「悪の法則」 (THE COUNSELOR)

-キャメロン・ディアスの悪目立ち-
2013年 米 リドリー・スコット監督



本作は、「ノーカントリー」のコーマック・マッカーシーの脚本をリドリー・スコットが演出し、これでもかというほどのビッグネームが目白押しで出演しているらしいので、一応は見ておこうかしらん、という気にもなる。あまつさえ金曜日のシアターはカップルも多かった。でも、これはデートムービーには程遠い、というか全く不向きな作品。ブラピやキャメロン・ディアスが出ているからといって、安易にカップルで来てはいけない。そして、リドリー・スコット作品だからといって、とりあえず観に行くのも、もう終わりにするべきだな、と思った。

ワタシが何でこの映画を見に行ったかといえば、もちろんマイケル・ファスベンダーを見に行ったわけである。プラス、リドリー・スコットが監督するサスペンスというのに興味があったという事もあった。いやしかし、これは…。
綺羅星のごときスター達がこの映画に出演したわけは、あのリドリー・スコットの映画だから、という事が大きいと思う。それに「ノーカントリー」の作家が脚本を書いてるんだしねぇ、なんてね。俳優たちにとっては企画として魅力があったのだろう。
しかし、この映画に出演したスター達は気の毒というより他に言葉がない。殊に、ブラピやハビエル・バルデムやペネロペ・クルスはアホみたいなものである。というより、キャメロン・ディアスを除く全ての主要キャストはバカを見たと言ってもいいだろう。マイケル・ファスベンダーの演じた弁護士などは、ただの脳天気な間抜けである。デクノボウも甚だしい。



ファスべンダーが演じるのは、若くてセクシーで、調子づいているカウンセラー(弁護士)だ。一応、映画の中では名前で呼ばれたりもしていたと思うのだけど思い出せない。彼には理想的な恋人ローラ(ペネロペ・クルス)がいて、彼女と結婚しようとダイヤを買う。そのダイヤが高価だった事もあってか、また結婚を機に生活のランクをもっと上げようと考えたか、カウンセラーは、顧客の、裏の顔を持つ実業家ライナーに仲買人ウェストリーを紹介してもらい、裏稼業に手を染めて闇の副収入を得ようと目論むが、現実は彼の安易な発想を嘲笑うように、抜き差しならぬ方向に向って突き進んでいくのだった…。



というわけで、調子づいた挙句に裏社会の仕事にちょっと手を出して、闇で資産を作ろうなどと甘い事を考えた弁護士を待っていた恐怖の結末とは、みたいなお話である。ベタで何の捻りもない。素人が浅はかな考えで、玄人だけが仕切る闇の世界に足を突っ込むと想像を絶する痛い目に遭っちゃうよ、という話だ。そんな事は分りきった事で、今更おもわせぶりに見せていただく必要はみじんもないが、それにしてもこの映画の平板さはどうしたわけだろうか。主要キャストがハビエル・バルデムを筆頭に、アホでデクノボウにしか見えない。なすすべもなくドス黒いたくらみを持った邪悪な人物にやられてしまう、という展開である。その世界の怖さを嫌というほど知り、麻薬ビジネスに乗り出そうと考えるカウンセラーに忠告をしたブラピ演じる仲買人のウェストリーまでもが、結局は逃げ切れず、自分が言った通りの罠を仕掛けられてしまう。何故、彼は逃げられなかったのか。あんなにも最初から用心深く、ちょっとでもヤバイと思ったらすぐに姿を消す、と言っていて、事実そうしたのに。何故、彼の高飛び先は、ああも易々とバレてしまったのか。不思議である。



彼らの命取りは他の何でもなく、女である。その気になれば修道院で静かに暮らせる、とまで言い切ったウェストリーにしても、結局のところ女好きが命取りになるのだ。ハビエル・バルデム演じるライナーは、愛人のマルキナ(キャメロン・ディアス)にどっぷりと溺れている。溺れているというより、魅入られている。だからもちろん、最初から命など無いようなものだ。また、裏社会にちょこっと関わって、ちょっとだけ甘い汁を吸ったら引き上げよう、などと甘っちょろい事を考えた弁護士(マイケル・ファスベンダー)と婚約していたというだけで、地獄のような憂き目に遭わされるローラ(ペネロペ・クルス)が一番の貧乏籤だろうか。


なんだかなぁ、な役で気の毒だったペネロペ・クルス それにしても鼻と口が近い

そんな踏んだり蹴ったりの人々の中で唯一、役としても、役者としても1人目だっていたのがキャメロン・ディアスだ。この人はハッチャケのロマコメ路線が年齢的に難しくなってきた頃に、上手くそっちオンリーのラインを抜け出して、色々な役に挑戦し、デカ口でひゃはー!と笑ってナイスボディをひけらかすだけの仕事じゃなく、ちゃんと演技者として成り立って行く、という道をコツコツと作ってきたと思う。
キャハキャハとはしゃいでいるだけではなく、演技も出来るのでシリアスな役もそれなりにこなす為、役の幅が広がったようだ。


ザ・肉食獣のチータ女 薄い目の色とチータ風アイ・メイクが効果的にマッチしていた 

今回は、男を食いつくす肉食獣系女の役で、まさにメスそのもの。
マルキナはサバンナを駆け、ウサギを狩るチータを眺めるのが好きなのだが、自らもそんなチータのような女である。キャメロン・ディアスはヘアやアイ・メイクをチータのイメージで仕上げ(マルキナがプールサイドで寝そべるシーンで、背中にチータ柄のタトゥーが見える)、引き締まった体といい、その風貌といい、まさにチータを人間の女にしたようなルックスが板についている。マルキナがいかに肉食獣的メスであるか、という事を示すエピソードとして、ライナーをとりこにしたイソギンチャクのシーンがあるのだが、キャメロン・ディアス、こんな出来の悪い映画でよくもそこまでやったねぇ、という程の大開脚で怪演していた。…やれやれ。



この映画でちょっと印象に残ったシーンは全てマルキナを演じるキャメロン・ディアスのシーンであり、彼女のセリフだ。それ以外は、なにかグダグダとしたしまりのない筋書きの中で、カルテルの連中の、約束をたがえた者への異様な殺し方(やたらにワイヤーを使って首をチョン斬るとか、頚動脈を斬るとかいうシーンにこだわっている)などが浮き上がって見える。奇妙な殺人方法にこだわりを見せるのはコーマック・マッカーシーの特徴なのでもあろうか。しかし、今回は「ノーカントリー」の再来とはいかず、遠く及ばない無残な出来の作品になってしまったようだ。

ファスベンダーの弁護士は上手くやっている賢い男、という設定なのだが、この間抜けな男のどこが賢いのか。あるいは賢かったのか。裏街道に足を踏み入れる前に、もっと賢く立ち廻っている様子を描写していないと、見通しの甘いアホが、見通しの甘さに足を取られて痛いメに遭ってしまいました、というだけの事である。ファスベンダーは泣いたり焦ったりと熱演していたが、気の毒なばかりに熱演の甲斐もない役だった。いい気になって派手にやっているライナーを演じるハビエル・バルデムも、見るからにアホ、という感じのルックスで、なんら捻りがない。



そして弁護士や、ライナーの危うさを早くから見抜き、この世界に足を踏み入れる事の危険を弁護士に忠告していたウェストリー(ブラッド・ピット)だけは、上手く逃げおおせても良かったような気もするが、何故、彼の高飛び先がばれたのか、さっきも書いたが不明である。危険を察知していても逃げられない、というのは、どうしてだったのかねぇ。
全ての残虐な殺しのバリエーションは、あらかじめ、このウェストリーによって語られるのだが、それが、その通りに実行されていく、という感じである。全ての裏側にいる欲の塊のような人物は一体誰か…、というわけで、薄々もう察しはつくだろうけれど、まぁ一応、ここから先は書かないのがルールってもんでしょうね。この映画見ようという人は、そんなに多くないかもだけれど。



それにしても、リドリー・スコット。何年か前から、新作を作るたびに酷くなるような気がする。「ブレードランナー」や「エイリアン」がいかに輝かしく、はたまた「テルマ&ルイーズ」や「グラディエイター」が良かったところで、それらは過去の作品である。リドリー・スコットのプライムは遠く去ったと思う。いつから彼の作品に愕然とするようになったかとつらつら考えてみるに、「アメリカン・ギャングスター」あたりからではなかろうかと思い出した。とにかくパンチのない映画で、何の捻りも味わいもなく、流れに添って淡々と作っているだけで、そんなもんいちいち映画にするな、というようなシロモノだった。監督の視点というものが感じられなかった。あのあたりから、リドリーもヤキが廻ったなぁ、と思い始めたのだが、その後、回復することなく、どんどん衰亡の一途を辿っているようである。「プロメテウス」で飽きれ果てたのに、なんでまた観に行ったのかというと、SFはともかくもサスペンスではまだいけるかもしれないな、とちらっと思ったからである。終わったと思った王家衛が長編ではイマイチでも、短編のオムニバスだと精彩があったりするので、一概に終わった、と決めつけてはいけない、という自戒もあって本作を観にいってみたのだが、前半のユルい展開には眠気を誘われて、ところどころ寝てしまったし、物語が動き出した後半も、なんだかなぁに終始して、見終った後の後味の悪さと来た日には、いかんとも形容しがたい程で、もっと別な映画を期待して来たのであろうカップルたちが気の毒になった。

リドリー・スコットは、もう製作や企画に徹して、自らメガホンは取らない方がいいと思う。人間、引き際が肝心だ。それは一時代を作った人ほど大事な事なのである。大御所になると誰も意見してくれない。何でも自分の我儘や意見が通る。よほどに透徹した第三者の目を持っていないと、まだまだいいや、まだ行ける、と引き時を見誤るのである。しかし、本作の中でいみじくもキャメロン・ディアスのマルキナが言っているように、「懐かしむというのは、失ったものが戻るように祈ること。でも、戻らない。真実に温度などない」のである。

かつては輝かしかったものが、いっこうに輝かなくなってしまうのを見せられるのは物悲しい。どんな鬼才もいつかは老いる。自分が老いて、もはや終わっている事に気づかないほどに老いてしまう。リドリー・スコットが早く気づいてくれるといいと思う。

コメント

  • 2013/11/16 (Sat) 21:37

    スコット兄弟が製作総指揮のTVドラマでグッドワイフという法廷ドラマがあって結構好きなのですが、もう監督は無理なんでしょうかね。
    老いというのは残酷なもので、人によってやって来る年齢が違うようです。
    30代でも置いてしまう人もいれば、死の直前まで若々しさを証明し続ける老人もいる。。。
    自分で気づくというのは、至難の技なのでしょうねえ。

  • 2013/11/17 (Sun) 16:25

    はじめまして。
    細かいことですが、この作品はコーマック・マッカーシーの書き下ろし脚本なので、原作はありません。
    批判するのであれば、下調べを完璧にされた方がいいのではないかと思います。
    失礼しました。

  • 2013/11/17 (Sun) 19:29

    ココさん こんばんは。
    スコット兄弟、およびリドリー・スコットが製作または製作総指揮に加わっているドラマなどは、面白いものがありますよね。
    でも、監督としては、ある時期から「冴え」がないのは否めない事実ではないかと思います。頭がボケたわけではなく、体も元気でやる気も十分。自分としては何も昔と変わったところはない、と思っていても、出来上がった作品はウーン、という感じのものが多くなった気がします。でも今後も作り続けちゃうんでしょうね。生きている限りは映画監督を続ける、というタイプなんだと思います。
    まぁ、ワタシはもう観に行かないかな。

  • 2013/11/17 (Sun) 19:30

    wetmelonさん ご指摘をどうも。
    確かに脚本のみで原作はなしですね。リサーチ不足でした。本文もコーマック・マッカーシーの役割については修正しました。
    でも、原作があろうと脚本のみであろうと、この映画についての感想、印象はいささかも変わらないですが。

  • 2013/12/02 (Mon) 13:21

    いやあ、酷い映画でしたねえ。ほぼ同意見でございます。ペネロペの役は気の毒としか言いようがありません。逆に、キャメロンは、ユアンと共演した「普通じゃない」を思い出しました。クールビューティな感じで。
    それにしても、リドリー・スコットファンとしては、最近の一連の作品はどうしたものかと…(涙)。この作品の撮影中にトニーが亡くなったのも、一因があるかも…と思ったり。映像が美しい監督なので、もう一花咲かせてほしいのですが。無理なのかな〜。でも、私は彼の作品は最後まで見届ける所存でございます。

  • 2013/12/02 (Mon) 22:28

    mayumiさん
    ヒドい映画でしたよねぇ、これ。こんなものを平然と世に送り出してしまうという事が既にして、かなり感覚的にズレているというか、唯我独尊状態に陥って、客観的な判断力を欠いているんだろうな、としか思われませんわ。
    トニーは何に嫌気がさしてこの世を去ってしまったのか分りませんが、リドリーは確実に終わったと思います。引き際って肝心だわ、と、こういうのを見てもつくづく思いますわね。

    ところで、亡くなったといえばポール・ウォーカー、事故死しちゃいましたね。mayumiさん、お好きなんじゃないでしたっけ。彼はイケメンだけど、あまりインパクトのない人でしたが、いい人だったみたいなのに、あんな猛烈な形で早死にするなんて、ちょっと言葉が無いですね。ともあれ、ご冥福を祈りましょう。

  • 2013/12/02 (Mon) 22:48

    はい。私はポール・ウォーカー好きでした・・・(涙)。
    主演だけれど、脇によく食われる人でしたが、それはあまり自己主張が強くなかったからかもしれません(マックィーンが「荒野の七人」で目立とうとして、ちょこまか動いてユル・ブリンナーに怒られたのを思い出しました)。
    彼が出ていた作品は「ワイルド・スピード」シリーズ以外でも「NOEL」とかわりとほのぼのして好きだったんですけど。
    捨て犬を飼ったりと、人間的に優しい人だったと思います。
    ご冥福をお祈りしたいと思います。でも40歳は早すぎる・・・。

  • 2013/12/02 (Mon) 23:09

    ホントにねぇ。40歳で死ぬなんて早いですわね…。本人も死ぬなんて全然思ってなかったんだろうけど。
    元レーサーが運転してて木に激突ってどういう事かしらんね。車に何か不具合でもあったんざましょうか。いずれにしても「友人の運転する車で事故死」って、けっこう多いような気がするので、滅多やたらと友達に運転させずに、自分で慎重に運転しないとダメじゃないのよ、と思っちゃいますねぇ。
    それにしても、いい人は長生きできぬのかもですわね。残念なことでした。

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