「Sherlock Series3 The Sign of Three」

-シャーロック番外編?ワトソン君の結婚狂想曲-



Series3のEP1を最初に観た印象では、いつもに較べるとお祭り騒ぎだな、と感じたのだけど、もっとお祭り騒ぎで内容もなんとなく番外編的なEP2を観た後では、EP1は通常のモードであると認識を改めたワタクシ。EP2はワトソン君の結婚式をメインに据えた番外編と言っていいのではないかと思う。数々のシャーロックの珍しい姿が見られると同時に、これまでに描かれたもの以外の事件が紹介されたり、ワトソン君と店をはしごしてビールを飲み明かすなど、シャーロック的にはかなり普通の人寄りになっている様子を楽しめる一篇だった。このEP2についてザックリの感想を。

それにしても、ワトソン君も無茶振りである。シャーロックにベストマンの役割を背負わせるなんて無茶振りもいいところだ。そういう世界にはこれまで一切関与して来ず、金輪際、関与するつもりもなかったシャーロックである事はお互いに百も承知だが、それでも無理にもワトソン君はシャーロックに頼みたかったのであり、シャーロックはワトソン君に「君は親友だから」と言われたら、断る事など出来なかったわけである。ぺふぺふ。


親友だ、と言われて驚きのあまりフリーズするシャーロック

「僕がこの世で一番大事に思い、愛している二人の人物は、メアリー・モースタンと、君だ」と言われた時のシャーロックの瞬きにご注目。そんな事言われちゃねぇ。いかなシャーロックでも断れませんわね。「君は親友だ」と言われて暫し硬直するシャーロックが微笑ましい。(かなり驚いたという事らしい)そんなわけで、この「親友」という言葉に掴まれて苦手な役目を引き受けたシャーロックには、スピーチという試練が待ち受けていたわけだけど…。


この人は常に、汗や脂や毛深さとは一切無縁だ

余談だけれど、大勢の人間の前に立って何かパフォーマンスするのが得意な人とそうでない人がいるとしたら、ワタシは間違いなく後者であり、大勢の人間がしーんとしてじっとこっちを観ている前で、1人立って何かをしゃべらなくてはならないなんて、もうアドレナリン大噴出。ワタシにとっては罰ゲームに等しい。だからシャーロックの困惑も他人事とは思えぬなぁ、と思って眺めた。尤も、シャーロックがスピーチをやるハメになって「ゲ!」と思ったのは、人前に立ってしゃべるのが嫌だから、という理由ではないだろうけれど(笑)



このエピソードでは、色々な女性が登場する。
まずは、ワトソン君の妻となるメアリー・モースタン(アマンダ・アビントン)。彼女の何もかも分かっていて、何もかも包みこむ母のような受容感がいい感じだったし、ところどころに可愛い部分もあって、メアリーってそういう人だろうね、という雰囲気がよく出ていた。ただ、もうちょっと早くこの役を演じる機会が巡ってくれば良かったなぁ、とも思った。アマンダ・アビントンはかつてキュートだったのだろうが、ルックス的にちとオバサンになりかかっているのが少し残念な感じもした。が、メアリーの母のような側面にはしっくりと似合ってもいた。シャーロックとワトソン君を、双方手の平の上でよしよしと転がすような柔らかい母性は、実に悪くない感じだった。





また、モリーは彼氏のトムとベタベタの相思相愛で、シャーロックを卒業したのだな、という気配も滲ませていた。例のラボで、モリーとある事件について話していたシャーロックが、話頭を転じようと「元気そうだな」と言うと、モリーが「ええ。いいセックスをしてるから」としれっと答えるシーンがある。2年前まで常にオドオドしてシャーロックの顔色を窺っていたモリーだが、今やある種の落ち着きを備え、シャーロックとは対等の友達になったのだな、という気がした。



そして、シャーロックがある事件の推理に関連して、ワトソン君のミドルネームが「ヘイミッシュ」だという事を知っている女について考えているとき、幻影のように一瞬、彼の脳内にアイリーン・アドラーが登場するのはファン・サービスか。ニヤリとする。シャーロックは、「僕の頭から出ていけ。忙しいんだ」とその幻を追っ払う。



今回の初顔としては、メアリーのブライズメイドの1人にブルネットの美人が居て、彼女はシャーロックに好意的であり、結婚式の夜のダンスパーティの際には、ひと気のない部屋でリハーサルのように二人でワルツを踊ったりもする。シャーロックは、「実はダンスが好きなんだ」とか言って、彼女の前でピルエット・ターンを披露したりもする。(おやおや、随分くだけたものだねぇ)





バッチ君は身のこなしが軽く、動きが滑らかなのでダンスも上手いだろうな、と常々思っていたが、その気でやればかなりいい感じで踊れそうだ。フレッド・アステアみたいに時にタップを打ち鳴らしつつ優雅に踊るバッチ君も見てみたいものだと思った。


ピルエットを披露するシャーロック

シャーロックの長い長い脱線スピーチの間に、珍しいシャーロックの姿を色々と楽しめるのもこのEP2の特徴だろう。
スラリとした体つきによく似合っていたテイルコートの正装やら、ブライズメイドとのダンスやら、宮殿の衛兵が被るベアスキン・ハットを被った姿やら、ワトソン君とのスタッグ・ナイトで、はしごしてビールを飲みまくって(大きなメス・シリンダーを持参して、そこにビールを注がせる)ヘベレケになる様子など、普段のエピソードではなかなか見られない姿があれこれと出てきて、お宝ショット満載でもあった。



ちなみに、原作の「四人の署名(The Sign of the Four)」では、依頼人としてメアリー・モースタンがベイカー街を訪れ、父とその旧友のショルトー少佐がインドで手に入れた財宝について、ショルトーの息子から彼女に面会を求める手紙が来た為、メアリーはホームズに面会の同行を求める…。「四人の署名」は毒矢を吹く奇怪な南洋の原住民が登場するなど(EP2の中では、ワトソン君のブログで紹介された事件の中に、吹き矢を使う小人が出てきたりする)、少し面妖な話なので、今回は原作をアレンジした話にはせず、ショルトーなどの登場人物名だけを使い、タイトルで遊び、シャーロックとワトソン君の友情物語の一環として、ワトソン君の結婚式をフィーチュアしたのだろうと思う。

シャーロックは本来、自分のエリアではない状況や場ではあるものの、親友のたっての頼みに応えて涙ぐましく奮闘する。どうなる事かと危ぶまれるような長い長いスピーチをこなし、ワトソン君とメアリーのために作曲したワルツを、二人のダンスの際にバイオリンで演奏し、そしてワトソン夫妻も気づいていなかっためでたい事実をサプライズで伝えて(The Sign of Three:君たちは三人になるんだよ)二人の結婚を尚更に祝福し、さぁ、ダンスだ!と会場にダンスミュージックを流す。

シャーロックとても誰かと踊るのは吝かでない様子だったのだが、ブライズメイドの彼女も、モリーも、既に相手と踊っている。シャーロックは軽快なダンスミュージックで踊り浮かれる人々の脇をすり抜けて式場を出ると、コートを羽織り、いつものように襟を立てて、一人、夜の中へと去って行く…。せんない事とは言いながら、2年間も不義理をしてしまった親友に対して、彼として精一杯の誠意を示した、長い長い一日が終わったのだ。 
…本当に長くて大変な一日だったよねぇ、お疲れ様。


涙ぐましく奮闘し、盛り上がる会場をあとに、一人去っていくシャーロック…

見終ると、ワトソン君と並んで、シャーロックに常にベクトルが向いていたモリーが、人生の次のフェーズに足を踏み出していて、変わらない(あるいは変われない)シャーロックを置いて、ワトソン君もモリーも、人生の駒を一段階か二段階、進めて行っているのだな、という印象が強く残った。

また、シャーロックよりも、もっとisolateなアイスマン、マイクロフトは、何があろうと絶対に結婚式などには顔を出さない。ディオゲネス・クラブの中でルームランナーに精を出している兄にシャーロックが電話して、「何してる。プライベート・ジェットでもなんでも繰り出して、早く来いよ」と言うと、「私は行かんよ。お前も深入りするな。深入りしない事を楽しめ」と兄は答える。





アスペルガーの宇宙人だったシャーロックが、「人間」に近づいてきて、あまりミステリアスでなくなってきた昨今、兄マイクロフトの身辺には依然としてモワリとした霧がたちこめている。ますますもって、その私生活は謎である。Series3では、EP1でも兄弟の間で「孤独」について言い合うシーンが有ったけれども、マイクロフトは、シャーロックよりもずっと筋金入りのsolitudeである。世間的に見れば、この兄は政府の組織内で責任あるポジションにいて、常識と分別のある普通の男のように見えるし、そう思われてもいるのだろうが、マイクロフトのsolitudeの根は、弟よりもずっと深いところから張っているような気がする。優しいところもあるが、非常に冷たいところもある。それらが悉く、弟よりも陰翳が深い。かように興味深いキャラ設定ゆえに、マイクロフトの生活ぐらいは謎のままにしておいて欲しいものだけど、またどこかでいつか、ネタばらしのエピソードが作られてしまうんだろうか。作らないでおいてくれると嬉しいんだけど。

それにしても、あんなごくフツーの両親から、この兄といい、弟といい、異様なまでに個性の強い変わり者の息子ばかりが生まれたのは何故だろうか。もしかすると、それが「Sherlock」というドラマを巡る最大のミステリーであるのかもしれない。

コメント

  • 2014/01/12 (Sun) 20:44

    kikiさんこんにちは。
    なんというか、ホームコメディみたいなノリでしたね。EP1の終わりが新悪役の登場だったのに、ありゃりゃその続きがこのトーンかい、みたいな印象を受けましたけども(笑)
    その中で、披露宴会場にいないにもかかわらず感じたのはマイクロフトの存在感。意味ありげな電話の会話も、シャーロックのマインドパレス?内で謎解きの方向をsuggestする姿も。初めの頃は兄に対して「寄るな触るな近寄るな」だったシャーロックの中で、これまでとは違う形で存在が増しているのかなと思いました。
    大切なものが増えていくことでシャーロックがどんどん人並みの人間性を持つようになっていますが、私もマイクロフトには、複雑な内面の謎めいた人間でいてほしい気がします。

  • 2014/01/12 (Sun) 22:59

    annaさん こんばんは。
    ほんとにねぇ。ホームコメディでしたね。山田洋次かって感じ。なんか作り手側が内輪受けして面白がっちゃってる、という気配も感じられました。このEP2については、あまりにホームコメディだったので、ワタシの気分としては番外編として流すことにしたんですが、EP1の時から既にして、今回のSeries3は受け狙いが過ぎるというか、ドタバタとコメディ色が強いという感じが滲み出ていて、あまりにSeries1、2のカラーと異なりすぎていて些か脱力気味です。もしも最終のEP3の出来がなんだかなぁ…という感触だったら、ワタシは次のSeriesにはもう期待しないかも(笑) あー、そっちに行っちゃうと方向違ってよ、という方にいっさんに突き進んでいきそうな気配がするのでね。次のSeriesではドクター・フーの俳優を出すとか出さないとかいう話もあるけど、どうでもいいというか内輪受けが過ぎるというか…。(モファットは、このドラマは縁故採用だからね、なんてジョーク言ってたらしいけど、内輪受けや公私混同も過ぎるとクドイですわね)
    今回は急激にシャーロックのキャラを雪解けさせすぎの観も。「The Hounds of Baskerville」ぐらいな感じが頃合なんだけど、行き過ぎるとね…。シャーロックが「ちょっと対人関係が不器用なだけのフツーの男」になってしまっては面白くも何ともないのだ、という事を再認識してほしいもんですが、もう遅いかも。
    マイクロフトが最後の砦という感じですが、両親があんなに捻りもなくフツーの両親だという事が明らかになっては、ホームズ兄弟の確執だって、甘い両親に愛情いっぱいに育てられた何不自由ない家庭の中で、優秀で支配的な兄と、それに反抗する年の離れた弟との間のよくあるイザコザで何がどうってことでもないんだろうという推測が成り立ってしまいますわね。はー。全然ミステリアスじゃないな。ワタシ的には、何と言うか、これまでのところ、あの素晴らしかったSeries2で盛り上がったものを一挙にぶち壊したSeries3、という印象ですが…さて、EP3の出来はいかに。

  • 2014/01/13 (Mon) 22:04
    番外編ー!

    番外編!そうですねー、そうゆう見方だとありかな~とS3EP2のあと、えっ?ええっ!!と動揺していた気持ちがやすらぎました。原作だとワトソン夫人は亡くなってしまうし~、つかの間の平和かしらなどと自分なりになんとか着地点を探していたのですが・・・、EP3から浮上してください!と期待しています。


  • 2014/01/13 (Mon) 22:39

    joveさん
    EP2は脱線が過ぎてなんじゃこりゃ?のテンコモリというか、脱力の大渦巻きという感じでしたが、あれはチェンジオブペース的なエピソードかなと思います。そしてEP1、EP2はEP3の伏線に過ぎなかったのだ、とEP3を観て分かりました。EP3はさすがにスティーヴン・モファットというべきか、それにしてもやり過ぎというべきか、もう凄い事になってます。それまでのユルユルがグワっと引き締まって緊迫し、余談を赦さない展開になってとても面白かったんですが(3本全部この調子でやって欲しかったんだけど、まぁいいか)、次から次へとようやるわ…と言いたくなるような怒涛の展開です。ワタシの英語力では聞き取れないところもあれこれあって、じっくりのレビューはDVDが来てからしか書けないけれども、ざっくりとした感想は近々書こうと思います。いやはや…今後どう転がしていくんだろうか、このドラマは(笑)EP3のラストは賛否両論噴出しそうです。というか、UKではもう大騒ぎになってるんじゃないのかな。ふふふ。

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