「花子とアン」はこぴっと面白い その2

-蓮子様のなかの神野桜子-



前回の記事にも書いたとおり、ワタシとしてはかつて無かった事ながら、毎朝それなりにチェックしている「花子とアン」。ここのところ、はなが故郷に帰って教師になった時期を描いていたけれども、来週からは再び東京に出てくる様子で、はなのパルピテーション炸裂となるかしらんね。ふふふ、楽しみです。

さてさて。吉高由里子が意外にも庇髪に着物に袴という古風な明治・大正の娘さんファッションが似合って朝ドラヒロインが板についている「花子とアン」なれども、彼女だけではなく、かなり脇キャラがしっかり立っているのも、このドラマが好調な理由でしょうね。


それらしい雰囲気がよく出ている吉高由里子


中でも脇に回って光っているのが、仲間由紀恵。彼女が演じる蓮子さまはこのドラマの大きなアクセントですわね。仲間由紀恵の演技についてなんて、これまで一度も考えた事はなかったけれども、案外巧いという事に今回初めて気付きました。山の手言葉もなかなか板についてますわね。で、観ていて気付いた事がひとつ。それは蓮子さまのキャラは、あの「やまとなでしこ」の神野桜子の類型だという事。

意図的にだろうと思うけれども、蓮子さまのセリフには、前に聞いたことのあるフレーズが折々混ざってくるんですわね。金のため(兄の選挙資金のため)、意に染まない結婚を承諾しなければならなかった蓮子が、懸命に翻意を促すはなの声を封じるため(というか、自分でも嫌々ながら家のために結婚するのに、はなの言葉で気持ちがぐらつくのを避けるため)、「大金持ちと結婚するんだから、私はこれから贅沢三昧ができるのよ。兄の家で小さくなって暮らすよりもずっと自由に暮らせるわ。私は巧くやったのよ。私にはこの結婚しかないの」というような事を言うシーンがあったけれども、この「私は巧くやったのよ」と「私にはこの結婚しかないの」は、そもそも「やまとなでしこ」の神野桜子のセリフですわね。



「やまとなでしこ」は、前にもちょこっと書いた事があるけれども、本放送時はかなり話題になっていたにも関わらず一度も観なかったワタクシ。が、その翌年、友人が面白いからとDVDを貸してくれたのを観て、なるほどね、面白いわ、と思ったドラマ。なんと言ってもヒロインのキャラ設定が出色の痛快さだった上に、オードリーの映画「ティファニーで朝食を」(カポーティの原作の方ではなく)のエッセンスを、巧く今の日本に置き換えてドラマ化しており、脚本家の中園ミホの名前も、その時にチェックした次第。

「やまとなでしこ」でこのセリフが出て来たのは、ボンボン医者の東十条さんとの結婚話が進み、親同士の顔合わせという事になり、桜子は仕方なく田舎の漁村から漁師の父ちゃんに出て来てもらい、付け焼き刃で「外国船の船長をしている父」のフリをしてもらう。その父を長距離バスの停留所で見送る時に、「父ちゃん、嘘つかしてごめん」と謝った桜子。父ちゃんをバス乗り場まで送ってきた欧介(堤真一)と二人になった時に、自分を納得させるように桜子が言うのが「私は巧くやったのよ」というセリフ。「一番欲しかった夢がもうすぐ叶うんじゃない。今の私にはこの結婚しかないの。だからもう後ろは振り返らない、絶対に。…私は、巧くやったのよ」と言う。金だ金だと言いながら、金持ちのボンボンを愛する事ができない桜子。しかし、好きな男は借金まみれの貧乏人。子どもの頃からの夢は捨てられず、しかし金目当てだけに結婚する自分にも割り切れない。守銭奴桜子のジレンマは深い(笑)

このあと、「子どもの頃から自分を救い出しに来てくれる王子様を待っていたけど、それはあなたじゃない」と欧介に言いながらも、桜子は欧介の肩を借りて10秒だけ泣き、10秒たつと何事もなかったように顔を上げ、「大変失礼いたしました。もう大丈夫」と笑顔で言い、颯爽と去っていく。このドラマの中でワタシが一番印象に残ったシーンであり、桜子という女のキャラが鮮やかに描かれた巧いシーンだと思うが、この、「私は巧くやったのよ」を10年以上たって、また思いがけないドラマ(NHKの朝の連続テレビ小説とはね!)の中で聞くとは思わなかった。

もう1つかぶったのは、蓮子が夫の嘉納伝助(吉田鋼太郎)に「お前の顔と身分以外に、どこを愛せというんだ」と言われるシーン。これも「やまとなでしこ」の中で、欧介が桜子のビッチぶりに飽きれて「あなたの顔以外、どこを愛せというんですか!」というシーンをなぞったものだ。作者が同じなので、なぞったというよりも、お遊びのセルフ・パロディのようなものだと思うが、中園ミホの中で、神野桜子のキャラが、かなり蓮子さまのキャラに流れ込んでいる事がよく分かる。

桜子と蓮子の共通点は、生い立ちなどの過去に消えないトラウマや根深いコンプレックスを抱えながら育ち、表面的には強気でそれを心の奥底に深く隠しているけれども、華やかそうに見えるうわべの下で、常に自尊心は蝕まれ、ともすると血を流している。強気のかげに孤独や根深いトラウマを抱えたヒロイン、というのは、脚本家中園ミホが好む、あるいは感情移入しやすいヒロイン像なのかもしれない。そういうキャラを描くと、そのキャラがとても生き生きしているからだ。



桜子は自分が貧乏から抜け出すために必死であがいているだけなのだが、蓮子さまの場合は、常に妾の子と一段貶めて扱われながらも、実家の兄に家の為だと言われれば、否応もなく倍ちかく年の違う成り上がりの炭坑王との結婚を承諾しないわけにはいかない家のしがらみの重さが、女三界に家なし、と言われた時代を感じさせる。それでも、自分なりにはその結婚にビジョンやプランを持って嫁いだ蓮子だったが、それらは全て無惨に打ち砕かれる。



華族の家に妾の子として産まれた蓮子には、プライドと屈辱が常に背中合わせで同居している。満たされない日常の中で、彼女の自尊心は常に悲鳴をあげている。常に血を流している。けれども、はなにさえそれを見せまいとする強がりな蓮子は、誰にも知られずに一人で泣き、はなの童話を読んでは、一人ひそかに喜ぶのである。その複雑で屈折した痛々しい感じを、仲間由紀恵がよく表現している。
髪の多かった柳原白蓮は大ぶりな庇髪がトレードマークだったようだけれど、それを踏襲して蓮子さまもかなり大きな庇髪を結っているが、それもなかなか似合っている。



こののち、蓮子には待ちに待った運命の男が現れ、大恋愛の果てに姦通罪をはねのけて駆け落ちするのだが、潜在的に、自分をこの境涯から救い出してくれる王子様を心の奥底でずっと待っているという設定の桜子=蓮子のキャラ的にも、物語の流れはばっちりの展開なのだと思う。蓮子さまの大恋愛の相手の若者が、「あなたの辛い事みんな、いつか忘れられる日が来るから。必ず来るから」という欧介のセリフを蓮子に言うかどうか要チェックですねぇ。ふほほ。

一方、価値観の合わない、面倒臭い女である事は百も承知で、見合いで蓮子の美貌に惚れたので、人生の成功の勲章として嫁に貰い、いろいろな事をぐっと我慢している夫の伝助にも言い分があり、それなりの人柄や魅力もある、というようにちゃんと描かれているのもいい。実際、モデルになった白連の夫・伊藤伝右衛門も、無口で豪放な九州男で、一代で巨万の富を築いただけあって、無学ではあっても洗練された建築への趣味を持っていたりして、ただの炭坑夫上がりの成功者というだけに留まらない何かを持っていた人物のようだ。風采もなかなか立派で、野卑で無知蒙昧な熊みたいな男というわけではけしてない。そういう感じを嘉納伝助というキャラにもちゃんと伝わらせているのもマルだと思う。


モデルになった白蓮と伊藤伝右衛門 伝ネムさん、なかなかよか男たいね

ここらでキャラの立った脇役の話になるが、顔のそろった脇役陣についてはざっくりと前の記事にも書いたけれども、それ以外で目立っている人に、嘉納伝助を演じている吉田鋼太郎がいる。この人はこれで初めて観た、と思っていたら、少し前に放映された「ロング・グッドバイ」にも弁護士役で出ていたらしい。全然雰囲気が違うので気がつかなかった。


伊藤伝右衛門をモデルにした嘉納伝助を演じる吉田鋼太郎

吉田鋼太郎は舞台俳優で、これまでTVドラマなどには殆ど出演してこなかったようなので、知る人ぞ知る、という俳優らしい。友人に、「ロング・グッドバイ」も「花子とアン」も、この人目当てに観ている、という人がいて教えてくれたので、日本のシェークスピア俳優なのだという事を知った次第。なんでもリア王を得意とするとか。なるほど。確かに王様風味だ。
ずっとTVや映画には出ないで来たのに、近年、話題のドラマにいろいろと出ているので方針を変えたのかなぁ、と友人は言っていたけれども、まぁ、お陰で舞台を観に行かないワタシなどもその存在を知る事ができたわけだから、適宜、舞台以外のところで活動していただく事は意義があると思う。

また、はなが勤めていた小学校の校長を演じたマキタスポーツがかなりいい味だった。語尾を無造作に伸ばした、この人特有のぶっきらぼうな甲州弁の語り口に愛嬌があり、なんだか面白い俳優だな、と思っていたら、俳優が本業じゃなくお笑いの人だと知った。



なんでも山梨出身なので、甲州弁のネイティヴ・スピーカーらしい。ふぅん。それはさておき、いつもぶっきらぼうにしゃべっているだけなのに、なんだか面白いというのは奇特な個性だと思う。お笑い芸人としてはあまり売れていないそうだけど、お笑いで売れなければ役者でどんどん出ればいいと思う。面白いからNHKがじゃんじゃん使ってくれるんじゃないかしらん(笑)こぴっと頑張れし!

というわけで、故郷の人々に囲まれた小学校教師編が終わり、いよいよ、東京での青春編がスタートする「花子とアン」。蓮子さまの大恋愛も含めて、ストーリーも盛り上がっていきそうだけど、大正時代の銀座というのも舞台としてOKですね。時代的に、まさに永井荷風がカフェに出没していた頃の銀座が描かれるというのは興味深い限り。この先も何かと要チェックです。ふほほ。

コメント

  • 2014/08/10 (Sun) 13:56

    kiki様、こんにちは。
    「花子とアン」も残すところあと二ヶ月余りとなりましたね。
    最初はあまり見ていなかったのですが、例によってNHKのインタビュー番組でマキタスポーツさんを見てから、BSで1週間まとめて放送するのを見るようになりました。(マキタ氏、「長淵剛がサザンを歌うと~」みたいな高度なモノマネができるミュージシャンでした……)

    吉田綱太郎さんは、蓮子さんと綺麗にお別れしてしまったので、もう出番がないでしょうか。この方、仲間由紀恵さんとは直近のTORICKの劇場版で共演していたのを、つい最近DVDを見て知りました。
    コメディも相当達者な方でした。役柄でも「劇団員のような大仰な話し方をする」ような設定になっていましたが(笑)

    「赤毛のアン」は中学生以来読んでいないと思いますが、「アンの青春」とか「アンの家庭」とか続編がかなり出ていて、アンがおばあさんになるまでお話が続いていたかと記憶しています。(個人的には本作の「赤毛のアン」よりも、続編でアンの息子だったか孫が戦死するエピソードが印象深いです。)

    毎週毎週ドラマティックな出来事が起こる「花子とアン」は、脚本の大部分は史実に沿っているそうなので、ストーリー運びやテンポも絶妙なのだと思います。
    今週もまた目が離せない展開のようです。

  • 2014/08/10 (Sun) 21:33

    Debbyさん こんばんは。
    マキタスポーツって面白そうな人ですよね。ワタシは、まだあの校長役以外では全然観た事がないんですが、トーク芸とか面白いんだろうな、という感じはひしひしとします。物まねが出来るミュージシャンでしたか。

    王様俳優・吉田鋼太郎は、離婚したからもう出ないかと思いきや、はな夫妻に出版社の復興資金を出したり、割にちょこちょこ出て来てますよね。蓮子と屋台で飲むシーンは、なかなか味なシーンでした。吉田氏はコメディも達者だったんですね。ミュージカルも出来るらしいから、ほぼ、なんでも出来る人みたいですね。さすが王様。

    大震災で郁弥さんが亡くなってしまうというのは、ちと予想外でビックリしました。妙に青い空が映ったりして、あら、これは何かが起きるのね、と思ったら。そうか大震災は正午に来たんだものね。
    この後も更にドラマティックな展開はありそうですが、終りまで気が抜けないように締めくくってほしいと思います。

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