「京都人の密かな愉しみ 夏 Le Charme discret de les gens de kyoto L'été」

-京の水の物語-
2015年 NHK BSプレミアム



今年のお正月に放映された「京都人の密かな愉しみ」の続編というか、第2弾の夏編。前回は秋冬編で、部外者の知らない京都と京都人の世界を非常に興味深く余韻を持って紹介してくれたこの番組。桜の春をすっ飛ばして、第2弾は季節を夏に持ってきた。京都の夏が暑いのは誰でも知っているのでそこはサラリと流した感じで、今回は京都の地下を豊かに流れる地下水に焦点を当てて番組を構成していた。

祇園祭りの時期の京都の食といえば鱧である。
今回の番組でも、祇園祭りの京都は鱧の季節だ(祇園祭りは別名「鱧祭り」とも言うらしい)、ということで、鱧の皮をきゅうりと和えたものを紹介していたけれど、夏の京都といえばワタシも昔、物好きにも祇園祭りの宵宮の頃に京都に行って、大人になったから大人の楽しみだ、と瓢亭で鱧づくしの昼食を堪能した。するとその晩、宿泊した宿でも大いなる鱧づくしの夕食が出て、瓢亭で遅めの昼食にしこたま鱧を食べてきた後なので、頑張ったけれども半分ほどしか食べられなかった。だからワタシは、京都の夏というと、四条河原に出ていた床(ゆか)と、街中に流れていた祇園囃子と、この鱧尽くしというか鱧責め状態を思い出す。この時期の京都はとかくに鱧三昧なのだ、という認識が足りなかった結果、宿には申し訳ない事になってしまった。若気の至りだけれど、懐かしい思い出でもある。

閑話休題。

「京都人の密かな愉しみ 夏」は、京都の水にまつわるエピソードが集められていた。今回の「京都ならではの珍商売」は井戸掘り屋さん。21世紀に、日本の大都市で、いまだに井戸掘り稼業がリッパに成り立って行くというのは、実に京都ならではだろうと思う。京都の地下水脈というのはとても豊穣で、上質な水がこんこんと湧き出しているというのは、ドキュメンタリー「南禅寺界隈別荘群」のシリーズで知っていたのだけれど、豊かな水があるので貴顕や豪商が別荘をこぞって建てた南禅寺界隈のような土地に限らず、京の町中でもきちんと地下水脈を掘り当てればいまだに水が湧き出るというのは驚きだった。錦市場で使う膨大な水も地下水から汲み上げて使っている、というのには、ほっへ〜〜、と感心した。京都と京都文化は根底から豊かな地下水が支えているのである。

京の古いお公家さんといえばここ!という冷泉家も、水の枯れた古い井戸に代わって、井戸掘り名人に庭に新しい井戸を掘ってもらい、そこからこんこんと水が湧き出している様子が紹介されていた。冷泉家の井戸は、庭のお文庫に当主が入る際に、身を浄めるために必要な、重要な井戸であるらしい。明治維新の折に、あまたの公家が天皇に従って東京に移住したが、冷泉家は京都を動かなかった。あの素晴らしい屋敷や庭、そして貴重な文献を納めたお文庫などの文化遺産が無傷で今日まで残っているのは、冷泉家が京都を動かなかったことの賜物なのである。もしも冷泉家が東京に移住していたら、大震災と戦災という二度の大災害を、お文庫の文化遺産が無傷で切り抜けられただろうか、と思うと、何とも言えない気分になる。冷泉家が和歌の家としての使命を繋いでいく為には、京都以外の土地はあり得ないのだろう。



その井戸掘り屋という稼業も、今回はオムニバスドラマの一編として描かれていた。柄本佑演じる井戸掘り屋さんの4代目をメインにしたエピソードはちょっとオカルト絡み。ふふふ、夏だからね。中越典子が役に合っていたと思う。今回の夏編は柄本明、佑の親子がそれぞれ別のエピソードで登場していた。それにしても柄本佑って売れている。最近、ほんとうによくドラマで見かける気がする。なんでそんなに売れているのかは、ワタシにはよく分からないのだけど…。
柄本明は茶の宗匠の役で、長男が跡を継いでくれないので気落ちしているという設定だったからかどうか分からないが、声に元気がなく、時折セリフが聞き取れなかった。どこか具合が悪いのではないかと少し気になった。



柄本明演じる茶の宗匠の跡取り息子だった長男が、家を出て木屋町の路地奥に開いているという設定の珈琲専門店は、珈琲屋なのにお茶室のような雰囲気。シンプルで余計なものを削ぎ落とし、研ぎすまされた感じのお店だけれども、あんなに鎮まり返った空気で、いつも他に客がいなくて、主人としーんと向かい合って珈琲を飲まねばならないというのは、緊張感が満ちすぎててちょっとしんどいかも…という気もした。
結局、長男はオヤジの跡を継がずに家を出て家督は弟に押し付けたものの、自分の流儀で、珈琲で茶をたてているだけなのだな、と思った。


緊張感に満ち満ちた茶室的珈琲店

そして勿論、メインキャラの老舗菓子舗の若女将、三八子(常磐貴子)や、語り部エドワード・ヒースローの日常も描写されるわけだが、三八子が密会していた雲水さんが想い人というわけではなかったのには、ちと拍子抜け。…ふぅん、そういう関係の御仁だったのだね。まぁ、そういう設定でもいいんだけど、ここはやはり、想い人という方向で話を転がした方が面白かったんじゃないだろうかなぁ…と思ったりした。



今回は京の地下水をメインテーマに、サブテーマとして男の浮気、女の嫉妬を描いていたようだけれど、三八子も母には言えない故人の父の浮気の余波に一人気を揉んでいる、という感じだった。

しかし、いかに頑なな性格とはいえ、彼はなんで母親が亡くなったからといって雲水になってしまったのだろうか…。そして、雲水さんとの密会はロマンスじゃなかったということなら、三八子にはまったく浮いた話はなし? …う〜む。それってどうなの。そんなんでいいのか?


金時を食べて喜んでる場合じゃないですよ

またヒースロー先生には、英国から追いかけて来たらしい女性(おや、エリー)が現れたりして、to be continued…な気配テンコモリで終わった夏編。


夏は芥子豆腐を肴に冷や酒で一杯 先生はいつも美味しそうに日本酒を飲んでおられる

この先、季節変わりに続編が出てくるのだろうかな、という感じだけれど、今回は勿論それなりのクオリティを維持してはいたものの、やはりお正月に観た第1弾の秋冬編の出来が良すぎて、今回はそこまでの出来ではなかったかな…という気がした。これはあくまでもワタシの感想なので、別な感想、印象を持つ人も勿論いらっしゃるでしょうけれど。
最初にかなり質の高いものを出してしまうと、次以降というのはなかなか大変だろうと思う。

とりあえず、次は春編が観たいかな。桜の季節のお話は、枝垂桜を背景に、あまり意表を衝かずにティピカルに、それなりに華やかに、けれど、ちらりと過ぎゆく春への哀切な感傷など滲ませてもらうと良い感じではなかろうかな、と思われるけれど、さてさて、春編はあるのか否か。いずれにしても来年のお話、ですかしらね。



木屋町の和風珈琲店の軒先に、鉢から茎や葉を伸ばした蓮が置かれていたのがいい佇まいだった。蓮ってほんとうに瞑想的で美しい花である。

コメント

  • 2015/08/17 (Mon) 07:28

    クリマイのJJ大好き女子です。
    NCISのアビー大好き女子です。
    お久しぶりです。

    エー!!
    番組名登録して、録画予約しておいたのですが、再放送だと思ってザックリ消去
    グググ、「夏」編だったのですか!オンデマンドで、有料は癪です。
    ひたすら、再放送待ちます
    教えて戴き ありがとうございます

    • ジェード・ランジェイ #-
    • URL
    • 編集
  • 2015/08/17 (Mon) 12:59

    今回はちょっと”創り過ぎ”という感じでしたね...。
    しかし、
    地上波で、お笑い芸人ばかり出る番組や、ドラマを観させられる今日この頃としては面白いオムニバス番組でした。

    中越鉄輪妖怪VS川島海荷真名姫妖怪はなかなか考えた設定ともいえましょう。
    ただ二人とも怖くはない妖怪で、京都在住の井上あさひさんがいうほど涼しくはなりませんでした(笑)。

    >to be continued...の件ですが、
    ①エリー嬢登場の件は兎も角、
    ②雲水vs銀粉蝶vs三八子の関係修復?
    ③木屋町のお茶室のような珈琲専門店の店主と三八子との出会い?
    いろいろ、脚本ができそうな塩梅でしたね(笑)。

    柄本明さんですが・・・。
    彼、もともとセリフがはっきりと口から出ない性質で聞き取りにくいです。
    ですから、
    グチグチとした役がお似合いなんですよね。

  • 2015/08/17 (Mon) 20:02

    初めまして、よくろべと申します。

    京都のお寺さん巡りが好きでこの番組を最近知り、京都の歴史に触れ合える事や情緒的な描写からとっても気に入りました。

    そしてNETで情報を探していたらkikiさんのブログに辿りつきました。

    私もkikiさんのおっしゃる通り、前回の放送が良かったですね。

    今回の夏編を見てから、再度前回のをもう一度見てしまいました。

    でも次の放送もとっても楽しみです。
    武田カオリさんの京都慕情すっごく良いですね(*^_^*)



  • 2015/08/17 (Mon) 21:40

    ジェード・ランジェイさん お久しぶりです。
    夏編を盛り上げるために、少し前からBSや地上波で第1弾を再放送したみたいですが、15日の夜に録画したものだったら夏編だったですね。でも、そんなに経たないうちに再放送するんじゃないかと思いますよ。何となく。その時はすかさず捕獲してください。

  • 2015/08/17 (Mon) 23:40

    ractyanさん こんばんは。

    ”創り過ぎ”というのは言い得て妙ですね。確かにそんな感じでした。
    まぁ、凡百のくだらない番組に比べたら、勿論、比較にならないほどクオリティは高いんですが、前回が高すぎたので、同じかそれ以上を期待していると、そこまで行かなかったかな…という感じではありますのよね。期待しすぎか。

    > ③木屋町のお茶室のような珈琲専門店の店主と三八子との出会い?

    ああ、確かに。それはありそうですね。ヒースロー先生が、いいお店を見つけました、とか言って三八子を連れて行ったら出会っちゃったりして、ね。ふほほ。やぶ蛇なことに。

    柄本明さん、いつもああでしたっけね。そうか。でもいつもに輪をかけて聞き取りにくかったので、病気でもしてるのかな、とか余計な事を考えてしまいました。余計なお世話かも、ですね(笑)

  • 2015/08/17 (Mon) 23:48

    よくろべさん 初めまして。

    この番組は、画期的なスタイルを作り出しましたよね。京都トリビアに溢れていて、京都を紹介するアングルが在り来たりじゃなくて、ね。でも、やはり前回の余韻には及ばなかったかな、という感じはしますよね。前回が良すぎたんだと思いますが(笑)
    次の季節はいつなのか、楽しみですよね。普通に考えると春だろうな、とは思うんですが…。
    エンディングの京都慕情、今回も良かったですね。あのつぶやくような儚げなヴォーカルが何とも言えない味わいです。

  • 2015/08/18 (Tue) 13:39

    kikiさんこんにちは。

    以前書かれたブログを拝見して大層興味をそそられておりました。
    にもかかわらず、9日の再放送を見逃して悔しくて悔しくて。
    前回のほうがよい出来だとお聞きするとなおさらですわ~。

    しかし、夏編も十分見応えありでした。京都に割合近いところに住まいしておりますが、まだまだ知らないところや事柄があるのだなと。

    昨日、市場でハモ皮と万願寺唐辛子をみつけて、思わず購入。
    美しい風景よりも食い意地が勝っている私、
    水無月もおいしそうやったなぁ。

  • 2015/08/18 (Tue) 22:10

    akoさん こんばんは。

    そうですか。第1弾を見逃されたんですね〜。でも、また今年中に再放送するんじゃないかな、という気がしますわ。何となく。わからないですけど(笑)夏編も悪くなかったですが、やはり最初の秋冬編の方が良かったと思います。次回、放映されたら是非捕獲してください。

    鱧皮と万願寺唐辛子を買おうと思えばすぐ買える、というのが京都に近い感じですねぇ。京都は野菜が独特ですよね。鱧皮ときゅうりの和え物美味しそうでしたが、あの京都風すき焼きも美味しそうでしたね。水無月も美味しいんでしょうね、きっと。ワタシはヒースロー先生と同様に甘いもの(とりわけアンコ)が苦手なので、和菓子にはあまりそそられないんですが、和菓子って見た目が綺麗ですよね。食べても美味しいんでしょうけど。ふほ。

  • 2015/08/19 (Wed) 12:34

    前回もお邪魔しました沼っちです!

    うーん、秋冬バージョンが良かっただけに かなり期待をしてしまい、…の割にはこんなもんかぁ 的な感想になってしまったのはわたくしめだけでしょうか?
    で、夏の京都は暑いんだろーなぁ~と云うことと中越典子さんが綺麗でした と云うことが素直な感想かな⁉
    エンディングの「京都慕情」は相変わらずいいですよね!何度かライブで唄わせてもらいましたが、若いオーディエンスから何という曲かと問われる場面が割に多かったですよ。20代は知らないよなぁ‼
    さて、何となく第三段がありそうな雰囲気で終わりましたが 次回はどーなるやら?季節のバージョンなのか違った切り口なのか❗

    お盆明け、こちらはすっかり涼しくなってきました。夏はおわりかなぁ❗
    まだまだ暑さに大変な思いをされている皆さまには残暑お見舞い申し上げます!

  • 2015/08/19 (Wed) 23:45

    沼っちさん こんばんは。

    秋冬バージョンが良かっただけに かなり期待をしてしまい、…の割にはこんなもんかぁ 的な感想になってしまった人は割に多いのでは?と思いますよ。文中にも書いている通り、ワタシもその一人ですし。
    中越典子さん、いつの間にか着物の似合う、いい感じな女性になりましたね。

    エンディングの「京都慕情」いいですよね。アレンジや歌い方によっては「ちょっとどうなの?」という感じにもなってしまうんですが、武田カオリさんの歌は、アレンジともども、最もベストのパフォーマンスかもしれませんね。

    > まだまだ暑さに大変な思いをされている皆さまには残暑お見舞い申し上げます!

    西日本の方はまだまだ暑いんでしょうかしらね。東京も8月半ばを過ぎたら朝晩涼しく感じる日が増えてきた気がします。東京はここ数年、7月の梅雨明け後が最も暑く、8月のお盆を過ぎると少し秋めいた気配が漂って、やや涼しくなってくる感じです。

  • 2017/05/27 (Sat) 22:03
    No title

    右京区民の謙介と申します。 京都人の、、を検索していましたら、こちらにまいりました。 柄本さんが、はっきり台詞をお話でなかったのは、はっきりしゃべったら、やっぱり京都弁のアクセントが微妙に変、というのが明らかになるからじゃないか、と思いました。それで、わざとかすれたような発語で台詞を言っておいでたのでは、と思いました。 あのドラマ、お菓子屋さん、洛志社大学、相国寺、って、三つの位置関係って、それぞれ50メートルしか離れていないのです。京都の中京(なかぎょう)のお町内の出来事、というドラマですね。

  • 2017/05/29 (Mon) 00:52
    Re:

    謙介さん こんばんは。初めまして。
    左京区にお住まいなんですね。生粋の京都人でいらっしゃるんですね。
    柄本氏のもにゃもにゃとした台詞についての考察、なるほど、そういう事もあるのかもしれませんね。京都弁はネイティブ・スピーカーじゃないとなかなかそれらしくしゃべるのは難しいだろうな、と思います。
    中京のコンパクトな地域の中の「町内の出来事」というドラマ、というのは製作者の狙い通りだったのかな、と思います。
    生粋の京都人からご覧になって、このドラマにはどんな感想を持たれたのか興味深いところです。

  • 2017/05/30 (Tue) 23:44
    No title

     たびたび失礼いたします。 
    ドラマの京都人のお話は、やはり、昔は走っていた京都市電の外郭線
    (西大路・十条・東大路・北大路)中に住んでる人暮らしをドラマにしたのやないかいなぁ、
    と思います。
     区で言えば、上京区・中京区・下京区と後、北区・左京区あたりでしょうか。
    自分の場合は右京区、嵯峨野ですから田舎なので、また生活がちょっと違います。
    あそこまで厳密に暦と暮らしを結びつかせたりは、しません。
    右京区でもそうですが、南区とか山科区、西京区という新興住宅地になったら、
    もっと人の暮らしは違うように思います。 
     ただ、夏編に出てきた妙心寺さんの塔頭には結構知り合いが住んでいて、
    遊びに行くこともあります。そんなことで身近な風景でもありました。
     このドラマ、人の毎日の暮らしと、京都の自然環境をテーマに
    したんじゃないですかね。だから、祭礼の行事が「せりふ」では「大文字」とか
    「祇園さん」とか出てきましたけれども、一切祭りの描写は出てきませんでした。
    ああ、祭りが出てきいへんかったわ、と見終わって思ったものでした。
    その辺の切り口に今までの京都を舞台にしたドラマと一線を画した
    新しさを狙ったのでしょうか。

  • 2017/06/04 (Sun) 04:18
    Re:

    謙介さん こんばんは。
    再度ありがとうございます。
    東京にも昔は都電が走っていて、その時代を知る人は「とても良かった」と懐かしがっているようですが、そういえば京都も市電が走ってたんですよね。京都の市電は風情があったでしょうね。その時代の京都に行ってみたかった気がします。廃止されたのは70年代末あたりでしょうか。数年前に日本映画専門chの伊丹十三特集で「天皇の世紀」というドキュメンタリーを見たのですが、伊丹十三が京都ロケをしていて、その背後に市電が走っていたような気がします。番組制作時はギリギリ市電が残っていた時代だったのかもしれません。

    確かにこのドラマ、京都の人々の暮らしと自然環境をテーマにしているのかもしれませんね。そして、時代祭りとか葵祭とか、大文字焼きとか、いわゆるいかにもな映像は敢えて使わない、出さない、という事にしていたのかもしれません。それが結局は、「ありきたりじゃないけれど、ディープな京都」という雰囲気を醸し出すのに寄与していたような気がしますね。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する