「居酒屋ゆうれい」

~こんなとっておき居酒屋が一軒ほしい~
1994年 サントリー、テレビ朝日、キティ・フィルム、東北新社 渡邊孝好監督



なんとなく「時代屋の女房」とトーンが似ている気のする映画。
制作年度が更に10年ほど前だったら、後妻の役は夏目雅子だったかなぁと思いつつ観たりした。それでも、これだってもう12年も前の映画になる。ショーケンがモルツのCMで当てていた頃だろうか。
とにかくけっこう味な役者が色々出ているのも捨てがたいところで、豊川悦司、西島秀俊、尾藤イサオ、余貴美子、八名信夫に橋爪 功、三宅裕司に室井 滋と、出るわ出るわ、次から次に観ていて楽しい役者が出てくる。ショーケンは例によってひょうひょうといい味だが、後妻を演じる山口智子も若くてプリプリ。そういえば撮影中にショーケンにセクハラされたのどうのと話題になってもいたっけ。
メインの舞台となる居酒屋のセットがよく出来ていて、居酒屋好きな人々の心の中に潜む、「こんな居酒屋があったら贔屓にしちゃうなぁ」という居酒屋のイメージを具現化したような佇まいをうまく出している。


近隣のお馴染みさんが、夜、灯のともる時刻になると縄のれんをくぐって集う、横浜・反町の居酒屋、かづさ屋。この映画に出てくる横浜は、エキゾティックでもキラキラでもピカピカでもない、京浜急行ぞいのうらぶれた横浜である。駅でいうと「神奈川」あたりだろうか。映画にも出てくるが、妙に寺とか墓がうらぶれた街並みの中に目だつ一帯である。
京急は横浜を出ると裏桜木町ともいうべき日の出町、黄金町を通って上大岡方面へ続く。それはみなとみらい線の「新高島」や「みなとみらい」とは全く趣を異にする横浜である。
タイトルバックには、そうした横浜の景色が映し出される。



この、馴染みの集う居酒屋、というシチュエーションが「時代屋の女房」を彷彿とさせる。
橙色の灯りの下で、カウンターを囲んで飲むビールや日本酒が美味しそうだ。居酒屋かづさやを一人切り回す壮太郎には、かつて恋女房のしず子がいたが、病気で先立たれてしまう。しず子(室井 滋)が店の二階で床に寝ていて、すっと亡くなってしまうくだりは、なんだか枕に黒い髪を垂らして「もう死にます」と言ってすっと死んでしまう「夢十夜」第一夜に登場する女のようでもある。(顔はともかくシチュエーションとして)



女房の死に際に、けして後妻は貰わないと約束した壮太郎だったが、いくらもしないうちに周囲の勧めもあって若い後妻(山口智子)を見合いで気に入って貰ってしまう。成仏しきれない先妻(室井)は夫とその後妻の前に現れるが…。

この後妻里子(山口)が見合いの前に釣りをする壮太郎を下見に来るシーンで、山口智子、うまくハマってそうだな、と思ったのだった。下手すると一人で浮きそうな気配もなきにしもあらずだったので、なるほど、山口智子で正解なのね、と思った。壮太郎がスクーターに乗って港の突堤まで釣りに行くのもいい。寒そうにちんまりと膝を合わせて座り、おにぎりを食べつつ釣りをするショーケン。ショーケンて妙にちまっと両膝をくっつけているのが似合ったりもする。そういえば「前略?」のさぶちゃんも膝をくっつけて座る感じの男だった。あのさぶちゃんの延長線上にある役とも言えるのかもしれない。

 釣りをする壮太郎 前方にはインターコンチ

見合いを勧める壮太郎の兄に尾藤イサオ。巻き舌のハマのあんちゃんという感じ。兄というより友達っぽい観た目ではあるが、ハマの下町の商売人のあんちゃんという感じが出ていた。壮太郎の友達役としては三宅裕司が出ており、これまた巻き舌でハマのあんちゃん風を吹かしていた。
この三宅裕司の元女房に余貴美子。別れても好きな人、というわけで、これはまさしく余貴美子の役。昔からコクのある色気を発散している。

若い後妻の昔の男にトヨエツ。これがただの男ではなく、八九三の人で、刑期を終えて出てきちゃったのでさぁ大変、なのである。
トヨエツもまだ若く、ほっそりとしていやおうなしに長い脚が余計に長く見える。ヤクザっぽい黒いスーツを長い脚と広い肩幅で着こなして、薄っぺらいけど姿がよく、けれどヌラリとして、どこで急に切れだすか分からないような不気味な存在感をかもし出していた。おまけに関西弁。なぜか関西弁。それがまた不気味な雰囲気によく合っている。

 得体の知れない感じやねん


この、出所した昔の男に逢いに行く里子は、それまでと違うセクシーな黒いワンピース姿でちょっと凄みがある。山口智子ってガタイがいいなぁと妙なところで感心した。肩幅があると痩せていてもしっかりした骨組みという印象になるのだ。
先妻しず子が後妻里子の体を借りて行動するシーンもあり、しず子が入った時の微妙な差異も一応ちゃんと演じわけていた、気がする。

 山口智子 若い プリプリ

新旧二人の女房に愛される果報者の亭主としてショーケンは申し分なし。どんな女房でも、ショーケンみたいなモテそうな亭主を一人で残していくんじゃ後が気になって仕方がないかもしれない。調理場をいつもキレイにしておく感じの居酒屋の亭主としても、ショーケンはピッタリだった。下ごしらえで炒め物をするシーンがあるのだけど、なんだか手つきが板についている。と、そういえば「前略おふくろ様」やってたんだものね。ちょっとした仕草なら、すぐにプロっぽい空気を出せるのかもしれない。死んだ女房と今の女房の間でどちらにも心が揺れながらも「俺はまだ生きている。だから死んだ者より、まだ生きている者が大切だ」としず子に告げる。

 ショーケン 男前である

西島秀俊は、出入りの酒屋の息子で、居酒屋の常連役。まだ凄く若い。「あすなろ白書」のあと、少し引っ込んでいて、また出始めた頃だと思う。

まぁ、みんなそれぞれにいいのだけど、なんといっても主役は居酒屋・かづさ屋(上総屋)である。その橙色の灯りのともる一軒家の居酒屋の佇まいである。天井に近いあたりには、大正や昭和初期の酒のポスター(美人画のポスターだ)が飾ってある。レトロ好きなので、こういうポスターにはとても弱い。
昨今の居酒屋はチェーン店ばかりで、全部ビルの中に入っている。ワタシは「ニッポン居酒屋放浪記」シリーズ(太田和彦著 新潮文庫)に登場するような雰囲気の一軒家の居酒屋で、誰にも教えないとっておきの馴染みの店をいくつかキープしたい、という密かな望みを持っている。いまでも色々といきつけの店はあるんだけど、「とっておきの店」とまで言えるかというと、まだまだだなぁという感じがする。
この映画に出てくるような物さびた、ある種トラディショナルな雰囲気の居酒屋に入り、男女を問わず仕事帰りに仲のいい友と一杯、ほたるいかの沖漬けなどを肴に冷たいビールから始めて、おいしい冷や酒などをちびちび、きゅっと飲む。カウンターの中にいる居酒屋の主人がショーケンみたいな男だったら、これはもう、言う事ないんじゃありませんかしらん。

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