目的地としてのホテルを巡る旅 シェムリアップおよびハノイ その5

-豊かになりつつあるハノイ-



旅から戻って、あっという間にひと月ばかりたち、早くも年末が押し迫って来ました。仕事も一区切りがつき、ここ2週間ばかりは、とにかく忘年会と銘打った飲食の機会が多く、さしものワタクシも胃腸がへたり気味。今年の年末年始の休みはやや長めなので助かった。お正月は出来るだけノンビリと過ごそうと思います。というわけで、旅行記もそろそろ締めくくりに突入。
ハノイは各々、数年前に訪れているワタクシらは、今更目の色を変えてあちこちを見て廻る必要もないので、とにかく雑貨を買おう、と思って散策がてら町を歩いたのだけど、ハノイは経済的に豊かになりつつあり、車は増えたけれども、町並みや観光客相手の店などはあまり変化してないんですね。前回のハノイ旅行で、私は雑貨類やお茶にリネン類だのバッチャン焼きだのをけっこう買ったので、今回はそちら方面の需要がなく、だから、何か前回とは違う素敵な雑貨を、なんて思っていたのだけど、ハノイにはあまり目新しいものが無かったざます。



今回、買い物について、ちとしまったなぁ、と思っているのは、カンボジアのシェムリアップで、もっともっと買い物をしておけば良かった、という事。何しろ雑貨ならベトナムだ、という思い込みがあり、カンボジアには大したものはないだろうと思っていたのだけど、御見逸れしました。シェムリアップには、実にレモングラスのバスソルトやバスオイル、象の形のアロマポットとか、素敵な容器に入ったハンドクリームとか、竹の皮で編んだ籠に入った石鹸とか、女子受けしそうな雑貨が目白押しに並んでいて購買意欲をそそられたのだけど、いや、ここであまり買ってはハノイで思いきり買えなくなるから、と数量を抑制したのですわ。でも、ハノイでは4年前と同じようなものしか売っていず、新たに、これ!というものが見つからなかったので、結局あまり買い物らしい買い物はしなかったんですね。こんな事なら、シェムリアップでもっとあれこれ買っておくんだった、と些か無念な気持ちもしたりして…。いや、しかしそれは次回、シェムリアップを再訪する時の楽しみのために取っておくと致しましょう。

ハノイでは、最重要ミッションとして、何はともあれ蓮茶の購入だけはしっかりと完遂しました。大教会から8分のところにある「フォーン・セン」という蓮茶専門店で「本物の蓮茶はうちのお茶だけ」と豪語する主人から蓮茶を購入。ちゃんと試飲させてもらいましたが、豪語するだけあって、いい香りがしました。蓮茶以外に、ジャスミン茶とアグライア茶(つげの花のお茶。アグライアって女神の名前だけど、植物の名前でもあるらしい)を購入。フォーン・センには、ワタシ達の前に3人の日本人の男性が試飲しておりました。2人はベトナム駐在の会社員、1人は日本から訪れたその上司っぽい方で、「香りがいいね」なんて沢山買われてました。ふふ。この店は日本のTV番組で紹介されたり、ガイドに載っているせいで、日本人客相手に有卦に入っているらしく、「お陰さまで儲かってます」みたいな事を店の主人が言っておりました。ほほほ。それは結構なことでございます。店名の「Houng Sen」は蓮の香りという意味だとか。麗しい店名なり。



まぁ、目当ての雑貨に目新しいものが無かったとはいえ、ハノイの町はぷらぷらと散歩するのには向いているので、あちこち歩いてはちょっと店を冷やかし、足が疲れたらカフェに入って一休み、という感じでハノイ散策をしたワタクシら。前回、スコールに襲われて雨宿りしたカフェもそのまま健在でしたが、今回はそこには入らず、ホアンキエム湖のほとりの、前回気になっていたカフェで休憩しました。
前回は夏だったこともあり、ホアンキエム湖の周囲の遊歩道にもさほど人は居なかったのだけど、今回はベンチに空きがないほど人が大勢出歩いておりました。観光客と地元の人とが半々ぐらいかな。


優美なハノイのオペラハウス パリのオペラ座を模して建てられたらしい


ホアンキエム湖のほとりのカフェで暫しのティー・タイム

比較的大きな通りでも、まだ信号のない道もあり、バイクに混じって車も走る通りを信号なしに渡るのはちっと怖いわけですが、ちょうどそういう通りの舗道に立って、ワタクシらが向い側に渡るタイミングを計っている時に、すぐ近くに、ドイツ人かオーストリア人らしい中年の女性二人が、同じようにいつ渡ろうかとタイミングを見計らっておりました。ワタクシらと彼女達は、なんとなくお互いに目が合い、なんとなく意志が通じ、信号なしの通りも、みんなで渡れば怖くない、というわけで、横一列になって4人で手を繋ぎ、一緒に舗道を渡りました。無事に向い側の舗道に着いた時、どちらからともなく、「Thank you!」と握手しあいました。そしてすぐに、ハロー、グッバイという感じで別れたのだけど、何か気持ちのいい瞬間でした。


ハノイの街角

裏通りのひとコマ



生花売りは健在

今回、やっと見つけた伝統的スタイルの物売り 絶滅危惧職か…

今回ハノイで実感したのは、4年前はベトナムドンよりUS$の方が流通している気配だったのだけど、今回は、どこで何の値段を聞いても、まずベトナムドンで先に返事がかえってくるという事で、ドンが強くなってきてるんだね、という印象を受けました。町並みは特に変わらないけれども、経済状態は確実に上向きに変わってきているベトナム、ハノイ。


なにやら素敵なアンティークのお店 完全な冷やかしでは入りにくい雰囲気


また一段と、小洒落たお店が増えた気もする

いつもは、宿泊しているホテルのレストランで夕食は摂らず、街に出て美味しい店を探すのだけど、今回はメトロポール・ハノイ新館のベトナム料理レストラン「スパイシーズ・ガーデン」で夕食を摂る事に決めていたので、夕方、街の散策を終えてホテルに戻り、新館の「スパイシーズ・ガーデン」に行くと、ワタシ達のような観光客の他に、地元ハノイのリッチな家族がディナーを楽しむためにテーブルを囲んでいる姿を何組か見かけました。4年前には見られなかった光景だなぁ、とちょっと驚きましたね。4年前なら、メトロポール・ハノイのような高級ホテルは外国人専用という感じで、地元の人が客として利用するというのは有り得ないという雰囲気だったのだけど、ベトナムにも経済格差が生まれつつあるんだろうな…と、ここでも豊かになりつつあるベトナムの今を実感した次第。


メトロポール・ハノイ新館のロビー

新館の通路 横浜のニュー・グランド新館を思いだす雰囲気

スパイシーズ・ガーデンのスパイスたち

メトロポール・ハノイはクラシカルな旧館とクリーム色を基調とした新館のありようが、なんとなく我らが横浜のニューグランドを想起させる佇まいでした。
新館にある「スパイシーズ・ガーデン」は「クラシックホテル憧憬」でも紹介されていたレストランで、フレンチとベトナム料理の折衷のようなヌーベル・キュイジーヌのレストラン。シェフはハイさんという女性なのは変わっていなさそうですが、メニューのメインは屋外でのバーベキューになっているようで、バーベキューじゃない方がいいな、と思うと、あまり色々なコースは設定されていませんでした。ここでは、スープがとても美味しかったです。それとフロア・マネージャーの貫禄のあるおばちゃん(ベトナムのサッチーという感じか)が、何くれと細かく気を配ってくれて、とても感じが良かったですね。


スパイシーズ・ガーデン


撮影に失敗したため、ちっとも美味しそうに見えないが実に美味だったスープ


イカを使った焼物料理 これも美味しかった

また、多分、音楽学校で民族楽器を専攻しているのだろう若者が、レストランの中ほどで、各種の笛で民族音楽を演奏していました。素朴で哀愁のあるメロディが、いかにもという感じで良かったです。食事のBGMとしての演奏なので、客は殆ど演奏など聴いてはいないわけですが、一曲終わって所在なさげにしているので、ワタシ達がテーブルから静かに拍手のゼスチャーをしてあげると、彼は嬉しそうににっこりして、次の曲を吹き始めました。
当初は、番組で紹介されていたホテルのオリジナルブレンドの赤ワインを買って帰ろうかと思っていたのだけど、けっこういいお値段だったので、ワイン・マニアでもないワタシはパスすることにしました。ホテルのオリジナルのワインや紅茶、スイーツを売っているブティックでは、最高級だというアールグレイの一缶の値段に顎が落ちそうになり、ここってほんとにベトナム?と思わず周囲を見回したくなってしまったワタクシ。
今回は、着々と経済力をつけているベトナムの様子を如実に感じたハノイ再訪でした。

レストランを出ると、バーに寄らないという選択肢はないワタクシら。メトロポール・ハノイには2つのバーがあり、プールサイドの「バンブー・バー」は白人観光客で賑わっていて、コロニアルなムードでいい感じでしたが、ワタクシらは旧館内の「ル・クラブ・バー」へ。ここはジャズの生演奏もあるバーらしいのだけど、ワタシ達が入った時は、その時間帯ではなかったのか演奏は聴けませぬでした。が、何はともあれ、カクテルを賞味。ワタシは当初、ダイキリを所望したのだけど、ウェイターにどうしても通じなかったので面倒になり、メニューから「Memories of Metropole Hanoi」というカクテルをチョイスしてオーダーしました。メトロポール・ハノイの思い出は、オレンジの香りのする、ほのかに甘いカクテルでした。ちょっとスイートすぎるかな。ふほ。


キャンドル・サービスのため、灯りを消した店内で


あまずっぱい「メトロポール・ハノイの思い出」

ちなみに、中庭の小さめのプールのほとりにあるバンブー・バーの下には、ベトナム戦争時代に作られた強固な地下の防空壕が残っているんだとか。ベトナム戦争の最中には、反戦の闘士だったジョーン・バエズやジェーン・フォンダが爆撃の中、このホテルに立て籠もっていたそうな。ジョーン・バエズは堅牢な地下の防空壕の中で、避難している客やスタッフの不安をその歌声で鎮め、癒したという逸話が残っております。戦争が終わって平和な時代が来て、プールの面積を広げようと掘ってみたものの、防空壕の壁があまりに堅固で崩せなかったので、そのまま残される事になったそうな。凄い防空壕ですね。また必要になる事がないように、切に祈っております。


こぢんまりとしたメトロポール・ハノイのプール けっこう肌寒いのに泳いでいる白人客もいた

夜のプールサイド プールの向うがバンブー・バー

英語についての印象をついでに書くと、カンボジアの人の英語はかなり訛っていて聞き取り辛く、ベトナムの人の英語の方が幾らか聞き取りやすかったんですが、ホテルのバーに関しては、シェムリアップのラッフルズの方が、スタンダードでクラシカルなカクテルをさっと聞き取ってさっと作ってくれる、という印象でした。メトロポール・ハノイは、オーダーを取りに来たウェイターが若くて、あまり詳しくなかったのか、有名人の名を冠したホテル・オリジナルのカクテルについてのみ、よく覚えこんでいたのか分りませんが、ダイキリが通じないなんてさ、と、些か引いたワタクシでした。(多分ワタシの発音が悪かっただけででしょね、きっと…)

というわけで、ゆったりと食事と食後のお酒を楽しんだあと、迎えの車で空港に向い、機中泊で翌早朝に成田に戻ってきたワタシ達。旅の後半は咽喉の痛みと闘うハメになってしまったけれども、旅そのものは、実に印象的で期待していた通りの旅になったと思います。

***
それぞれに特色があり、魅力のある今回の2つのホテルはどちらも甲乙つけがたい、素晴らしいホテルでした。さすが、老舗のクラシックホテルだけに、新しく出来た綺麗で便利なだけのホテルとは風情が違いますわね。
シェムリアップのラッフルズは、アンコールワットという遺跡見物のために建てられた、地方の景勝地の、いわばリゾートホテルの色合いが濃いのに対して(カンボジアの首都プノンペンには、ラッフルズ・ル・ロイヤルというクラシックホテルがあります)、ハノイのメトロポールは、ベトナムの首都を代表するラグジュアリー・ホテルとしての側面が濃厚なホテルですわね。立地条件が違うので、同じ土俵では較べられないけれども、それぞれ、その場所に適した機能と風情を持つ上に、ラグジュアリーなムードと、クラシカルな内装や調度品が雰囲気を盛り上げている素敵なホテルでした。それぞれの良さを味わう事が出来た今回の旅は、クラシックホテル好きのワタシとしては、とても満足度の高い、良い旅になったと思います。
ハノイは二度も行ったし、今回はメトロポール・ハノイにも泊まったし、狭い街なので、もう当分は行かなくてもいいかな、という気がしていますが、カンボジアのシェムリアップには、ラッフルズにステイすることを目的に、ついでに買い物をするために、もう一度行きたいと思っています。

クラシックホテルの何がワタシを惹きつけるのかといえば、それは、ホテルに滞在することによってタイムスリップし、1920年代、30年代の旅人の気分を実感として味わえる事、に尽きると思います。居ながらにしてタイムトリップできる素敵空間。それが、クラシックホテルの魅惑なんですわね。ホテルに降り積もった時間と記憶の堆積が、旅人を束の間いにしえの時代の中に誘い、幾分かでも追体験させてくれる…それが、昨日今日出来た新しいホテルには無い、クラシックホテルの良さなのだと思います。





今回、ハノイで印象に残ったのは、とにもかくにも、急激に経済的に豊かになってきているな、という事でした。それは本当に、あちこちで実感しましたね。前回、ハノイ旅行の際に泊まった、旧市街の中の3つ星ホテルのフロントマンは、「一生に一度でいいから、日本に行くのが夢なんです」と遠い目をして語っていたけれど、この分では、もう一度か二度は日本に来ているかもしれないな、と思いました。帰りの便でも、成田に向うベトナム航空のカウンターに、日本に留学するのであろうベトナムの若者が4人、はしゃぎながら大荷物をチェックインしていました。留学生が増えてきているんだから、社会人がちょろっと旅行に来るぐらいは、もはや大変な事ではないでしょう。彼は上昇志向が強そうだったから、あのホテルにも、もう勤めてはいないだろうな、とも思いました。ついでに、4年前に彼が「どこの国の客が嫌かって、それはもうK国の女性が最低です」と言っていたのが、当時はなんでそんなに?と思ったのだけれど、今回はさもありなん、と実感することができました。(女性に限らず、あの民族の傍若無人さや騒々しさは好かれないでしょうねぇ…)

それにしても、こうして雪も降ろうかという寒い師走の日本で慌しく過ごしていると、今日も、あのカンボジアはシェムリアップのラッフルズでは、青空に白い雲が浮かぶ、夏の初めのような温かい気候の中、名物ドアマンが民族衣装を着てにこやかにドアを開け、名物エレベーターボーイが、はにかんだような顔でクラシカルなエレベーターを操作しているのかな、と思うと、何か淡い夢の中の出来事のように思われたりもするワタクシ。でも間違いなく、今日も彼らは、あのホテルで控えめな笑顔を浮かべつつ、旅人にホスピタリティを与え続けていることでしょう。永劫変わらずに、そこにそのままの形で存在し続けてほしい楽園の記憶…。



ASEANの国々は今後ますます、ほんのちょっとの間にも急激に発展していくのだろうと思いますが、その国、その都市、その町なりの良さを失わずに、それなりの豊かさを享受していただきたいものだと思う、kikiでございます。

コメント

  • 2014/01/03 (Fri) 14:38

    新年明けましておめでとうございます。

    やはりべトナムにもっと早く行くべきだった、と後悔。前回kikiさんがハノイに行かれたときに「私も行きたい」とお話したら早くしたほうが、急速に発展し、町並みもかわっていくだろうから、と教えていただいたのに、台北だのバンコクだのとフラフラしているうちに時間だけが過ぎてしまい・・・急がなくては、と新年の決意です。
    ハノイ、メトロポールは勿論ですがシェムリアップも興味津々。以前はホテルにだけ興味がありましたがやはりアンコールワットも行かねばと思い始めています。クラシックホテルは大好きですが唯一心配なのが水周り。でもメトロポールは大丈夫なようで安心しました。それにしてもkikiさん、写真がお上手。行きたい気持ちが本当に高まります。雑貨屋さんめぐりがしたいなあ。

    ※シェムリアップのホテルのGM・・・とっても気になてっます。

  • 2014/01/04 (Sat) 11:51

    Rikoさん 明けましておめでとうございます。

    ハノイは、まださほど町並みなどは変わってきてませんよ。でもライフライン系のインフラとか、道路の整備などはかなり進んできたと思います。それと、全体に国民が少し豊かになってきてるな、という感じは強くしましたわ。ハノイなどはフランス植民地時代の建物を大事に残すだろうので、シンガポールや香港みたいに高層ビル林立みたいにはならぬだろうけれど、ウカウカしているとどんどん物価が上がっていくんじゃないかという気はしますわ。シェムリアップは良かったですよ。本当にお薦めです。カンボジアはさほど治安がいいともいえないらしいですが、シェムリアップなどは観光客がよく行くところを常識的な時間に歩いている限りは危険な事はないし、あそこに行くなら、是非ともラッフルズ・グランドホテル・ダンコールに泊まって下さい。すぐ近くにアマン・リゾートのホテルもあるけど、ワタシは断然、ラッフルズがいいと思います。苦みばしったGMに出くわすためには、朝、早起きしてプールサイドに行かねば、ですわよ。ふほほ。遺跡はバイヨンとタ・プロムを強力推薦ですわ。もちろん、他もジャンジャン観に行かれるといいと思いますが、季節は日本の晩秋から冬がいいですよ。あちらは乾季でやや気温もマイルドです。
    写真を褒めていただいてありがとう。昔は文章褒められるのが嬉しかったけど、最近は写真褒められるのが嬉しいですわ。ふほほ。

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