「タロットカード殺人事件」

~英国式庭園とむちむちのスカヨハ~
2006年 英/米 ウディ・アレン監督



ウディ・アレンの、スカーレット・ヨハンソンをフィーチュアした英国物第2弾というわけで、爺さんが年寄りの冷や水で、今回は自分も出ちゃってまして、どうもウディ・アレン出演シーンはところどころ邪魔にも感じたのだけど、お気に入りのスカヨハと偽親子の設定でも一緒に出たかったという爺さんの老いらくのパッションに免じて邪魔なところは目を瞑って観賞。プリムチのスカヨハとオージー産英国紳士のヒュー・ジャックマンはスクリーンの相性が良く、またこのコンビで別なシチュエーションの映画が観たいような気がした。

前作「マッチポイント」ではセクシーダイナマイトっぷりを強調したので、今回はメガネを外すのはプールのシーン一箇所だけで、あとはずっとメガネっ子姿のスカヨハ。このへんにも何やらウディ・アレンの衰えざるフェティシズムを感じる。が、この手のウディ・アレン作品はNYが舞台だと、もういい加減鼻につくところなれど、舞台をロンドンに移し替えただけで妙な新鮮さが加わり、英国式庭園や貴族の私邸などの背景の中にうまく彼のシニズムが溶け込んで、相乗効果をあげている。計算して出るものではない予想外の相乗効果という気がする。今回はサスペンス・コメディという事で軽やかさも○。



お馴染みスカヨハに加えて、今回は本物の英国紳士よりも英国紳士らしいヒュー・ジャックマンが、貴族の御曹司でハンサムで超リッチというキラキラのセレブで登場。遺憾なく長い脚、爽やかな笑顔、優雅な発音でイヤというほどブリリアントである。胸毛まで輝かしいジャックマン。けれど、あそこまでとことんカッコよくても嫌味に感じないのがこの人の個性だろうか。レイフ・ファインズやダニエル・デイ=ルイスなど、生粋の英国産二枚目と比較すると、彼らがにじませる特有の隠微さのようなものを漂わせないのがジャックマンの特徴。それでいて勿論セクシーではあるし、ラフな姿でキラリーンと白い歯で気さくに笑っていても、どことなくやんごとない品が漂って見える。発音も完璧。緑と薔薇と池の英国式庭園を、あんなハンサムマンの案内で歩いていたら、もうそれだけでも夢心地ってもんでしょう。そういうムードがさりげなく、遺憾なく出ている。ヒュー・ジャックマンは特に好きでも嫌いでもない俳優だが、俳優になるべくしてなった人、という気がする。こんなにブリリアントなハンサムマンだが、私生活では年上の地味な奥さん(奥さんも女優だっけ)と子供と堅実に暮しているというのもいいところ。



物語は「マジックショーの最中に新聞記者の幽霊から連続殺人事件の真犯人という一大スクープを託された快活なアメリカ人女子大生が、真相を探るため三流奇術師と凸凹コンビを組み珍妙捜査を繰り広げるさまをユーモラスに描く」(all cinema onlineより)というもの。死んだトップ記者から話題の連続殺人事件の犯人がキラキラのセレブ、ピーター・ライモンらしいので、証拠を探って記事を書け、と示唆されたスカヨハ演じるアメリカの女子大生サンドラ。会員制高級クラブのプールで泳ぐピーターに近づくため、プールで溺れて助けてもらうという手を使う。この時の水着姿はザッツ・スカヨハというグラマーっぷりでしっかりと観客サービス。ブロンドの髪、白い肌とよく響き合う深い紅のシンプルな水着がいい。色も形も申し分なし。中近東風の柱に囲まれたクラブのプールサイドにひときわ映える姿だ。こんな姿でにっこりされたら、男はもう一度会いたくなってしまうというものである。スカヨハのいいところは胸はドカンと大きいのだが腕や腹部に肉がない事で(まぁ一生懸命に絞ってるんでしょうけど)、けして完璧なプロポーションというわけではないのだが、肌のきれいさもプラスされて、フィジカルな魅力がその演技力とあいまって非常に強力な武器になっているというところだ。ことに、二の腕がわりにすんなりしているのが胸の重さを補っていていいなと思う。生来の髪はあんなに明るいブロンドではないのだが、王道のブロンドがとても似合う事も彼女を魅力的に見せている。スカヨハはどこからみても垢抜けてスタイリッシュだ、という女優ではなく、どこかモッサリして野暮ったい面もある。それと男の脊髄に響くようなセクシーさが同居しているのが彼女ならではの特性。そのぞくっとくる色気と、どこか野暮ったい部分というのを、さすがに女性大好きウン十年のウディ・アレン、よく捉えている。

 
A bathing beauty

サンドラ(スカヨハ)がメガネのまま、ポニーテールにシンプルな黒いワンピースでライモン邸のパーティに現れるシーンは、そういう彼女の両面をよく出していると思う。「コンタクトは眼球にじかに触れるから」メガネを愛用しているというサンドラ。率直で自分を飾らないところがなんでも持っている御曹司のハートを掴む。よくある筋書きではあるけれど、スカヨハが演じているので納得する。この女子大生、素性を偽って捜査のために偽名で近づいているという事もあるだろうが、ユダヤ系でブルックリン出身のサンドラは、誰もがウットリのプリンス・チャーミングと恋仲になってもさほど浮かれて夢見心地という感じでもないように見える。たしかにのぼせて、当初は自分が真相を暴こうといやがる三流マジシャン(ウディ・アレン)を無理に調査に引き込んだくせに、御曹司との恋が盛り上がってくると「彼を疑うなんて!」とマジシャンを罵倒したりする本末転倒ぶりを発揮したりはするが、さほど浮かれて足が地に着かないという雰囲気でもない気がするのはスカヨハの個性なのか、ウディ・アレンの演出か。

この映画の魅力は、スカヨハ+ヒュー・ジャックマンに加えて、御曹司の別邸や女子大生の居候する家の美しい英国式庭園の景色にある。前にも何かに書いたけれど、幾何学的なシンメトリーの樹木の刈り込みで妙に整然と人工的なフランス式庭園と比べて、英国式庭園は自然をたわめずに庭としていて心和む。この映画も薔薇の季節に撮ったのか、薄曇りの空の下、涼しそうな庭園のそこかしこに薔薇が咲き、芝生も樹木も水分を含んでしっとりとして見える。スカヨハがウディ・アレンのマジシャンと事件の事でいい争いをしながらも、ロンドンで居候をしている家のコンサバトリーでサラダの支度をするシーンでは、筋立てなどは閑却して、あ?、自分の家の庭にこういう場所が欲しいなぁ、理想的だわぁなどと思ってウットリと見入っていた。そう、ワタシが何よりウットリしたのは英国式庭園。ヒュー・ジャックマンの白い歯や厚い胸板やセクスィな胸毛ではなく、緑に囲まれた静かな池にボートが浮き、季節の花が咲き乱れ、素敵な温室のあるしっとりとした庭のたたずまいだった。





出版社の社長だの新聞の局長だの学者だのという役で、インテリゲンチアな英国紳士をやらせるとドンピシャリなチャールズ・ダンスが新聞社の主筆だかの役で出ていたのも「うふふふ」という感じ。また死神が先頭に立った船が黄泉の国へと死者を運ぶシーンが何度か出てくるが、あちらでも三途の川を越えてあの世に行くのかしらん、などとラチもない事を考えた。

サスペンスとしての筋は他愛もないので、筋立てよりも英国の優雅な階級の浮世離れた生活や屋敷や庭の佇まい、またロンドンの街角などの雰囲気を楽しむ映画だと思う。「ロックンローラ」に描かれるロンドンとは180度逆の世界。ウディ・アレンの切り取るロンドンが好ましい。

それにしても、ヒュー・ジャックマン演じるキラキラの御曹司は病的な女好きという事なのだろうけど、取り澄ましていながら英国男は異様なまでに女好きという手合いが多いような気がする、という常日頃の偏見がこれでまた裏づけられたような気もする。でも、身分に財産に美貌と、あれだけ何でも持っていて女など誰でもヨリドリミドリだというのに、よりにもよって、商売女と手当り次第というのは幾らか病的な屈折を感じる。そういうご趣味でもあったのだろうけど、プロの方があと腐れないと思ったのかもしれない。が、あと腐れてしまったからああいう事になったのだろうし、銀の匙をくわえて生まれてきても、生きることはなかなか大変なのだ。
まさに本人が言うとおり「人生は皮肉で悲しい」という事かもしれない。

コメント

  • 2009/04/12 (Sun) 10:29

    kikiさん お久しぶりです~。
    季節外れの風邪にやられ、マイっております。

    ところで、そうそう、そーなんですよね。
    ヒューの穏便さのなさが、これまた魅力なのかも・・・ね。
    この映画を見た時は、さほどヒューが気になってなかったんだけど、
    3月のスッキリでの素のヒューの余りのカッコ良さに、ビックリして・・・!
    今思えば、この映画でのヒューはそれに凄く近かったかな?と。
    映画観た時は、爺の過剰なまでのスカ子へのまとわりつきぶりが
    気になってしまって、消えてくれた時はやれやれ・・・って感じで(笑)。
    今度のバルセロナも楽しみー!

  • 2009/04/12 (Sun) 21:02

    acineさん、お風邪なの?気をつけてね。acineさんの中では昨今ヒューのポジションがUPしてる気配ね。(笑)司会も出来て歌も踊りも出来て、おまけに足長のハンサムマン。多才だけど嫌味がないのよね。で、アレン爺の次回作、バルセロナもこれでもかってぐらいに町の景色とバルデムをフィーチュアしつつスカヨハに涎をたらしまくるんでしょうね。老いてもお盛んなり。そういえばacineさん、「ザ・バンク」観たのね~。これにはちょっと食指動かないんだけどクライヴもなかなか素敵よね。ワタシは彼のマーロウ物が見たくて待ってるんだけど、なかなか制作に入らない気配だわ。一体いつになるのかしらん…。

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