「HOMELAND Season2」

-予想を上回る驚愕の展開-
2012年 米 Fox21 Showtime Networks他



「HOMELAND」は面白い、と前々から書いてはきたけれども、このSeason2は面白いを通り越して物凄い、という領域に達したのではないかと思う。全編を覆う緊迫感、ぬきさしならぬ構成と人物設定、ヒューマンドラマでもあり、ポリティカル・スリラーでもあり、家族ドラマでもあり、恋愛ドラマでもある。それら複合的な要素を、テンションを保ちつつ毎回のストーリーに織り込んでいき、なおかつ常に予想を上回る展開を用意する見事な脚本、それを表現する役者たちの見事な演技…。ここ数年の中での、アメリカ製ドラマの最高峰と言ってもいいのではなかろうか。Season2終盤の怒涛の展開には度肝を抜かれた。 
…いや~、そう来たか。

Season2序盤では、連絡係を通してなんだかんだと無理な指示を出してくるアブ・ナジールに翻弄され、また、キャリーの持ち帰った映像からCIAに正体のバレたブロディが協力者になることを余儀無くされ、二重スパイになって双方に振り回される様子が描かれて、なんと気の毒な…という気分になったが、ブロディというのは本音がどこにあるのか分らない、正体不明の男であって、どうあっても気の毒な傀儡などではない、という事が後半では段々に明らかになっていく。



そう、この「HOMELAND」では、時に弱さや焦燥を見せつつも、ブロディが結局は「正体不明な、本心がどこにあるのか分らない男」であることが肝なのである。ブロディは最後の最後までそうあるべきで、それがこの複雑なドラマを引っ張って行くエンジンなのだ。
この不可解な男・ブロディを演じるダミアン・ルイスは、同情すべき点も多々ありながら、やるとなったら平然と人殺しもできる、折々に凄みを出したり、弱みを出したりしながらも、容易な事では本心の覗えない「戦争が生んだ怪物」とでもいうべき男を、実に等身大に過不足なく演じている。何が彼を怪物にしたのか…。どうしてそんな怪物になったのか…。それがこのドラマのテーマであるような気がする。

そんなブロディに目をつけ、テロリストではないかという疑惑を抱いて身辺を探りながらも、いつしか接近し、そして一度彼に裸の魂に触れさせてしまってからというものは、一瞬でも分かり合えたという想いのゆえに、キャリーにとってブロディは生涯忘れられない特別な男になってしまう。



ブロディを愛するキャリーの心情はいじらしく、Season1の前半では、そのヒステリックでキリキリした様子に、イラつくキャラだなと感じたのだが、優秀な頭脳とアナリストとしての才能をふんだんに持ちながらも、双極性障害という厄介な病気を抱え、ブロディやCIAに利用されてボロボロになる姿を見ているうちに、キャリーにしみじみとシンパシーが湧くようになってくる。そしてSeason2では、また一段とキャリーのアナリストとしての有能さと、女としてブロディを一途に愛する、どうしても彼への愛情を断てない女心にホロリとさせられるのである。



Season2から新たに登場した人物に、CIA副長官であるキャリーのボス、エスティースがどこかから連れてきた謎の男、ピーター・クインがいる。冷静で、タダモノではない空気をにじませる男だが、突如、尋問中にキレてブロディの手の甲にナイフを突き立てたりもする。だが、それもキャリーに尋問をスイッチした時の効果を冷静に計算した上での逆上演技だったりするのだ。得体の知れないクインを、キャリーも、そしてキャリーが頼りにするソール(マンディ・パティンキン)も怪しみ、身辺を調査する。このクインを演じるのはルパート・フレンド。これまで見た中では最も男臭い雰囲気で、冷静なプロの秘密工作員という空気をよく出していた。


ルパート・フレンド なかなかナイスな男っぷり

クインをエスティースに貸し出す上司役でF・マーリー・エイブラハムがちらっとゲスト出演していた。エスティースから、ある密命を帯びつつチームリーダーとして活動する彼は、徹底したプロで、私生活は無に等しい無味乾燥。婦人警官との間に私生児を作っていたという過去もあるが、概ね、人間としての欲望や願望は極力切り捨て、任務を冷徹にこなす、その道のプロである。

クインにとって、当初、キャリーは頭のおかしい鬱陶しい女であり、監視対象でしかなかったのだが、そのアナリストとしての鋭い考察や推理と、常に正しい方向を指し示す天性の勘、仕事に対する情熱を間近に見るうちに、彼女に対して敬意のようなものを感じ始める。そして更に、ブロディに対する、女としてのキャリーのいじらしいまでのありようを見るうちに、彼女に対して憐れみのようなもの、もしくは、同情、または、ある種の共感のようなものをそこはかとなく感じるようになる。これは即ち、<Pity is akin to love>可哀想ってことは、惚れたってこと)ではなかろうかと思われる。このクインの微妙な心境の変化も、流れの中で自然に表現されていた。


キャリーとブロディを監視するクインだったが…

ブロディとキャリーの監視を続けているクインが、キャリーの思い出の別荘に二人が籠もり、そこで水入らずで過ごす様子を望遠鏡で覗きつつ、二人が愛し合い始めると、静かに望遠鏡に蓋をする。常にクールなその無表情に微かな表情がよぎる。クインはキャリーの切ない恋心にそっとシンパシーを寄せるのである。ルパート・フレンドがセンチメンタリズムをけして持ち合わせないわけではないCIAのプロの工作員を魅力的に演じている。クインがブロディを撃たないのは、ひとえにキャリーの存在ゆえなのだ。

Season2で、ブロディと家族の絆(殊に妻と娘との関係)は取り返しのつかないほどに損なわれてしまうのだが、ブロディは家庭、家族を失って、喪失感よりも身軽になって安堵したように見えた。ブロディは妻のジェシカに言う。「俺たちの家庭は、俺がイラクに向った時に壊れていたんだ」と。
ブロディとの別れを決めたジェシカは言う。「長い間、あなたに真実を話して欲しいと思っていた。かつては、あなたが何をしているのか知りたくて堪らなかった。でも、今はもう何も知りたくないの」と。機密だと幾ら言われても、CIAの依頼で何をしているのかを執拗に知りたがったジェシカが、真相の一端を語ろうとしたブロディを制して、もう何も知りたくないと泣き、キャリーは何もかも知りながら、あなたを受け入れていたのね、と呟くシーンは印象的だった。



そして、アブ・ナジールにキャリーを人質に取られ、副大統領の暗殺に協力しなければキャリーをその場で殺すと脅迫されたブロディは、迷った末に、副大統領の暗殺に手を貸す。「俺は君を選んだんだ」とキャリーに言うブロディだが、そもそもブロディは、無差別爆撃でナジールの息子を含む大勢の無辜のイラクの一般市民を殺した副大統領を殺すためにアメリカに戻ってきたのである。彼としてはキャリーを人質に取られなくても、いつか機会が来ればやったに違いないことをやったまでである。それがキャリーへの愛情の証にはならない。キャリーはブロディのそんな心情を把握している。自分はブロディを愛しているが、相手の心の奥底は見えない。「あなたの心は見えない」とキャリーはブロディに言う。ブロディの本心は、キャリーにも、妻のジェシカにも無いのだろう。彼の心はアブ・ナジールに掴まれているのだと思う。



アルカイダに捉われ、筆舌に尽くしがたい拷問の辛酸を舐めたあとで、一転して拷問から解放された彼は、自分を拷問した相手であるアブ・ナジールと魂の奥深いところで繋がってしまう。たとえどんな恐ろしい計画を立ててそれを実行する者だとしても、ナジールには強い信念があり、信仰に基づいた命がけの大義があり、私利私欲とは無縁である。極限の状況で自分の人間としての弱さを痛感したあとで、イスラム教の教理に触れると改宗してしまう欧米の兵士は少なくないらしいけれど、それはもう、その場で極限の状況を体験した人間でなければ分り得ない心理であろう。体験した事のない者がとやかく言える次元の話ではなさそうだ。
ナジールはキャリーに言う。「我々は代々、苦しんで死ぬ。君たちにその覚悟があるか」と。ぬるま湯に浸かっているお前らに、忍耐力や不屈の精神や、信念はあるのか、と。生と死の狭間に置かれた時に、あのアーモンド色の目でじっと心の奥底まで見透かされてそう言われた時、「ある」と言いきれる人間は果たしてどれだけいるだろうか…。



キャリーを捕らえたアブ・ナジールが「人格を破壊する過程では、時に感情の転移が起きる。ニコラスの場合は、その転移が激しかった。ある種の愛情を感じた」と言う。多分、心の深いところで繋がっただけではなく、アブ・ナジールとニコラス・ブロディは体の関係もあったのではないかと思われる。そして、妻もキャリーも友人も、誰もが「ブロディ」と苗字で呼ぶブロディを、「ニコラス」と名前で呼びかけるのはアブ・ナジールだけなのである。彼の静かな「ニコラス」という呼びかけには恐ろしくも深い愛情が籠もっており、一度、ローヤ・ハマドにハメられて浚われたブロディの前に現れたナジールが「ニコラス」と呼びかけると、二人の間の会わなかった時間はあっという間に消え去り、ブロディの顔に何ともいえない表情が浮かぶ。そして別れ際に、「これでお別れだな、成功すれば最後だ」と静かにナジールは言い、ブロディの頬にキスをし、二人は深くハグする。ナジールに捕らえられた間の事を、戻ってからキャリーやソールに九分九厘は話すブロディだが、ナジールと二人でアラーに祈りを捧げた事は話さない。

そして、ナジールの恐ろしくも深い愛は、自分を裏切ってキャリーの側につき、情報を漏らしたブロディを許さず、囮の作戦でCIAを油断させ、自分の死後に本当のカタストロフを、彼がそれをやり遂げようと思ってアメリカに入国してきた真の目的を、恐るべき形できっちりと果たし、しかもブロディの裏切りへのオトシマエも見事につけるという離れ業をやってのける。

全て計算し、全て読んだ上で、キャリーを解放した後、隠れ家でCIAに撃たれて命を落とすアブ・ナジール。遂に宿敵である大物のテロリストを亡きものにしたと大喜びのCIAだが、その死を知らされたブロディは、家族の前だというのに感情を制御できず、思わず男泣きの涙をこぼしてしまう。常に平然と自分の感情を偽ることのできるこの男が、どうにも堪え切れずに流した涙の重さ、深さ。


ナジールの訃報に、こみあげる涙を抑え切れないブロディ

ナジールはブロディにとって、信仰上のメンターでもあり、人生のメンターでもあった。恐ろしくも愛情深い支配者でもあった。どこに本心があるのか分らないブロディが、この世で愛していたのは、かつての拷問者であるメンター、アブ・ナジールと、アメリカの爆撃で死んだナジールの息子、アイサだけだったのかもしれない。アブ・ナジールを演じるナヴィド・ネガーバンが、深い精神性と悪魔のような支配力を持つ魅力的なメンター、アブ・ナジールを、圧倒的な存在感と目力で演じていた。怖いけれども魅入られる、という雰囲気が伝わってきた。



ブロディの暗殺をひそかに企てていた、煮ても焼いても食えないCIA副長官の真っ黒なエスティースが、今後はブロディの前に立ちはだかる壁になるのかと思いきや、Season1、Season2を通じてブロディにからまっていた諸問題や敵対する人物は、Season2の終盤で全て消え去るのである。無論、新たな問題と困難な状況は発生し、Season3からは、また新たな展開が待ち受けている事になるのだろう「HOMELAND」。
裏切り者の名を受けて、追われるブロディはどこへ行くのか。ブロディを密かに逃がしてCIAに復帰したキャリーと、責任者になったソール、そしてザ・プロフェッショナル、ピーター・クインは、ブロディの足跡を追いつつも、今後どう関わっていくのか…。本国UKでは9月末から放映開始らしいSeason3。今から日本での放映が待ち切れない気分である。

コメント

  • 2013/09/04 (Wed) 10:21
    くいん

    こんにちわ。このドラマ、ただでさえ緊迫した内容でドキドキの連続でしたが、このクインのスーツ姿が一番の衝撃でした。服装だけでこんなにも男前度があがるなんて!!!
    あ、ついでですが金曜日のお昼のNHKに火野正平さんが出演するようですよ。生放送なので火野さん天然自由っぷりが発揮されると予想されます。

  • 2013/09/04 (Wed) 22:18
    Re: くいん


    ココロさん こんばんは。
    クイン、急にスーツ姿でビシっと決めてましたねぇ。サイレンサー付きの銃を膝の上に置いて。髪をダークにしたダニエル・クレイグっぽくもあったかしらん。ふふふ。ともあれ、ワタシはSeason2の最終回を見て、ルパート・フレンドのクインがかなり気に入りました。Season3にも引き続き出るようなので楽しみですわ。
    正平氏、金曜日のお昼ですか。スタジオパークとかいうやつかしらん。そういえば、もうじき秋旅がスタートするという事なんですね。…早いですねぇ。この前夏の旅が終わったばかりのような気がするのにね(笑)

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