「40男のバージンロード」(I LOVE YOU, MAN)

-男の友情はかわいらしい-
2009年 米 ジョン・ハンバーグ監督



日本未公開のコメディ(DVDリリースのみ)だが、USではスマッシュヒットを放った作品。邦題だけ見ると、一瞬スティーヴ・カレル(「40歳の童貞男」)の濃い顔が脳裏に浮かんでくるが、本作の主演はポール・ラッド。凄く好きというわけではないが、何となく好きという部類に属する俳優で、シリアス・ドラマもこなすし、コメディもさらっと愛嬌のあるおかしみがあって良い。本作は映画チャンネルで流れていたので、あまり期待せずポール・ラッドに釣られて観てみたら、会話シーンに妙味のあるチャーミングなコメディで面白かった。

ポール・ラッドを最初に見たのは「クルーレス」(1985)だったろうか。今は一児の母になっているらしいアリシア・シルバーストーンのアイドル時代のコメディで、ビバリーヒルズに住む、リッチでちょっとスポイルされかかっていた女子高生が、父の先妻の連れ子(ポール・ラッド)とのふれあいから、恋と新しい自分に目覚めていく、というような話だったと思うけれど、ポール・ラッドはさして垢抜けないおとなしそうな大学生で、何がどうという事もないのに笑うと笑顔がキュートで、話が進むにつれて段々いい感じに見えてくる男子を自然体で演じていた。



その後、「私の愛情の対象」でジェニファー・アニストンに恋されるゲイの青年を演じているのを見て、顔と名前がインプットされた。ポール・ラッドは笑顔が感じのいい、穏やかな青年がよく似合い、淡々としていて、村上春樹の初期作品の「僕」のイメージにピッタリの人だなぁ、と思って見ていた。一転して「サイダー・ハウス・ルール」ではシャーリーズ・セロンを孕ませる兵士の役で登場。「感じのいい青年」ではない役もできるのね、と思った。その後もあれこれとコメディをメインに映画に出ているが、ワタシは本作で久しぶりにポール・ラッドを見た。ちょっとぽっちゃりしたが、基本的には顔も雰囲気も変わっていない。そして、ドタバタしないが、見ていると顔がほころんでしまうような、可愛らしいコメディセンスを持っている事を、今回、知った。


「私の愛情の対象」


「サイダーハウス・ルール」

で、本作はというと、ロサンゼルスで不動産会社に勤めるピーター(ポール・ラッド)は、ガールフレンドのゾーイ(ラシダ・ジョーンズ)と結婚秒読み。だが、友達の多い彼女に比して、自分には結婚式に付き添いを頼む友達も居ない事に気付いて愕然とする。ゾーイの女友達らも、1人も男の友達がいない男ってどうなの?と呆れ顔。結婚式までに何とか友達を作ろうと活動を始めるピーターだが、当然ながら、なかなか、これという人材には出くわさない。だが、ある日、ひょんな事からユニークな男、シドニーと知合う。音楽の趣味が合い、意気投合した二人は子供のように盛り上がってつるむようになるが、それに反比例して彼女との仲はギクシャクし始める始末。さてさて。ピーターは無事に結婚式を迎える事ができるのか!?



というわけで、様々なツテを辿ってピーターが見知らぬ男と会ってみるシーンは男同志のブラインド・デートみたいで笑えるし、ピーターとシドニーの出会いのシーンや、ゾーイと女友達らとの会話、ピーターの実家での父親(J・K・シモンズ)のセリフとキャラなど、小味だが、思わずニヤリとしてしまうような小ネタが沢山振り撒かれている本作。ピーターの弟はゲイだが、父親はゲイの息子を理解し、親友の1人に数えている。でも、長男のピーターは蚊帳の外らしい(笑) そのゲイの弟に、相手がそっち系だとゴーサインになってしまうから、一緒にディナーや映画に行っちゃダメだ、と釘を刺されたのに、建築家とディナーに行ったピーターが濃厚なキスをされるシーンもある。ポール・ラッドはゲイ役も自然にこなすので、男にキスされても、見ていてあまり違和感がない。そのへんも彼の柔らかい個性のなせるワザかもしれない。


ゲイの弟と父は親友らしいが…

こんなピーターと何故か意気投合する自由人の投資家・シドニーを演じるのはジェイソン・シーゲル。ワタシはこの映画で初めて見たが、ポール・ラッドとはこの手のコメディでよく共演している人らしい。ピーターが担当するハリウッド・セレブの豪邸のオープンハウスに、提供されている軽食と、見学に来る未亡人目当てに来たシドニーが、他人のボディランゲージを正確に読み取ってスカした男のスカシっ屁を見抜くシーンなど、笑わずに見る事はできない。ちなみに豪邸を売りに出しているという設定のセレブは、TVで「ハルク」を演じていたルー・フェリグノで、自分自身を演じている。



ピーターは、いわゆる草食男子っぽい男、というか、男同志でツルんでワイワイやるよりも、スイーツやグルメにこだわりがあったり、女性向けっぽい映画が好きだったりするようなタイプ。だからといってゲイではなく、愛想が良く頭が良く女性に受けはいいが、男友達は居ない、という設定である。でも、1人も同性の友達がいない男の役としては、ポール・ラッドのピーターは些か感じが良すぎて万人受けがするので違和感がある。男女を問わず友達がいそうな男にしか見えない。もっと独特な個性を持った俳優が演じるか、ラッドが独特な部分を持っている男のように演じないと説得力がないな、という気はした。

そんなピーターと結婚間近な彼女ゾーイ役にはラシダ・ジョーンズ。この人はクインシー・ジョーンズの娘さんで、ハーバードを出ている才媛らしい。彼女が動いているのを初めて見たが、白い歯とナイスな笑顔の感じのいいキュートな彼女役で好感度が高かった。こういうコメディで、ポール・ラッドやジェイソン・シーゲルとは何度か共演しているようで、つまりラシダも含めて「いつもの顔ぶれ」映画なわけである。ラシダは去年だったか一昨年だったか、ジェイク・ジレンホールと付き合い始めたのでは?なんて噂がちょっと流れたが、ジェイクとラシダを含む何人かでランチしたところが写真に撮られただけで、その後とくに発展はなかったらしい。でも、ラシダはとても感じの良い女性なので、ルックス的にも雰囲気的にもジェイクと似合いのカップルになりそうだったのに残念なりねぇ…と本作を見ていて改めて思った。


感じのいいラシダ・ジョーンズ

ちと脱線したが、ずっと男仲間でツルんで騒ぐなどという事をした事がなく、ポーカーのルールも知らず、男同志でバカ話や赤裸々なぶっちゃけ話などもした事がなかったピーターは、シドニーとの出会いで少年時代に戻ったかのように自分を開放してはしゃぐ。こういうシーンでは、ポール・ラッドの無垢な少年みたいな顔や雰囲気が十全に生きて、ただひたすらに微笑ましく可愛らしい。ピーターがシドニーと結婚式のタキシード選びに行き、折角、タキシードを着たんだからポーズを取れ、というシドニーの前で、テレながらジェームズ・ボンドの真似をするシーンもくすくすと笑える。銃を構えて身を斜にカッコをつけるポーズはショーン・コネリーの定番ポーズ。だから片眉を異常に吊り上げるのがお約束だが、片方の眉毛を上げろ、もっとだ!いや、逆の眉毛だ!などと言われて、顔の動きが変になり、何がなんだか分からなくなってしまうポール・ラッドのコメディ演技がキュートだった。けしてやり過ぎない。控え目で品もあるが、なんだか可笑しい。そういうおかしみを出すのは、けっこうハードルが高いと思う。ドタバタと大騒ぎするのだけがコメディではない。


キュートなポール・ラッド

ストーリー自体はおさだまりというか、勿論ハッピーエンドだし、特に予想外な事は何もない展開だけれども、こういう映画は筋立てよりも、ユニークなセリフや、気の利いた会話で女の本音や男の本音が垣間見えたり、ちょっとした間合いの面白味を味わうために存在するので、なかなか楽しめた。不動産屋として押しが足りないピーターの為に、シドニーが勝手にピーターの写真を使って、サンタモニカ大通りの広告看板に幾つもパンチのある合成写真の広告を出すシーンも笑える。「LICENSE TO SELL」とかね。でも大通りを車で走っていて、いきなり自分の大きな顔写真があれこれ合成写真で広告看板になってドカンドカンと出てきたら、めまいを起して事故ってしまいそうである。ワタシだったら事故っちゃいますね。ふふふ。

あまり期待しないで何となくポール・ラッドにつられて観てみたら、案外面白かったコメディ映画。ラストの結婚式のシーンで、ちょっと仲たがいしてしまってピーターに呼ばれていなくても、スクーターで駆け付けたシドニーにピーターが言う"I Love You, Man"が原題になっている。いいタイトルだと思うが、そのままを邦題にしてもピっと伝わらないというのも、まぁ、あるだろうねぇ、とは思う。「40男の~」というのもなんだかねぇ、とは思うけれども、映画の内容とコメディであることをにおわせるには、そういうタイトルにしないと仕方がなかったのであろう。

オトナになってから、本当の意味での友達を作ることは難しいというのはよく言われている事で、確かに、本当の友達は簡単にサクっと出来るものでもないけれど、友達がいることの楽しさと鬱陶しさ、そしてなんだかんだ言っても心の温まる感じを、笑いに絡めてさらりと描いていて好感が持てた。ポール・ラッド、ジェイソン・シーゲル(アクが強いようでも。やっぱりなんだか可愛らしい人柄の男を演じている)、ラシダ・ジョーンズが、みな良い人でカワイイので、もうちっとどこかに軽い毒やヒネリがあっても良かったような気もするけれど、まぁ、いいか。

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