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 「英国王 給仕人に乾杯!」

~人間万事塞翁が馬~
2006年 チェコ/スロヴァキア イジー・メンツェル監督

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2009年がやってまいりました。みなさま、よい年明けを迎えておられましょうか。

さて、これは2008年の師走後半に、唯一映画館に足を運んで見たくなった映画。
今はチェコとスロヴァキアに分れたけれど、昔はチェコスロヴァキアって長らく一緒になっていた。いまでもゆるやかには一緒らしい。チェコとスロヴァキア★みたいな感じで。このへんの国々だと、ポーランドがなまなかじゃない歴史の荒波を潜ってきた国だというイメージが強いのだけど、チェコスロヴァキアも帝政時代のオーストリアを皮切りに、ドイツ第3帝国だの、ソ連だのの支配を受けつつ激動の20世紀を潜り抜けた国なのだった。漠然としか知らなかったが、ワタシ的にはソ連の下、東側の一員だった時代のチェコの印象が強い。ベルリンの壁が崩れる前は、ワタシの中では東側の個々の国々はどんなイメージもなく、ただ東ヨーロッパ=ソ連の配下、ということで一括りになっていた。その東ヨーロッパの第二次大戦前後を描くとなると、重い、苦しい、辛いの三重苦を思い浮かべるが、この映画はそんな苦渋の時代と無縁でないながら、軽やかで光とユーモアに満ち、美しい映像と、主役のヤンの若い時代を演じるイヴァン・バルネフのトッポ・ジージョのようなかわゆい顔、そして次々に登場する若く美しい娘たちを観ているだけで、なんだか意味もなく頬がゆるんでしまう作品だ。イジー・メンツェル監督の作品は初めて観たのだけど、その軽やかで洗練されたユーモアに満ちた語り口は、強いメッセージや激しいショックなどとは無縁ながら、観終った後で、「いい映画観たなぁ」という気分にさせてくれる作風だった。東京ではシャンテ・シネのみの一館上映。さすがCC。2008年はあの「色|戒」でスタートし、春夏秋冬、ラインナップは冴えまくりだった。2009年も期待してますわよ。
1920年代、チェコの田舎町。駅のホームでソーセージを売っていたヤンは、やがて町のホテルの給仕見習いとなる。大金持ちになり、ホテルのオーナーになるのが夢のヤンは機転の利く若者。小柄で愛嬌のあるルックスを活用して機敏に動き回りチップを稼ぐ。彼は早くから、どんな金持ちでも道端に硬貨が落ちていると目の色を変えて拾うものだという事に気付き、折々客の足元に硬貨を撒いては、気取り倒した人々が額をぶつけあって硬貨を拾うサマを眺めて面白がったりする。かわいい顔してけっこうシニカルだ。こういうシーンを嫌味に感じず見ていられるのは、主人公ヤンの青年時代を演じるバルネフが愛嬌に溢れて、とってもかわいいからだろう。麦わらのような金髪に青い目。人並み外れて小柄で愛嬌のある目がくるくるしている。漫画の主人公みたいな顔。そんなヤンの周囲を、1920年代の風俗とチャールストンダンスのリズム、そして魅惑の美女たちが彩るのだ。

7.jpg 東欧のトッポ・ジージョ

この見習い給仕時代に知合うユダヤ系の商人・ヴァルデン氏はヤンの守護神のような人物。食べる事が大好きで、儲ける事が大好きなヴァルデン氏。このヴァルデン氏がヤンの人生の節目節目に現れてはヒントをくれるのだ。なんて有難い人。ヴァルデン氏を演じるおじさんがまた、太っていて愛嬌たっぷりでかわいいのである。ホテルの床の赤いじゅうたんの上に寝転んで、その日稼いだ金を1枚1枚並べて眺めて悦に入る。ヤンは彼の口ききで田舎町のしがないホテルの給仕見習いから大金持ちの隠れ家的な高級リゾートホテルの給仕、そしてプラハ第一の高級ホテルの給仕にとステップアップしていく。その過程で常にヤンの転機には美女が絡む。ちっこいクセになかなかヤルのだ。

いや?、それにしても演出が本当に軽やか。ヤンの若い時代は、色と音のついた無声映画というノリで流れていくのだけど、その軽やかさと軽妙さが、主役のヤンを演じるイヴァン・バルネフの動きの良さとあいまって、見ていてついついニコニコしてしまう。ヤンの最初のお相手は街の娼館の新顔なのだが、1920年代の衣装とそのコケットリーが非常によくマッチしていて魅力的だった。魅力的でセクシーではあるのだが、動物的な生々しさがなく、どこか清潔で、構図が絵画のように美しいのもメンツェル監督の特徴だろうか。この映画に出てくる女性たちは、例えばアルフォンス・ミュッシャの描くアール・ヌーボーの女性たちに始まって、ルイ・イカールやタマラ・ド・レンピッカの絵の中の女性たちを彷彿とさせる。アール・ヌーヴォーからアール・デコに至るまでの華やかな女性美のエッセンスを集めたようだった。

6.jpg

極めつけはナチの支配下のホテルで優性アーリアン民族のブロンドかつ長身の美女たちに囲まれて、ヤンが給仕をするくだりだろう。燦燦と陽のあたるホテルの前庭に走り出して行くブロンドの全裸の美女たち。彼女たちが飛び込むあざやかな青いプールの水のゆらめき。青い水と、その水に溶け込む輝くブロンドの取り合せの美しさ。贅肉のない若い全裸の金髪美女がこれでもかと登場するのだが、一人ならともかく大勢いると全く色気は感じないものである。体の線がきれいならきれいなほど、生々しさから遠ざかるのだ。しかし、まばゆいブロンドと青い水のコンビネーションは絶妙。ここでも絵画のように美しい映像が展開する。

3.jpg 享楽と頽廃も、軽やかに描かれる

メンツェル監督はさりげなく、しかし繰り返し、金を持ちすぎている人間がいかに頽廃的な趣味に走っていくかという事についてもユーモアを忘れずに言及している。郊外のリゾートホテルで、プラハの高級ホテルで、功成り名遂げた金持ちの老人たちは、金で買った若い美女を侍らせ、美酒と飽食に酔い痴れる。けれど、そこにあるのはコミカルな風刺精神で、谷崎潤一郎の「美食倶楽部」のような、腐りかけどころか腐ってしまった肉のような腐臭を放ってはいないのだが、突き詰めれば同じ事を軽やかに美しく、ユーモアにまぶしてさらりと伝えてくるのがメンツェル風なのだろう。軽やかで説教臭がない。押しつけがましいメッセージもないのだが、ユーモアにくるんで伝えるべき事を伝える、という手法なのだ。この説教臭の無さが、全編を観た後、まるでワルツを聴き終えたような軽やかな印象を残すのだろうと思われる。

過剰にあれこれと説明しない、意味づけをしないという点で、ヤンの生き方?愛嬌でごまかされてはいるものの、ちゃっかりしてかなり無節操な生き方?にも一切の批判は加えない。ユーモアを交えて淡々と描いていくのみだ。
ヤンの人生はまさに「禍福はあざなえる縄のごとし」または「人間万事塞翁が馬」という諺通りのもので、洋の東西を問わず、人生ってそういうものなのよねぇと改めて思うのだけど、小ざかしく立ちまわったと思っても、あっという間に反転したり、どん底かと思うところから光明が見えたりするというのは誰の人生にもあることだろう。それを殊更に声高に何も強調もせず、淡々と描いているので、映画は良かったんだけどレビュー書くのはけっこう難しいなぁという作品だった。百聞は一見にしかず。とにかくこれは一度観て、その軽やかさを味わってください、という一言に尽きましょうか。

それにしても、プラハ随一の高級ホテル「ホテル・パリ(実際はホテル・パジーシュというらしい)」のダイニングルーム、その優雅なアール・ヌーヴォー建築、そこで給仕長を勤めるまさに給仕の鑑のようなスクシーヴァネク給仕長を演じるマルチン・フバの面差と風格にはひたすらにウットリ。彼が各国から訪れた客のテーブルを巡りながら、客の国の言葉で流暢に挨拶や会話をしていくシーンなどはまさに真骨頂。このスクシーヴァネク給仕長こそが英国王に給仕をした事があるチェコ随一の給仕なのだ。つまり、タイトルの「英国王給仕人」とはヤンではなく、このスクシーヴァネク給仕長の事なのである。余談ながら欧州の中でも英国王というと、やはり別格的扱いなんでしょかね。英国王と聞いただけでヤンの目の輝く事ときたら、観ていて「へぇ?」という感じだった。
この給仕長とヤンが、入ってきた客が何を注文するか賭けるシーンが何度も出てくるが、給仕長は一目で全てを見抜く洞察力の持ち主。加えて優雅な物腰と強靭な愛国心を兼ね備え、体制の横暴にも従容として屈しない。無節操なヤンと対照的な人物として登場するこの給仕長を演じたフバさん。非常に素敵だった。この人を見るためだけでも映画を見に行く価値あり。う?ん、さすがヨーロッパです。

4.jpg さすが給仕長 エレガント

主役のヤンは若い時代と初老になってからと二人の俳優が演じている。やはり別人なので顔の印象が違うのだけど、初老になってからも若い頃を演じたイヴァン・バルネフがそのまま老け造りで演じれば良かったんじゃないかしらん、という気がちょっとした。

2.jpg 苦労したのか しがらんじゃって…

初老のヤンを演じるオルドジフ・カイゼルさんは渋すぎて、若い頃からのヤンを観ていると、15年ぐらいでこんなに渋くは仕上がらないでしょう、という違和感があるし、どうみても別人だという感じが否めない。敢て別人をキャスティングしたからにはそこに監督の狙いがあったのだろうが、ワタシはそのままバルネフが演じきった方が良かったように感じた。このへんは人によって感想が分かれるところかもしれない。

5.jpg ふくふく

大戦後、国の体制も変わり、全てを失ったヤンの元に、再び現れる福の神。そのニコニコとした笑顔に、また、こっちもニコニコ。
人生、山もあれば谷もあるけど、結局のところ、生きてるだけで丸儲けだよ、と言っているかのようなふくふくした笑顔で締めくくられた、フルーティなワインのような映画だった。

コメント

  • 2009/01/01 (Thu) 20:45

    kikiさん あけましておめでとうございます 今年もどうぞよろしく!
    新館にお引越しされたんですね。あっ!プロフィールにしっかりA型と・・・(笑)

    新年早々の映画レヴューはチェコ/スロヴァキアの作品ですか~。美術・ファッションがアールヌーヴォーにアールデコというだけでも楽しめそうな映画みたい? いやいや”トッポジージョ君”の魅力とその他ひっくるめて素敵なんですよね。WOWOWあたりで一年位して放映しないものかしら。その時は観てみまする~(kikiさん調)

  • 2009/01/02 (Fri) 01:44

    kikiさん、明けましておめでとうございます。
    今年もどうぞ、宜しくお願い致します。

    この作品、結構気になっていたんですよ。チェコ/スロヴァキア映画って珍しいですよね。観たいけれど・・・スケジュール調整ができるかどうか、疑問ですが(汗)。毎年、1~3月は忙しいんですよ~(涙)。いつもこの時期、劇場で観る映画の本数は激減しています・・・。まあ、冬で寒いから、会社帰りに映画館寄るのが億劫、という理由もありますが・・・。

  • 2009/01/02 (Fri) 19:16

    ジョディさん。いつも遊びに来てくださってありがとうでございます。今年もよろしくお願い致しまする。
    そして、そう。一応、A型って出しておきました。限りなくO型よりのA型(OAですね)なkikiです。

    で、この映画。まぁ、確かに1年もたてばWOWOWあたりで放映するだろうと思われますわ。その前にDVDが出るかも。機会が巡ってきて、忘れなかったら観てみてくださいなね。あ、予告編で「ディファイアンス」流れてましたわよ。これは観に行くかどうか、ワタシ的には微妙かも。

  • 2009/01/02 (Fri) 19:18

    mayumiさん、こちらこそ今年もよろしくお願い致しまする。
    1月~3月は多忙児ですの?春先まではやってないかもかなぁ、これ。ワタシは久々に割引デーじゃない日に映画を観ましたが、なかなかよい気分で映画館を出ましたわ。この映画はとにかくユーモアと美しい映像、これに尽きます。それにしても冬眠?みたいに映画館への脚が遠のく時期があるなんて意外でしたわ~。mayumiさんは誰よりも365日映画漬けというイメージが強いから。うふふ。

  • 2009/01/02 (Fri) 22:55

    「ディファイアンス」ってもしかしてダニエルの?! 
    戦争時の迫害されるユダヤ人を救うというストーリーだったような。
    私はこういうダニエルも見てみたいですね~。
    シャンテ・シネで公開という事は、シネコンとかでは扱わないのでしょうね~?

  • 2009/01/02 (Fri) 23:51

    そうそう、ダニエルの新作ですわ。「もう1つのシンドラーのリスト」という謳い文句です。QOSに引き続いて、今年はダニエル作品2連発の幕開けなんですけどね。1本は観ちゃったし、もう1本は今のところあまり乗れない感じだし…(笑)「ディファイアンス」はシャンテ・シネ以外にどこで公開するのか分からないですが、あまり大々的な公開じゃないかもしれませんね。シネコンには懸からない可能性大、かも。ジョディさん、頑張ってシャンテ・シネで観賞してくだされ。

  • 2009/01/26 (Mon) 01:19

    ようやく観て来ました。面白かったです。
    確かに若い頃と年取ってからのヤン、変わりすぎですよね。特に年取ったヤン・・・背伸びた?っていう感じで(笑)。
    ヤンって、飄々としてて、でも結構ちゃっかり者なんですけど、憎めないんですよね~。kikiさんの仰るとおり、演じる俳優さんの絶妙な持ち味だと思いますね。

  • 2009/01/26 (Mon) 06:58

    お、mayumiさん。ついにご覧になりましたのねん。いい映画でしたよね、これ。とにかくユーモアを忘れないというのが身上で。あのヤンの憎めなさはイヴァン・バルネフの個性あればこそでしょうね。違う人が演じたら「なんだ、こいつは!」って感じに容易くなってしまいそう。ちっちゃくて可愛いけど、コミカル過ぎて漫画になっちゃってるというわけでもなく、いい具合のところでユーモアが溢れていて、観ててついニヤニヤしちゃう俳優でした。彼の個性と映画の目指すところがピッタリでしたね。

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