「ロシュフォールの恋人たち」 LES DEMOISELLES DE ROCHEFORT

~軽やかに、華やかに~
1966年 仏 ジャック・ドゥミ監督



フランソワーズとカトリーヌ(・ドヌーヴ)のドルレアック姉妹唯一の共演作という本作。
ワタシはこの映画をスチール写真でしか観た事がなかったので、フランソワーズ・ドルレアックが動くのを観るのは初。それがちょっと楽しみでもあった。姉は本名でそのまま出ており、妹のドヌーヴという姓は確か母の実家の姓だとか聞いた事がある。今回の「ジャック・ドゥミ×ミッシェル・ルグラン×ドヌーヴ」のリバイバル上映では「シェルブールの雨傘」がけっこう評判を呼んでいて、これも混雑するかもしれないと思い、いかにも混みそうな渋谷を避けてテアトル銀座で観て来た。少し余裕はあったものの、最近の映画館としてはありえないぐらいに前の席との間隔が狭く、ブーツを履いた足をあまり伸ばせなかったので、かなり足がだるくなってしまった。
始まってすぐにあれ?と思ったのは画面の暗さ。全体にシアンのトーンがかかっている上に妙に暗く感じられる。明度を抑えすぎという感じ。もっとパステルカラーの明るい色で南仏の太陽がまぶしいキラキラ感のある映画だと思っていたのにこれはどうしたことか。劇場の問題?今回のプリントの問題?映像は鮮明だったが、とにかく青みがかって画面が暗く感じられた。登場人物が少し日陰に入ると全く顔が見えない。うーん、やっぱり渋谷で観るべきだったか。

それはそれとして、「ウエストサイド物語」でスターダムに輝いていた頃の、若くハンサム盛りのジョージ・チャキリスが登場して、うほほ!と喜んだ。吊りあがったへの字気味の眉毛がちょっとドロン調。贅肉なしの脚の長い姿もびしっと決まっている。言うまでもないがダンスもびしっと決まっていた。
祭りの出し物に参加するため、トラックに乗った一行が港町・ロシュフォールへ到着する。着くやいなや、若者たちは広場でひと踊り。でもこれが、動きが微妙に合ってなかったりするのがおフランス風か。作り込み、リハーサルを重ねに重ねたハリウッド製ミュージカルよりもラフ感が漂うのが持ち味。また、歌もおフランス語なので、軽く鼻歌のように歌ってOK。熱唱はあまりあの言語と合わないのだ。チャキリスは思う存分カッコイイのだけど、何故か存在感が軽い。軽い扱いを受けがち。なぜ。今回も、かなり男前であるにも関わらず、美人の双子姉妹に粉をかけても振られるというような役でシマらない。



そして、本命のドルレアック姉妹だが、フランソワーズとカトリーヌは顔よりも体型や骨組みなどがとても酷似した姉妹なのだな、と思った。顔はスチール写真で観たときほど似ているとは感じなかった。あのそばかすはわざと描いていたのかもしれないが、妹のクールなハイソ感と違い、姉はもう少しラフな感じで顔の造りも妹よりもやや大雑把。それだけに人工的なまでに整ったカトリーヌの容貌が余計に際立つ仕組みになっている。姉は赤毛で、妹はブロンド。髪の色に合わせて二人の衣装の色彩も心憎いばかりにきちんと計算されている。



イーストマンカラーのやや醒めた色彩の中で、ドヌーヴのピンク、フランソワーズの藤色、ドヌーヴの黄色、フランソワーズのばら色などのワンピースの色合いが鮮やかに響き合い、またチャキリスやもう一人のダンサーのシャツのオレンジやブルーと絶妙のアンサンブルを醸し出すようになっている。カラフルだけど色合いがポップかつ洗練されていて、けして目に煩い色の洪水になっていないところがさすがの色彩センス。

姉妹は声質も違っていて、やはり妹の声の方が耳に心地よい。似たような姉妹だが、大成する方というのは、やはり細部が緻密によく出来ているし、二人並んで出ていても妹の方にばかり目がいってしまうのは持ち前の華というものか。妹の方が少し小柄で一回りほっそりしている。まだこの頃は胸もぺったんこ。シリコンを入れて横たわっても盛り上がりっぱなしの胸にしたのは、70年代に入ってからだろうか。
今回、姉妹が同じようなデザインの色違いで何着も着ていたのはノースリーブで、脇からスリットや、ウエストからプリーツが入った形のワンピース。タイトではなく裾が少し広いのがこれまたいい感じである。こういうワンピースには大きな帽子を合わせると似合うわけで、姉妹はいくつかのでっかい帽子をそれぞれ被って登場する。

この姉妹の母を演じていたのは、誰だろう、顔見たことあるけど誰だっけ???と思って帰ってから調べたらダニエル・ダリューだった。厚化粧ですぐに分からなかった。中年になってもあまり贅肉がついていない体型はさすが。娘達とあまり変わらないデザインのレモンイエローのワンピースを着ても、さりげに着こなし、とても似合っていた。さすがである。
ダニエル・ダリューといえば「うたかたの恋」であるが、遠い昔にTVで一度観たきりなので殆ど覚えていない。ワタシがすぐに思いだす彼女の出演作はスパイをハメるしたたかな貴族の未亡人役で出演し、とても印象的だった「五本の指」である。ジェームズ・メイスンが美しい彼女にいいように利用され、振り回される様子はなかなか面白かった。

すぐに分からなかったといえば、ジーン・ケリーもそうで、若ぶって派手な色の衣装を着、スポーツカーを乗り回している有名作曲家の役で、街角で姉にぶつかって恋に落ちるのだが、このファーストシーンでは声が吹き替えだったと思われ、あのジーン・ケリー独特のハイトーンのしゃがれ声じゃなかったので、このたれ眉にたれ目は間違いなくケリーなんだけど、似たくさい別の人かしらん???などと思ってしまったりした。いや、でもあのちっこさや、ちっこくてもモリモリしてるところなどは、やはりケリーだけどなぁ、と思いつつ観ていると、ミッシェル・ピッコリの店のシーンでやっと本人の声になり、ああ、やっぱりジーン・ケリーよね、とようやく納得した。



今回のミッシェル・ピッコリは昔の恋人ダニエル・ダリューが忘れられない純愛男の役。まぁ、隠微なインテリばかりがハマリ役でもなくて、そういう男をやると、ちゃんとそういう風にも見えた。

まだ観ぬうちから妹を夢の女として絵に描く水兵さんの画家にジャック・ペラン。この人とカトリーヌは「ロバと王女」でも共演していたっけ。なんだか小僧っぽくて似合わないけど、何度か共演しているのである。

ドヌーヴはこの時代の特色でかなりの厚化粧なのだが(びっしりとついた黒いつけ睫とマスカラで横からみると睫は昔の電気のスイッチみたいに見える)、例によって、そんなにもガッチリと化粧をしていながら、いつもひんやりと涼しそうでギラギラ感がない。このドヌーヴと60年代にとても流行ったイーストマンカラーの少し醒めた色彩というのはとてもマッチしているとワタシは思っている。今のフィルムと違って、昔のフィルムはテクニカラーとイーストマンカラーで歴然と色調の違いがあった。ドヌーヴはテクニカラーの原色ギラギラの人ではない。イーストマンカラーの女優なのだ。彼女の持ち味と、そのカラーの色合いが実にぴったりとマッチして、独特の世界やムードを作り上げていたと思う。そして、いつもひんやりとして殆ど無表情のドヌーヴだが、歌も踊りも「うまい!」というほどではないものの、サラっとそこそここなす。(まぁ、ダンスの方はなんちゃって臭が歌より強いのだけど…)それでも、あまり張り切って体を動かしていないにせよ、サラっと動いてそれなりにサマになっているのは、やはりスターのパワーというものか。



結局のところほとんど無表情で演じていたと思うけれど、ポップな色彩設計とミュージカルであるという事で、「陽気なカトリーヌ」を見たという錯覚が起る。姉を見たさに行ったのだが、結局は妹のスター・オーラを再確認して帰ってきた。ワタシはカトリーヌ・ドヌーヴの、横からみると薄い下唇がちょっと突き出た感じになって妙に意地悪そうに見えるところがこれまた彼女の持ち味としていい具合だなと思っているのだけど、今回もご陽気に歌ったり踊ったりしていながら、横を向くと意地悪そうな顔になり、うふふふ、ドヌーヴ、とほくそ笑んで観賞した。

余談だが、イベントのオートバイ乗りとしてステージに上がったチャキリスのイベントステージの看板には、なんと「HONDA」の文字。このあたりから、オートバイレースや、カーレースにHONDAが参戦しはじめて、欧米に名が売れ出した頃だろうか。予期せぬところで観た「HONDA」の文字に、あのくるくる廻っていたバイクはHONDAのバイクで、要はHONDAの宣伝用のステージだったわけね?、などと、やっとチャキリスが何をやっているのか分かった次第。
だって説明なさすぎて何がなんなんだか、…ねぇ。 ロシュフォールに着くといきなり踊ってるし。

いや、それにしてもポップでカラフルな衣装の数々と、母の経営するこじゃれたカフェの内装、それにミッシェル・ルグランのスコアの数々で、ハリウッド製とは一味違うミュージカルを見物させていただいた。
ローヒールとシンプルな膝上丈のワンピースの組み合わせは軽やかで今観ても新鮮なファッション。パステルカラーのローヒールの靴を何足か色違いでゲットし、春先に膝上丈のスカートと合わせて街を歩きたい気分になる映画だった。

コメント

  • 2009/02/27 (Fri) 00:22

    kikiさんのレビューを読む限り、これは渋谷で観たほうが良さそうですね。DVD持ってるけど、やっぱりスクリーンで観たいんですよねえ。

    で、この映画、ドヌーヴもフランソワーズも歌は吹き替えなんですよ。ジャック・ドゥミ曰く、声質の似た人をオーディションで選ぶのに苦労したとか。ちなみにちゃんと歌ってるのはダニエル・ダリューです。

    ジャック・ドゥミはジーン・ケリーに出て欲しくて、わざわざロスまで行って出演交渉したんですよ。ジーンはその時映画を2本抱えていて、「あと2年待ってくれるなら、是非出たい」と答え、ドゥミは2年待ったんです。ただ、あと10年若いジーンだったら・・・とファンとしては思いますけどね~。フランソワーズと年の差がちょっとありすぎるような気がしちゃうんですよねえ。

  • 2009/02/27 (Fri) 07:43

    歌はやっぱり吹き替えでしたか。姉のほうもとは意外だったけど。カトリーヌはもっと棒歌だったと思ったのに案外ちゃんと歌ってるなぁ、と思ったら吹き替えでしたか。でもさして上手い!という感じでもないので吹き替えかどうか微妙でした。べらぼうに上手い人に吹き替えさせると吹き替えが見え見えだからでしょうかね。(笑)

    テアトル銀座は画面が暗かったですね。でも予告編の時には暗いと思わなかったから、今回のプリントの関係なのかもしれないしなんともねぇ…。デジタルリマスター版で映像の綺麗さも楽しみにしていったわけなので、暗い画面はちょっと残念でしたわ。渋谷で観たほうがいいと思います。

    ドゥミがケリーに2年越しで頼んで出て貰ったというのは公式サイトで読みましたよ。熱烈ファンだったみたいですね。ファンといえばmayumiさんもケリー・ファンでしたね。「巴里のアメリカ人」的なムードの踊りもちょこちょこっとしていたような感じで、ケリー・ファンには「うふふ」な映画でもあるでしょうね。

  • 2010/10/03 (Sun) 23:25

    kikiさん、先日CSでやってたのを録画してて観ました!
    デジタルリマスター版ということで、kikiさんのおっしゃる青みがかった感は、テレビ画面で観たんですがよく分からずわたし的には遜色ない感じで、姉妹をはじめ出演陣のカラフルな服、青い空などなど、うっとりして色を堪能しましたよ。
    友人が以前に本作をすごくいい!と言ってたものの、さほど気にもとめてなかったんですけど、その期待感の無さもよかったのか、わたしはえらくえらく気に入ってしまいました。もともとミュージカルって好きなんですよね。F・アステア、G・ケリーもの、たくさん観ました。でもフレンチは観たことなかったですね。「シェルブールの雨傘」くらいで。でもこれはわたしの中ではちと違う位置づけなので・・・。陽気なアメリカンばかりを観てたので新鮮でしたねえ。kikiさんのご指摘のように熱唱系でないし、ビックリするような歌のうまさでもないけど、ミシェル・ルグランの楽曲が素晴らしかったです(CD欲しいです)。
    G・ケリー、やっぱり吹き替えでしたよね。わたしはあのしゃがれ声好きなんですけどね、フランス語は「巴里のアメリカ人」でもちょろっとしゃべってるけど、発音の悪さは致し方ないのでやっぱり吹き替えられちゃってますね。
    G・チャキリスもほんとかっこいいのに、これもご指摘のように扱いが軽い感じ。しかし見せ場はいくつかあって、カフェの中で相棒と所狭しと歌って踊るシーン、よかったですね。
    J・ペランの若かりし姿を初めてみましたが、可愛い水平さん(笑)。
    なんとなく気分がクサクサしてたのが本作観て少し晴れました。ミュージカルって、わたしにはそういう要素が大きいみたいです。

  • 2010/10/04 (Mon) 07:18

    ミナリコさん、CSでご覧になりましたのねん。ワタシはリバイバル上映を映画館に観に行ったのだけど、どうもこの映画館がちょっと画面が暗く見える感じだったのかもしれません。フィルムでなくDVD上映だったらしいので、そのへんも微妙に影響したかもだし、2階席だった事が影響したかも。原因はよくわかりませんが、いずれにしろ、ちょっと画面は暗く感じました。
    この映画好きな人ってけっこう多いと思います。自分でもハマると思わずに、観たらハマってしまった、という感じでね。G.ケリー、途中から彼本人の声に戻るんですが、最初は吹替えで台詞を言ってますね。そしてチャキリス、カッコイイのにねぇ。存在の耐えられない軽さ…。でもそこが彼なのか。で、映画そのものは夢物語のように娯楽に徹して作られていて、しかも力んでなくて、ちょっと肩の力の抜けた感じがいいですよね。衣装を含め色彩設計がとてもキレイだと思います。パステル調の衣装がドヌーヴのひんやりした顔によく合ってたしね。ここで使われている衣装は色もデザインも本当に素敵だったな、と思いますね。
    クサクサしてる気分を一時吹き飛ばすのがまさにエンターティメントの効能。アステアとロジャースのミュージカルが流行ったのはアメリカが大恐慌の時期で、人々は不況の苦しみを一瞬でも忘れるために映画館に二人のダンスを観に行ったらしいです。一瞬の、リーズナブルな浮世離れですね。ミュージカル映画って、そういうものなんでしょうね。

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