「L.A.コンフィデンシャル」(L.A. CONFIDENTIAL)

-ダイイング・メッセージはロロ・トマシ-
1997年 米 カーティス・ハンソン監督



好きな映画の1本ではあるのだけど、まぁ今更書く必要もないか、と思ってレビューはパスしてきた作品。だが、昨今「L.A. ギャング・ストーリー」という同ジャンルの出来の悪い新作を観ていて、あれは面白かったなぁ、と本作を思い出し、懐かしくなって久々に観賞。この際だから、やはり一応、書いておく事にした。

「L.A. ギャング・ストーリー」では、L.A.を牛耳っていたミッキー・コーエンが逮捕されるまでを描いていたが、本作はそのコーエンが逮捕、収監されて、ボスが不在になった時期のL.A.が舞台。その事は今回久々に観て、タイトル部分で提示されていることに改めて気づいた。『暗黒街のボスが空位になった時期である』という事がこの物語の重要なバックグラウンドなのである。

これは原作も読んだし、映画化されたと聞いて封切りも楽しみに待って劇場で観た。ほぼ原作通りだったという記憶がある。同じエルロイ原作の「暗黒のL.A.」ものの1本である「ブラック・ダリア」と比べると、映画化作品として数段こちらの方が出来がいい。

以前、「映画(ドラマ)のお気に入りキャラたち 男性キャラ編」 でも書いたけれども、ワタシは本作では、セレブ志向の強い、キザでちょいワルのベテラン刑事ジャック・ヴィンセンスを演じたケヴィン・スペイシーがとにかくお気に入りのキャラである。この作品以上に、ケヴィン・スペイシーが男前に映っているものはないのではないかと思う。動作や表情やしゃべり方がいちいちキザなのだが、なんだかそれがキマっている。本作のケヴィンは、007まっさかりの時期のショーン・コネリーにちょっと似ているような気がする。やけに広いMの字型の額とか、その生え際が妙にヅラっぽい感じだとかいう事だけでなく、目元や雰囲気などが、どことなく似ている。


ジャック・ヴィンセンスを演じるケヴィン・スペイシー

ショーン・コネリー

ケヴィン演じるジャック・ヴィンセンスは、TVの人気刑事ドラマのアドバイザーを務め、スタジオなどに顔パスで出入りして、主演俳優と目配せしあったりするのが嬉しくてしょうがない、という有名人好きの軽薄な面を持ち、スキャンダル雑誌と組んでケチな事件の逮捕シーンをスッパ抜かせてささやかな虚名と小遣いを得たりもしている、適度に世慣れ、適度に汚れた男なのだが、刑事として守らねばならない「核」のようなものは、内側にきちんとキープしている。ワタシは、ジャック・ヴィンセンスが、ハッシュハッシュ・マガジンにしぶしぶ協力して、駆け出し俳優マットをホモの検事にあっせんしたものの、バーで飲んでいるうちにその後味の悪さを払拭できなくなり、男娼の真似はしなくてもいいとマットを止めに行くシーンが好きだ。正確には、バーで、記者から貰った50ドルを眺めつつ酒を啜っていて、やはりどうもスッキリしないので、やれやれと思いつつ50ドルをグラスの上に置いて席を立つシーンが好きである。



そして、エド・エクスリーに「自分が警官になった理由は『ロロ・トマシ(罪を逃れる者)』を捕まえる為だ。あんたはなんで警官になったんだ?」と問われたジャックが、そういえば、俺はなんで警官になったんだ…と自らに問いかけるような表情で「忘れた」と答えるシーンも良い。そしてやはり、もう自分の命が尽きかけている事を察して、薄笑いを浮かべつつ「ロロ・トマシ」をダイイング・メッセージとして残すシーンも忘れてはなるまい。

欲にまみれ、スッパ抜きに日夜励むハッシュハッシュ・マガジンのシド・ハジェンズにはダニー・デヴィート。下司だが、どことなく憎めない小悪党を愛嬌を滲ませて演じている。小悪党は自分のしてきた事を自分の命で償わされるハメになる。まぁ、あんな事で稼いでいたら、まっとうな死に方はできないと覚悟しなくてはなるまい。ハッシュ・ハッシュ。



一般的には本作で一番目立つのは、腕力刑事バド・ホワイトを演じたラッセル・クロウではあるだろう。ワタシも昔、封切り時に観た時には、ラッセル・クロウの直情径行の純情筋肉野郎っぷりがちょっと可愛いな、と思ったりしたものだった。ある時期から、体型が緩みがちになり、引き締めるのがひと苦労になった(あるいは引き締め切れなくなった)ラッセル・クロウだが、この時からやや太目ながらも、まだ顔に肉がなく、若いのでカワイイという印象である。
実に。ラッセル・クロウにもカワイイ時があったという事なのである。 う~む。



彼が演じるバドは、父親の暴力で母親が死ぬのを目の当たりにしてしまったという少年期の体験のために、女を殴る男をみるとアドレナリンが沸騰して殺意すら抱くぐらいに怒りを覚える男であるのに、パチェットの指令で仕方なくエドと寝たリンを許せずに殴ってしまい、自らがもっとも唾棄すべき男になってしまうという皮肉なシーンで、リンを見つめる哀しげな目がなかなか印象的だった。

また、このへんから目立つところに出て来たガイ・ピアースが大好きという人もいるだろう。ワタシはガイ・ピアースの鼻から下、つまり口元(全体にモワっと歯(口元)が前に出ている感じ)とか顎とかエラの張った輪郭とかが何となく苦手で、好きでも嫌いでもない俳優なのだが、好きな人はとても好きなんだろうな、という感じは分る。ガイ・ピアースって何となく、サンダーバードの人形系のルックスである。ブレインズとか実写でいけそうだ。



ガイ・ピアース演じるエドが、ラナ・ターナーとレストランにいるジョニー・ストンパナートに職務質問しに行き、横で咎めるラナ・ターナーをそっくりさんの娼婦だと思って、娼婦呼ばわりし、酒をぶっかけられるシーンがある。本作でミッキー・コーエン、ジョニー・ストンパナート、ラナ・ターナーを演じている俳優、女優はそれぞれ本物とよく似ていると思う。



そして、男たちの中で紅一点のおいしい役でブロンドを輝かせて登場するキム・ベイシンガーはいやが上にも目立っている。彼女は謎の大富豪ピアース・パチェットお抱えの高級娼婦リン・ブラッケン役。当時、リン役を演じるにはギリギリの年齢だったようにも思うし、確か産後で、かなり頑張って体を絞ったのではなかったかと思う。キム演じるリンは「ヴェロニカ・レイクに似た女」であるが、似ているのはヘアスタイルだけである。劇中で、ヴェロニカ・レイクよりもっと綺麗だ、とバドがリンに言うが、タイプが違うので比較はできない。だが、この映画でのキム・ベイシンガーは、初登場のシーンから、昔のハリウッド映画で主演女優が満を持して登場するシーンのように演出やカメラワークが工夫されていて、映画女優としては実に美味しい役を貰ったものだと思う。白い絹で縁取られた黒いフード付きのマントを着た女。女の顔はなかなか映らない。黒いフードからブロンドの髪と横顔がちらりと見える。



その声と服装から、観客もバドも、いやが上にも期待感を煽られる。バドと共にカメラも背後から彼女の横に回り込んでいく。世の中には美人にしか許されない服装というものがあるが、このリンの黒いフード付きマントなども、そういう衣装だろうと思う。振り返った時に衣装に負けない顔と髪がなければ、ギャグになってしまうのである。



また、本作には、封切り時にはその存在も名前も知らなかったのだが、今観てみると、あれ、この人がこんな役やってたのね、というのが幾つかある。その1人が、表向きは名士だが、裏では秘密クラブや娼館などを経営し、麻薬にも手を染めている大物ピアース・パチェットを演じているデヴィッド・ストラザーンだ。数年前にDVDで久々に本作を観た時に、「あれ?ストラザーンじゃないの」と気づいた。ストラザーンが演じるピアース・パチェットは、もっと強力な黒幕のようだったのに、アッサリと死んで拍子抜けしたのだが、本作のストラザーンを見ていると、こういう雰囲気でハワード・ヒューズなどを演じると良い感じなんだけどねぇと思ったりした。



もう1人は、ハリウッドにゴロゴロいる芽の出ない駆け出し俳優で、売り出す前にスキャンダルに曝され、ハッシュハッシュ・マガジン(ダニー・デヴィート)に乗せられて、金を貰って特ダネのために男娼を引き受けるものの、虫ケラのように殺されてしまうアイス・キャンディーのような若手俳優マットを演じたサイモン・ベイカー(この映画ではサイモン・ベイカー=デニーとクレジットされている)である。


サイモン・ベイカー(左)


「メンタリスト」

フニャっとした雰囲気のなよっちい二枚目で、大成はするまいと思っていたが、「メンタリスト」でブレイクして、昨今ついにウォーク・オブ・フェイムに手型も押したらしい。出世したもんである。「メンタリスト」も時々見ているが、なかなか面白い。そう思って見ると、サイモン・ベイカーってそのモニョっとした軟らかい風貌が、どことなく池部良に似ている気もする。一見おとなしそうだが、妙に凄みのある役をやらせると意外に似合うところなども共通しているかもしれない。そんな、昨今ブレイク中のサイモン・ベイカーがL.A.の闇にすり潰される駆け出し俳優を演じているというのも、今「L.A. コンフィデンシャル」を見てニヤリとするところかもしれない。

人間のできた人物かと思いきや実は…という人物を演じる事が多い気のするジェームズ・クロムウェルも適役だったと思う。

シタタカで交渉能力の高い上昇志向の優等生エド・エクスリー、燃え残りの正義感を発揮したばかりに死ぬハメになるジャック・ヴィンセンス、腕力ばかりで「脳」力はなしかと思いきや、案外脳みそ筋肉ではなく観察力もある繊細な腕力刑事バド・ホワイト。メインの3人の刑事のキャラがそれぞれ鮮やかに立っていて、グイグイと進む物語の中で、その三者三様のキャラの違いが織り成す人間模様が印象深い。



当初は堅物で正義漢ぶって、1人で角を立てて浮き上がっていたエクスリー(ガイ・ピアース)だが、次から次へと連鎖して起きてくる事件を追ううちに、曲者ジャック・ヴィンセンスや、そもそも水と油だったところに女を挟んで余計に一触即発状態だった腕力刑事バド・ホワイトと、少しずつ分かり合って協力していく様子、素でぶつかり合ううちに友情のようなものが育っていく感じも良かった。



何もかも失ったが、最愛の女を得てL.A.を去っていくバド。この先も警察組織の中で上へ上へと上がってはいくだろうが、心の底にどこか空虚な寂しさを抱えるエド。二人の男の人生は、「暗黒のLA」で一瞬交錯し、また永遠に離れ去って行く。
ラストで、表彰されるエドに別れを告げに来るシーンのキム・ベイシンガーはヘアスタイルから白いワンピースまで、100%「七年目の浮気」のモンロー仕様。これまた、とてもよく似合っていた。





映画全体に、50年代L.A.の雰囲気がよく出ていたし、絡まり合う事件や、あれこれと出てくる登場人物を手際よく捌いた脚本も良かった。ピアース・パチェットが案外アッサリとご臨終を迎えてしまう事(この辺は、確か原作とちょっと違ったんじゃなかっただろうか。うろ覚えなのでハッキリした事は言えないけれども…)以外は、拍子抜けする場面もなく、いつ見ても、それなりに楽しめる作品。

それにしても、「ロロ・トマシ」。
どこの国の名前だったとしても、おそろしく間抜け感漂う語感が秀逸である。

コメント

  • 2013/05/12 (Sun) 22:51

    大好きな映画です!DVDも買いました!
    この時のラッセル・クロウ、カッコイイんですよねえ。(ちなみに「クイック&デッド」の頃の彼も素敵)
    キム・ベイシンガーもすごく美しいですよね。ガイ・ピアースはこの間「アイアンマン3」に悪役で出てました。悪役面してました(笑)。
    サイモン・ベイカー、これに出てるんですよねー。「メンタリスト」、私も好きで観てるんですが、テレビ界で出世しましたね。

    私も「LAギャングストーリー」を観ましたが、あれはあれでなかなか面白かったです。っていうか、途中ギャグでしたよね?ジョシュ・ブローリン演じる刑事の奥様が一番肝っ玉座ってたような気がします。

  • 2013/05/13 (Mon) 07:03

    mayumiさん
    これはやっぱり面白いですよね。登場人物のキャラもそれぞれ立ってるし、時代考証もよく出来てるし、雰囲気もよく出ていたし。
    ラッセル・クロウ。体型はドボチョーンとしてるんだけど、まだ顔が少年ぽくて、カッコいいというよりカワイイって感じだったな、と今見ると思いますわ。サイモン・ベイカーはTVドラマでブレイクしてから、ちょこちょこ映画に出るようにもなってて、この前「マージンコール」という映画を観たら、投資銀行の冷徹な首切り人の役で、ケヴィン・スペイシーをクビにする切れ者の若手幹部役をやってました。「L.A.~」での、トホホな役から随分出世したもんです。
    「L.A. ギャングストーリー」見ましたのね。予算を投入した割に平板な映画になっちゃってね。ゴスリングなんか途中から流してたような感じもしますね。こりゃ鼻歌でも歌ってるよりしょうがない、みたいな(笑)確かに、ブローリンの奥さん役の人が、一番腹が座ってましたね。衣装と美術と音楽は良かった。

  • 2014/01/28 (Tue) 16:06

    初めまして!この映画が大好きで検索したら辿り着きまして、とても素敵な記事で思わずコメントさせていただきました。
    この映画、ストーリーが面白いのはもちろんですが、特筆すべきはキャラクター達だと思うんです。キャラ立ちがしっかりしていて、お気に入りができてしまう。私はエドというキャラが好きで、ガイ・ピアースが大好きになりました。記事の写真は悪意を感じます(笑)が、「好きな人はとても好きなんだろうな」というフォローが嬉しいです。ジャックというキャラも良いですよね。

    ブログをさらっと拝見いたしました所、ジェラルド・バトラー、ゴズリング、コリン・ファース、ユアンと私のお気に入り俳優さんがずらりと被っているし、文章は面白く素晴らしいし、また来させていただきます!

    • ブブちゃん #-
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    • 編集
  • 2014/01/28 (Tue) 22:46

    ブブちゃんさん 初めまして。
    この映画、面白いですよね。何年たってもやっぱり面白いなと思います。50年代という時代色がよく出ているし、本当にそれぞれのキャラがよく描きこまれていて、そのアンサンブルが良いですよね。で、出世したい男・エドがお好きなんですね?ふふふ。写真については悪意はありませんが、この映画ではああいう表情をしている時が多いような…。
    ジェラルド・バトラーについては、昨今はもう殆ど書いていませんが、その他の人々については今後も適宜、記事を書いていくと思います。また、いつでも遊びに来てください。

  • 2014/01/29 (Wed) 16:00

    古い記事なのに、何度も失礼します。
    確かにエドは、この映画では何だか猿っぽい顔が多いな…と感じます(笑)

    ジェラルドさんは、もう殆ど書かれないのですね…。「Dearフランキー」から追っかけてる身としては、最近の作品はどれも今ひとつなので、仕方ないかなと思います。とりあえず、ゴズリングの「オンリー・ゴッド」が気になります。自分は映画館にはまず行かないので、ソフト待ちですが。kikiさんの素敵な記事、楽しみにしております。

    • ブブちゃん #-
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    • 編集
  • 2014/01/29 (Wed) 22:25

    ブブちゃんさん
    ジェラルド・バトラー、どうもここ数年はなんだかなぁ…って感じですよね。ワタシは何といっても「Dear フランキー」が気に入って暫く彼にハマっていたので、ああいうキャラから遠ざかっていく一方だと興味が薄らいじゃって…。
    ゴスリングの「オー・ゴッド」も出来がイマイチみたいなので、どうしたものかな…とは思ってるんですよね。ふほ。見に行かなかったらごめんなさい。映画館まで足を運ぶのは、かなり食指が動かないと億劫になっちゃいますわね。

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