「オックスフォードミステリー ルイス警部」シーズン9(LEWIS Season9)

−淡々と穏やかな最終シーズン−
2015年 英  Granada Media, Granada Television, ITV Productions 他



本国UKでは昨年放映された「ルイス警部」の最終シーズン9。日本では今年に入ってAXNミステリーが放映した。
制作サイドとしてはできるだけ長く続けたかったようだけれども、大元の「モース警部」シリーズに強いリスペクトを抱いている主演のケヴィン・ウェイトリーのたっての要望で、シーズン9(通算33話)で終わりになった。モース・シリーズが全33話なので、それを超えたくないというのがケヴィン・ウェイトリーの考えだったらしい。そんなに律儀にしなくても…と思わないでもないけれど、そのせいかどうか、シーズン9はとても淡々としていて、特に最終シリーズだから、という空気感はなく、制作サイドの密かな願いの表れなのか、いつでも続きを始められそうな感じで終わっていた。

シリーズが始まった2006年には、ローレンス・フォックス演じる部下のハサウェイは巡査部長で、インテリで頭でっかちの若造、という感じのキャラだったのだが、シリーズが終盤に近づくとハサウェイは警部に昇進し、一度リタイアして出戻ったルイスと二人警部、という状態になる。シーズン8まで、女性の警視正でルイスとハサウェイの上司だったイノセント(レベッカ・フロント)が、シーズン9では出世して異動したため、新たな男性上司が彼らの上に立っている。ルイスは常に新任の警視正には最初のうち煙たがられることになっているのか、イノセントも最初はルイスに対して胡散臭い視線を向けていたが、イノセントに代わって上司になった黒人上司のムーディも、経費削減という事情もあり、ルイスを辞めさせようと考えている、という設定になっている。


やはり9年の間にはそれなりに年も取っているルイス役のケヴィン・ウェイトリー

地味なおっさんで、一見そんなに優秀そうにも見えないことが災いするのか、錚々たる学歴もあって、切れ者として常に嘱望される存在のハサウェイと好対照のルイス。
しかし1つ事件を解決するころには、彼が非常に優秀な刑事であることが新任上司にも分かってくる、というのはお約束である。

しかし、最終シーズンだからという色を出さずに、あまりにいつも通りに、特別な事は何もなく、という感じに徹しすぎたせいか、シーズン9は、これという気合いの入ったエピソードもないし、すごく盛り上がるという事もない。3つのエピソードのメインの事件はどれもまずまず、という感じで可もなく不可もなかったので、ワタシの関心はもっぱらハサウェイの悩める私生活へと向かった。


悩めるハサウェイ

ハサウェイは、最初のうちこそ、同僚の女刑事とちょっと付き合っていたり、昔好きだった貴族のお嬢様との再会が皮肉な形で幕を閉じたり、事件にからむ女性にちょっと関心を持ってしまったり(でも感情が淡すぎて何も起きずに終わってしまう)、というような「浮いた」話もないではなかったのだが、シーズン8だったか、警部に昇進したあたりから、さっぱり浮いた話がなくなってしまった。

シーズン9では、その浮かない方面に拍車がかかる。母親は既に亡くなっているが、一人残っている父親が認知症になってしまうのだ。多忙な仕事にかまけて妹に父親のことは任せきりにしてきたが、認知症になり、妹が施設に入れた父を、ハサウェイはようやく見舞いにいく。
浮いた話どころか、ボケた親の介護問題に直面するハサウェイ。これでは益々、浮いた話は縁遠くなるわけである。
妹の要請に根負けして忙中に休暇を取り、施設の父親に会いに行っても、ボケた父親は息子の顔も覚えていない有様。 なにやら切ない。


ボケた父親は施設で生活を始めるが…

ハサウェイと父親との間には、何となくしっくりいかないものが元々わだかまっていたのだが、父親が息子の顔を見忘れた事で、息子は余計に埋めようのない溝を感じる。
ルイスは、ボケた父親との間にわだかまりを抱えるハサウェイの状況を察し、休日にさりげなく3人で釣りに出かけて関係性を和らげたりする。このあたりはルイスの真骨頂で、ホワホワと人と人を繋ぐ柔らかいルイスのキャラは、常に「一人寂寞」状態だったモースと100%異なる特質だ。その、何となく温かく人を包むルイスのキャラが、ほのぼのとした牧歌的なメインテーマのメロディに如実に表れている。モールス信号をフィーチュアした、憂鬱でどこか物悲しいモースのテーマとは好対照の楽曲である。

しかし、そんなルイスにも悩みはある。イノセントに代わってやってきた黒人の男性上司ムーディが自分を煙たく思っていることを察して、引き時について改めて考えざるを得なくなるのだ。折から人権費削減の流れもあり、出戻りのルイスは、何となく居づらい空気を感じたりする。が、ルイスは一度リタイアして(シーズン8)毎日が日曜日生活を経験したことで、つくづくと自分には刑事しかできない、死ぬまで刑事でいたいのだ、と思っていることに気づいてしまったのである。リタイアしようが、転職しようが、不本意であることは否めない。

引退後、イノセント警視に請われて契約職員として復職したルイスは、警視が代わったことで、長期に職場を離れたら契約が更新されないかもしれないという危機感から、予定していたローラとの半年にわたる休暇旅行をキャンセルしようとする。馬鹿げていると抗議するローラに、自分は刑事しかできない。死ぬまで刑事なんだ、と答えるルイス。
「モースのように?」とローラ。「そうだ。それこそ理想だよ」とルイス。
このドラマの、最後のモースへのオマージュである。


旅行を楽しみにしているローラに、自分は行かれないと告げるルイスだが…

そんなこんなでハサウェイもルイスも、どことなく塩辛い状況にあるシーズン9なのだが、
実はハサウェイを演じたローレンス・フォックスにとって、このドラマシリーズへの出演は、彼の結婚期間とほぼシンクロしていた。「ルイス警部(原題:LEWIS)」は2006年からスタートして2015年に終了しているが、ローレンス・フォックスは、2007年に女優であり歌手でもあるビリー・パイパーと結婚し、この9年の間に二人の男の子も生まれ、円満かと思われたが、今年(2016年)3月、突如、離婚を発表した。理由については第三者の関与はない、とだけローレンスは自らのfacebookに書いている。二人の子供については共同親権を持って養育していくようだが、ともあれ、理由のいかんを問わず、彼の結婚生活は終わってしまったらしい。(ビリー・パイパーはどことなくローレンス・フォックスの手には余りそうだな、という感じはしていたのだけど…やっぱりか)


ラブラブだと思っていたら別れてしまった

何となくこのニュースを聞いた時、ドラマの中のハサウェイとローレンス・フォックスがいやが上にもダブって感じられた。断続的にハサウェイを演じながら送った9年間は、彼が結婚して父親になり、そして離婚して独身に戻った9年間と、ほぼ被っているわけである。もっとも、ドラマの中のハサウェイは結婚どころか満足に恋愛さえもしていない(特にシリーズの後半では)状態ではあるけれど(笑)

そうやって人生の節目と関わっている作品でもあるので、ローレンス・フォックスにとってこの「ルイス警部」シリーズは、何となく特別な作品という位置付けになるのではなかろうか、と勝手に想像している。「別に」と本人は言うかもしれないけど(笑)しかし、格別の思い入れはあってしかるべきシリーズではあるだろう。

*****
ともあれシーズン9でも、ルイスとハサウェイはいつものように事件を解決し、ローラとの長期休暇について迷っていたルイスは、ハサウェイに背中を押されて休暇を取ることに決める。

結局、ルイスは殉職するわけでもリタイアするわけでもなく、長期休暇を取る、という形でオックスフォードを去り、「ルイス警部」シルーズは幕となる。いかにもルイスらしい終わり方ではある。

シーズン9の最終話を見ると、実に淡々と、そして、始めようと思えばいつでも再開できる形で終わっていることに、制作サイドの、このシリーズへの未練がうかがわれるが、ケヴィン・ウェイトリーは多分もう「ルイス警部」の続編について首を縦には振らないと思われる。まぁ、ルイスは確かにもうちょっと歳を取ってきたな、という感じもあるので、ケヴィン・ウェイトリーの意思を尊重するとして、ワタシとしては「ハサウェイ警部」シリーズってアリじゃない?と思うのだけれども、さて、どうなるだろうか。ローレンス・フォックスもケヴィンに義理立てして、そういう企画があったとしてもウンとは言わないかもしれないけれど…。



このシリーズの忘れがたいエピソードというのは、ワタシ的には、初期から中期のあたりにある、という感じだけれども、もちろん、後期のものも出来のいい作品はある。前の記事にも書いたかもしれないけれど、シーズン2の「芸術のいたずら(And the Moonbeams Kiss the Sea)」や「過去との決別(Music to Die For)」、シーズン4の「公爵家の人々(The Dead of Winter)」などは、特に好きなエピソードである。殊に「公爵家の人々」はハサウェイが少年時代を過ごした貴族の館が事件の舞台となっていて、ハサウェイの初恋の相手である館のお嬢様との切ない再会などが事件の進展と絡まってほろ苦く描かれていてナイスである。


”私の心に切ない風が…” ハサウェイほぼ唯一のロマンティックなエピソード「公爵家の人々」

また、後期のエピソードでは、ルイスが過去に誤認逮捕をしたのではないかとハサウェイが疑念を抱いたりする、シーズン8の「善悪の彼岸(Beyond Good and Evil)」が印象深かった。もちろん有罪のくせに証拠不十分を盾に無実を訴える犯人の男の、煮ても焼いても食えない感じが憎々しい。人殺しのくせに、妙に他人を惹きつける人間というのが存在するようだけれど、そういうタイプの人間をルイスと対立させていて面白かった。

残念ながら、シーズン9は3つめのエピソード(最終話)のみが少し出来が良かったけれども、あとの2つはまずまず平均点というレベルで、全体には特に印象に残るようなエピソードは無かった気がする。「モース警部」がラストに向けてギュギュギューンといやがうえにも盛り上がっていったのと、これも対照的だ。

しかし、「ルイス警部」のシーズン1の1話目で、英領のヴァージン諸島に赴任していたルイスがオックスフォードに戻ってきたのを、ハサウェイが空港に迎えに来ていたのと、シーズン9の最終話で、ローラとニュージーランドに長期休暇に旅立つルイスをハサウェイが空港に送るシーンは、きちんと対になっており、9年にわたるシリーズの輪が静かに穏やかに閉じられたのだな、という気がした。

旅立つルイスに「寂しいです」とハサウェイが言う。これは、このシリーズを愛してきた視聴者も同じ気持ちになる場面だろう。ルイスは自分も寂しいと答える。「楽しんでください」と言うハサウェイに「君も楽しめ」とルイスは最後のアドバイスを送る。
その通り。ハサウェイも肩の力を抜いて、もっと楽しんで生きなくちゃね。でも、真面目だから結局、事件漬けで浮いた話もなく、少しずつ歳を取っていっちゃうんだろうけど…(笑)


放っといてくれ

というわけで今回は、いかにも”らしく”終わった「ルイス警部」最終シーズン9の穏やかな終焉について(「ハサウェイ警部」の制作をささやかに願いつつ)、印象を綴ってみた。

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