「ダウントン・アビー」(DOWNTON ABBEY)シーズン1、シーズン2、シーズン3

-何があろうと、ダウントンは死守されねばならない-
2011年〜 英  ITV



このドラマをスタチャンが放映し始めた数年前に、シーズン1の1話目だけが無料で視聴できたので、ちらっと観てみた事があった。その時の印象は「別段、面白くない」というもので、その後暫く忘れていたのだが、毎年ゴールデン・グローブ賞やエミー賞などに、必ずドラマそのものや、出演している女優(=マギー・スミス)などがノミネートされるので、む〜、面白いの?という感じで、NHKで放映されるようになってから折々観るようになった。やっぱり、さほど面白いとは思わないのだが癖になる何かはあるらしく、観始めるとなんだか観てしまうのが、こういうドラマの特性なのだろう。おハイソな英国の渡鬼、とでもいうべきか。
当初、このドラマの梗概を知った時、それってロバート・アルトマンの「ゴスフォード・パーク」を連続ドラマでやるようなものじゃないの?という気がした。それで1話目を観てみると、「ゴスフォード・パーク」のようなシニズムもあまり感じないし、あのような支配階級の横暴に耐える使用人、という構図でもない。役者もマギー・スミスとエリザベス・マクガヴァン以外は知らないし、なんだか魅力に乏しいわ、と思っていた。根性の曲がった長女と次女が陰険な喧嘩ばかりしているし…。

しかし、マギー・スミスが先代の伯爵夫人にキャスティングされたのは、「ゴスフォード・パーク」で演じたトレンサム伯爵夫人のイメージがあったからだろうとは思う。確かこの「ダウントン・アビー」の先代伯爵夫人役で、数年前にゴールデン・グローブとエミーで助演女優賞をW受賞した年があった気がするのだが(毎度、会場には姿を見せず)、それほどの印象的な演技かなぁ、と思わないでもない。なんとなく余技的にやっているような余裕を感じる。けれども、今やUKやUSの人々にとってマギー・スミスは、日本人にとってのかつての笠智衆のごとく、そこに出て来るだけで嬉しいという存在になっているのかもしれない。



エリザベス・マクガヴァンは「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」で初めて観て以降(でもデボラの少女時代を演じたジェニファー・コネリーの美少女っぷりの方がずっと印象が強いのだけど)、殆ど見かけなかったのだが、こんなところに出てこようとは思わなかった。その後、デヴィッド・スーシェのポワロ・シリーズにゲストで出演した回なども見かけたりして、この人はいつの間にか活動拠点を英国に移していたのだな、と思った。



そして、体型や雰囲気が、このエリザベス・マクガヴァンと似ているという事でキャスティングされたのではないかと勝手に思っているのが、クローリー家の長女メアリーを演じるミシェル・ドッカリーだ。やせ形で長身で板胸な体つきや、波打たせたブルネットの髪など、遠目にはどっちがどっちだろうと思うほど似ている。この長女メアリーが、大層な美人でカリスマ性があり、かなり高慢ちきでイヤな女であるにも関わらず、男は皆メロメロになってしまうという設定なのには、いささか唖然とした。確かに肌が白く、ほっそりとしているのでいくらか優美に見えない事もないが、頑丈に張り出した額と顎、妙な形につり上がった眉の下の小さな目など、どうもさほどの魅惑の持ち主とは到底思われない感じである。



美しかるべき役は、美しい人が演じてくれないと設定だけが上滑りして困る。想像力で補わなくてはならなくなって面倒臭い。どうして長女役にこの女優を持ってきたのかな、と不思議になって、ハタと思いついたのが、母親役のエリザベス・マクガヴァンと似てるからかも、という事だった。だってそれ以外に理由なんてあるかしらん。分からなくてよ、ワタクシには。でも、あの贅肉のない二の腕だけはカラーの茎みたいでいいな、と思う。植物的で無機的で優美な腕だ。



ダウントン・アビーに代々住まうグランサム伯爵家。現当主ロバートには息子がおらず、三人の娘が居た。男子が居ないせいで、ロバートの子供には財産が引き継がれず、親戚の男子が財産を相続することになっていた。いわゆる限嗣相続というやつで、ジェーン・オースティンの小説などでもお馴染みの制度だ。この制度はいつまで機能していたのか分からないが、多分戦前まではそのままだったのだろう。シーズン1の1話目では、爵位と財産を継ぐ筈だった親戚の青年パトリックがタイタニックの事故で遭難して死んだという知らせがもたらされ、代わりに誰も知らなかった遠縁のマシュー・クローリーが相続人として浮上してくるあたりをやっていたっけ。



このあたりではまだ、マシューを演じるダン・スティーブンスはモッサリとしてどことなく垢抜けず、シャクレのメアリーにこけにされても仕方が無いような感じではあった。
のちに、自分はパトリック(元々、爵位と財産を継ぐ筈だった)だと名乗る男が、記憶をなくし、顔に火傷をした状態で、第一次大戦中にダウントンに現れるが、真偽のほどはさだかでないまま、姿を消してそれきりになってしまうのだが、あれが本当に爵位を継ぐ筈だったパトリック本人だったら気の毒の極みではある。多分、パトリック本人に違いなかったのだろうけれど…。

伯爵の三人の娘のうちで、ワタシが一番好ましく感じたのは三女のシヴィルだが、生き生きとして階級的偏見から自由な彼女は運転手との恋愛を成就させ、そして娘を一人生むとあっという間に世を去ってしまう。あらまぁ。三人の娘の中で一番魅力的な子だったのに。残念。
あまり男運がなく、長女のメアリーのようなカリスマ性もないという設定の次女イーディスは、いつも損で可哀想な役回り。あれじゃ少しぐらいひねくれたって大目に見てあげないとね、という気になったりもする。


長女と次女にさほど差があるとは思われない けっこう可愛いのにね、頑張れイーディス

権高な長女のメアリーと、遺産相続人のマシューのスッタモンダの果ての結婚とその後の悲劇や、三女のシヴィルと、運転手で政治思想を持つブランソンとの恋愛の成就とその後の悲劇など、いかにもメロドラマな展開がテンコモリ。限嗣相続に翻弄される娘たちや伯爵家の様子には、しっかとジェーン・オースティンものの空気感も漂わせてある。つまりこれは、「ゴスフォード・パーク」+ジェーン・オースティン+「渡る世間は鬼ばかり」的なドラマだと言っていいと思う。そして、とにかく、よく人が死ぬ。戦争だの、不慮の事故だの、突然のはやり病だので、レギュラーな登場人物がパタっと死んでしまう。長いドラマを繋いでいくのに、これほど効果的なカンフル剤はない。またそんなところで都合よく死なせちゃって…と飽きれるばかりに主要人物を殺す。マシューの婚約者だったラビニアの死なんてもう、あまりのご都合主義っぷりに笑ってしまった。悲しい場面なのに申し訳ないけれど。

このドラマでは、上と下の対立構造は殆どなく(唯一、三女と駆け落ち婚をしたブランソンがなかなか伯爵家に家族として認めてもらえない、というのはあったけれども)、貴族たちはその階級の中で、使用人たちは使用人たちの中で、愛憎や足の引っ張り合いがあったりする。
貫禄のある外観にふさわしい重厚なバリトン・ヴォイスの執事カーソンが使用人たちを束ね、苦労性のお母さんのような家政婦長のヒューズ夫人が女性使用人の筆頭である。野心家の第一下僕(のちに従者)トーマスは、ちっぽけな野心をもやし、計算高く、小狡く、根性曲がりで、こういうドラマには必須の嫌われ者役だが、演じる俳優にとっては目立つ儲け役でもある。トーマスはちんまりとハンサムで、ルックスがいいのを鼻にかけている感じもいかにも役に合っている。


毎度、小さな世界でちっぽけな策略をめぐらすトーマス

吹き替えで、このトーマスの声を出しているのは、バッチ君のシャーロックの吹き替えでもお馴染みの三上哲だが、シャーロックよりも下僕のトーマスの方が、声がピッタリ合っている。それというのも、トーマスを演じるロブ・ジェームズ=コリアーの地声が、割に高めでソフトな声質で、嫌味なトーマスの声にしてはヤワなのである。しかし、三上哲の声は本人の声以上にトーマスのキャラにピッタリだと思う。逆に、シャーロックの場合は、バッチ君の声とセリフ回しがあまりに魅力があるので、吹き替えでは物足りなかったのだ。
自分しか愛さないようなトーマスはどうやら同性愛であるという設定も面白い。このトーマスは使用人仲間から嫌われ、カーソンはなんとかして放逐したいと思っているのだが、屋敷を辞めて従軍したかと思ったら、ちゃっかり伍長になって戻ってきた挙げ句に、狙っていた従者のポジションを手に入れるなど、憎まれっ子世にはばかる状態を押し通している。ねじくれコンビだった侍女のオブライエンは、そのうちに屋敷を去ってしまうようだが、トーマスは「必要悪」なので、ずっとダウントンに居続けるような気がする。まぁ、あのぐらいアクの強いのが居ないと面白くないものね。みんなベイツみたいに悟りすましてちゃ。

シーズン1はさほど面白いと思わなかったのだが、シーズン2に入って、マシューと下僕のウィリアムが戦地で負傷したあたりからワタシ的には少し面白くなってきたので、なんとなく観るようになってしまった。それにしても、両足が動かなくなった筈のマシューの、あのご都合主義的な突然の回復ときた日には!ぷぷ。

こういうドラマを見る楽しみ方のひとつに、あまりにも作り物めいたドラマチックな展開に突っ込みを入れながら見る、ということがある。突っ込み出したらキリがないほど突っ込みどころがあるのも、大衆的人気を博する要因のひとつなのだろう。
また、アメリカでも人気があるのを受けて、シーズン3あたりからハリウッド系の女優や男優がゲストでシーズン中に何話か出るようになった。シーズン3にシャーリー・マクレーンがエリザベス・マクガヴァンの母役で出ているし、シーズン4では、ポール・ジアマッティがシャーリー・マクレーンの息子役で出ているようだ。

ややこしい人間関係や、昼メロ的、または渡鬼的な展開は脇において、ワタシがこのドラマを何となく観てしまう理由のひとつに、ダウントン・アビーとして常にドラマの中に存在している、物語の真の主人公のような、あの屋敷の存在がある。ロケに使われている屋敷は、カーナヴォン伯爵の居城だったハイクレア城である。その事を知ってから、外観のみならず建物の内部も時折観られるので(広間などはセットではなくロケで撮影している時もあるのではないかと思う)、本物のお屋敷の魅惑でついついドラマを観てしまうようになった。



城の持ち主だったカーナヴォン伯爵は政治家兼考古学者であり、ツタン・カーメンの墳墓発掘のスポンサーとしても有名な人物。このツタン・カーメンの墳墓発掘にまつわる、伯爵令嬢の悲恋の物語については、以前、記事を書いたので、ご興味があればどうぞ。
カーナヴォン伯爵は、ツタン・カーメンの墓が発見された直後に突如亡くなり、その後、関係者が相次いで何人も亡くなったので、ミイラの呪いだ、などと世間に騒がれたりもした。

まぁ、そんなこんなで、大河ドラマとメロドラマが一緒になったようなこのドラマだが、貴族の生活が描かれるので、これまで観た、どの映画やドラマよりも、貴族は家族だけで夕食を摂るのに使用人に手伝わせて着替え、正装して、執事に給仕されながら食事をするのだ、という事がハッキリと分かった。お客が来た時だけ正装するのかと思っていたら、家族だけで摂る食事も毎日着替えてテーブルについているのねー。毎日茶番劇である。まぁ大変。そんな事だから大勢の使用人が必要なのね。
でも、そういう、殆ど無意味な堅苦しい難行苦行に耐えるのも、ノブレス・オブリージュの一環であるのかもしれない。貴族の生活が略式になればなるほど、数多くの使用人などは必要なくなるのだから。グランサム伯爵ロバートは、ダウントンの屋敷を維持し、領地をキープして領民の雇用を確保するのが務めだ、と言う。確かに、それこそが、彼がこの世に生まれて授かった最大の使命なのだ。しかし、そのダウントンは何度も存続の危機に晒されるのである。それはそうこなきゃね。お約束の展開だ。

「ダウントン・アビー」はどの辺の時代まで作られるのか、だけれども、ワタシの感じでは、今後、第二次世界大戦に向けて世の中がかまびすしくなっていく中でのダウントンの人々のあれこれを描きつつ、大戦の最中とその終了という時の移ろいの中で、ダウントンがいかに生き延びるのか、そして第二次大戦後、おそらくは父親からダウントンを引き継ぐ事になるのであろうメアリーが、戦後の世界でどのように屋敷と土地を維持していくのかを示唆して終わる、という感じではなかろうかと思う。最終的にはナショナル・トラストに管理を任せて屋敷を引き払い、老いたメアリーが、かつて住んだダウントンを遠く懐かしく眺める、などという、シリーズのラストシーンが脳裏に浮かんだりしてしまっているのだけど、当たるかしらん、どうかしらん。ふふふ。
まだまだ先は長そうだ。

コメント

  • 2015/03/20 (Fri) 22:09

    kikiさん
    ばぁばです。よくダウントンを取り上げてくださいました。メアリーの美貌度がご不満だったようなので、見ていらっしゃらないかも、と思っていたので、今回の長文の記事、うれしく、うなずきながら、楽しんで拝読しました。ハイソな英国の渡鬼、とは言いえて妙ですね。さすがです。
    吹き替え版は不満なのですが、わたしもNHKの日曜、毎回楽しみに見ています。そして思うのです。広大な屋敷だから、召使の仕事それぞれが職業のようになっているけれど、私たち主婦は、小さな家とはいえ、すべてを自分ひとりでやっているのだなあ、と。
    それにしても先回のエピソード、従者は衣類のしみ抜きの知識もプロなみに必要なのですね。
    レディの従者はいまの女優のスタイリスト的アドヴァイスも必要というわけです。
    マギー・スミスとシャリー・マクレーンの掛け合いのところだけは彼女たちの英語が聴きたくて、音声を調節して、可能にしました。マクレーンはデイム・マギーに負けていなかったと思いました。
    あのマシューの男優、なんと、ミス・マープルのジェラルディン・マクイーワン版の『復讐の女神』で大富豪の息子役を演じているのですよ、でもこのドラマ、筋書をかなり変えていて、ひどい出来でした。

    三人姉妹ではわたしも三女が一番好きなタイプでした。NHKがダウントンの裏話的ドキュメンタリーを放送していたのをご覧になりましたか?貴族顔と召使顔があるから仕方がない、と言っていた料理補佐役女優の話が面白かったです。

  • 2015/03/21 (Sat) 19:38

    ばぁばさん こんばんは。
    いつも誰かの美貌度に不満で申し訳ありませんが、どうも設定にそぐわない人が演じていると気になる役、というのがあるものなんですよね…。うるさくて申し訳ないんですが(笑)
    吹き替え版というと、最近は本当に気に入らない吹き替えが多いので、出来る限り字幕を愛好しているんですが、NHKの場合は有無を言わさず二カ国語放送で吹き替えを是としてますよね。確かに、吹き替えの方が元のセリフの要素をかなり取り込む事ができるという部分もありますが、そぐわない声で台無しにされるというマイナス点もあるので、難しいところです。

    従者は衣類を扱うので、洗濯屋さんにも負けない知識が必要なんですね。ある種の専門職ですものね。扱う素材も高級品ばかりなわけだし。

    マシューやら、伯爵やらもミス・マープルシリーズにゲストで出ているようですね。

    ダウントンの裏話ドキュメンタリーはワタシも見ましたよ。使用人を演じていると、キレイなドレスは着られないし、気分的にも卑屈になってしまう、みたいな事を言ってたような気がしますね。あはは、という感じでした。

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