「オックスフォードミステリー ルイス警部」(LEWIS)

-いかにもな英国風味が味わい深い-
2006年〜 グラナダTV他 制作



英国の刑事ものには、のどかな田舎町を舞台にしたものがある。AXNミステリーで放映されているドラマの中にも、そういうジャンルの作品が数本ある。事件はロンドンだけで起きているわけではない、というわけである。美しい郊外の町でも禍々しい殺人は起きるのだ。この「オックスフォードミステリー ルイス警部」も、そういうのどかな田舎町(というかここでは大学町)を舞台にした刑事モノの1本で、元はコリン・デクスター原作の「主任警部モース」という老刑事を主役としたミステリー物から派生したスピンオフのシリーズらしいが、安定した人気を誇り、2006年からスタートしたシリーズは現在も継続中だ。

ワタシは大元の「主任警部モース」を観ていないので、モースについて語る事はできないし、随所に挿し込まれている「モースへのオマージュ」なる部分もどこだか分からないが、「主任警部モース」を全く観ていなくても「ルイス警部」は楽しめる。モースの部下だったルイスをメインに据え、彼を補佐する若手の刑事にケンブリッジ卒のインテリ、ハサウェイを配して、二人がコンビとしての絆を深めていくありようを織り込みつつ、閑静な大学町の佇まいの中で起こる殺人事件と、その背後の人間模様、コツコツと事件を解決していく二人の姿を追う。大学町を舞台にしているゆえに、オックスフォード大学絡みの事件もたびたび登場するし、その地に屋敷がある貴族の家で起きた事件が描かれる回もある。大都市ではなく田舎町が舞台の刑事モノで、折々、貴族の屋敷で事件が起きたりするのも、アメリカ物とは異なる英国ミステリーならではの特徴だろう。


二人ともサッパリ男前じゃないのだけど、なんだか良い感じなのである

「主任警部モース」ではモースの部下で、まだ若かったらしいルイスも中年になり、警部になった。ルイスを演じるのは、一見なんの変哲もないオッサンで、地味で、華などサッパリない、という感じのケヴィン・ウェイトリーだが、何か不思議な魅力のある俳優である。過剰なところは全く無く、男前でもなんでもなく、鋭い感じもしないし、かといって過度に人情派というノリでもない。普通の中年という感じであるが、何かその穏やかな普通の人っぷりが、観ていて安心するというか、なんとなく良いのである。



「主任警部モース」では家庭大事の愛妻家だったらしいルイスだが、「オックスフォードミステリー ルイス警部」(邦題が長いので、以下「ルイス警部」に短縮)では独身である。ルイスの妻は数年前に不慮の事故で亡くなってしまい、子供も独立して、いいトシになってまた単身状態にもどってしまった、という設定である。なんでもない普通のオヤジが、そこはかとなく哀愁を漂わせている様子はなかなか悪くないものである。このドラマは、そうしたフツーのおじさんのそこはかとない良さに「ふぅん」と思わされたりするのが、なんとなく快かったりする。中年になって突如、妻に死なれたルイスだが、女性監察医のホブソンと付かず離れずのいい関係を築きつつあって、この二人の大人の距離感も微笑ましくていい。ホブソンが、アメリカのドラマに出て来る女性監察官のように、ロングヘアで化粧バッチリのフラッシーなタイプではなく、そこらによくいる普通っぽい女性なのも、英国ドラマだな、という気がする。

このルイスとコンビを組むインテリ刑事のハサウェイを演じているのは、ローレンス・フォックス。天然のブロンドで、薄い色の眉に青い目。長い顔。ひょろりとした長身痩躯。特異な風貌だ。系統としてはポール・ベタニーなどと同じ系統だと思うけれども、持ち味は少し異なる。


別段、ワタシは馬面が好きというわけではないのだけど…

ローレンス・フォックスは、ワタシが貴族専門職俳優と勝手に分類しているジェームズ・フォックス(「インドへの道」「日の名残り」など)の息子で、ということは、あの「ジャッカルの日」のエドワード・フォックスの甥でもある。ジェームズ・フォックスも長身だが、息子は更に長身で190cm超のやせ形ノッポだ。叔父のエドワード・(ジャッカル)フォックスは、どちらかといえばちびっ子なのだが、一族的にはエドワードが異端児なのかどうなのか…(笑)

ローレンス・フォックスを初めて観たのは、アン・ハサウェイがジェーン・オースティンを演じた、あまり出来のよくない伝記もの「ジェイン・オースティン 秘められた恋」で、いくらかダーシー風味、という感じの、地元の名門の息子役で出て来たのを観た時である。ブロンドのフランケン、という印象で、ヌボーっとしていて、なんだかとても変わった顔だなぁ、と思った。だから、このドラマに出て来た時に、あ、これはあのフランケンだな、とすぐに気付いた。馬面の上にムッツリしていて、ブロンドのせいで眉なしに見えるので、否応なしに「特異な風貌」という印象になるのだが、頭は良いが無愛想で不器用なハサウェイ刑事は、彼が演じてこその魅力があって、非常にハマっている。

このハサウェイ刑事とルイスのコンビネーションが大当たりだったので、2006年からずっと続いている人気シリーズになっているのであろう。役柄の上でもそうなように、ルイスを演じるケヴィン・ウェイトリーと、ハサウェイを演じるローレンス・フォックスは互いに互いの存在を補い合っていて、引き立てあっている感じである。どちらも一人だけでは些か地味なのだが、二人揃うとそれぞれの個性がうまいぐあいに際立ってくる。なかなか味なコンビなのである。



ローレンス・フォックスは低めの声がちょっとバッチ君と似ていなくもない。エロキューションも知的な雰囲気があって良い。彼が演じるハサウェイ刑事は、ムッツリと無口で無愛想だが、根は純粋でアツいところもあったりする。まぁ、よくあるタイプのキャラといえば言えるが、それをブロンドのフランケンがムッツリと演じているので、妙な味わいが出るわけなのだ。ふふ。
ちなみにローレンス・フォックスの奥さんは、「ナイトメア」(Penny Dreadful)で肺病病みの娼婦を演じていたビリー・パイパーである。上を向いた鼻とまくれ上がった感じの唇が印象的な女優だ。



「ルイス警部」は1シーズン4話で、1話が90分程度。じっくりと作られていて、エピソードも毎回面白いし、ゲストで登場する俳優、女優に他のドラマや映画でお馴染みの顔がちらほら観られるのもふふふ、という感じである。シーズン4の4話目だかにルパート・グレイブスがゲストで出ていた回があり、なんかしょうもない男の役だったけれども、ずっとニヤニヤしながら観てしまった。


英国ドラマの人気シリーズにはかならず顔を出している感じのルパート・グレイブス

また、ハサウェイ刑事の過去が少し語られるエピソードとしては、シーズン4の1話目「公爵家の人々」が興味深かった。幼なじみだった公爵家の令嬢に淡い想いを抱いていたハサウェイの気持ちが、捜査攪乱の為に利用されたりして、むっつりハサウェイも少しだけハートブレイクだったりする。「他人の不幸をただ調べ回って年を取っていくのはイヤです!」とハサウェイがルイスに言うシーンでは、クールなハサウェイの悩めるウェルテルぶりがちらっと浮き彫りになる。

エピソードは、毎回、けっこう入り組んだ人間模様とそれらから生み出される事件をじっくりと描いていく。事件を追いながらも、いかにもな英国らしさが話にも画面の空気にも滲んでいるのがポイントだ。このドラマでは、大学町の独特な佇まいが特色を添えている。



「オックスフォードミステリー ルイス警部」はAXNミステリーで放映しているのだが、中途半端な時間の放映だし、録画も忘れてしまうので、たまたま観られた時にしか観た事がなかったのだけど、最近ビデオ・オンデマンドに入ってきたので、何話かまとめて観る事ができた。それを観るまでは「SUITS」について書こうかしらん、と思っていたのだけど、まぁ「SUITS」は近々シーズン4がWOWOWで放映開始になるので、それを観てからでもいいや、という気分になった。


「SUITS」の二人

広く括れば「バディ物」というカテゴリーは同じでも、「SUITS」はモロにアメリカ、モロにNYという感じのドラマなのに対して、「ルイス警部」はモロに英国、しかもロンドンじゃなく郊外都市が舞台、というのが対照的だが、ワタシはそもそも、アメリカよりもずっと英国の方が好きだし、馬面のむっつりハサウェイがちょっとカワイく見えてきて気に入ってしまったので、イケイケで旬な感じの「SUITS」を脇へ押しやって、「ルイス警部」の登場とあいなった。AXNが観られなくてもDVDも出ているようなので、ご興味のある方は半額デーにでもどうぞ。

コメント

  • 2015/06/10 (Wed) 23:39

    今晩は。前回コメントさせて頂いたのは2012年でしたから覚えていらっしゃらないと思います。
    3年近くのブランクですが、こちらは時々拝見しておりました。
    若い方の書かれることは勉強になります。
    今回の「ルイス警部」についてですが、結構好きで、再放送でもつい見てしまいます。
    kikiさんのブログに登場、ということでつい嬉しくなって投稿したくなりました。
    イギリスのミステリードラマは大好きですが、「ルイス警部」は好みのベスト5に入ります。
    ルイスとハサウェイの二人の組み合わせがなんとも言えず、気に入っています。
    ハサウェイがルイスを選んで部下になった成り行きとかも良いんですよね。
    「主任警部モース」はモース役の俳優さんが好きになれずほとんど見ていません。
    それに古いドラマなので仕方ないですが、画面も「ルイス警部」のほうがオックスフォードの風景が美しく撮れていて観ていて楽しいです。
    エンディングの音楽も好きなんですよ。
    ただ、天下のオックスフォード大学、怪しげな教授や学生がこんなに多くて
    良いんだろうか、殺されたり、逮捕されたり・・・なんて思ったり。
    私からのお奨め、お時間があったら「刑事フォイル」ご覧になってください。
    私のイギリスミステリーのNo.1です。

  • 2015/06/12 (Fri) 07:20

    たがやさん こんにちは。
    3年ぶりのコメント、ありがとうございます(笑)特にコメントはしないけどずっと読んでいるという方は、コアな読者の方にはけっこういらっしゃるんですよ。このブログを始めて間もない頃から来てくれていて、もう凄い訪問回数になるけど一度もコメントはしていない、という方も結構いらっしゃるようです。
    さて、「ルイス警部」。たがやさんもお好きなんですねー。「主任警部モース」は主役の老刑事がちょっと顔に威厳が有りすぎるというか、ね。あまり観る気になれないんですが、これは良いですよね。
    そうそう。オックスフォードだから大学絡みの事件が多くて、大学としてはどう思ってるのかなぁと時折思っちゃいますが、笑って黙認、という感じなんでしょうかね(笑)

    そして「刑事フォイル」。シーズン1〜4ぐらいまでは観てますよ。出来のいいドラマで、主役のキッチンさんも哀愁があっていいですよね。戦時下という特殊状況で、よく話を続けてるな、とも思います。秀作なんですが、ワタシは観たものをなんでも書くかというと、そうではなく、何か自分の中で、このドラマや映画については、ここを書きたい、というのが湧いてきた時に書く、という感じなのです。フォイルについては、今のところ、このドラマについてこういう角度から書きたい!という衝動が湧いてこないので、ちょっとペンディングになっています。そのうちに何か書くかもしれませんので、気長におつきあいください。

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