで闘わせるのが趣味の、残忍で無教養な南部の大農園主カルビン・キャンディ役で、レオナルド・デカプリオが出てくる。デカプーが出てくるまでがかなり長いという印象。別にファンじゃないのでデカプーが早く出て来なくてもいいのだが、本作が、面白かったのにやや冗長な気もしたのは、尺が長すぎて(165分)中弛みする部分があるからなのだろう。

デカプーは傍目にもいかにも楽しそうに悪役を演じていて、活き活きしていた。やはり、こういう役の方が収まりがいい気がする。彼が、若いのに凄い演技派だと言われていたハイティーンから20代前半の頃を思い出した。デカプーは実力のある役者なのだな、という感触を久々に味わった。長らく、ワタシはデカプーが演技派だという事を忘れていたし、最近は昔のような輝きは全然ないな、という感じしかなかったのだけど、本作では本当に久しぶりにデカプーが光って見えた。やはり悪党OKである。



また、ガーンと横に開いた鼻は健在だが、昨今はかなり体重が増えた気もするサミュエル・L・ジャクソンがキャンディ家に長年仕えている油断のならない老黒人執事を演じていた。自分も奴隷上がり(多分もう奴隷の身分ではないのだろう)なのに、弱い立場の黒人奴隷たちを蔑み、過酷に扱い、主人のカルビン・キャンディに盲目的な忠誠を誓っている様子が、ストックホルム症候群の最たるもののようで、人として嫌らしい感じがよく出ていた。



奴隷制というものを取り上げても、「リンカーン」のスピとは全く異なる角度からのアプローチで娯楽映画として楽しませつつも、当時のアメリカという国、そしてアメリカ人がいかに野蛮だったか、奴隷制がいかに非人道的なものであるかをきっちりと伝えてくるタラちゃんの手腕が冴えていた。

ジャンゴがああまでして懸命に救い出そうとする女房が大した女じゃないのはともかくも、キング・シュルツとジャンゴの相棒関係は、からりと乾いていて、けれど底では情けで繋がっていて、死んでも切れない強い絆が結ばれたんだろうな、という感触をさらりと伝えてくるのもいい。

ジェイミー・フォックス演じるジャンゴが、シュルツに言う別れの言葉「Auf Wiedersehen (また逢おう)」がさりげなく沁みた。

コメント

  • 2013/03/02 (Sat) 00:11

    こんばんは。突然失礼いたします。

    kikiさんのサイトはSherlockの記事を拝見して以来、日参させていただいております。Sherlockの記事だけでなく、kikiさんのブログは対象への鋭い見識と素晴らしい文章とで毎回ひきこまれてしまいます。もしかすると、プロのライターでいらっしゃるのでしょうか?

    kikiさんのお陰で、HOMELANDやSilent Witness等、面白いドラマと出会えました。しかも普通に視聴するだけでなく、kikiさんのコメントを思い出しながら観ると面白さ倍増です。

    今回のジャンゴも、ちょっと興味がある程度でしたが、kikiさんのこの記事を拝見して、俄然、観たくなってきました。タラちゃん×クリストフ・ヴァルツ第二弾、素敵そうですね!

    なんだか早く観たくてワクワクしてきたのと、kikiさんへのファン・レターを書きたくなったのとでコメントしちゃいました。これからも楽しみに拝見させていただきたいと思います。

  • 2013/03/02 (Sat) 07:29

    kjkさん こんにちは。

    過分なお言葉、ありがとうございます。ブログは、ある日、ある映画についてどうしても書きたい!という気持ちが湧き起こって自然発生的に始めたのですが、自分に合っているツールらしくて、書きたい事を書いているうちに丸6年経過したという感じです。
    ちなみにプロのライターではありません。プロになると自由に書きたい事が書けなくなるような気がして…(笑)

    記事を参考にドラマを観ていただいているというのも嬉しいお言葉です。ブログをやっている甲斐があるというものです。ワタシも当初は映画一辺倒で、ドラマまで手が廻らなかったのですが、ここ数年、映画の面白いものが減って来て、ある時ふと洪水のように流れている海外ドラマを観てみたら、これが実にクオリティが高くて面白かったんですね。で、ドラマもチェックするようになりました。昨今は、作り手の方も映画よりドラマの方が面白いものを作りやすい状況なのかもしれませんね。

    ファン・レター、ありがとうございました(笑)
    これからもアンテナを働かせて、あれこれと記事を書いていきたいと思っていますので、お付き合いください。

  • 2013/03/03 (Sun) 22:49

    kikiさん、お久しぶりです。
    「ジャンゴ」、面白かったですね。タラちゃんも好きねえ、というか、冒頭からマカロニウェスタン全開!で思わずニヤニヤしちゃいました。
    多少長くは感じましたが、十分に楽しませてもらいました。
    レオの悪役のはまりっぷり(いつからこんな悪人ヅラに・・・)も良かったです。そうですよ。彼は演技派俳優なんですよね。作品も慎重に選んでるみたいですしね。
    カメオ出演しているタラちゃんも、一生懸命演技しててなんだか微笑ましかったです。この人は、自分の好きなものを撮ってるんだな~と思いました。映画愛にあふれた人だなあ、と。楽しい作品でした。

  • 2013/03/04 (Mon) 00:15

    mayumiさん こんばんは。
    不精なものですから、ご無沙汰しちゃっておりまする。

    「ジャンゴ」期待にたがわぬ面白さでしたね。娯楽アクション映画の風味がよく効いてました。
    デカプーが人相悪くなったのはけっこう前からのような気がしますわ。だから彼はある時期から、苦悩する男なんかどうにも収まりが悪くなってね…。こういう悪い奴の方が似合っているなぁとつくづく思います。
    タラちゃん、ちょろっと出てきて吹っ飛ばされて木っ端微塵になっちゃいましたね。でも、いかにも楽しそうだったなぁ。自分が大笑いしながら楽しく脚本書いて(多分)、それを監督して、それがヒットして賞も取れたら、これにまさるハッピーな事はないですわね。心底好きな事やってて楽しい、という感じが全身からしみだしてますね。つくづくとハッピーな人です。

  • 2013/03/06 (Wed) 18:54

    こんばんは。いつもこっそり楽しみに拝見しています。

    ジャンゴとっても面白かったですね。大いに怒り、笑い、楽しみ、爽快感のある、映画見に行ってよかったな~と心から素直に思える映画でした。

    確かにドイツ人がいいやつって珍しい気がします。イングロリアスバスターズでアメリカ人が鉄槌下す側・ドイツ人がくだされる側だったのでバランスをとったのかしらん…などと考えていました。

    クリストフ・ヴァルツの受賞になんら異論はありませんが、でかぷーはこの映画でとっても輝いていたように思われます。
    ディナーでの骨相学についての口上も、他の白人たちがひどい死に方をする中での不思議に高貴な死に様も、ナチュラルボーン最低野郎ながらノーブルというジャストな演技だったと思いました。彼自身もとっても楽しそうで、最近はいろいろ迷走(?)したけど良かったね・・・としみじみしてしまいました。


    今後もブログ更新楽しみにしております。失礼いたしました。

  • 2013/03/06 (Wed) 23:29

    marieさん こんばんは。
    楽しんでいただいているのは何よりですが、何故にこっそり???
    ともあれ、
    「ジャンゴ」は、王道の、というか、昔ながらの娯楽アクションのノリで楽しかったですね。
    ドイツ人をいい奴として描いたのは、クリストフ・ヴァルツとの距離感が、「イングロリアス・バスターズ」の時よりもずっと縮まったからなんじゃないかとも思いましたね。彼の持つ、飄々とした味わいを生かしてやろう、という気分が窺われるような、ね。

    デカプーは、この悪役をやりたくて立候補したんでしたわね。だからもう、嬉しくって楽しくってしょうがない!という気持ちが前面に出てましたね。嬉々としてして演じてたもの。楽しかったんだと思います。だから吹っ切れてますよね。不思議に高貴な死に様、ね。確かに。他が酷すぎたものね。

    これからも、適宜、書きたい事を書いていきますので、楽しんでください。

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