「ワインレッドの心」、「夏の終りのハーモニー」

-井上陽水と玉置浩二、その他思い出すことなど-

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80年代の半ばあたりは、ワタシもご他聞に漏れず「安全地帯」の曲が好きだった。
「真夜中すぎの恋」「マスカレード」「恋の予感」「熱視線」など、イントロを聴けばすぐに気分が80年代に戻ってしまう。曲が流れていた当時の情景も思い出す。
とりわけワタシが好きだったのは「ワインレッドの心」だった。
特に初期の安全地帯は井上陽水と切っても切れない関係があり、「ワインレッドの心」、「恋の予感」などは陽水が詩を書いているので、のちにセルフカバーのような形で他者に提供した楽曲を集めた「9.5カラット」の中で陽水自身も歌っているが、ワタシが特に好きなのは、「アンニュイ」という言葉を音楽で表現したような、陽水ヴァージョンの「ワインレッドの心」である。
最初の安全地帯ヴァージョンの「ワインレッドの心」は、10代後半〜20代ぐらいの年齢層(主に女性)に向けられた楽曲という感じがした(当時ワタシもまさにその層の中に含まれる年齢だったのだけど)のに引き換え、陽水ヴァージョンには、何とも言えないけだるさや物憂さ、もわりとした悩ましげな色気が漂っていて、30代後半から50代前半ぐらいの大人の男女に向けて放たれている感じがした。同じ曲でもアレンジや歌手によって、こんなに印象が変わるのか、とビックリした覚えがある。陽水ヴァージョンを聴いていると、それこそ、昔の「♪ショパ〜ン」の頃の小林麻美のような女性がシルクのスリップドレスを着て、ワイングラスを細い指先で弄びながら、物思わしげに長い髪を肩から滑らせて、来ない誰かを待っているようなイメージが脳裏に浮かんでくるのである。



陽水ヴァージョンを聴くまでは、安全地帯ヴァージョンを憂わしげでいいなぁ、と思っていたのだけど、ひとたび陽水の「ワインレッドの心」を聴いてしまうと、ワタシ的にはそれが決定版になってしまった。その代わり、「恋の予感」は陽水ヴァージョンではなく、安全地帯ヴァージョンの方が好きだし、しっくり来る。曲が、流行った時代の空気と密接に結びついているからだろう。とても若くて、毎日楽しく遊び暮らしていたその頃の自分を思い出しもする。六本木にTUREAやAREAなどのディスコがあり、ハートランドビールが蔦館というビアホールを狸穴に出していた頃である。
…懐かしい。そして、安全地帯の「恋の予感」や「真夜中すぎの恋」を聴くと、ワタシはやはりどうしても、あの頃の石原真理子(現:石原真理)を思い出さないわけにはいかない。曲の背後にその頃の彼女のイメージが立ちのぼって来るのである。「恋の予感」は、玉置浩二が彼女をイメージしながら作曲したらしい。少し後に、吉川晃司も彼女をイメージして曲を書いているようなので、その頃の石原真理子はミュージシャンにインスピレーションを与えるミューズのような存在だったのかもしれない。



いい男だけじゃなく、美人も大好きなワタシは、80年代前半の石原真理子はけっこうフェイバリットな女優だった。「ふぞろいの林檎たちⅡ」から「メゾン一刻」あたりまでが彼女のプライムだったのではないかと思うけれども、まさに「ふぞろい〜」の頃、彼女は「真夜中すぎの恋」に捉えられて人生の大嵐に揉まれていた。スキャンダルに巻き込まれずに、あるいはスキャンダルを肥やしにして女優を続けていれば、代表作はもっと生まれたのかもしれないが、20代の初めでいきなり、既婚者との激しい恋愛とマスコミのバッシングという洗礼を受けた彼女は、以後、その傷から脱するために暗中模索して方向性を見失ったような気がする。いずれにしても、22〜3歳頃の石原真理子は(眉毛が太すぎるにせよ)素敵な女優だった。素敵だったので男が放っておかなかったのが女優としてのキャリアの蹉跌に繋がったような気もしなくもない。80〜90年代半ばぐらいまで安定して着実に女優としてステップアップして行く事が出来れば良かったのに、と些か残念な気がする。折角の素材が活かしきれずに潰されてしまった、という感じがしてならない。
…とまぁ、そんな感慨はともかくとして、あの頃の安全地帯の歌を聴くと、曲とセットになって長い黒髪の石原真理子のイメージが浮かんで来るのは、その時代をリアルタイムで知っている人なら、きっと皆そうではないかと思う。

*****
そして、井上陽水と玉置浩二(安全地帯)といえば、「夏の終りのハーモニー」である。86年の神宮球場でのコンサートで、陽水と玉置浩二がデュエットでこの曲を歌うのをTV中継で視聴して、夏の宵に爽やかな風が吹き抜けたような気分になった事を思い出す。



この歌はカラオケに行ったときに必ず歌う。陽水と玉置浩二は楽々と気持ちよさそうに歌っているのだけど、意外に音域に高低差があって、歌ってみると難しい歌だ。けれど、めげずに歌う。歌うと、あの神宮球場コンサートで初めてこの歌を聴いたときの瑞々しい余韻が、自分の中に甦ってくる気がする。真夏の夜に一陣の涼しい風が吹いてきたようなあの感触を、拙い自分の歌でもいいからもう一度脳内に甦らせたいと思ったりする。
あのときの「夏の終りのハーモニー」は本当に、格別に素晴らしかった。
*****

今回、何故このテーマで書こうと思ったのかというと、久しく忘れていた玉置浩二がBSプレミアムで「玉置浩二ショー」をやっていたのを見たからである。ワタシ的には玉置浩二よりも、ゲストで小林薫が出て来て、二人で「キツい奴ら」を再現して久々にデュエットを披露するというので、それが目当てで見ていたのだが、前半で玉置が徳永英明とのデュエットで「Friend」を歌うのを聴いてザワっと鳥肌がたち、久々に音楽を聴いて皮膚的なショックを感じた事で、とにもかくにも、「いつでもギターを抱えて歌っている男」玉置浩二の、歌にかける情熱、自分が好きな歌、作った歌を歌いたい!歌っていたい!という情熱が確かにこちらにも伝わってきたからだと思う。 そうか。玉置浩二か…と。
それでもっと聴きたくなってYoutubeで色々聴いていたら「ワインレッドの心」が出て来たわけである。あぁ、これ昔よく聴いてたなぁ、でも井上陽水ヴァージョンの方が好きだったなぁ、と思い出したのだ。

そこで、ここ10年ほどは殆ど聴かなかった「ワインレッドの心」や、その他の安全地帯の曲を久々に聴いたら、懐かしいだけでなく、2010年に再結成された安全地帯が、新しいアレンジで昔のヒット曲を演奏するのを聴いて、改めて安全地帯の曲はなかなか良いなと感じた。時代がふた巡りぐらいして、また安全地帯の曲がしっくりとハマるようになってきたのかどうなのか…。
勿論「玉置浩二ショー」では、お目当てだった小林薫のトークと、二人の26年ぶりという「キツイ奴ら」の流し再現による「コモエスタ赤坂」、「ラブユー東京」など、ギター伴奏をつけながら天性のハモリ技術で、小林薫を立てながらムード歌謡を盛り上げる玉置の歌手魂も、とても心地よかった。(ドラマ「キツイ奴ら」は二人の流しのシーンだけが格別に光っていたが、他はなんという事はないドタバタのコメディだ)小林薫と玉置浩二の声は音域が近くて相性がよく、玉置のハモリが薫サンの声に寄り添ってぴったりとハマるので、締めがキレイに聴こえるのである。この二人で昭和ムード歌謡を歌ったアルバムを出せばいいのに、と思う。出そうよ。きっと売れるから。


♪デル コラソ〜ン

玉置浩二は暇さえあればギターを抱えて立て続けに歌っているらしい、カラオケに行くとオールナイトで歌いまくるらしい、というエピソードは、昔、今は亡きナンシー関のコラムで読んだと思う。記事の内容は、ギャラが発生しないところでも歌わずにいられない(一度歌い出したら何曲でも歌いまくる)玉置浩二に対する「アッパレ」感を文章にしていたと思う。確かに「玉置浩二ショー」でも、心底、歌が、そして歌う事が好きなんだ、という感じがひしひしと伝わって来た。
玉置浩二は髪を真っ白にカラーリングして(というか脱色?)、昔と比べるとちょっと目方が増えた気配もしたが、歌う事を余裕をもって楽しんでいる様子に年輪を感じた。

この玉置浩二(安全地帯)の才能を見抜き、北海道から引っ張って来て、当初バックバンドに使い、その後、デビューに際して詩を提供して見事スターダムに乗せた井上陽水の男気というか、きっちりと面倒を見て恩にも着せず、売れたあとはデュエット曲で共にスポットライトを浴びて気持ちよく歌う様子は、見ている側もとても気持ちがいい。清々しい。陽水と玉置浩二の関係性の良さが「夏の終りのハーモニー」という美しい曲として結晶したのだと思う。

「夏の終りのハーモニー」も「ワインレッドの心」も「恋の予感」も、陽水の詩と玉置浩二のメロディの見事なケミストリーが生み出した音楽の結晶であり、二人のコンビネーションの結晶、相性の良さの結晶なのだと思う。
そんなキラキラした結晶を生み出せる出会いはそうそうない。玉置浩二にとっての「運命の人」は、関わりをもった数々の女性たちではなく、井上陽水その人なのだろうな、と改めて思った。

コメント

  • 2015/02/27 (Fri) 13:06

    前回お正月挨拶をしたばかりというのに、早くも一年の1/6が過ぎようとしています。
    kikiさん、お元気ですか?Sanctuaryです。
    kikiさんがまさか安全地帯と井上陽水をお好きだとは。
    まだカセットテープ時代に母と車の中で良く聴きました。
    テープは車の中に置きっぱなしだったのでドライブの時しか聴けなかった記憶がございます。
    そのテープはどういうワケか、安全地帯のアルバムでもなく、井上陽水のアルバムでもなく、また両者のアルバム合体作でもなく、安全地帯と井上陽水と、
    何故かチェッカーズとC-C-Bのヒット曲集でしたが。苦笑

    わたしの淡い記憶の中でも玉置浩二のYMOバリのメイクとVラインを強調したホスト的いでたちとスポットライト、黒メガネのやや太っちょのメンバー(他のメンバーの顔は印象にない)でワインレッドの心や恋の予感、じれったい、そして陽水とのコラボ夏の終わりのハーモニーのメロディを鮮明に覚えてます。
    現在にはない色気のあるムーディな世界に大人世界を感じ取っていました。

    そういえば、昨年だったかな?ある番組で「日本で一番歌が上手い歌手ランキング」なるものがあったので観ていました。
    トップ10には誰もが思う人が入っていて、陽水ももちろん入ってた。
    あとは久保田利伸、何故かEXILEのアツシなどがランクイン。
    一位はやはり美空ひばりだろうなと思ってみてたら、なんと玉置浩二が一位!
    だいたいこういうのは国内外問わず、その年にベストアルバム出す予定だったり、歌手活動○○周年だったり、あるいは亡くなってXX周年だったりする人が一位を取るのですが(10年ほど前、英国で一番影響力のある歌手/バンドってランキングがBBCか
    なんかであったんですが、デビュー○十周年のデイビッド・ボウイがベストアルバムを出すということで、ビートルズやレッドツェッペリン、クイーンなどを抑えて堂々一位でした)

    しかし、玉置浩二は昨年も今年も何かありましたっけ?
    彼が独特の美声の持ち主だってことはわかります。ですが、彼が一位を取ったランキングは正直初めて見ました。
    だって、布施明だっているじゃないか。笑笑
    4位に夏川りみが入ってるのがようわからん。誰にアンケートしたんだっ?
    まっ、それはそうと玉置浩二はEXILEの番組に出た時にサルちゃん軍団とサルちゃんの代表曲を歌っているところをたまたま観たことがありますが、サルちゃんらが100人束になってかかってきても足元にも及ばない歌声を今も出せるのだなと改めて思ったことがあります。

    付き合う女は全て即結婚しなければ気が済まず、いつでもどこでも歌とハグとキスの白髪おっさんになってますが、実力はやはり陽水が認めただけあります。

    あ。
    わたしも恋の予感は陽水派です。余談ですが、陽水が作詞して自ら歌う明菜の「かざりじゃないのよ涙は」や斉藤由貴にあげた「夢の中へ」も陽水が歌うとやはり違いますよね。
    長文失礼致しました。
    妙に昔を思い出しました。ありがとうございます。

  • 2015/03/01 (Sun) 10:47

    Sanctuaryさん こんにちは。
    本当に、この前年が明けたと思ったら、あっという間に2月も終わってしまいましたよね。早いですねぇ、毎年のことながら(笑)
    さて。
    安全地帯と井上陽水を「好き」かというと、どうだろうな、という感じなんですが、安全地帯の曲は80年代の一時期、流行った頃によく聴いていましたね。井上陽水は全面的に「好き」というわけでもないのですが、勿論嫌いではなく、表題通り「ワインレッドの心」と「夏の終りのハーモニー」に関しては無条件に好きです。それと、やっぱり「9.5カラット」ですかね。あれは名盤じゃないでしょうか。で、ワタクシ「恋の予感」は安全地帯派なんです(笑)すみませぬ。「ワインレッドの心」とか「飾りじゃないのよ涙は」は陽水版が好きなんですけどね。

    玉置浩二が日本で一番歌の巧い歌手なのかどうかは、よく分からないですよね。どういう対象でスクリーニングをかけたのかな、というのも影響してくるんだろうとは思うんですけど。ただ、あの人はここ数年、バラエティとかによく出ているみたいだから、そういう事の影響もあるんじゃないでしょうかしらんね。病気をしてた割にはよく声が出ますよね。そんなに巧いかどうかはワタシ的にはどうだろうな、という気はしますが、あの、どんな曲でも即座にハモれる能力は凄いなとは思いますね。それと、伴奏ギターも割に上手じゃないですかしらね。

    井上陽水は文句なしに「巨人」だな、という気がします。ワタシが子供の頃には既に伝説的な存在だった気がするんですよね。その人が未だにずーっとリアルに現役で第一線に居て、仕事を楽しんでいる感じですものね。凄いな、と思います。

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