「恋するリベラーチェ」(BEHIND THE CANDELABRA)

−おもろうて、やがて哀しき…−
2013年 米 HBO スティーヴン・ソダーバーグ監督



昨年か一昨年に初めて観た時には、全体のあまりにゲイゲイしたムードや、マイケル・ダグラスが苦手な事などで、かなり斜め見状態になってしまっていた気がする本作。昨今、久々に再見する機会があり、最初に見た時よりも面白く感じた。マイケル・ダグラスとマット・デイモンは意外にも適役で、そもそも上手いのは言わずもがなだが、ワタシとしてはワンポイント的に出てきた整形外科医役のロブ・ロウに受けまくりだった。




映画監督をリタイアする、と宣言したソダーバーグが映画ではなくTVムービーとして撮った作品。もっと早く撮りたかったのだろうが、内容が内容だけに資金調達がままならず、企画を立ててから随分時間が経っての映像化となったらしい。この間、7〜10年は経っていたが、出演オファーを受けたマイケル・ダグラスとマット・デイモンはずっと降りずに待っていたという。実に、「俳優とは待つこととみつけたり」である。

キンキラキンの悪趣味な衣装と派手派手のステージ、愛想の良さとピアニストとしての技量で人気があったというリベラーチェ。ワタシはこの映画を見るまで、その存在を全然知らなかったけれども、いかにもラスベガス的で、アメリカ的な芸能人である。マイケル・ダグラスが演じるリベラーチェのゴテゴテとしたキッチュな衣装や、ゴリゴリしたゴールドの指輪、全体のビザールな雰囲気などを見ていて晩年のプレスリーがふと脳裏に浮かんだが、プレスリーはリベラーチェの影響を受けていたのだとか。なるほど納得。同じニオイがする。



1940年代から有名クラブでピアニストとしてショービジネスの仕事を始めたリベラーチェは、50年代になるとTV出演で全米に知られるようになり、ラスベガスで定期的にショーを行う人気者になる。60年代になっても70年代になっても80年代になっても人気は衰えず、1987年にエイズで死ぬまで変わらぬ人気を保ち続けたエンターティナーだったらしい。独特なキャラが愛された、という事なのだろうか。このドラマを見ていると、ド派手なステージ演出と衣装で、セミ・クラシックやポピュラーミュージックなどをピアノで弾いていただけなのに、何がそんなに良かったのか、何故いつまでも人気があったのかよく分からないのだが、エルトン・ジョンの何がいいのかサッパリ分からないワタシには、リベラーチェの魅惑のステージも何が魅惑なのか分からないのかもしれない。

ともあれ、本作は面白かった。また、撮影時に40歳を過ぎていた筈のマット・デイモンが、ブロンドのピチピチの若者として画面に登場して全く違和感がなかったのには驚いた。21、2歳にしか見えない。思わず制作年を確認してしまった。鼻が少し上を向いた彼の童顔が、こんなに役にマッチしたこともなかったのではないかと思ったりした。

映画やドラマに使われる犬のトレーナーだった若者、スコット・ソーソンは、ひょんな事から大スター、リベラーチェと知り合い、彼の愛犬の目薬を手配してやったことから付合いが始まる。当初、スコットは控えめだったが、リベラーチェの方からどんどん彼を手繰り寄せ、自分の生活に引き込んだ感じである。これはスコット・ソーソンが書いた本をベースにしているので、彼の目線から描かれているのだが、そういう事をいくらか割り引いても、有名人の私生活というのは大抵、世間の人が思っている通りのもので概ね間違いはないんだな、と思ったりした。



物語は特に目新しい事は何もない。ゲイの痴話喧嘩とか、取り巻きは多くても心は寂しい有名人のありようとか、散々甘やかされていた愛人が、飽きられたら二束三文でお払い箱にされてしまうなど、ありきたりといえばありきたりなのだが、70年代〜80年代の風俗が見事に再現されているのと、主演二人が上手いので、筋立てはありきたりでもそれなりにずっと見てしまうのである。

殊に老いたオカマの哀愁をコミカルに演じたマイケル・ダグラスはさすがの演技力というべきか。ハゲづらを付けて、「ウィッグをとった素のリベラーチェ」の姿を演じていたのには笑ってしまった。マイケル・ダグラスはこれを撮影したのが癌闘病のあとだったのか、全体に痩せて萎んだ感があるので、余計に「陽気でど派手なエンターテイナー」の老いた素顔の物悲しさを表現するのに好都合だったのかもしれない。マイケル・ダグラスというと、女にも仕事にも憎々しいほど自信たっぷりな権力を持った男を演じる事が多いという印象だが、本作では見事に、小指をひらひらさせるオカマのおじさんになりきっていた。

リベラーチェは、最初は確かに、生いたちが不幸な若いスコットをロングタイム・コンパニオンにしようとしていたのであり、それまでの恋人たちには感じられなかった何かを感じたのでもあろう。スコットが頼みもしないのに、生涯面倒を見ると言い、養子縁組をすると約束する。彼はスコットに夜伽だけではなくソウルメイトを求めていたのかもしれない。
リベラーチェは彼に家を買い、車や服や靴、アクセサリーを買い与え、スコットはキンキラキンの悪趣味に染まっていく。
自らの老いを意識したリベラーチェは美容整形で若返りを図り、ついでに、スコットに自分の顔に似せて整形するように強要する。スコットは整形には大いなる抵抗を感じたものの、顔を似せて名実ともに息子になってほしいと望まれているなら、それに応えなければ、と思い、いやいやながらも整形に同意する。

…というわけで、アヤシさ満載の整形外科医役でロブ・ロウ登場である。
ロブ・ロウ。ブラットパックの一人であるロブ・ロウはすっかり過去の人だとワタシは長らく思っていたのだけど、最初に、あら、そうでもないのね、と認識したのは2006年の「サンキュー・スモーキング」を観た時だった。風刺と皮肉がいい具合にまぶされたこのコメディで、ロブ・ロウはハリウッドに絶大な権力を持つ実業家役で登場した。日本文化に妙な具合に憧れちゃってるちょっと変わり者の実力者で、夜になると済ました顔で花魁の打掛みたいな派手な着物を羽織ったりする。奇妙な役だがインパクトがあり、久々に見たロブ・ロウがあまりにも昔と変わらない容姿なので、ほっへ〜!と驚いた記憶がある。



ブラットパックの若手スターたちは、粒の大小こそあれ、けっこう今も活躍している人が多い。もっとも出世したのはアイアンマン、ロバート・ダウニーJrだろうか。女優ではダイアン・レイン、デミ・ムーアなどがいる。その他、マット・ディロンやジェームズ・スペイダー、エミリオ・エステベス、アンドリュー・マッカーシー等々。もちろん、ロブ・ロウもその主要な俳優の一人であるが、身も蓋もなく言ってしまうと、ワタシは80年代のブラットパックの俳優たちは、当時、全く好きではなかった。一人も良いと思わなかった。彼らの出る映画も殆ど見なかった。ワタシにとって、もっともアメリカの俳優が魅力薄でつまらなく感じられた時代だった気がする。

ブラットパックの時代が去って、映画ではあまり見かけなくなったものの(マット・ディロンやロバート・ダウニーJrは相変わらず映画がメインのようだけれども)、ロブ・ロウやアンドリュー・マッカーシー、ジェームズ・スペイダーあたりは人気のTVドラマシリーズに出演して、それなりにずっと頑張っていたのだった。そして、歳月が彼らの上にも流れ、クールな美貌で売っていたジェームズ・スペイダーは頭のてっぺんが薄毛になり、ちょっと太っておっさん化が進んだが、それを上手く「ブラックリスト」のレッド役に生かしている。若い頃のジェームズ・スペイダーは目がとろんとして退廃的で、どことなく沢田研二と面ざしが似ていた気がするのだが、ああいう風貌で、キレイということで来てしまうと、本人は身動きが取れなくて窮屈なのだろうなと思う。こういう人は50を過ぎて、もうキレイでいる必要もない、となると、思い切り若い頃とは真逆の方向に走っていきがちになるようだ。


ジェームズ・スペイダーの今昔物語 太っても禿げちらかしても今の方が俳優としては守備範囲が広がったのだろう

ロバート・ダウニーJrは薬物問題を克服してから仕事はずっと絶好調で、演技力があるのにアメコミヒーロー物にばかり出ているのは何故かというと、演技派と呼ばれるのにはもう飽きたし、ヒーロー物は楽しいからだ、と答えたらしい。…なるほど。お金にもなるしね。

で、彼らと比べて、びっくりするほど昔と見た目の変化がないのがロブ・ロウである。確か、人気絶頂時に下半身のスキャンダルがあり、前途洋々のキャリアに大きなダメージを受けたが、そのまま消えずにどうにか復帰し、以降は地道に活動を続けている。しかし、そういう大きな浮き沈みがあったにも関わらず、ロブ・ロウは見た目に変化がないのである。殊に廃れ感や荒んだ感じが全くない。しかも、脇のワンポイント出演で映画などに出てきて、強い印象を残す役を演じたりして、若い頃の二枚目役よりもずっと面白い俳優になっていると思う。少なくとも、若い頃のロブ・ロウには全く興味が無かったのだが、昨今のロブ・ロウは何となく好きである。


ロブ・ロウの今昔物語 ちょっと大人になっただけで目に立つほどの変化はない

この作品でもロン毛で薄化粧(白く塗るのではなく、こんがりと日焼けメイクをしているような感じ)をして現れる胡散臭い整形外科医役で、出て来るだけで可笑しい。眉を吊り上げ、目を半眼にした独特の表情で、(この整形外科医、自分も整形しまくりなんじゃ…)と観客に思わせる雰囲気を作っている。演じていて楽しそうで、見ているこちらも楽しい。とにかく、ロブ・ロウの登場シーン全てと、マイケル・ダグラスのハゲづらには気持ちよく笑わせてもらった。


怪しすぎるロブ・ロウの整形外科医 どことなくマイケル・ジャクソン風味もあるか

この整形騒ぎ以降、順調だった二人の関係にも徐々に歪みが生じ始めるのである。
食べるのが好きで、お腹をぽてんと突き出してポップコーンをぱくついていたスコットはかなり増量してしまい、整形手術を受ける前にダイエットを勧められる。ロブ・ロウの怪しい整形外科医は「カリフォルニア・ダイエット」などと称してスコットにドラッグを与え、痩せさせる。スコットはいつの間にかドラッグにハマっていく事になり、それがリベラーチェとの間に秋風が吹く要因となるのである。

それにしても、フェイスリフト手術の影響で皮が突っ張って目が完全に閉じなくなったリベラーチェが、薄目を開けてイビキをかいて眠っているシーンがおぞましくも可笑しかった。また、TVに映る自分の顔に愕然としたリベラーチェが「あれは僕の親父の顔だわ。親父が女装して『ふるえて眠れ』に出てるみたいだわ!」とうろたえるシーンにも大笑い。「ふるえて眠れ」は、かのベティ・デービス主演の老醜怪奇映画で、「何がジェーンに起こったか?」がヒットして作られた同型の映画である。
笑ったといえば、整形してリベラーチェのような顔にされた筈のスコットだが、目がそのままなので顔の印象があまり変わって見えないのも微笑ましかった。



だんだんにすれ違いが生じた挙句、リベラーチェが他の男に気持ちを移して二人の関係は終わる。あれだけ一生面倒みるといいながら、別れるとなったら家も車も全て取りあげ、手切れ金として75000ドルしか渡さないというのは、望まない顔の整形までされたスコットとしては踏んだり蹴ったりである。大スターの振る舞いとしてもどうかと思うが、もう世間にはバレバレだったにも関わらず、最後までゲイではないフリを押し通したというリベラーチェの、スコットが起こした騒動を忌々しく思った結果なのかもしれない。が、せめて家ぐらいそのままあげたらいいに…と思ってしまった。

最低限の目腐れ金で放り出したスコットに、しかし、不知の病に侵された床からリベラーチェは電話をかける。最後に話したい相手はスコットだけだったということか。死に際して、ようやくその存在の大事さに気づいた、というありがちな展開ではあるのだが、病気のために老いさらばえ、ウィッグも外して禿げ頭を晒して横たわるリベラーチェに、スコットは優しく接する。あれだけ踏んだり蹴ったりの目に遭わされたというのに、葬儀には一般の会葬者と共に列に並んで教会のベンチに座り、昇天していくリベラーチェを脳裏に思い描く…。スコットの人のいい感じが、マット・デイモンの目元によくマッチしていた。

最後の、スコットの妄想の中でのオンステージの様子を見ていて、この派手派手衣装や演出は、プレスリーじゃなくてもっと何かに似ているな、と思い、ウン、宝塚だ、とニヤニヤした。襟の高いキンキラキンの服に、羽や毛皮のマントをまとい、ニカっと笑ってスポットを浴びる様子など、ヅカの男役そのままである。宝塚がリベラーチェを参考にしたわけではないのだろうけど、エンターテイメントのステージというのは、おのづと似てしまう部分もあるのかもしれない。



他の映画で見るとそうとも思わなかったのだが、本作ではマイケル・ダグラスがとても小柄に見えた。痩せたから一回り小さく見えたのかもしれないが、ちょっと見ない間にガクンと年を取った感じがした。

*****
ショービジネス界に生きる中年ゲイの純愛物語といえば、元はオフ・ブロードウェイの舞台劇だった「トーチソング・トリロジー」(1988)という傑作があるのだが、「恋するリベラーチェ」は「トーチソング・トリロジー」と並ぶ作品かもしれないな、と再見して思った。

コメント

  • 2016/06/06 (Mon) 09:18
    No title

    うっ!これは面白そう。近々観たいリストにアップさせて頂きます。
    なにを隠そうわたしは親父(カーク)からダクラス親子が何となく好きでして(苦笑)、親父に出来なかったことをマイケルがやってきたと思うと、彼は頭がいいんじゃないかと思って(なにげにプロデューサー業でも若い頃から活躍)今までいくつものマイケルダクラス映画を観て参りました。
    そんな彼の印象はkikiさんがおっしゃるように、女にも仕事にも憎々しいほど自信たっぷりな権力を持った男…というのはわかりますが、わたくしの場合はそんな役の男がある日突然災難に見舞われ、冷静を失い慌てふためいて、見るも無残な状態に陥る…といった印象が強いです。
    (eg:「危険な情事」「ローズ家の戦争」「フォーリングダウン」「ディスクロージャー」「ザ・ゲーム」etc...)
    上記の作品はエリート役だけでなく、平凡なサラリーマン役などもありますが、大概いろんな意味でマイケルがとんでもない状況に陥ります。
    また、彼の作品で「ワンダーボーイズ」などはなかなか良い役柄だなと思いました。わたしは好きですけどね、彼。

    ジェームズ・スペイダー!
    こうなっちゃったんですね!
    彼は「セッ◯スと嘘とビデオテープ」や「スターゲート」「クラッシュ」などの若き印象が強くて、最近はTVドラマでシリアスな役やってたぐらいしか興味なかったんですが、そうですか、こんな感じになっとるんですね。まるで極右コメディアン鳥肌実みたいになっちゃって…。


    マイケルの「恋の…」観てみますっ!ありがとうございました。

    • Sanctuary #V0sVL5lk
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  • 2016/06/07 (Tue) 07:26
    Re: No title

    Sanctuaryさん
    これ、けっこう面白かったです。ゲイゲイしたムードが大丈夫でしたら是非どうぞ。
    マイケル・ダグラス、お好きでしたか。確かに憎々しいほど自信たっぷりだったけど痛い目に遭っちゃうという役が多いですね。そういえば(笑)父のカークはワタシも好きですよ。猛禽類を思わせる鋭い風貌で不屈な感じがいいですよね。でも倅の方は、ほっぺたに肉が付いているのがどうもね…(最近はそげましたけど)。確かに最初はプロデューサーとして頭角を現したので、頭のいい人なんだろうと思います。俳優としても成功したし、なかなかですよね。(確かに「ワンダー・ボーイズ」はいい映画でした)でもそのプロデューサーとしてのセンスも父譲りなんじゃないかと思うんですよね。(スパルタカスはカークが自分でプロデュースしてるんですよ)俳優としては、やはりオヤジさんのカークの方が好きだなぁ。この親子が似てるのは目元ですね。

    ジェームズ・スペイダーは、近年、けっこうなオッサンになりましたわ。「ブラックリスト」で久々に見て、「あれ?」という感じでしたが、本人は楽しそうにやっているし、役の幅も広がったんじゃないですかね。鳥肌 実ね。確かにちょっとそれっぽい感じもしますね。中尾ネジネジ彬っぽい雰囲気もある気がします。

  • 2016/09/13 (Tue) 16:05
    こんなのがあったとは知りませんでした

    リベラ―チェは、よく『アンディ・ウイリアムス・ショー』などに出ていたと思います。
    きんきらの衣装で、蝋燭をピアノの上に立て、裸の少年を侍らせるという非常に気持ちの悪いショーで、悪趣味の典型でした。
    当時からホモで有名でしたが、やはりエイズで死んだのですね。
    ぜひ見てみましょう。悪趣味も趣味の内。

  • 2016/09/14 (Wed) 23:12
    Re: こんなのがあったとは知りませんでした

    リベラ―チェって、実物は全く見た事がありません。そんな人がいた事も知りませんでした。
    かなりのキッチュぶりですよね。あれでゲイじゃなかったらその方がびっくりだよって感じです。

    リベラーチェは悪趣味だけど、この映画はそれなりによく出来ていたと思います。主演の二人がどちらも良かったです。

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