「HOMELAND Season2」

-帰還兵士は苦悩する-
2012年 米 Fox21 Showtime Networks他



HOMELANDはシーズン2も絶好調に面白い。緊迫感と心理描写にたけた脚本は少しの緩みもなく、数奇な運命に翻弄される男と女、そして家族の心情と行動を抉るように描いていく。
昨今、CIAの職員が、米政府による通信情報収集の問題を告発して引渡し協定のない国に逃れ、亡命を各国に打診しているというニュースが流れているが、CIAの職員なんてものが公の場に出てきてしまうというだけでもドラマもビックリな話だなぁ、と思いつつ、HOMELANDで描かれているような事も、けしてドラマの中だけの事ではないのだろうな、と改めて思ったりした。
精神疾患系の病気や、ブロディへの違法盗聴や監視がバレて職を失い、精神病院に入れられて療養した後、リハビリも兼ねて外国人に英語を教えていたキャリーが、民間協力者という形でCIAに協力を要請され、ベイルートへ行き、そこで得た情報から、彼女の病的な妄想と思われていた事柄は、その鋭い野性の勘により察知された真実だった事が明らかになり、まだ復職はしないまでも、キャリーは極秘でブロディをマークするチームに「部外者」ながら参加することになる。このように、徐々にキャリーは「復帰」していくわけだが、その流れや設定が自然で、その時々に組織の身勝手に翻弄されつつも、一喜一憂し、もがきながら喰らいついて行くキャリーから目が離せない展開だ。



同様に、シーズン2はブロディの苦悩にも大きく焦点が当っている。ブロディは議員サマになったものの、依然としてアブ・ナジールの支配下にあり、ナジールの指令を伝えてくるローヤ・ハマドという女に無茶な要求を突き付けられる。シーズン1のクライマックスで、ブロディが着用した爆弾チョッキを作った仕立て屋を、安全なところへ逃がせというのだ。妻が主催する帰還兵士のための資金集めパーティでスピーチをしなくてはならないブロディは断ろうとするが、仕立て屋はあなたの顔しか知らないから、と女は強引に仕立て屋の移動をブロディに押しつける。警戒心の強い仕立て屋をなんとか隠れ家に連れていって、スピーチの時間までに戻ろうと思っているブロディだが、再三アクシデントが起きてスピーチにはどうあがいても間に合わなくなった上に、仕立て屋が逃亡を企て、どうにも制御不可能になって殺してしまう。
この回のブロディの焦りと苛立ちと絶望感は見ていて気の毒になるほどで、山の中で殺さなくてもいい仕立て屋を殺すハメになってしまって、このさき一体どうするのだろう?と、ブロディの先行きに暗雲が垂れこめているのがまざまざと見えるような気がしたりする。


ブロディのスキをみて逃げ出す仕立て屋だったが…

約束を破られて恥をかかせたと怒り狂う妻は、ブロディがどんないい訳をしてもそれをウソだと見破り、得たいのしれない、嘘ばかりついている夫を家から閉め出す。妻の気持ちとしてはそれも仕方がないかもしれない。一方、ブロディとしては、しなくてもいい筈だった悪夢のような経験をして、這々の体で戻ってきたのに、待ち構えていたのは妻の冷たい怒りだったという遣り切れなさ。疲労と徒労感が全身を駆け巡るが、誰にも助けてはもらえない…。

誰の気持ちにもムリがないし、誰の立場も理解できる。シーズン1では何食わぬ顔をして精神的に不安定なキャリーを翻弄したブロディは小面憎い男だったが、シーズン2では、ブロディの苦しさと悲しさがヒシヒシと伝わってくる展開だ。自分の力ではどうにもならないものに操られている男の悲哀が、ブロディの痩せた体から立ち昇っている。


これが飲まずにいらりょうか…

実際に自爆テロは行われなかったにせよ、ブロディがテロに関与していた証拠を握ったCIAは、ブロディを徹底マークしてナジールの次なるテロ攻撃の情報を得ようと動き出す。食えない上司・エスティースがその小さなチームのリーダーに据えたのは、ソールもキャリーも知らなかったピーター・クインという男だった…。というわけで、CIAの人間だというが、漠然と玉虫色の男、ピーターとして、シーズン2からルパート・フレンドが登場してきた。なんとなく顔立ちが似ているので、あれ?オーランド・ブルームがこんなところに?と思ったら、ルパート・フレンドだった。


ルパート・フレンド

「シェリ」のイメージが強いルパート・フレンドだが…

このピーター役はなかなかケレン味のある、演じどころの多い面白い役ではなかろうか。ルパート・フレンドは、これまでヤサ男の役でしか見た事がなかったのだけど(「シェリ」、「プライドと偏見」など)、今回は正体不明な曲者を演じていて存在感がある。
ピーターの素性を知るのはエスティースだけなのだが、エスティースは食えない男だけに裏がないとは思われず、ピーターはどうもCIAではないような気がしてしょうがないが、それはおいおいに明らかになっていくのだろう。

ピーターのチームはブロディの自宅や事務所、電話に盗聴器やカメラを仕掛け、ブロディが尻尾をだすのを待つ。用心深いブロディをゆさぶるために、キャリーが彼に接触し、CIAに復帰したと思わせ、動揺させる。仕事ではあるが、再び元気になってブロディの前に姿を現し、彼に揺さぶりをかけることは、キャリーにとっては仕事を離れてもワクワクすることであるのは言うまでもない。
そして妻に家を叩き出されたブロディが宿泊するホテルに彼を訪ねたキャリーは、激しくブロディを難詰し、結果としてブロディはCIAに拘束され、尋問を受ける事となる。ブロディを尋問するシーンでの、ピーター(ルパート・フレンド)のしたたかな遣り手ぶりはなかなかだ。いきなりキレた振りをして、ブロディの手の甲にナイフを突き立てるシーンは迫力があった。それが計算づくであるというところにも、ピーターが百戦錬磨のツワモノである片鱗が窺える。その計算を見抜くソールも老練だ。拘束され、かなり真実に近いところまで抉りこまれていても、最後のところでなかなか口を割らないブロディに、ピーターは突如キレて暴力行為におよび、キャリーと尋問を交替。自分が相手ではブロディが口を割らないと見て取り、深い仲であったキャリーに尋問のチャンスを与えたのである。キャリーは一転して人情デカのようにせつせつと語りかけ、泣き落としでブロディの口を割らせる。



一対一で、尋問室のカメラを切り、音声だけを別室に届くようにしたキャリーが、ブロディの本音を引き出すために自分の本心を曝け出すシーンに、仕事への意欲と女としての気持ちが同時に籠められていた。
「奥さんと子供から離れて私と一緒にいて」と言い、「言っちゃった」とホロニガく笑うキャリー。
クレア・ディンズ、その危うい目つきも表情もまさに入魂である。

一方、疲れ果て、よれよれのブロディは、当初は爆弾チョッキは着ていなかったと言い張っていたが、ずんずんと容赦なく正鵠を射てくるキャリーの推察に、やがてぐうの音も出なくなる。

「あなたは怪物じゃないわね?でもナジールは怪物だわ。彼が殺すのは一般市民。兵士や政府高官ではなく、妻や子供たちよ」
「彼が救ってくれたと思っているだろうけど違うわ。彼はあなたを抜け殻にして造り変えた。あなたは彼の末息子に英語を教え、その子を愛していたのに、アメリカの副大統領の無差別爆撃でその子は死んだ。悪いのはナジールと副大統領よ」というキャリーの言葉を涙ながらに聞くブロディ。キャリーはその鋭い勘で、ブロディが何故爆破を思い留まったかを指摘する。



あなたは戦争とテロの違いを知っているから。死にウンザリしたのよ。それがあなたよ。私が愛したあなただわ、とキャリーは涙ながらに語る。このシーンは殆ど、クレア・デーンズとダミアン・ルイスのアップの切り返しである。役者の演技力あればこそ、素の人間としてのぶつかり合いのような会話がシンプルな切り返しのショットの連続で盛り上がってくる。
シーズン1では、父親の別荘で二人で過ごした時に、キャリーはブロディこそ自分の理解者であり、遂に自分の居場所をみつけた、と思う。そして彼への愛にのめり込んでいくのだが、シーズン2ではブロディが、キャリーこそ紛れもない素の自分の理解者であることに気づくのである。ただ、キャリーがブロディを愛するほどには、ブロディはキャリーを愛してはいないだろう事も察しはつく。再び、仕事絡みで二人の腐れ縁は復活してしまうのだろうが、ブロディは、妻と上手くいかなくなった時にだけキャリーに気持ちがいくような感じである。ブロディが本気になることはないのではないか、と思われるのだが…。



***
尋問が終わり、席を立つために両脇から支えられながらもブロディは床に倒れこむ。両膝を丸めて両肩に手を廻して弱々しい幼児のように…。それはアルカイダに捕らえられていた時に、拷問から解放された彼がしていた姿であろう事が推察される。


海老のように体を丸めて横たわるブロディ

テロ計画にコマとして加担していたことは事実だったブロディは破滅を覚悟するが、そこは老獪なCIA。今後はCIAサイドに立って、アブ・ナジールのテロ計画に探りを入れ、情報をもたらすなら、国家に対する反逆罪を不問に付し、万一の場合には家族も守る、と取引条件を提示され、ブロディはCIAの手先になる事を承諾する。…ブロディの落ちた地獄には二番底があったのだ。

国のため、家族のため、と戦地に駆りだされて行き、戦闘の結果、いやおうなしに捕虜になり、散々拷問されて心身ともに痛めつけられて敵方の傀儡になって戻って来た兵士。その事が露見するや、今度は故国から敵方のスパイを命じられる。戦地から命からがら故国に戻っても、兵士の苦悩は終わらない。
敵にも小突き回される。味方にも小突き回される。
いいように利用され、振り回される。
彼がこの終わりなき泥沼から解放されるのは、いつのことか?

戦争に行っただけでも十分な苦役なのに、この上、いつまで苦しみ続けなければならないのか…。

極北のストックホルム症候群に侵された哀れな被害者のようなブロディだが、今は怪物でなかったとしても、今後、更なる陰謀に揉まれながら本物の怪物になりかわっていくのか、どうなのか…。彼の行く手にさらなる三番底はあるのか…。そして、テロを未然に防ぐという目的とブロディへの愛が、危うさをもって交錯しているキャリーの行く手には何が待っているのか。
また、ひき逃げ事故に巻き込まれるハメになったブロディの娘デイナは、今後どんな厄介事の火種になるのか…。

今後の展開から、ますます目が離せない。


***
関連記事 「HOMELAND」Season 1

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する