「アメリカン・ハッスル」(AMERICAN HUSTLE)

-オフビートな“ハッスル”コメディ-
2013年 米 デヴィッド・O・ラッセル監督



話題作だし、キャストの顔ぶれも面白そうだったので久しぶりに映画館へ。
実話をベースにした、オフビートなコメディとでもいうべきか。確かに主演と助演、二人の女優の演技が物凄く目立つ作品だった。男優陣もかなり頑張ってはいるのだけど、女優二人の演技と存在感が強烈なので、なにやらかすんでしまっていた印象。
俳優陣のモサいヘアスタイルとダサい衣装に思わず笑みが浮かんでしまう。
70年代ってこんなにダサクサ大行進だったのかなぁ。ふふふ。
本作は、1979年にFBIが詐欺師を使って仕掛けた実際にあった囮捜査をクライム・コメディとして映画化したもので、「事実が含まれている」内容であるらしい。だから全て事実というわけではなく創作も入っているのだろうが、ノリとしては不思議な映画という感じで、スピーディでもなく、パンチが効いているわけでもなく、オチもなんとなく途中から予測がつくし、騙しあいのゲームで最後に笑うのは誰か?という筋書きの割には、さほどの緊迫感もない。俳優たちのヘアスタイルがみなヒトクセある事に象徴されるように、細部に奇妙なコダワリを見せ、折々、ぷふ、くすくす、というような笑いを誘う、かなりオフビートなノリの作品。不思議な雰囲気の映画だなと思いつつ観たが、面白くなかったわけではなく、かといって凄く面白かったというわけでもない、でも、キライじゃないな、という感じの映画だった。
例えば、詐欺師のローゼンフェルドがパートナーのシドニーとパーティで出会うシーンで、二人がたまたまデューク・エリントンのある曲を好きだった事で距離が縮まるシーンなど、ふふふ、と思いながら眺めた。
見た目はダサイけどカッコなんか気にしていない、自分をそのまま曝け出しているところが気に入った、とシドニーがローゼンフェルドについて思う。ワタシは、ふぅん、そうなのだね、と思いつつ眺めた。



本作にメインで登場する俳優たちは、みな、それぞれデヴィッド・O・ラッセル作品に出演したことのある人たちで、監督は、気心の知れた俳優たちを使って楽しんで作ったのだろうな、という印象だ。
特殊メイク(多分)でメタボ腹、ハゲヅラでバーコード頭になり、頑張っていたクリスチャン・ベイルであるが、やはりいかに頑張っていても、何故にこの役をベイルが?という違和感は拭えなかった。薄毛の一九分けでメタボ腹でも、何故かモテモテの天才詐欺師ということでベイルをキャスティングしたのかもしれないが、どうしてこの役を彼が演じる必要があったのか本当に不思議である。別に、ベイルはスマートでイケメンであるべきだ、などと言っているわけではなく、ただ、「なぜに?」と感じてしまうのだ。ふと我に返ると。
しかも、そこまで頑張って冴えないメタボ中年に身をやつしたにも関わらず、そのキャラには天才詐欺師らしいオーラやケレン味などは殆ど無かった気がする。それはベイルのせいではなく、ローゼンフェルドという詐欺師のキャラがそういう描かれ方なのだが、役の雰囲気としては、ボー・ブリッジスあたりが演じると特殊メイク不要でピッタリはまったのではないかと思った。とはいえ、ベイルは、言われなければ分らないぐらいに姿を変え、俳優が役を演じているのではなく、その人物になりきっている、という感じはした。冒頭の、懸命なハゲ隠しのシーンには奇妙なおかしみが溢れていた。



ブラッドリー・クーパーもくるくるの大仏頭で、直情径行でお調子者のイカレポンチなFBI捜査官を演じて、泣き笑いの起伏も激しく、ベイルよりはずっと目立っていたし、こんなに達者に動いてしゃべるこの人を見たのは初めてのような気がするけれども、やっぱり女優二人には吹っ飛ばされた観がある。



プレスリーの出来損ないか、短めのレニングラード・カウボーイズか、というヘアスタイルで地元密着型の熱血市長を演じたジェレミー・レナーもしかり。しかし、レナーの演じた無教養だけれども血の熱い、地元に産業をもたらしたい一心の市長に、詐欺師のローゼンフェルドが友情を感じてしまう気持ちは観ていてよく分かった。彼が捕まるような事があったら堪らない、耐えられないとローゼンフェルドは言うのだが、地元に産業を根付かせたいあまりに裏金を受け取って汚職政治家のレッテルを貼られてしまった市長は気の毒ではあるし、詐欺師にとっても、この市長を巻き込んだのは痛恨事だったに違いない、という感じはよく出ていた。



男優陣の中でただ一人、ワンポイント出演で伝説的な初老のマフィアとして登場したロバート・デ・ニーロだけはさすがの凄みと存在感で異彩を放っていた。こちらもハゲヅラを被って老けメイクをしていたが、メガネの奥から光る鋭い眼光や、全体から醸し出される危険な威圧感など、ビリビリ来ていた。凄みが空中放電していた。さすがデ・ニーロ。ワンシーンだけでも、グワッシと場を浚って行く。
なりきり演技で有名な人だけれども、ワタシにはこれまで、何を見てもデ・ニーロって感じがするなぁ、としか思えなかった。デ・ニーロという俳優の色が濃すぎて、役になりきるのではなく、デ・ニーロが多彩な役を演じている、としか見えなかったのだけれども、今回は、マイアミにいる初老の顔役、という雰囲気がリアルに漂ってきた気がした。顔や表情の凄みがきいていたせいだろうと思う。

そして、主演と助演の二人の女優はというと…。
エイミー・アダムスは、化けたな、という印象。デビュー当時は、どこか頼りなげな、何の変哲もないカワイコちゃんという雰囲気だったエイミーだが、ただの添え物のカワイコちゃんでは終わらずに、一作ごとに自力をつけて、ついに本作で大化けしたという感じだ。本作の彼女はノーブラで胸元がお腹まで開いているブラウスやワンピースを着ているシーンが多かったが、そこまで露出が派手でもtoo much感のない、暑苦しくない雰囲気が身上なのだろう。
ともあれ、彼女には存在感があり、メリハリが効いていて、押しも押されもしない主演女優の華があった。カワイコちゃん系の顔立ちは同類だが、メグ・ライアンには無かった演技力を持つのがエイミー・アダムス。メグ・ライアンがどうしても越えられなかった壁を楽々とクリアして、更なる次元に踊り出た、という感じだろうか。今後ますますのし上がっていきそうな気配十分だ。


ちょっとニコール・キッドマン風味もあるか、エイミー・アダムス


また、今回初めて動いてセリフを言っているのを観たジェニファー・ローレンスは、若いのに年増女のような太々しい存在感をかもし出す、下品で情緒不安定な若い詐欺師の妻を自然体のなりきり演技で演じていた。確かに上手い。お若いのに大したもんである。こういうのはやはり持って生まれた才能のなせるワザなのだろう。ジェニファー・ローレンスの演技を見ていると、努力とか計算とかではなく、天性の勘の良さでキャラクターに求められるものをガッチリと把握しているのだろうな、と感じる。…なるほど。やっぱりタダモノじゃないんだね。
この若妻は、情緒不安定でハチャメチャかと思いきや、アホではなく、アホではないが情緒不安定で、カっとなると不用意に何を言うか分らないその直情径行で、苦心の囮作戦を崩壊寸前に追い込むのだが、最後の最後に夫だった詐欺師から、相変わらず面白い、と思われる憎めないキャラクターだ。



エイミー・アダムスとジェニファー・ローレンスは、クリスチャン・ベイル演じる詐欺師を中に挟んで、かたや愛人、かたや妻という関係なのだが、二人が直接対決するシーンもあって、見ていてニヤニヤする。この二人の女優の活き活きしていること、双方、役を十二分に演じつつ自らの魅力も存分に発散している様子を見ていると、デ・ニーロ以外の男優が全部かすんでしまったのも無理はないかな、という気もする。



ベイル演じる薄毛でメタボの詐欺師は、この魅力ある二人の女から愛される役なのだが、優しいところのある男だとはいえ、彼のどこにそんなにも魅力があるのか、正直、ワタシには最後まで分からなかった。



本作は、騙し騙されのシーソー・ゲームにポイントが置かれているわけではなく、この囮作戦に関わった人々の、どこかとぼけてて、どこか過剰で、けれども、なんだか憎めない人間ドラマを、時折のぷぷ…という笑いを織り交ぜつつ描いたコメディだ。だからストーリー展開だのスピーディな演出だのに期待して行くと、あれ?という感じになるかもしれない。ワタシの印象としては、ちょっと不思議なノリの映画、という感じだったが、それなりに楽しんだ。
140分近い長尺のこの映画で何よりもアリアリと印象に残ったのは、70年代ファッションのギャグのようなダサダサ感と、デューク・エリントンのジャズのワクワクするような弾んだイントロだった。

コメント

  • 2014/02/08 (Sat) 00:31

    kikiさん
    好きな男優が一人もでないこの映画、たまたま上映時間が都合よかったから観たので、途中で帰ろうかとも思ったのですが結局最後まで観てしまいました。
    70年代の雰囲気がぷんぷんで懐かしい映画でした。
    ウインターズボーンの少女がよくもまあ、下品でふてぶてしい、でも憎めない、可愛いところもある女をまるで素のように演じてました。Jローレンス、あまりに若くて才能豊かな女優です、これからがもっと楽しみだけど、でも少し心配ですね、ハリウッドに消費されないように祈ります。まあケイトウインスレットのようにしたたかに(彼女はイギリス人ですが)やってほしいです。
    エイミーアダムスはその点、下積みが長くてある意味安定感がありますね、ぶれない感じ。映画では、最初から最後まで半裸の衣装ですが下品な感じがなくて面白かった。ベールはあの映画で太る意味あったのかしら。詰め物でもなんでもして鬘でも十分だったのでは?それでも表情とかがシャープなのであの体と比べて違和感ありでした。
    短めのレニングラードって、kikiさん、笑いましたよ、あの髪型のせいか、Jレナーも最後まで同情してしまいました、、田舎の市長の質素な家と子だくさん、市民のためにがんばったのに。

  • 2014/02/08 (Sat) 17:06

    ふうさん
    確かにねぇ。男優は魅力薄というか、誰にも興味無しなんだけど、ワタシはこの映画は女優陣を観に行きました。ことに昨今、大評判だけど、一度も出ている映画を観た事がなかったので、ジェニファー・ローレンスを観てみたくてね。なるほど、大したもんでしたわ。若いのにねぇ。彼女はハリウッドに消費しつくされるってことはないんじゃないかな。しっかりしてそうだし、若くして富と名声を得ても、あまり変な事にならないタイプじゃないかな、とお見受けするのだけど、どうでしょうねぇ。一見落ち着いているように見えても、マトモそうでも、ドラッグにハマって人生パーっていうのはよくある話なので、気をつけてほしいですね。誘惑の多い世界だけにね…。
    エイミー・アダムスは年々歳々、しっかりと前進してますね。なかなかですわ。地味だけどいつの間にか大物になっちゃうというタイプですかね。でも確かに上手いと思います。今後もがっちりとキャリアを積み上げていくんでしょうね。この映画では今まで観た中で一番キレイに映ってました。
    クリスチャン・ベイル。ワタシは特殊メイクにハゲヅラだとばかり思ってたんだけど、やっぱり実際に太っちゃってるの?あのお腹は自腹?髪も抜いちゃってるんですかしら。あだだー。あの人はデ・ニーロを上回るデ・ニーロ・アプローチを毎回試みる人だから、やっちゃってるのね、きっと。でもあまりにもその甲斐がないというか、何と言うか…。ハゲな事も太ってることも、なんらストーリーに影響してないので、特殊メイクにハゲヅラで十分なのにね。しかも、そこまでのめり込んでも、キャラとしてはさほどの事もない役だし(一応、主役だけど)。過ぎたるは及ばざるがごとし、の典型かなとも思いました。ジェレミー・レナーは役にピッタリでしたね。それと、やはりデ・ニーロはさすがに凄い、と今更に感心しました。

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