「ディファイアンス」 (DEFIANCE)

~けしてスーパーマンでなく~
2008年 米 エドワード・ズウィック監督




シャンテ・シネでトレーラーを観た時には、さして食指が動かず、これはパスかなぁ、と思っていた本作。
が、封切りが近づくにつれ、出来がいいらしいとか、ダニエルがいい感じであるとかの世評がなんとなく耳に届き始め、そうとなれば、折角公開されているのに観ない手もありますまい、という事で行って参りました。シャンテ・シネ。さして大きくないシアターだった事もあるけど、ほぼ満員。女子ばかりでなく年配の方や、男性も多かった。

どうも、「もう1つのシンドラーのリスト」とか、そういうキャッチをつけられてしまうと、なんだか観ないうちから話が見えてしまう感じで気乗りがしなくなるワタシ。そんなわけで、「QOS」に引き続き封切られるダニエル主演作なれども、封切り間際まであまり観る気が起きないでいたのだった。が、結果的には観て良かった。いい映画だった。

ダニエルは等身大の男を演じていた。戦時下という状況で、何もしなければただ狩り立てられ、迫害され、追いたてられ、殺されるさだめのユダヤ人。座して死ぬのを待つのが嫌なら、逃げるか闘うかしなければならない。そんな状況下では、特に英雄でなくても、傑物でなくても、ごく平凡に生活してきた普通の男が生きる為に行動しているうちに、英雄になってしまうこともある。普通の男が、自分を頼ってきた人間を仕方なく仲間に加えていくうちに、いやおうもなく敵と戦い、抵抗組織を率いていくことになる様子を、ダニエルらしく青い目を利かせて演じていた。

その冴えた青い瞳の強い印象と、様々な表情が楽しめるという点では、「QOS」よりも「ディファイアンス」の方が、よりダニエルファンには訴求力があるかもしれない。
まぁ、なんて綺麗な水色の目かしらん、と緊迫した状況の成り行きが気になりつつも、折々その瞳の色の鮮やかさに目を奪われた。
ダニエルは天然ブロンドなので、眉毛や髭もブロンドだ。しかもそれが、髪の色より明るい色だったりするので、シワの多い顔に白っぽい髭や眉毛で、時折、何歳の爺さんだ?というような顔になったかと思うと、遠目で森の中をテクテクと銃を背負って歩く姿などは、ブロンドが風にほわわっとまくれあがって若造のように見えたりもする。



「ディファイアンス」のあらすじは、
1941年、ドイツ軍に侵攻され、ナチス親衛隊と地元警察によってユダヤ人狩りが始まったベラルーシ。両親を殺されたトゥヴィア、ズシュ、アザエルのビエルスキ兄弟は森の中へ逃げ込み、生きる手立てを模索していた。すると彼らの周りにはやがて、逃げ惑っていた同胞のユダヤ人が次々に合流してくるのだった…。(all cinema onlineより)
というもので、ダニエルはビエルスキ四人兄弟の長男。女房の里の方で仕事をしていたが、自分の実家が気になって戻ってきたら両親がナチシンパの警察に殺されていた。ダニエル演じるトゥヴィアは難を逃れた弟たちと森の中で再会する。

ダニエルはUKの人というよりも、時にロシアンとか、ジャーマンのような雰囲気も漂わせていたりするので、ロシア語を話すシーンなどは英語よりもずっと板についているというか、ハマっている感じがした。画面が東欧の色と空気に溢れているので、英語が聞いていてしっくりこないのである。全編ずっと字幕ではアメリカの観客は耐えられないだろうので、大半のセリフは英語なのだが、この英語の部分はユダヤの言語で話しているつもり、という設定になるのだろう。
ダニエルのすぐ下の弟・ズシュを演じているのはリーヴ・シュライバー。ワタシは「ニューヨークの恋人」で脚の骨を折ってしまう理屈っぽいメグの元彼をやっていたイメージしかないのだが、もっと色々出ているんでしょうね。いい俳優だとは思うのだが、このリーヴ氏だけ、ダニエルを筆頭とする兄弟たちの中で顔や雰囲気が異質なのである。おまけにガタイがよすぎるし、ほっぺたに肉がつきすぎている。食うや食わずで森の中を彷徨う役なのに、そんなにほっぺたが丸々してたんじゃ、どうなの?隠れてうまいもの食べてるんじゃないの?などと思ってしまうのだが、頬に肉のつきやすい体質だろうので、仕方がないのかもしれない。ともあれ、年が近いせいか、とかくこの弟は兄にことあるごとに突っかかる。平和主義の兄と好戦的な弟は意見が合わず、ズシュは兄の元を去って、ソ連軍に身を投じることになる。まぁ、兄弟の中の黒ヒツジということで、異質なルックスのリーヴ氏が選ばれたんだろうなぁとは推察できる。人として兄に勝てない弟の歯軋りみたいなものを上手く出していた。

 やけに肉付きのいい弟

ダニエルのトゥヴィアは、なりゆきで頼ってくる人間の面倒を看ているうちに次第に大所帯になっていく「森の家族」をどう食わせていくか、共同体としてどう秩序を持たせるかなど、目に一丁字もない無学な男でありつつも、難民の中にいたインテリのイツァークや、かつての恩師である老教師などの助言を聞いて、次第にリーダーとして大所帯を統べていくようになる。白馬に跨って難民たちの前で演説するシーンなど、あらあらカッコつけちゃって。白馬なんかいつどこで調達したのよ?と思いつつも、なんとなくニヤニヤした。

それにしても、森の中へ逃げ込んできてトゥヴィアを頼り、ただ負ぶさって口をあけて食料が配給されるのを待つのが当り前のように思っているユダヤ難民の姿に当初は苛々する。頼った者を引き受けたら、そいつらを養うのは頼られた者の責任だ、といわんばかり。そのうちに全員がなんらかの仕事をし、どんな仕事の者でも食事の量は一定に配給するというルールを造り、共同体として回り始めるのでそれも解消されるのだが、最初のうちは観ていて「甘ったれてはいけないことよ!」と思ってしまう。災難なのはみな同じ。トゥヴィアはスーパーマンでもメシアでもないのだ。

今回のダニエルの良さは、このスーパーマンでもメシアでもない男が、その場その場で必死に頑張る姿の中にある。秩序を守らない反抗的な奴を、間際まで迷いながら射殺したり、ドイツ軍の空爆を受けて間近で焼夷弾が破裂し、瞬間、耳が聞こえなくなり、呆然とその場で動けなくなるシーンなど、リアルな臨場感があった。このシーンはちょっと「プライベート・ライアン」の冒頭のシーンを思いだした。  爆煙にまみれた真っ黒い顔の中で目だけが鮮やかに青いダニエル。ここでも青い目が利いている。
また、森の冬の厳しい寒さや、食糧の調達に疲れ、自らも病気になって咳き込んだりして、気が弱り始めたりするところも自然でいい。気が弱ると、青い目は訴えるような色合いを帯びて少し悲しげに翳り、またもその青い目が口ほどにものを言う様子をこちらもじっとみつめてしまうわけである。頑張ってた兄貴が心弱って決断力が鈍くなると、頼りなかった三男坊が兄貴に代わって急激にしっかりしてくる様子など、兄弟の力学についてもよく描かれていた。

 三男坊 兄貴が弱るときっちりカバーする

キャンプに来た当初は屁理屈ばかり言っていたインテリのイツァークは次第にトゥヴィアのいい片腕になるのだが、このイツァークを演じていたのは「イン・ハー・シューズ」で姉(トニ・コレット)を愛するユダヤ人ビジネスマンを演じていたマーク・フォイアスタイン。寿司の注文がやけにこなれていた彼氏をいい感じで演じていたが、今回もメガネをかけたインテリで、共同体をどう運営していくかについてトゥヴィアにアドバイスをする元ジャーナリストをいい感じで演じていた。

ゲットーを逃れて森のキャンプに来たリルカという娘とトゥヴィアは互いに惹かれ合う。リルカを演じるアレクサ・ダヴァロスが東欧らしい雰囲気の美人でなかなか良かった。風邪を引いたのか熱を出して寝込んだトゥヴィアを2日看病していた彼女に、目が覚めたトゥヴィアが「看病していてくれたのか?」と言うシーンがあるのだが、この時の声は鼻にかかった甘え声。またこのシーンでも目が冴え冴えと青くてサファイアみたいに綺麗だった。好きな女に看病してもらって、ちょっと安らぐこのシーンは「カジノ」の、コモ湖畔で目覚め、ヴェスパーに甘えた感じで語りかける下りをちょっと思いだした。

 リルカ役のアレクサ・ダヴァロス



森の中の行軍や生活、戦闘など、少し前にみた「チェ 28歳の革命」もちらと頭をよぎったが、「ディファイアンス」はずっと緊迫していてダレるシーンがなく、初めから終わりまで集中して観られた。ワタシはソダーバーグの演出とはどうもリズムが合わないらしく、「チェ?」では前半、とにかくもう冗長に感じられてかなりしんどかったのだけど、本作では全くあくびなどする気の緩みは生まれず、リアルな戦闘シーンや、厳しい森の冬の寒さ、咳き込むダニエルに「もしや結核?」などと心配したりしつつ、一挙に観終えた。「ディファイアンス」をソダーバーグが演出していなくて良かったわ、と思ったのはきっとワタシだけだろうけれど…。

ラストに実物の写真が出る。トゥヴィア・ビエルスキご本人は端正なハンサムマン。ダニエルとはタイプが違う。戦後渡米し、NYに住んで小さな会社を弟ズシュと営んでいたというトゥヴィア。兄弟は自分たちの戦時下の行為を誰にも吹聴しなかったというのが、また心ニクイばかりである。
が、「もう1人のシンドラー」と言えば、我々日本人としてはリトアニア大使だった杉原千畝さんを忘れてはならないと思う。ビエルスキ兄弟は自らもユダヤ人で彼らが救ったのは1200人の同胞だが、杉原さんは身の危険を侵し、外務省の命令に背いてユダヤ人の亡命を助けるためビザを発給し、6000人のユダヤ人を救った。日本は枢軸側としてドイツとは同盟関係にあったわけだから、それを思えば、いかに杉原さんの行為が並外れた勇気と強い意志のいることだったか想像に余りある。「もう一人のシンドラー」なんて、杉原さんに対して失礼な形容だと思うのだ。

地上から危うく抹殺されかけたユダヤ人の災難はまさに空前絶後の災厄だったが、あんな狂気の時代にも、ぽつりぽつりと人としての道をまっとうしてユダヤ人を救った「普通の男」たちが居たというのは、状況や心のありようでどんな悪魔にもなってしまう「人間」という生き物について、それでも捨てたもんじゃない、と思わせてくれる事実だ。
状況と、機会とによって、あるいは何か不思議なさだめにより、ごく普通の男が大きな役目を担わされる事がある。大事なのは、けしてスーパーマンでもメシアでもない男がそれをやったという事なのだと思う。

コメント

  • 2009/02/18 (Wed) 23:38

    こんにちは。観られたんですね。私もこの映画、とっても観たいんですが、島根のみならず中国地方のどこにも上映してくれるところがないのです!!さすがに飛行機や新幹線を使ってまで見に行く気にはなれないですし。

    でも、けっこう観客も入ってるみたいだし、QOSよりもあちこちで評価が高いくらいなので、DVDは確実に出ますよね。それを待ちます。
    そう言えば、ダニエルの昔のTVドラマの「モール・フランダース」のDVD が来月発売されるってア○ゾンからメールが来ました。

    • ようちゃん #4ihH6cqY
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  • 2009/02/19 (Thu) 00:01

    観てきましたよ。ようちゃんはこの作品について制作中からあれこれとチェックしてきたのに近いところで封切ってないというのは辛いですね。でも、これけっこうヒット作になりそうだし、途中から拡大公開になる可能性もあるんじゃないかと思うんだけど、甘いかしらん。DVDにはもちろんなるでしょうけど、だいぶ先だから待ち切れませんわね。幅広い観客層で、ラスト近くにはすすり泣きの声も聞こえたりして、反応は上々の様子でしたわ。近いところで上映されるようになるといいざんすね。
    「モール・フランダース」ってどんなドラマだったですっけね。ダニエル、まだ若くてかわゆい頃かしらん。ようちゃん、即ゲット?

  • 2009/02/22 (Sun) 00:48

    公開中に行けたら~と思っていたところへこちらのup。ならばkikiさんのレビュー読む前にシャンテ・シネ~ではなく県内のシネコンへgo!
    いい映画でしたね~。予想してたより面白かったです。途中でダレることなく最後まで緊迫感が保たれて集中して見れたというのは、私も同じ。よくありがちな感動の押し売りとかわざとらしさがなくて、リアルな抑えた演出が良かったんでしょうね。あの射殺するシーンでは、トゥビィアのリーダーたる資質を改めて思わせてくれた半面、複雑な思いで見ました。この監督は「ラストサムライ」の人なんですね。私としては「ディファイアンス」の方が・・・。
    そしてダニエル。今回はまた違う人間臭さを感じさせくれて良かったですね~! 
    そう、慰め~のボンドよりこちらのトゥビィアの方がある意味魅力的かも。
    (kikiさんご指摘の爺さんぶりにハハ。他にも寒さで口元に皺が寄りがちな所とか確かに~・笑。弟二人は息子に見えなくもない?)
    ダニエルは本来ボンド役者の枠じゃなくて、個性的な役を得意とする演技派ですもんね。う~んどちらも捨てがたいけど。
    ダニエルは演技派でありながらセクシー過ぎちゃう?フェロモン出すぎかしらね?(笑) 
    そこを本人は意識してなさそうってところがいいですね。
    戦争映画でもちゃんとラブシーンもベッドシーンもちょびっとだけどあり、よかったわ~♪ 
    上のリルカとのシーン、こういう彼の横顔って好きなんです。
    このリルカ役の女優、綺麗ですね~。こういうタイプ私も好きだな。少しクラシックな美人という感じがいいですね。ハイアはちょっとパルトロゥ似かな~と思いつつみてました。
    それからズシュ役のリーブ、決して二枚目じゃないけど印象強く残りました、上手かったしね。
    いい感じでした。あっ「ニューヨークの恋人」の元彼?思い出しましたぞよ。







  • 2009/02/22 (Sun) 09:52

    おぉ、ジョディさん。ご覧になれたんですね?良かったよかった。お近くでやってましたか。
    まぁ、これも007効果ですよね。あれが当らなかったらひっそりミニシアター公開だったかもしれない映画、かもしれなかったけれど、シネコンにかかりましたのねん。ご同慶の至り。で、こういう映画は事実をベースにだらだら撮ってると冗長になるし、過剰にメッセージを盛り込んでも白けるしで、けっこう難しいと思うんですけど、脚本も良かったし、ズウィック監督の演出もさりげなさとリアルさをよく出していて映画にピッタリと合ってましたね。ワタシも「ラスト・サムライ」よりこっちのほうがずっといいな、と思いましたよ。だって「ラスト・サムライ」は主役からして既に顔が暑苦しすぎるしね…。
    あの射殺シーンは印象的でしたね。ダニエルはそれまで咳込みつつ小屋に引っ込んでて、あの腐った奴がさんざん横暴を働き、出て行っていさめても盾つかれ、スゴスゴ引き返すかと見せかけてガーンと一発。間際までダニエルの表情も読めなかったし、いい演出だったと思います。(尤もあそこでスゴスゴと帰ってちゃ、もうオシマイですが…)
    リルカ役の女優さんが、ちょっとバーグマンを東欧風にしたような感じで良かったですね。作品に合ったタイプの美人で、ダニエルと画面の相性も良かったし。ダニエルはこういう人と並んでいるのが一番似合う感じがしました。
    更に一段とシワを増やしたダニエルですが、こういう人としてのありようをリアルに演じられる役は本人が望むところだったんでしょうから、的確にしっかりと演じてましたね。自己主張し過ぎず、けれどちゃんとキャラも立っていて主役としての存在感バッチリで映画もよく出来ていたし、色々なバランスがよくて納得のいく映画、という感じでした。
    リーヴ・シュライバーもキャラが立ち過ぎるほどに立っていたので、儲け役だったでしょうね。この人、ほっぺた丸いからコメディとかもいけそうです。芝居うまいから何でもできそう。今回、時折爺さんみたいなダニエルを観ていて、もし「パピヨン」をリメイクすることがあったとしたら、間違いなくダニエルが主演だな、と思ったりして観てました。あまりにマックィーンと似ていて、リメイクする意味がないかもだけど(笑) でも、ダニエル的にはとても演じたがりそうな役だと思いませんか?ああいうの、やりたがりそうだもの、ダニエル。彼としては俳優としての販路拡大と、いい企画が廻ってくるチャンスを確保するためにもボンド役者として当て続けることは重要だ、と思ってるんでしょうね。ああいう非日常の世界は2年に一度演じているなら面白いんでしょうし。ファンとしても脚本が良ければダニエルのボンドを観続けるのはやぶさかでないし。あれはあれでいいんだと思います。ワタシが次に楽しみにしているのはユアンと共演の「I Lucifer」です。これから撮影に入ると思われますが、折角の顔合わせなので脚本と演出がスベらない事を祈っております。

  • 2009/05/27 (Wed) 11:22

    やっと先週DVDが届き、めでたく観ることができました。
    でも、DVDだと、つい、ダニエルのイケてるショットをみつけるとそこで止めたりして、映画全体の鑑賞に集中できませんでした。
    結局3回見ましたが、見るたび感動は深まってます。
    kikiさんは一回観ただけで、こんなに内容の深いレビューを短時間で書けるなんて、すばらしいですね。

    • ようちゃん #-
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  • 2009/05/28 (Thu) 07:46

    ようちゃん、そうですか、もうこの作品のDVDが出る頃なんですね。劇場でみると画面を止めることはできないので、その分、集中して見るという感じになるのかもしれません。ある程度お金も出して見てるわけだしね。でもブログをやってなかったら、そんなにマジメに映画を観てないでしょうね。劇場へ行く回数も今の3分の1以下だった可能性大です。趣味とはいえ物好きな事ですが、ブログは全く不思議な作用を及ぼすなぁと時折思ったりしますわ。

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