「まほろ駅前番外地」

2013年 テレビ東京
-ユルユルでダラダラ、でもうっすらと熱い-



この前、テレ東についての記事を書いた時には、まだ観ていなかったこのドラマ。三浦しをんの原作も未読だった。秋に映画化作品第2弾が公開されるというので、ああ、そういえばまほろって面白いって評判だったのだっけ、と少し興味が湧いてきた。原作の映像化は2011年の映画版が最初らしい。ふぅん、ドラマから映画に、という通常の展開とは逆なわけなのね。

なんとはなしに裏街道の更に脇道を行くような、正業に就いていない男二人の共同生活、という設定は、何やら平成の傷天という趣きでもあろうか。でも、原作があるせいか、平成という時代の空気感が自然に加味されているせいか、二番煎じやオマージュというニオイはしない。それは、行天というキャラのユニークさがモワリと効いているせいかもしれない。



いかにもテレ東・深夜枠の30分ドラマにピッタリな内容の連続ドラマで、凄く面白いというわけではないが、なんだか観ているうちに癖になるというか、先行き不透明な男二人の飄々として情けない日々を、また何となく観てみたい、と思わせる感じで、結局全12話を断続的に空いた時間に観てしまった。

瑛太も松田龍平も、特に好きな俳優というわけではなく、興味もなかったのだけど、観ていて、ワタシは瑛太って悪くないな、ふふふ、と思った。顔立ちがキリっとしている。時代モノも似合う顔。体が細長くて顔が小さいのがいかにもイマドキだけれども、目つきの鋭いのがいい感じだなと思った。原作を読んでみると、瑛太が演じている多田というのは、もうちょっと強面で、体格のいいガッツリしているような印象の男なので、瑛太ではやや線が細いかな、とも思うのだけど、便利屋なんだから適当にしとけばいいのに、妙なところで誠実だったり真面目だったりする多田を巧く演じていたと思う。



一方のノラクラとして正体のつかめない謎の男・行天を演じる松田龍平は、実にピッタリの当たり役。あの脱力感とのらりくらり感は、まさに行天春彦そのものであろう。松田龍平というと、ワタシはデビュー作だったのだろう大島渚の「御法度」に出た時の騒ぎなどを思い出すのだが、魔的なまでの絶世の美少年を巡って新撰組の中で衆道絡みの妖しい争いが巻き起こる、といったようなお話で、彼は騒ぎの中心にいる「絶世の美少年剣士」の役だったわけだが、ワタシ的には、へ?これが?という感じだった。そんなに美しいかしらん。この子。なんか丸顔だし、目も細いし、無表情だけど雰囲気があるってわけでもなく、いささか不気味な感じもあり(岸田劉生の麗子像に通じる不気味さか)、さほど魅力があるとは思われなかった。優作の息子にしては柔弱そうで色白だよねぇ、ぐらいなイメージか。「御法度」が映画として微妙だったせいも多分にあるだろうけれど、長らく(つい最近まで)ワタシにとっては興味の対象外の俳優だった。


「御法度」

そのうち弟である松田翔太もデビューし、あら、弟の方がカワイイじゃない、などと思っていたのだが、龍平は2009年ぐらいから、徐々に俳優として特異な存在感を顕すようになってきた気がする。結婚して父親になった事なども影響しているのかどうなのか。
ワタシが彼の父、松田優作の作品の中で一番好きなのは「それから」なのだけれど、松田龍平は三十路に入って、「それから」の代助が似合いそうな俳優になってきた。もしかすると、頭で理屈をあれこれと考えているだけで自分では何を生み出した事もなく、稼いだ事もない高等遊民の代助には、父優作よりも、今の龍平の方がより似合っているかもしれない。龍平の代助もちょっと観てみたい。今の女優の中で、三千代は誰が演じるのが似つかわしいのかは、思いつかないんだけれど…。


年齢を重ねるにつれ、段々オヤジさんに良く似てきた

さて。「まほろ駅前番外地」に話を戻すと、これは原作でも映画化作品でも1作目である「まほろ駅前多田便利軒」の続編にあたる。舞台になっている「まほろ市」というのは、東京の南西部の神奈川との境目にあって、地形的にそこだけ神奈川に入り込んでいるようなところ、という描写などで、モデルにしているのは町田あたりだろうな、と分かる。東京と神奈川の境目にあり、一応東京なのに市内を走るのは横浜のバスであるという、どちらにも含まれるが、どちらにも属さないような郊外都市であり、しかも、他の街にいかなくてもその街だけで全て用が足りるという規模の都市である、というのが、多田と行天の住む街、として望まれる条件だったのだろう。原作者の住む街でもあり、よく知っている街だからモデルにした、という事ももちろんあると思う。でも、この物語の中では、その街はまほろ市であって、町田市ではないのだ。
ただ、「まほろ」という語感は、何となく北海道の真ん中あたりの寂れた田舎町を想起させる。でも北海道の真ん中で「便利屋稼業」は成り立たないだろうとは思うけど。なぜそんな北海道っぽい地名にしたのか、少し知りたくもあり、知らなくてもいいような気もしたり…。

お話は、街角の便利屋なのに私立探偵がやるような事に巻き込まれたり、何でもない依頼がキナ臭い事に繋がっていったりする中で、多田と行天のコンビがユルく共生しながら、時には巻き込まれなくていい暴力沙汰や厄介事に関わりながらも、それなりに楽しく?暮らしていく様子が描かれていく。片隅に生きる人々のほろにがな人生や、せつなの哀感、どっこい生きてる強かさや、ごくささやかな希望などをすくいあげるタッチは、ドラマ24枠の後継ドラマ「大川端探偵社」のノリに近い。というか、「まほろ駅前〜」が成功したので、そのテイストを持ち越してもう少し本格的に裏街道な雰囲気にしたのが「大川端探偵社」だったのかもしれない、と今は思ったりする。

原作を読んだ感じでは、多田と行天は、瑛太と松田龍平よりは、もう少し年長のような印象を受ける。三十代半ばから後半といった感じ。だが、映像化された作品では三十路に入ったばかり、という感じで、主演二人の年齢の若さが、先行き不透明で計画性も将来性もない便利屋という稼業を、その日暮らしのように続けている二人の不安定感を少し薄めているというか、その、自由でありながらもどこか閉塞感のある状況をやや軽減しているように感じた。その不安定で、どことなくユルい感じは、このドラマのタイトルバックに非常によく現れている。並んで道を歩いて来る二人の歩き方が、どこかぎこちなくてロボットっぽいような感じがするのは、前を向いたまま後ろに歩いているのを逆回ししているせいだろうと思うが、二人のトボトボ歩く感じが面白い。



キャラが正反対の二人の掛け合いもゆるい面白みがあるが、脇やゲストもこの枠にピッタリだな、と思う俳優が出演している。
多田がツケで弁当を食い続けている弁当屋の主人に大森南朋、悪ガキの大将がそのまま大人になってしまったような裏の売人シンちゃんの松尾スズキ、便利屋稼業に偏見を持つベテラン刑事役で岸辺一徳、広島弁の吉村刑事を演じている三浦誠己も面白かった。ゲストでは、第3話で子どもを病院で取り違えられた母を演じていたのが宮下順子だと気付いて、ほへ〜、と思った。かつてのロマンポルノの女王もうっすらとお婆さんが入ってきたかな、という感じだった。第4話では麿赤兒がいかにもな柄で蝋人形師役で登場した。このエピソードに登場するやけにリアルな蝋人形にはちょっとビックリ。あの顔は誰かに似ている気がしたのだけれど、誰だろうかしらん…。



三浦しをんモノはいろいろと映像化されていて、近年では「舟を編む」が大ヒットしたようだけれど、CSで映画を観たものの、何となく原作を読んでみようという気にはならなかった。しかし今回、TVドラマの「まほろ駅前番外地」を観たら原作が読んでみたくなり、1作目の「まほろ駅前多田便利軒」を図書館で借りてみた。直木賞受賞作とのことで、いかにも直木賞らしいにおいのする小説だった。なんというか、どことなく世界観が「時代屋の女房」っぽい感じ、とでも言おうか。(どこがどう、それっぽいのか、感覚的なものなので巧く説明できないのだけど)
まっとうで融通がきかない多田と、常に人を喰ったような風をしていて、時折、多田の足りないところを補う感じの行天。ともに離婚歴がある二人だが、結婚が破綻したという過去を重く引きずっているのは多田の方である。
行天は頭はいいがコミュニケーション能力に問題があり、高校時代は3年間一言も口をきかなかったという男。彼が高校3年間の間に声を発したのは、事故で片手の小指が切れてしまった時だけ。一人の友達も居なかった変人・行天は、久しぶりに多田と再会した時には、よくしゃべる男になっていたが、相変わらずの変人ぶり。だが、彼のそうした性格には、親との関係性に問題があった事が窺われたりもする。

多田は居候の行天を時に鬱陶しく思いつつも自分にはない部分にかき回されたり、時に助けられたりする。行天は多田の元に猫のように身を寄せて、便利屋を手伝っているような、そうでもないような状況を楽しんでいるように見える。二人は何故、一緒にいるのか。いつまで一緒にいるのか。ちょっと知りたくなる。

何はともあれ面白かったので、続編で、このドラマの原作でもある「まほろ駅前番外地」も借りてみようと思ったのだけど、現在は区内の図書館の蔵書が全て出払っていて1冊も残っていない。…やれやれ。予約入れといて待つとしますかね。
ドラマの「まほろ駅前番外地」は、原作にはないオリジナルストーリーもかなり入っているとの事で、ドラマと原作は異なるものとして楽しめそうな気がする。

長らく、2000年前後にデビューまたはブレイクしたような新しい作家の作品に興味が持てずに来たのだけれど、最近、ふとしたキッカケで読んだ川上弘美の「センセイの鞄」と「古道具 中野商店」は面白かったし、ドラマに押されて今回読んでみた三浦しをんの「まほろ駅前多田便利軒」も面白かった。旬の作家の作品を少しずつ面白いと感じ始めているのはいい事だと我ながら思う。いつまでも春樹の旧作以外はどうも面白いと思えないし読む気もしない、なんていうのは、やはり何かマズいし、ちょっと困っちゃうものね(笑)なんとなく。

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