「FOREVER Dr.モーガンのNY事件簿」(FOREVER)

-終わらない命-
2014年 米 Matthew Miller, ABC



古来から幾多の権力者が不老不死を願っては死んでいったか数知れないが、実は年々老いて衰えて、時期が来たら死んで人生が終わるというのは幸せなことである、というのは近年、不老不死を扱った映画やドラマを見ていて強く感じることだ。自分一人だけ永遠に死ねず、年も取らないとなったら、それはかなりの業苦であろうと思う。
この秋からAXNで放映が始まった「FOREVER」は、200年前のある時から、なぜか不老不死になってしまった医師モーガンが、NYで監察医をしながら、呪いのような自らの永遠の生命を終わらせる鍵を求めつつ、日々の事件解決に取り組む、という新感覚のミステリー。200年前から不老不死状態の医師モーガンを演じるのはヨアン・グリフィズ。アメリカドラマでは初主演か。ともあれ、適役。企画自体も面白いし、ドラマも1話1話、よく出来ている。1シーズン22話で完結のようだけど、ダラダラと何シーズンも続けないでスパっと終わるのも良いのかもしれない。

変わらない自分をよそに、周囲はどんどん変わっていき、親しい者が全て老いて衰えて亡くなっていく。けれども自分だけはほとんど変わらないまま、一人で取り残される…そんな一人の男の深い孤独と、そんな孤独と引き換えにしてもいいほどに宇宙に魅入られてしまった彼の業の深さが短いオムニバスの一編の中で非常に印象的だった「10ミニッツ・オールダー:星に魅せられて」。この短いオムニバスの一編を見た時に、自分だけいつまでも若いまま衰えないということは、何という恐ろしいまでの孤独と隣り合わせなのだろう、としみじみ感じた。
ワタシはボンド映画を除くと、ダニエル・クレイグの出演作の中で、この10ミニッツ・オールダーの中の「星に魅せられて(原題:Addicted to the Stars)」が一番好きだし、印象深い。ダニエルが演じる宇宙飛行士の孤独と業は、「星に魅せられ」るなどというロマンティックで甘やかな状態とは程遠い。まさに原題通り、星々に中毒している男の孤独と業を描いた短編である。しかし、彼は自ら望んでそんな生き方を選んだのだ。妻や息子と殆ど会えなくても、自分が宇宙に出ている間に彼らが老いて死んでしまっても、それは仕方がないのだと割り切っている。悲しくないといえば嘘になるが、家族は、広大な宇宙に心を掴まれてしまった彼を地上に止めておくよすがにはならないのだ…。

この「星に魅せられて」と「FOREVER」で共通しているのは、自分一人がいつまでも若くて衰えないという事は、いかに深い孤独と常に向き合わざるえを得ないか、という事だ、という部分だけではあるが、「FOREVER」を見ていて久々に「星に魅せられて」をちらっと思い出したりした。



ここまで書いてきた部分だけを読むと、「FOREVER」は暗いトーンのドラマだろうと思われるかもしれないが、全くそうではない。タッチは飄々としてコミカルだし、ドラマのトーンは決して重くない。主人公モーガンの背負っている数奇なさだめや、200年の間に経験してきた沢山の事、関わってきた人々の記憶などが、現在の事件に絡んで、折々ノスタルジックに時にロマンティックに彼の脳裏に去来する。
なにせアメリカの歴史とほぼ同じだけの時を生きているのだ。降り積もった様々な記憶は、時に応じて彼の脳裏にいつでも鮮やかに蘇るのである。



ヨアン・グリフィズが演じるモーガンは、目つきがやけに鋭すぎる感じの時もあるが、基本的に人物像は暗くない。時折ひょうきんで可愛らしくもある。変人で謎めいた人物と周囲には思われている、という設定だが、さほど変人というわけでもない。どちらかといえば、熱血でまっすぐでロマンティストである。彼には「何故か不老不死になってしまって200年前から生き続けている」という、到底人には言えない秘密があって、それを隠さねばならないので必要以上に他人を近づけないのである。
彼の秘密を知るのはただ一人、同居人で、NYでアンティークショップを経営する父親のような年齢の親友・エイヴだけである。エイヴが店で売っているアンティークは、長生きのモーガンが昔使っていたものだったりするのも面白い。品物に思い入れのあるモーガンは、気に入りの家具をいけ好かない人間に買われないために、時折エイヴの商売を邪魔したりする。
今は70代で父親のように見えるエイヴも、実は第二次世界大戦直後、医師として働いていたモーガンが孤児の乳幼児だったエイヴを引き取って養育した事に端を発する関係で、モーガンはエイヴを赤ん坊の頃から知っている育ての親なのである。育てた子が既に70代の老人になっても、自分はいつまでも35歳ぐらいのまま止まっている。いつかエイヴがもっと老いて死を迎えたら、残されたモーガンは一人でどうするのか…。



モーガンは不老不死のためか無鉄砲で、普通の人なら及び腰になるような事も実験を兼ねて平気でやってしまうので、実はこれまでに数え切れないほどに色々な死に方で死んでいる。が、死ぬとすぐに、近くの水の中から全裸で蘇るという奇妙な習性があり、死んで全裸で蘇ったあとに、誰かにすぐに迎えに来て貰わないと進退に窮するという厄介な問題を抱えている。(このへんの設定が、物語にコミカルな味を与えている)それゆえに、エイヴの存在はただの友達の枠を超えて、モーガンが数奇な運命を生きていくための貴重な支えになっているのである。


何度も死んでは水の中から全裸で蘇るモーガン

この、裸で河から蘇る、というシーンのせいかどうか、ヨアン・グリフィズはかなり体を鍛えた感じがする。「ファンタスティック・フォー」などに出演したりしているので、アメリカ進出以降は恒常的に鍛えているのかもしれないが、UKでドラマに出ていた頃にはマッチョ感は無かった気がする。UKの俳優はアメリカに行くと、皆、せっせと鍛えてマッチョになるようだ。筋肉をつけないとアメリカでは生き残っていかれないのかもしれない。筋肉をつけずに、優男・ダメ男っぷりを極めて成功したのはヒュー・グラントだけかもしれない(笑)

余談だが、ワタシがヨアン・グリフィズを初めて見たのは、UK(ITV)のドラマ「フォーサイト家」だったと思う。同時に、ダミアン・ルイスもそれで初めて見た。二人とも、まずUKで人気を得てからアメリカでも活動するようになり、成功している。「フォーサイト家」の主演級でヨアン・グリフィズと同様にダミアン・ルイスと恋敵を演じていたのは、おなじみのルパート・グレイヴスだが、彼はあまりアメリカに興味がないのか、ずっとUKに留まって仕事を続けているのも面白い。  閑話休題。

さて。
物語は、毎回NYで起きる殺人事件を、検死を皮切りに女刑事マルティネスの捜査にくっついて歩いて解決していきながら、その折々に事件の起きた場所の昔のありようや、被害者が知人だった場合には、昔の若かった頃の姿などを思い出しながら、事件の真相を解明し、さらには自らの不老不死の謎の源に少しずつ近づいていくヘンリー・モーガンの姿を描く。
この、過去の記憶が折々彼の脳裏をよぎるシーンが、ノスタルジックでとても良い。
例えば4話目では、90歳を超えた財閥の総帥である女性が死ぬのだが、権高でねじくれて嫌われ者の老女になっていた彼女が、60年前にはとても魅力的な女性だった事をモーガンは知っている。無残に死んだシワシワの老婆を見つめながら、彼の脳裏には、はるかな昔に若かった彼女と会った時の事が、鮮やかに蘇るのである。



そして、老女が死んだ場所である、彼女の一族が建てた美術館には、モーガンが生涯忘れえぬ最愛の女性とデートをした美しい思い出がまつわっていたりする。こういう部分のロマンティックな描かれ方も、この数奇な物語に余韻を与えていると思う。また、過去の有名な事件を実際に目の当たりにしていたりするヘンリーは、ブラックダリア事件や、切り裂きジャック事件の模倣犯が出現すると、過去に実際に見たそれら未解決事件の現場を思い出して捜査に役立てたりもする。彼の体は過去には戻れないが、彼の意識はこれまでに積み重ねてきた過去の中に自在に潜っていかれるのである。


永遠に忘れ得ぬ女性の思い出は常にモーガンの心を去らない

モーガンは200年前、トラブルに巻き込まれて銃で撃たれ、海か河に沈む。その折に何かが起きて、以来、彼は不老不死になってしまうのだが、何故か何度死んで生き返っても、200年前に撃たれた胸の傷は消えない。そして、彼の秘密を知っているという謎の人物が現れる。自らもモーガンと同じように不老不死で2000年前から生きている、というこの男がモーガンの不死の謎を解く鍵を握っているらしいのだが…。

事件捜査で常にコンビを組む女性刑事マルティネスは南米系としては痩せ型でクールな雰囲気の女性だが、彼女も夫を事故で亡くして気分的には喪中の女性である。ともに過去に大事な人を喪った経験のあるモーガンと女刑事マルティネスにロマンスは芽生えるのか否か、というのも引っ張りネタの1つという事になっているのだろうとは思うが、モーガンとマルティネスは同志という感じで、ロマンスよりは友情が芽生えそうな二人ではある。



…というわけで、下手にずるずると何年も引っ張らずに、1シーズン22話でモーガンの謎も解かれ、物語は完結しているようなので、各エピソードを楽しみながら、モーガンが、永遠に続くかと思われた不老不死の牢獄から、いかにして解き放たれていくのかを見守ろうと思う。

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