10代のワンダー・ボーイズに見る新しい日本人像

-ソチ五輪の若い日本人メダリストたち-



なんだかんだと言いつつも、いざ始まると折々見ている五輪中継。
今回、日本のメダリストは10代が主流。先が長くて頼もしい。特徴的なのは、顔は子供の頃から同じ顔の、アッサリ、サッパリのかわいい顔だちでいて、あっけらかんと世界最高峰のワザを決め、結果を出しても舞い上がる様子もなく淡々とマイペースというところ。フィギュアの羽生王子は勝負のFPで、さすがに極度の緊張から彼らしくもないミスをしてしまい、五輪の重圧は格別なのだねぇと思ったのだけれども、SPまでの自信に溢れた様子は、これまでの選手とはメンタル面の強さが違うなと感じた。また、スノボーの平野・平岡コンビの淡々としたあっけらかんさは子供のうちから広い世界に出る事に馴れ、「自分の好きな事を楽しんでやっているけど、幼い頃からプロである」という透徹した自意識も影響しているように思う。日本の10代のメダリストたちの姿に、新世代の日本人像を垣間見た気分になった。

今回、日本のメダリストの第1号が、チャラチャラしているとか服装がズン垂れているとか、これまで何かと態度物腰を非難されてきたスノボー競技から出たというのは、画期的な事だったと思う。しかも、銀メダリストの平野歩夢も、銅メダリストの平岡卓も、いわゆるヨーヨーメーン!的なイカレポンチではなく、双方、父親の手厚いサポートを受けながら、極めて早い時期に才能を開花させた天才少年達だという事で、スノーボーダーに対して日本人が持っていたイメージを塗り換える役目も果たしたような気がする。



15歳の天才・平野歩夢に注目が集まるのは無理からぬところだけれど、ワタシはもう一人の天才、18歳の平岡卓(以下、卓ちゃん)の方により好感を持った。のんびりとした口調で、いつも眠そうな卓ちゃんは奈良県の出身。雪の殆ど降らない地域に生まれて、スノボーの世界的な選手になるとはビックリだけれども、そこにはお父さんの涙ぐましい週末のスキー場送迎があったとか。奈良から岐阜のスキー場まで片道5時間かけて車で通うというのは並大抵じゃない。シーズンともなれば毎週末のこと。普通では出来ない。お父さんはかつてフリースタイルスキーの選手だったらしいけれど、家族で行ったスキー場で、幼い息子の並々ならぬスノボー・センスに気づき、それを伸ばしてあげようと決意したお父さんの意志の強さはやはり、元競技者のド根性だろうか。


卓ちゃんの銅メダル・ラン

もうひとつ凄いのは、平岡家ではそれだけ気合を入れて息子のスノボー練習に協力していても、競技者としての人生が終わった後も人生は続くのだから、と勉強にも手を抜かないように息子を育ててきた、という事。卓ちゃんは冬はスノボー、雪のない時期には筋力を落とさないために野球部に入って運動を続けながらも、学校の成績も良くて、既に志望校(立命館大学)への進学も決まっているとか。しっかりしてますね。眠そうだけど成績良いんだ、カッコいいな卓ちゃん。


よく見ると目がキレイな卓ちゃん 鳶色に近い、茶色がかった瞳をしている

かたや、平野歩夢少年はスケボーとかスノボーとか、とにかく板に乗って滑る事を宿命づけられていたような生まれつき。お父さんは地元のスケボー施設の管理運営をしているし、3歳上の兄が板に乗っているのを追いかけて、「いつから乗ったか記憶にない」ほど小さな頃からスケボーに乗って滑ったり、ジャンプしたりしていたらしい。4歳の時のスケボーの映像を見たけれども、顔は今と殆ど変わらないまま、本当にちっちゃな頃から楽しそうに達者に滑ったり跳んだりしている。ついでに書くと、3歳年上の兄と、彼と、まだ小学生の弟はみんな顔がソックリ。かわいい顔で、よく似ている。粒の揃った兄弟である。


お兄ちゃんと一緒 よく似た兄弟だ


懼れ知らずの15歳 どこまで跳んでいくのやら

彼は、スノボーの世界においても、日本のスポーツ・シーンにおいても、これまでとはスケールの違うワンダー・ボーイである事は間違いない。好きな事をやって頂点を極めるためには、どんな努力も惜しまないのは他の競技の選手と同じかもしれないけれども、彼はとにかくアッケラカンとしている。足がすくんだり、緊張で動けなくなる、なんてこととは無縁のようだ。国内無敵の彼の主戦場は欧米なのだが、長時間、飛行機に乗ってあちこちに移動するのは中学生の身にはしんどいだろうし、食事の面でも国内にいるのとは事情が違ってくるだろうけれど、そこをおして、早くから世界に出てツワモノたちと鎬を削っている事が、大舞台でも平常心で臨める勝負強さに繋がっているのかもしれない。力んでいないし、気負ってもいない。でも目標は高いところに置いて、最大限の努力をする。高い点数を得るためには、どこにポイントを置かなくちゃならないのかも、きちんと把握している。しっかりしているが、お母さんの手料理が食べたい、という子供らしい面もちゃんと残している。とにかく変な力みが無いのが良い。


平野歩夢 銀メダルのラン

天性の勘の良さに加えて練習熱心な事が、天才少年のミラクルな戦績を支えているのかもしれないが、天才は歩夢少年だけではない。卓ちゃんだって普通のハーフパイプの選手が習得に何ヶ月もかかるワザを3日でマスターしちゃったりするような天才肌であり、この二人が、やたらにコンディションが悪くて選手たちから苦情が相次いだというソチのハーフパイプのぐちゃどろのコースをものともせずに高得点を挙げるワザを決められたのは、どんなコースにも即座に合わせられる天才的な勘の良さと抜群の平衡感覚を持っていたからなのだろう。妙な緊張でダメにならないというメンタルの強さも共通している。加えて、共に世界を転戦しながら、お互いにいいライバルとして切磋琢磨しているという状況もいいのかもしれない。

歩夢少年はこの先、義務教育を終えたらアメリカの高校にでも行って、拠点をアメリカに移して華々しい競技生活を続けるのではないかという気がする(わからないけど何となく)。一方の卓ちゃんは軸足を日本に置いて、大学でも優秀な成績をとりながらスノーボーダーとしても世界トップクラスの選手であり続ける、という感じじゃないかな、と推察される。いずれにしても、この二人は気負いなく、サラリとしてて、大舞台に強く、ものおじせず、アグレッシヴなアピールも特にしないけれども、競技者としてはバッチリと結果は出すという、実に新しい日本人だな、という気がする。変にガツガツしていないところも好ましい。でも、やる時はやるのだ。


仲良しだけどライバルな二人

それにしても、ごく若いうちに自分が好きな事、本当にやりたい事がみつかり、素質にも恵まれ、目標に向けて順調に進める環境にも恵まれて、家族の手厚いサポートの元でノビノビと才能を発揮できるという事は、つくづくと幸せな事だな、と彼らを見ていると感じる。

スノーボードでは、ハーフパイプの他に新種目のスロープスタイル、というのが面白かった。殊に男子は技がダイナミックで目に爽快。いかにも元はスケボーなんだろうね、という感じのする競技だった。

そして、フィギュアの羽生王子。この人は結弦(ゆづる)という名前の通り、細くても強靭な弦という感じである。おとなしそうに見えて負けん気が強い。今回の五輪でも、個人のSPでは、FPの時に限らず試合前の6分間の練習時間には割に緊張した顔つきをしていたので大丈夫かな、と思っていたら、本番ではこれ以上ないパフォーマンスでバッチリと決め、最高点をマーク。このパフォーマンスは凄かった。気合も入っていたし、体のキレも良かった。この人はエモーショナルな表現力と鋭く素早く廻るキレイなジャンプを双方持っているので、鬼に金棒なのかもしれない。



か細い体で図太いメンタルを持つ羽生王子。やはり東北のド根性だろうか。あの震災では家が潰れて避難所生活も経験したという羽生王子。ちょっとやそっとでは平常心を失わないのだなぁ、と思っていたが、その羽生王子にしてもメダルを決するFPには緊張してミスしてしまった。やはり人の子。そうそう平常心は保てなかったという事か。五輪というのはよくよく魔が棲む空間なのだろう。結局はカナダのチャンも重圧に負けてあれこれとミスをしたので点が伸びずに逃げ切る事ができたが、実に危ういところではあった。SPで100点越えの高得点を出しておいて本当に良かったねぇ。それでも、チャンがキム・ヨナばりの強心臓でノーミスで滑ったら逆転されてたところだったかもしれない。 …ふぅ。薄氷。でも勝ちは勝ちだ。

SPまでの羽生結弦は、重圧などどこ吹く風のニュー・エイジだと思ったけれども、やはり旧世代の選手達の尻尾もどこやらに残しつつ成長してきているのだな、と思ったワタクシ。
次の五輪は、あの半島での開催なので、リンクの内外でなにやら様々の不愉快な事態が想像されるけれども、一段とメンタル面を強くして、何があっても切れない強靭なテグスのような弦になって、様々の雑音、雑念を排除し、ディフェンディング・チャンピオンになってほしいものだと思う。
余談ながら、同じ宮城県出身だからなのかどうなのか、羽生王子、どことなくクドカン(宮藤官九郎)に面差しが似てやしないかと思ったのはワタクシだけ?


同郷人 実はさりげに、かなり似てる気が…

***
男子フィギュアといえば、かつて銀盤を沸かせた選手たちの栄枯盛衰にも思いを馳せた大会でもあったソチ五輪。
鼻の皇帝、エフゲニー・プルシェンコは腰を痛めて個人戦を棄権せざるをえなくなり、そのまま引退。団体戦で金メダルを取ったからまだしもだったけれども、皇帝としては無念な引退だっただろう。やんぬるかな。これもさだめというものか。なかなか有終の美を飾るというのも難しい事である。



このプルシェンコあたりと長年競い合ってきたフランスのブライアン・ジュベールもずっと4回転にこだわって演技を続けてきたものの、若い頃には4回転がなかなか得点に反映されず、4回転が主流になってきた今は、競技者としてピークを過ぎてしまったという皮肉な五輪人生で、う~む…という感じ。なんとも言葉がない。ジュベールもソチを最後に引退を表明。また、高橋大輔も今回を限りに引退という事で、この五輪は世代交代の大会になったのかもしれない。
高橋大輔のFPは、気負いなく、清々しい顔つきで滑っていて、大きなミスもなく流れに乗っていて、とてもよかったと思ったのだけど技術的な点があまり伸びなくて残念だった。最後に銅メダルにでも食い込めると良かったのだけれど…。勝負の世界は本当に厳しい。



ジュベールは久々に目にしたのだけれど、かなり体付きががっしりとしているな、という印象だった。ジュベールに限らず、総体的に筋肉質でガッチリとした体型の選手が多いな、というのがフィギュアの男子シングルの選手たちを見ての感想。衣装もイマイチな印象のものが多かった気がした。欧州系の、見ているだけで楽しくなるような美形選手は、今回は殆ど居なかった気がする。王子様系のルックスの選手は羽生王子以外には見当たらなかった。また、余計な事だけど、アメリカの19歳の新鋭ジェイソン・ブラウン選手は、仕草や雰囲気など、ほのかにおネエな空気を漂わせていた気がした。

また余談ながら、フランスのTV局の解説者として現地に来ているというキャンデロロが日本選手の印象を語っていたのをたまたま見たのだけど、キャンデロロ、見事にオッサンになっていた。41歳にはなっているので、まぁそんなもんだろうかとも思うけれども、オッサン化していた感は否めない。ワタシがそこそこフィギュアを見ていたのは、キャンデロロがダルタニャンなどを滑っていた頃なので、特にファンではないけれどもよく覚えていた選手なのだが、あらまぁ…という感じだった。時の流れは早い。

***
と、あれこれ勝手放題な事を書いてきたけれども、この深夜にはジャンプのラージヒル決勝もある。葛西の飛び屋魂炸裂、そして若手の大飛躍に期待したい。
また、先日はノルディック複合も久々のメダル獲得で、荻原兄弟はそれぞれ、兄は修三ばりの大興奮、弟は放送事故寸前の感極まりようだったけれども、これは無理もないと思う。ノルディック複合の90年代の輝かしい栄光のあとの長く苦しい歳月を思えばね…。そりゃ舞い上がりもするし、号泣もしちゃうでしょう。ノルディックの復活は本当に険しい苦しい道のりだったのだもの。大目に見てあげませう。ぺふぺふ。

ということで、あれやこれやの五輪雑感でした。

コメント

  • 2014/02/17 (Mon) 11:23

    kikiさんこんにちは。
    キャンデロロという懐かしいお名前に反応♪
    その昔、フィギュアスケートってショーなのねと思わせてくれた御仁でした。ソチにもいらしていたのね。
    おっさんになっていた彼を見たかったような見なくてよかったのか、
    複雑。ジュベールもお若いときはスレンダーな王子様系でしたのに、
    年を経るごとに今のような風体に。欧米人の美貌の衰えは早いのかしらん?


  • 2014/02/17 (Mon) 13:12

    オリンピック、始まってみるとやっぱり見てしまうし、
    日本人選手の成績も気になる。
    わたくしとしては、今までまったく興味のなかったアイスホッケーに萌え。縦・横にでかいシロクマのような男どもが肉弾戦を繰り広げ、切れのいいスケーティングでリンクを縦横無尽に走りまわる。たまにもめごとがあるけど、ご愛敬。
    先日の米露対決は1万人を超える観客が観戦。濃い試合内容で最後まで楽しませてくれました。あれじゃ仕事が手につかなかったのかプーチン大統領もスタンド後ろから観戦する様子がちらりと映ってました。決勝でもまたぞろ米露対決が見られる可能性があるのでこれまた楽しみです。
    ハープパイプで銀・銅を勝ち取ったふたりを見て、思い出すのが國母和宏君。今回はアドバイザーとして師匠として勝利に貢献してくれたと思います。16歳で単身渡米して今ではボードで生活を成り立たせている日本スノボ界(?)の先駆け國母君のお父さんも「好きな事をやれる人生がいい」。自分の子供が「人と違う」ことを受け入れてその個性を伸ばすにはどうすればいいか真剣に考えて子供に寄り添い、いつも応援するなんて、おカネの面、体力の面などなど苦労があるはず。
    メダリストのみならず選手たちの周りには物心両面でサポートするあまたの人々の存在を感じます。

    • あんだーぐらうんど #-
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  • 2014/02/17 (Mon) 20:08

    ご無沙汰しております。
    関東は雪がすごかったですね。
    kikiさんはどうお過ごしでしたか?
    なかなかこちらを訪問する余裕がありませんでしたが、
    先日「鑑定人と顔のない依頼人」を観に行ってkikiさんも観られたかなと思い、覗いてみました。kikiさんのレビューを読んでなるほどねと思いました。
    kikiさんにとってもあの映画は面白かったということでしたね。
    わたしも実にそうで、実はわたしの知人でこの主人公そっくりの人物がいるので、彼に照らし合わせて鑑賞出来、大変楽しかったです。
    主人公もわたしの知人もおそらく自己愛性人格障害だと思います。
    そしてわたしの知人もアノ映画の主人公とまではいかぬとも近い内に何か起こりそうな…ま、周囲での噂ですけど。

    ソチオリンピック、kikiさんがおっしゃるように、最近の十代の子たちは遊びや趣味の中からプロになったり、競技に出場したりして成績を出しますね。
    緊張もしてるだろうけど、外見上では実にリラックスして、なんか頼もしかったり。
    で、モーグルの上○愛子とかは何回もオリンピックに出てるのに、いつもあと一歩及ばずだったり…
    これもまたいろいろと象徴してますなァ。



  • 2014/02/17 (Mon) 23:42

    akoさん
    キャンデロロ。すっかり忘れていたんだけれど、ふいに画面に出てきて、あれあれという感じでした。何か髪も減ってきていた気配だし、全体にオッサン化してましたわ。太ってはいなかったけれど。昨今41といってもまだ若いんだけれど、キャンデロロはふた昔以上前の40代って感じでした。見なくて良かったんじゃないかしらん。ジュベールもかなりガッツリ系になってましたねぇ。こういう感じだったっけ…?みたいな。
    昨今は欧米人でも、あまり老けない人が多くなってきた気がするのだけど、今回のおフランス系二人は、フツーにオッサン化しちゃってたかな、という感じでしたね。

  • 2014/02/18 (Tue) 00:02

    あんだーぐらうんどさん
    アイスホッケーに萌えてるんですのね。ほっへ~、そうなんだ。ワタシは残念ながら一度も観た事ありませぬ。そのアメリカ対ロシア戦って面白かったみたいですね。シロクマみたいな男達ね、ははは。そんな感じですね。アイスホッケーは、きっと何かでふと見始めたら面白くなって見ちゃうのかもしれませんわね。

    自分の子供が幼いうちから、何かに才能があると感じたら、親はやっぱりそれを出来る限り引き出そう、伸ばしてやろうと思って目一杯お金も時間も体力も使っちゃうのかもしれませぬわね。親の夢が先行しちゃって、子供がそれに合わせて頑張るっていう場合もあったりするのかも…(笑) ともあれ、スポーツ選手のみならず、一人突出して表に出る人の陰には、それを支える人、見守る人が沢山いるんざますわね。確かに、そういう人々の存在を、どの選手の背後にも強く感じますね。

  • 2014/02/18 (Tue) 00:12

    sanctuaryさん
    お久しぶりですねー。お元気でした?
    ほんと、ここのところ雪が凄くて東京じゃないみたいです。
    最初は面白がってたけど、二度も続けて週末に降るといささかゲンナリです。

    「鑑定士と顔のない依頼人」ご覧になりましたか。そして、面白かったですか。かなり個人的に面白がるツボがおありでしたのねん。自己愛性人格障害か。なるほど。知人の方はどんな結末を迎えられるんでしょうか。…まだ始まってもいないかもしれないですね。失礼つかまつり。

    ソチ五輪は10代のワンダー・ボーイズと、苦節のベテランがいい具合にメダルを取ってますね。何かしら微笑ましいというか。スノボーの二人、かわいくって好きだな。一方の苦節の燻し銀、葛西も心底応援したくなりますね。みんなそれぞれドラマがあるな。だから、オリンピックって始まるとついつい見ちゃうんでしょうね。

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