「深夜食堂 -Tokyo Stories-」Netflix版シーズン1

2016年 Netflix  松岡錠司 他 監督
−いつもの場所で、いつもの顔で−



映画版「深夜食堂」の続編がまだ劇場にかかっているらしいのだけど、これは来年、どこかの映画チャンネルに下りてきたところで見ることにして、今回はNetflixオリジナルドラマのラインナップに入った「深夜食堂」の最新シリーズ(第4部)について。

「深夜食堂」は、中国、台湾、韓国などでも妙に人気があるらしい。(わかるような気もするし、やけにレアなところに食いつくねぇ、という感じもするけれども)そんなこんなで、Netflixが日本でのサービスを開始する際に、「深夜食堂」はNetflixオリジナルドラマのカテゴリに入ることになったようだ。これまでMBSで制作していたものの放映権を買ったのかと思ったら、そうではなくて、2016年の第4部からNetflixオリジナルで制作される事になるようで、それが世界190カ国に配信されているらしい。

なぜワタシがこのNetflix版の「深夜食堂」を見たのかというと、Netflixには1ヶ月間の無料期間があるので、当初は「ハウス・オブ・カード」のシーズン3、シーズン4を見るためにそれを利用してみることにしたのである。目論見通りに「ハウス・オブ・カード」をバッチリと見たあとで、まだ無料期間も残っているな、と思い、ふとNetflixオリジナル作品の中に「深夜食堂」があることに気づいた。それが過去作品ではなく新シリーズの第4部だったので、ほぉ〜、という事でついでに見てみたら、第3部よりもずっと面白かったし、これまでのドラマや、映画版に登場した人物なども出てきたりして、クロスオーバーな面白みもあった。

「ハウス・オブ・カード」について書きたいという気持ちも強いのだけど、何しろ話が入り組んでいる上に、シーズン毎に怒涛の展開で、それをシーズン3、シーズン4とまとめて見てしまったもので、どこにポイントを絞って書くべきか、なかなか絞り込めなくて記事化ができない。どこにポイントを置いて書くか定まらないと書けないのである。

そんなわけで、まずは小味ながらも面白かったNetflix版の「深夜食堂 -Tokyo Stories-」について感想を書いてみることにした次第。


「深夜食堂 -Tokyo Stories-」は、あのうらぶれた感じのオープニングから、店のある横丁の佇まい、そして店の様子まで、何一つ従来のシリーズとは変わらないが、MBSの連続TVドラマ時代とひとつ変わった事といえば、撮影がフィルムになったことかもしれない。そのフィルム独特の質感がドラマ世界にさりげなく味わいを添えている。平たく言うと、映画版と同じ画面のテイストで30分のTV版になっている、という感じである。

第4部も全10話。全体のアベレージが高めなシリーズだったが、中でも、第1話の「タンメン」、第5話の「たまご豆腐」、第7話の「白菜と豚バラの一人鍋」は良かったと思う。他の話もレベル的には同じだったかもしれないし、ワタシがピックアップしていないエピソードが好きな人もいるだろう。出演者や全体の雰囲気など、これはもう好みの問題かもしれない。

第1話の「タンメン」は、意外な過去を持つ女タクシー運転手に扮した片岡礼子の少しくたびれた、でも、一人で生き抜いている女性のキリっとした、人に甘えない佇まいが印象的なエピソード。深夜にタクシーで流す彼女は、「めしや」で麺抜きのタンメンを注文する。夜中に炭水化物を食べるのは避けたいから、限りなく野菜スープに近いタンメンの麺抜きを頼むのだ。この回では、「めしや」に集う常連の男が、年増女についてオタクな見解を述べるシーンが面白い。「新陳代謝が限りなくスローな女性ってそそるんですよね。性的リビドーがギンギンきます!」とフリーカメラマンの小道が言う。ははは。何を言っとるのか。しょうもない。
それにしても、タンメンの麺抜きってあまり美味しそうな感じではなかったけれども、話全体よりも、女タクシー運転手を演じる片岡礼子の佇まいがナイスなエピソードだった。


不思議な魅力があった片岡礼子のタクシー運転手

第5話の「たまご豆腐」は、子連れの雀士に扮した豊原功補が、案外いい味わいを出していた。ワタシが最初にこの人を見たのは、タイトルは忘れたがチャラチャラした昔のトレンディドラマだったので、ずっと演技も一本調子なチャラ男のイメージが頭にしみついてしまっていたのだけど、このエピソードではヤクザな裏街道で生きるギャンブラーのうらぶれた雰囲気がよく出ていたし、昔、関係のあった女から「あんたの子だ」と言って押し付けられた子供をぶつぶつ言いながらも連れ歩いている様子もちょっとかわいかった。



豊原演じる雀士の名は大神というのだが、子連れになったので「子連れ大神(狼)」と呼ばれているという洒落も、しょうもないけど笑ってしまった。タバコの煙がもうもうと渦巻く雀荘で賭け麻雀をする大神の背後に、小学校入学前ぐらいの幼い男の子が立っているのは、何か見ていてハラハラするような、切なくなるような場面だったが、やがて少年は大神が稼いでいる間、「めしや」の2階で寝かせてもらうようになる。やがて「めしや」で知り合って、この少年を可愛がるキャバ嬢が現れるが、彼女に悪いヒモがついている事を知った大神はこのヒモと手を切らせるべく最後の大勝負に出るが…というわけで、ささやかながらもよくまとまったエピソードだった。豊原功補ってわりに上手いのだな、という事が分かった。



メニューは「たまご豆腐ご飯」で、白米の上にたまご豆腐を乗せた上からシラスをかけたもの。見た目にはかなり微妙だが、食べてみると美味しいのかどうなのか…。

第7話の「白菜と豚バラの一人鍋」には、かすかにおばさんからお婆さんへの移行が始まりつつある、という感じの宮下順子が登場。「めしや」の常連の忠さん(不破万作)の幼馴染だったかえ役でさすがの存在感を発揮する。


いそいそとダメダメな甥の面倒を看るおかえさんだが…

おかえさんは娘時代はキレイで近所でも評判の娘だったが、結婚して街を離れてから数十年の空白を経て、最近また街に戻ってきた。が、今は一人でラブホの清掃をして生きているらしい。しかも、死んだ弟の一人息子でプータローのテッペイを養っている様子。初恋のおかえちゃんが苦労しているのを見かねて、忠さんはその甥に意見するが、余計なことだとおかえちゃんに一蹴される。彼女は「誰かのために働けること」が生き甲斐になっていたのである。あえて、一度は嫁にいったおかえさんがどんな半生を送ったのかは語られないが、血の繋がった者のために尽くす事を生き甲斐にする様子に、様々な苦いものを噛み締めつつ歳を取ったのだな、という事が伺えるのである。

このエピソードも宮下順子ありきで、彼女がとても良い。ついでに、彼女のぐうたらな甥を演じていた俳優も自然体でなかなか上手かった。いかにもそこいらに居そうなしょうもない男を等身大で演じていた。
このおかえさんが「めしや」で注文するのが、「白菜と豚バラの一人鍋」で、これはいかにも美味しそうだった。最後に土佐の仏手柑を絞ったぽん酢をかけて食べるのもナイスだった。仏手柑か、ひねってるねぇ。


今回のメニューの中では、年越しそば以外に唯一美味しそうだった

他に、エピソードとしてはありふれた筋だったけれどもゲスト俳優の演技が印象的だったのは、第2話「アメリカンドッグ」で浅草の芸人を演じた佐藤B作のコテコテの芸達者ぶりや、第8話の「長芋のソテー」で久々登場のカリスマAV男優を演じる風間トオルがさらっと良かった。
佐藤B作は政治家として出世し始めた時期の田中角栄など演じたら、かなりハマると思うが、今回は浅草芸人で師匠と呼ばれつつも落ち目の男を生き生きと演じていた。昔の上手い脇役たちの演技を思い出させるアクの強い演技で、彼の語り口には「話芸」のニュアンスを感じた。こういうベテラン芸人って本当に居そうだ。佐藤B作も、誰か脳裏にモデルをおいて演じていたのかもしれない。



また、第4話の「オムライス」では、第2部の末尾で姿を消したオダギリジョー演じる謎の和服の男カタギリが再びカメオ出演的に登場。カタギリは韓国にいた事が判明する。オダジョーは、交番の巡査と謎のカタギリの二役を演じているわけである。


相変わらず他人の話に聞き耳を立てては、ぶつくさと警句を吐いているカタギリ

第6話の「梅干しと梅酒」には、映画版に登場した、交番の巡査(オダギリジョー)に恋をしているラーメン屋の出前持ち(野嵜好美)が、再びちょこっと登場するのもご愛嬌だった。

そして、第10話の「年越しそば、再び」では、ヤクザの竜ちゃんにストリッパーのマリリンなどの常連に加えて、映画版に登場した女板前役の多部未華子や、料亭の女将を演じる余貴美子なども登場し、ドラマと映画の世界が統合される。


店で年越しそばをすする常連たち

この第4部の最終話では、なんとか距離を縮めて寄り添いたい料亭の女将(余貴美子)のせつせつたる気持ちを受け止められないマスター(小林薫)のモソモソ感が、折から降り出した雪の中にとけこんでいく。
女将に全く気がないわけでもないのだろうが、誰かを自分の生活や人生に踏み込ませてしまうことに躊躇いを感じずにはいられない。そういうマスターの逡巡がかわいらしくもあり、シャキっとしなよ、という感じでもあったり…。


オトナの恋は進まない…

大人の男女も初恋の少年少女以上にためらったりするのだよね。ふふふ。

女将さんの初詣の誘いを断って、彼女が去ったあと、ふいに思い直したマスターが外に出ると、そこにはもう女将さんの姿はなく、静かにちらほらと初雪が降り始める、というのもしんみりとした詩情を漂わせていい絵面だった。降り始めた雪でシメ、というのは森繁主演の、あの「夫婦善哉」のようでもある。


しんとした大晦日の夜、外には雪が降り始める

それにしても、いつもながらに「めしや」のある横丁の路地裏のセットはよくできている。何作も作るうちにセットにも味が染み込んできたのかもしれないが、本当に素晴らしいセットだと毎回思う。それこそ「夫婦善哉」の法善寺横丁のセットに負けないぐらいのセット美術のクオリティではなかろうか。そしてもちろん、「めしや」の内部のセットも、その使い込んだ感といい、全体に漂う昭和感といい、カウンターの渋いツヤといい、実に絶妙である。撮影がフィルムになったので、それらの質感が余計に味わい深くなった気がする。

連続ドラマと映画がうまくミックスして、世界観が強固になった感じの「深夜食堂」。日本のみならずアジアにもファン層が広がって、シリーズは今後も細々と、しかし、着実に続いていきそうである。

「深夜食堂 -Tokyo Stories-」はNetflixでしか視聴できないけれども、この記事にも書いたように、Netflixは最初だけ1ヶ月無料で視聴できるので、見終えたら解約してもいいし、Netflixに登録するのが面倒だという方は、少し待っていればそのうちにレンタルDVDも出るだろうと思うので、ご興味のある方はどちらかでどうぞ。

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