「ナイトメア ~血塗られた秘密~」(PENNY DREADFUL)

-怪奇とお耽美 ビクトリア朝ロンドンのグラン・ギニョール-
2014年 英/米  Desert Wolf Productions 他



昨年、ご贔屓エヴァ・グリーンが、いかにも彼女にふさわしい雰囲気の連続ドラマに出ている事を知り、見たいなと思っていたら、WOWOWが日本での放映権を獲った事を知った。そうか、WOWOWね。久々に再契約してみるのもいいかもしれない。コンサートや、ドキュメンタリーも充実しているし。
というわけで、約4年ぶりにWOWOWに加入して、興味深いゴシック・ホラー「PENNY DREADFUL」を鑑賞することにした。
昨今、ある程度どこのチャンネルでも色々な映画が観られるため、映画だけでは有料プレミアムチャンネルを契約するキッカケにはならない。アカデミー賞授賞式も別に観なくても差し支えないし、スポーツ中継を特に愛好するわけでもないワタシがWOWOWのようなプレミアムの有料チャンネルを契約するキッカケはただひとつ。観たいと思うような海外ドラマを放映しているか否か、である。エヴァ・グリーンのファンであるワタシにとって、19世紀末のロンドンを舞台にした耽美的なホラーというのは、実に吸引力抜群の物件であり、この誘惑には抗えなかった。彼女だけではなく、ティモシー・ダルトンまで出演するとあっては、なおさら観ない訳にはいかない。



で、初回から鑑賞してみると、実に期待通りの作品で、エヴァ・グリーンの個性がドラマのムードと不可分に絡み合って醸し出される独特の味わいが何とも言えない。エヴァ・グリーンのような女優が居て良かったよねぇ、とプロデューサーや監督に語りかけたい気分になった。



彼女が演じるのは、「悪魔に愛された謎の女」ヴァネッサである。まさにドンピシャリ。エヴァ・グリーンは謎の女が似合うのだ。そこに漂う秘密と死と闇の匂い、そして苦悩と哀しみ、というのは、彼女ならではの世界観である。女優多しといえども、こういうジャンルの役を演じさせたら、容姿といい、ムードといい、彼女の右に出る者はいないだろう。製作陣も、その得難い個性をよく分かって使っている。というか、この役はまず彼女ありきで設定されたものなのだと思う。闇の世界と人の世界の狭間に立つ彼女は、霊媒師でもある。そして、彼女はアフリカ探検で名を知られたマルコム卿の屋敷に住んでいる。失踪したマルコム卿の娘ミーナとは幼なじみの関係である。捕われた闇の世界からミーナを救い出す事を人生の目的としているヴァネッサだが…というわけで、何かいろいろ秘密がありそうで興味深い。ふふふ。



著名な探検家の貴族、マルコム卿を演じるのはティモシー・ダルトン。闇の世界に連れ去られたらしい娘ミーナを取り戻すべく、ヴァネッサの力を借りて悪魔を追い込もうとしている。が、人格の練れた紳士という表面的な顔の裏に、何か後ろ暗い秘密を隠しているらしいことが、徐々に明らかになってきている。うふふふ。ティモシー。今回はなかなかいい感じの役が回ってきたのではなかろうか。



アメリカ人の曲撃ち芸人だったイーサンを演じるのはジョシュ・ハートネット。一時期、猛烈に売り出していたが、ここ数年見かけないと思っていたら、このドラマが暫くぶりの表舞台復帰だったらしい。以前はそう思わなかったが、ロンゲ気味の本作のイーサンを観ていたら、ジョシュ・ハートネットは少し前のブラピに似ているな、と思った。長身で小顔でスラリと姿のいいところも似ているし、顔立ちもどことなく似ている。ブラピはアンジーと一緒になってから老けが進んですっかりオッサンになってしまったが、ジョシュ・ハートネットはそれより前のブラピに似て来た気がする。ジョシュ・ハートネットというと、ワタシは「シン・シティ」の1作目で、女好きのする二枚目だが、どうやら恐るべき連続殺人鬼らしい青年を冒頭と末尾でちらっと登場して演じていた姿が何故か印象に残っている。あの役をメインに据えた「シン・シティ」が観てみたい気もするが、早くしないとジョシュ・ハートネットはけっこう老けるのが早いかもしれぬので、役のイメージに合わなくなってしまうかもしれない(笑)



ビクトリア朝のロンドンといえば、科学や産業の発展の一方で、怪奇や幻想、耽美主義などが翼を広げて夜を覆った時代でもあったので、とにかく怪奇譚の主人公は全部出しちゃえという事で、フランケンシュタインと彼の怪物も登場すれば、ヴァンパイアを研究するヴァン・ヘルシング教授も登場する。エヴァ・グリーン演じるヴァネッサと惹かれ合う謎の美青年として、ドリアン・グレイも登場するなど、まさに19世紀末的スターが総出演といった感じである。ここに登場しないのは、シャーロック・ホームズぐらいなものだろうか(笑)

幼い頃に最愛の母を病で喪ってから、死んだ人間を甦らせることに執念を燃やすようになった若きフランケンシュタインを演じるのはハリー・トレッダウェイ。まだよく分からないが、まぁ、きっと適役なのだろうと思う。彼が最初に作ったものの、あまりの醜さに見捨ててしまった人造人間を演じるのはロリー・キニア。でも、全体にちょっと肉付きがよく、顔がまるまっちいので、醜いというよりは、なんとなく可愛らしく見えてしまうのはいい事なのか、そうでもないのか…。この人造人間が、フランケンシュタインに棄てられ、彼を追ってロンドンまで来て、行き暮れている時に「グラン・ギニョール劇場」の座長に拾われ、舞台の下や裏手でドタバタと右往左往しながら怪奇芝居の裏方の仕事に明け暮れている様子はどことなくユーモラスだ。この人造人間のルックスは、人々のイメージにある、あのボリス・カーロフ的怪物ではなく、メアリー・シェリーの原作に描かれている姿を踏襲したものらしい。だから、身長2mの巨人でもなく、こめかみからボルトなども突き出ていないわけである。


自らが生命を与えてしまった「怪物」に翻弄されるフランケンシュタイン

せめてものことに美しい伴侶を得ようと思う人造人間

余談だが、「フランケンシュタイン」といえば、ワタシはケネス・ブラナーが監督とフランケンシュタイン博士役を務め、ロバート・デ・ニーロが人造人間を演じた1994年の映画が印象に残っている。「なぜ造った」(漢字などはこれだったかどうかうろ覚え)というキャッチコピーもいまだに覚えている。勝手に造られ、勝手に棄てられた人造人間の悲哀は伝わってきたという印象がある。頼んだわけでもないのに命を与えておいて、醜いからってそれきり棄てられてもねぇ…。それは困っちゃうだろうと思う。途方に暮れるよねぇ…。
ちなみに、フランケンシュタインの嫁はヘレナ・ボナム=カーターが演じていた。
この歪んだ創造主と創造物の悲劇的な物語には永遠のドラマ性があるらしく、数年前にバッチ君とジョニー・リー・ミラーがWキャストで交互に博士と人造人間と演じたロンドンの舞台が大好評を博したのは記憶に新しい。この物語は、とにもかくにも「なぜ造った」の一言に尽きると思う。



悪魔的で享楽的な美声年ドリアン・グレイを演じるのはリーヴ・カーニー。ルックスはイマドキな雰囲気のドリアン・グレイだが、永遠の生命と永遠の若さ、美貌を得たものの、人生のあらゆる事に飽き果ててしまっている退廃的なムードがなかなかグッドである。ドリアン・グレイといえば数年前にカスピアン王子ことベン・バーンズがドリアンを演じた映画があった。悪魔的なヘンリー卿をコリン・ファースが演じていて、そういうメフィストの役はコリンには合わないんじゃなかろうかと思っていたが、案の定だった上に、映画全体も出来が悪く、日本未公開だったのも無理からぬなぁ、という残念映画だった。ベン・バーンズは確かに美しいのだが、映画は凡庸な脚本と凡庸な演出で退屈極まり、ドリアン・グレイが美しいというだけではどうにもならなかった。


ベン・バーンズの王子的ドリアン・グレイ

ベン・バーンズのような正統的な美しさとは異なるのだが、このドラマでドリアンを演じるリーヴ・カーニーは、見た目は若くて魅力的だが、退廃しきった者が放つ奇妙な倦怠感を軽やかに漂わせていて適役だ。悪魔に魂を売った者の雰囲気が出ている。



主要キャストの3人(マルコム卿、イーサン、ヴァネッサ)はそれぞれに過去に何か後ろ暗い秘密を抱えている。最近のドラマは、ドラマ全体のテーマと並行して、主要な登場人物が抱えている問題や過去の秘密が徐々に明らかになっていく、という展開が主流になっている。

イーサンは、アメリカで金持ちの家に育ったらしいのだが、何か事件を引き起こして身を隠し、イギリスに潜んでいるようだ。イーサンの父親には、どうやらいくばくかの権力があるらしい。放浪者のように見えてお坊ちゃん、というのは、さもありなんという感じがする。

ヴァネッサの秘密と、マルコム卿の秘密は互いに少し重なる部分もあるような感じもするが、それはこれから徐々に明らかになっていくのを楽しみに見守った方がいいだろう。次回(第5回)あたりから、段々に過去が描かれていくのだろうと思われる。



シーズン1は全8回なので、放映は半分終わったというところだ。シーズン2の放映は本国では5月からのようなので、日本では早ければ秋あたりにシーズン2が放映されるかもしれない。

原題の「PENNY DREADFUL」というのは、三文怪奇小説というような意味らしい。シニカルでいい。「ナイトメア」という邦題もそれなりに分かり易いと思う。
こういうドラマは、ありそうでなかった。そして、こういうものは、資本はあってもアメリカだけでは作れない空気感である。こういうテイストは、やはりヨーロッパのもので、ビクトリア朝ロンドンとくればUKのスタッフとキャスト(エヴァ・グリーンはイギリス人ではないけれども)に英国ロケは必須である。第4回で、ドリアン・グレイとヴァネッサが再会する温室はキュー・ガーデンではなかろうかと思うのだが、ドラマ全体の雰囲気には英国ロケは何があろうと欠かせない、最も重要な要素である。





また、第4回のラストで、心惹かれる肺病の娼婦を救いきれない傷心のイーサンと、ドリアン・グレイが彼の館で酒を飲むシーンでは、あの緑のアブサンが登場し、ワタシは久々にデカプーが美少年だった頃の「太陽と月に背いて」を思い出したりした。温室で蘭の花びらに鼻を近づけて白目を剥いて香りを嗅ぐなど、ドリアン・グレイが登場するシーンは全てお耽美ムードが横溢していて、ふふふ、という感じである。「トリスタンとイゾルデ」の「愛の死」を聴きながら、ノンケであるのだろうイーサンに不思議な衝動を催させるドリアンの魔性もなかなかOKである。



…というわけで、作品の雰囲気が、視聴者がこういうドラマに望んでいるものをちゃんともたらしているし、演じている役者もみな、とても楽しそうにやっている気配がする。シーズン2は勢いが乗っていてもっといい感じにシーズンが展開するのではなかろうかと思うのだが、好評につき、長くやっているとクオリティが落ちて来たりもするものなので、シーズン3か4ぐらいで、余韻を残して巧く締めくくってほしいと思う。

コメント

  • 2015/05/27 (Wed) 11:00

    こんにちは。以前、ジェーン・エア(1983)版でコメントしたヤキトリです。

    このドラマの為にwowowに入られましたか。kikiさん流石です!
    私はUKamazonでDVDを取り寄せました。日本版のは…というか日本そもそもDVD(Blu-ray)が高いですね~T_Tなんででしょ?

    さておき、私はティモシー・ダルトンが好きでゴシックホラーが好きで…というのもあり、このドラマのトレーラーをyoutubeで知った時には鼻息が荒くなりました。「キター!!」てな感じですよw。
    エヴァ・グリーンは今回知った女優さんですが、綺麗で怪しくて…いま時の女優さんにには無い、暗い華やかさがありまね。
    本当に役にピッタリだと思いました。ジョシュはハリソン・フォードと共演した『ハリウッド的殺人事件』以来のお目見えで、カッコよくなっててビックリしました。若いころはモサっとしてたのにな~。
    配役が本当にはまってて、ドラマなのに豪華なところがたまりません。日本のドラマも見習ってほしい!

    kikiさんのおっしゃる通り、変に長く続かずに、キリッといいところで終わってほしいドラマですね。

  • 2015/05/29 (Fri) 07:55

    ヤキトリさん こんばんは。
    UKから取り寄せされたんですねー。それもまたさすがじゃないですか(笑)日本版は本当に高いですよね。UK版なら送料込みでもまだ日本版より安かったりしますから、買っちゃいますよね。まぁ、最近はちょっと円安気味なのでどうか分かりませんけども。

    このドラマ、独特でいいですよね。配役がいかにもで、みんな一癖あって。エヴァちゃんは当初から想定されててあて書きだったんだろうなと思います。ティモシー・ダルトンもかなり陰影の濃い役で、久々に演じ甲斐があるんじゃないかと思います。ジョシュ・ハートネットも案外いい感じですね。彼の正体があれとは予想外でした。へ〜って感じですね。本国では今シーズン2を放映中だと思うので、秋になったら日本でもまたWOWOWが放映すると思います。シーズン3か4ぐらいで余韻を残して終了するようにしてほしいですね。折角出来がいいから、引き際もいい感じで締めくくってほしいものです。
    このドラマがキッカケで再入会しましたが、機会あるごとにWOWOWで好きな映画や保存版の映画を高画質で録画しています。再入会して正解だな、と思っていますわ。ふほ。

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